特許無償開放 トヨタ自動車とテスラの違い
年明け早々からビッグな知財ニュースです。
トヨタ自動車が、燃料電池自動車に関する約5,680件の特許を無料で開放すると発表しました。
燃料電池自動車の導入初期段階においては、普及を優先して他社と協調した取り組みが重要。
水素の供給・製造といったステーション関連の特許70件については、期間を限定することなく無償で開放し、
燃料電池スタック1,970件、高圧水素タンク290件、燃料電池システム制御3,350件といった、燃料電池システム関連の特許に関しては、市場導入初期と見込まれる2020年末までを目処に特許実施権を無償とします。
特許強者であるトヨタ自動車による、非常にアグレッシブな取り組みと言えそうです。
特許無料公開の目的
特許権は独占排他権であり、他社の実施を制限して、有益な発明を公開した自社のみが事業を独占することが元々の制度趣旨です。
また特許権の取得・維持には相当の費用が発生します。
手続き費用だけを見ても、権利取得までに1件当たり数十万円~100万円程度、
維持にも1件当たり年間数万~10数万円程度が必要になります。
そういう特許を6000件近く取得しておきながら、権利を放棄するのではなく、無償提供という選択肢を取るのは、どのような狙いがあるのでしょうか。
一言で言うと、オープンな市場を作り拡大を図りながら、それをコントロールすることが狙いでしょう。
オープンとクローズには、様々な言葉の意味が含まれます。
出願した特許は当然公開されるので、情報としてはノウハウのようにクローズに(秘匿)されるものではなく、オープン(公開情報)となります。
しかし、特許という権利を持つことによって、市場としては一部独占(クローズ)が可能となり、誰もが参入可能(オープン)な市場にならないよう制御が可能となります。
今、あえてオープンとクローズを2つの意味で使ってみました。
トヨタが狙っているのは後者の意味で、つまり特許権による参入障壁の有無で言う市場のオープンとクローズを、コントロールすることにあるでしょう。
特許権の無償開放によって、一見オープンな市場を作り出し、燃料電池自動車とステーション設備等の普及を狙います。
しかしそれは、完全にオープンな市場ではなく、トヨタの特許権によってコントロール可能な市場。
普及時期が過ぎた後は、権利行使により膨らんだ市場からライセンス収入を得ることも出来るし、普及段階においても個別の契約条項によって、自社に都合のよい技術仕様に誘導することもできる。
無償ということで、一見太っ腹のようですが、実は非常に考えられた戦略です。
当然そういう考えは透けて見えるので、2020年末までという期限付きの無償公開をもって、他社がどこまでそれに協調するかは微妙なところな気がします。
テスラとトヨタの違い
さて、特許の無償開放というと、2014年にテスラが電気自動車関連の特許権を無償開放したニュースが記憶に新しいですね。
これも、テスラによるEVの普及を狙った戦略で、トヨタ自動車もこれを参考にしたことでしょう。
しかし、テスラとトヨタには細かい違いがいくつかあります。
まずは特許の数。
テスラが開放した特許権は200件程度で、トヨタの5,600件とは大きな件数規模の差があります。
これは戦略の違いというよりは、背景の違い。
まだ特許弱者であるテスラは、大胆な戦略が取りやすいですが、特許強者であるトヨタ自動車が数千件の特許を開放するとなると、金銭的なインパクトは大きく違います。
次に開放の仕方。
トヨタ自動車の場合は、通常の特許実施権の提供を受ける手続きと同様に、トヨタに申し込みをして具体的な実施条件を協議した上で契約書を締結することで、無償の「条件付」実施権を得ることができる。
逆に言うとこの手続きをしない者には実施権は与えられず、契約書によって何らかの条件が課されることで、トヨタのコントロールが可能となる。
一方のテスラは、テスラの技術を信義誠実に利用する者には誰であっても、特許権を行使しないことを宣言する形を取っています。
なんというか、非常にざっくり。
最後に重要なのが、無償開放の期限
テスラは、特段の期限を述べていないのに対して、トヨタ自動車はステーション系を除いて普及初期段階の2020年までとしています。
前述のように、市場の普及期以降は、ライセンス収入を得ることを目的としているからです。
こうして見ると、同じ特許権の無償開放であっても根底にある考えや戦略は大きく違うような印象を受けます。
特許弱者であるテスラは、自社の権利に拘らず、真にEV市場を普及させる目的で特許を開放しているのに対して、
特許強者であるトヨタは、自社の権利に拘りつつ、燃料電池自動車の普及を図りながらも、普及後にはしっかり回収することを考えている。
トヨタのほうが真っ当な戦略ですが、テスラのほうが思い切っている。
この戦略の違いが、EVと燃料電池車の普及スピードの違いに影響を与えていくのか、注目します。
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