特許のスコアリング・指標 ~特許の質評価・分析~
特許の評価(価値評価)と言う時、大きくは定性評価と定量評価に分かれ、定量評価の中でさらに金銭的評価と非金銭的評価に分かれます。金銭的評価については以前に書いたので、今回は、非金銭的な特許の定量評価、いわゆるスコアリングについて説明しようかと思います。
特許のスコアリングとは
ある特許を見たときに、権利が広い・狭いとか、基本特許か改良特許かとか、侵害発見が容易か困難かとか、そのような評価を下すとき、それはいわゆる定性評価ということになります。
定性的な評価はもちろん重要なのですが、横並びで比較したり、目標を定めたり、つまり何かしらの分析を行おうというときには、その評価が数値化されていると便利です。
そこで、権利の広さという観点では5段階で4評価、侵害発見容易性の観点では5段階で3評価、、、トータルで100点満点の83点!
このように、評価を数値化することが、つまりは定量的な評価ということになります。
社内で、自社特許の棚卸しや、年金支払い有無の判断を行うときなどに、このような形での評価、点数付けをしている企業も多いのではないかと思います。
機械的なスコアリング
上記は人力で評価をする場合を書きましたが、人力評価では対応できる件数に限りがあり、評価のばらつきや時間・費用の問題もあるため、機械的な定量評価ができる仕組み・システムが望まれる場面があります。
そのような機械的な定量評価の材料として、古くから使われてきたのが「被引用数」です。
被引用数は論文の評価にも使われてきた項目ですし、検索エンジンにおけるページの被リンク数とも近い概念かなと思います。
審査官引用(審査における引例としての引用)としての被引用数は、他社の特許権利化をどれだけ阻害できたか、他社に先んじて基本的な特許を出願できたかという評価になりますし、
出願人引用(明細書中における引用)としての被引用数は、技術的な先行度合いや注目度という評価になります。
古くは、被引用数のみをもって特許の評価とすることが多かったようですが、被引用数以外にも、様々な観点で評価に使える情報・項目はあります。
それらの項目を組み合わせ、重み付けをし、独自のスコアとして提供しているものがあります。
ここでは、このような独自のスコアを提供しているものを紹介します。
パテントスコア
http://www.patentresult.co.jp/about-patentscore.html
パテントリザルト社が提供するパテントスコアが、特許のスコア系で一番有名かなと思います。
元々はIPBが提供していたものをパテントリザルトに事業譲渡しています。
パテントスコアは、出願人、審査官、競合他社の三者のアクションに着目して、早期審査請求の有無や、被引用数、無効審判の有無などの書誌的事項(整理標準化データ)を組み合わせたスコアにしています。
使っている項目自体はスタンダードなのですが、一つ特徴としては、重み付けをする際に特許の維持率を目的関数としている点があります。
つまり、良い特許ほど長く維持されているはずだという仮定のもとに、長く維持されている特許ほど、スコアが高くなるように、過去実績データに基づいて各項目の重みを決めています。
ここには、権利者自身が、自分の特許の価値を把握できていて、その評価に基づいて年金維持判断ができているという仮定があるので、
スコアを使う際にはこのような背景を知っておくと良いですね。
また、分野や年代ごとに正規化しています。
YK値
http://www.kudopatent.com/works/valuation/index.html
YK値は、工藤一郎国際特許事務所が提供する指標です。
パテントスコアに並んで有名ですね。
YKS手法に基づき、YK値(特許価値評価指標)とYK3値(特許投資度指標)の2種類が算出されています。
YK値は特許の独占排他性の指標であり、競合他社が起こしたアクションのコストをベースに計算しており、
YK3値は特許に対する注力度の指標であり、出願人が起こしたアクションのコストをベースに計算しています。
評価の基準(単位)は円に近いので、質の評価というよりは金銭的価値評価に近い考え方かもしれません。
QUICKとも連携して、投資家向けにデータ提供などされています。
PCI
http://www.amoty.co.jp/product/a_reserge.html
PCIは、特許を「外からの注目度」「自社の注力度」「権利/技術の強さ・広さ」「権利状態」の4つの観点からスコアリングすることで特許情報を「重要度」の観点から定量分析、定量評価を実施することを可能にする特許評価指標です。
パテントスコアに似ていますが、権利の広さ・技術の強さという観点を加えている点に特徴があります。
権利の広さは第一請求項の文字数から、技術の強さは明細書のページ数から算出しているようです。
元々はインテクストラ社がStravisionで提供していた指標ですが、プロパティに譲渡し、アモティなどに適用されています。
PIスコア
https://patent-i.com/ja/wiki/piscore/
PatentIntegrationが提供するスコアで、テキストマイニング技術による特許請求の範囲の広さのスコアです。
パテントスコア等のよくあるスコアとは異なる観点ですね。
詳細なロジックはよく分かりません。
Technology Size
http://www.patent.ne.jp/service/macro/ttlpp-web_ts.html
Technolory Sizeは、NRIサイバーパテントと弁理士の安彦元との共同開発によるもので、権利の広さの指標です。
テキストマイニング技術により、第一請求項の「格成分数」を算出し、それに基づくスコアリングを行っています。
単に文字数に基づくのではなく、格成分というパラメータを用いることで、より高精度に権利の広さを解析しています。
Ocean Tomo Ratings
http://www.oceantomo.com/ratings/
オーシャントモがオークションにおける参考情報として提供している指標です。
詳しいことは把握できていません。
パテントメトリクス
http://corp.ird-pat.com/system_pva.html
IRD社が提供するもので、
特許明細書から品質に関するパラメータを評価しています。
請求項や明細書を主に分析するもので、独自性がありますね。
アスタミューゼ 注目度・影響力
http://www.astamuse.co.jp/company/press/140521.html
アスタミューゼが提供する指標です。
影響力は被引用数などによるオーソドックスなものに見えますが、アスタミューゼ内でどれだけ閲覧されているかという「注目度」は、無料の特許DBを提供している同社ならではの指標で、興味深いと思っています。
独自のスコア
最後に、企業の中で独自の考えに基づいてスコアリングをしているところもありますので、その基本的な考え方を紹介します。
被引用数などの書誌的事項は簡単に入手できるので、それを組み合わせてスコアを算出するのが基本となります。
よく使う項目は、
出願人の注力度として、早期審査有無、外国出願有無(ファミリー国数)、拒絶査定不服審判有無、分割、など
他社の注目度として、被引用数、閲覧請求数、情報提供数、無効審判・異議申立、など
質的な観点として、やはり被引用数や、請求項数、明細書頁数、請求項の文章構造(文字数)など
その他実績として、侵害訴訟の有無など。
これらをベースにして、どのように加工していくかに工夫が生じます。
例えば、被引用数は、審査官引用と出願人引用とで意味合いが異なるので、分けて使えるほうがベター、また自社引用は除外できればベター、さらにそのままだと古い特許ほどスコアが高くなるので年代で補正できればベター、といった感じ。
各項目を組み合わせるときは、絶対値が異なるので偏差値などに直すことで正規化して、重みを決めていくといいですね。
項目の意味はしっかり考える必要があって、例えば閲覧請求数は、ある年度からはネットで閲覧できるようになったので、包袋閲覧請求をかける数が減っているはずなので注意、とか。
この辺の、簡単に取れる書誌的事項に加えて、見ている範囲で人力のデータを加えたり、競合特許を潰しているかどうかなど独自項目を加えたり、といった感じになります。
こういう機械的なスコアには懐疑的な意見もありますが、要するに使い方次第かなと考えています。
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