Googleの新しい取り組み”Google Patent Starter Program”は、パテントトロールからスタートアップを守るのか
Googleは最近、パテントトロール対策のための団体「LOTネットワーク」を設立したり、特許の買取プログラムをリリースしたりと、対トロールに強い存在感を示しています。
トロール対策ではないものの、Apple対Samsung訴訟に意見書を提出というのも、強いインパクトがありました。
そしてGoogleは先日、パテントトロールからスタートアップを守り、支援するプログラムとして、「Google Patent Starter Program」を発表しました。
Google Patent Starter Programとは
スタートアップ企業にとって、特許の世界は複雑怪奇であり、しばしばパテントトロールから狙われ、また投資家からは「特許を持っていないのか?」と指摘されることもある。
そうした背景のもと、Googleはスタートアップ企業に対して3つの利益を提供するとしています。
1.参加企業は、費用負担無く、Googleの特許ポートフォリオから2件の特許を受け取ることができる。
(Googleが企業のビジネスに合う3~5件の特許群を提示し、そこから2件が選べる)
2.LOTネットワークに、最初の2年間は会費が免除された上で加盟する。
(LOTへの加盟は、利益というよりは義務)
3.Googleの特許ポートフォリオが確認できるポータルに無料でアクセスできる。
本プログラムの利益を享受できるのは、申し込みのあった最初の50社のみとされています。
単純計算で、50社×2=100件の特許を、無償で譲渡する予定のようです。
スタートアップ企業にとってのメリット
確かに、スタートアップにとって特許というのは、重要ではありながら、なかなか手が回らない事項の筆頭です。
価値のある特許を2件貰えるというのは、結構に嬉しい。
ただし、この2件の特許が、背景とされているパテントトロールへの直接的な防御策になるのかというと、それは疑問。
トロールの多くは自社事業をやっていないので、カウンターとなる特許権を持っていても、それはトロールに対しては効力がありません。
よくある誤解ですが、自社事業に係る特許権を持っていることが、その事業を実施していい免許のような役割を果たすことにはなりません。あくまで他社への排他効であって、自社実施の権原を持つわけではない。
しかし、本プログラムに参加することによって、Googleの特許群という大きな傘の下に入っているようなイメージは与えられます。
トロールにとっては、ちょっと攻撃しにくくなるような、実質的な効果はあるのかなと思います。
また、LOTネットに加盟することが義務付けられているようですが、特許権をあまり持っていないスタートアップにとっては、LOTに加盟するデメリット(特許権を売りにくくなるなど)は少なく、純粋にメリットを享受することができます。
会費も2年は免除されるようなので、加盟して損をすることはないでしょう。
ということで、スタートアップ企業にとっては、メリットの大きいプログラムのようです。
参加資格はスタートアップ企業であること。その定義は、2014年の売上がUS$500,000 ~ US $20,000,000であることのようです。
日本企業でも参加資格はありそうですが、日本でのみ事業をしている企業が米国特許を貰ってもメリットが薄いように思いますので、グローバルな事業展開を狙っているWebサービスなどを実施しているスタートアップ企業は、手を挙げてみてはいかがでしょう。
Googleの狙い
FAQによると、Googleが本取組を行う理由は、
Gooogleはパテントトロールに対抗するLOTNETの大ファンであり、中小企業にもLOTに加盟してもらいたい。また特許を譲渡することで、中小企業を支援し、彼らにも特許システムに貢献できるよう成長することを期待する、
としています。
LOTを活性化させたいということ、またスタートアップを支援したいということ、どちらも本心なんだろうなと思います。
もちろん、特許の譲渡によって、LOTネットワークの定めるLicense on Transfer条項が発動するため、別に譲渡しても構わないという計算や、将来有望な企業に先行投資の意味も込めて唾をつけておくという打算もあるかもしれません。
でもまあ、本当に、パテントトロールを市場から追い出したいという強い思いがあるんだろうなと思います。凄いなあ。
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