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企業法務戦士×IPFbiz ~知財法務ブログ対談~

      2015/02/22

新年の挨拶でも書きましたが、今年はブログ上で、他のブロガーさんや知財法務の専門家と絡んでいけたらと考えています。

そこで、「○○× IPFbiz」と称して、様々な有名人との対談シリーズを企画していきます。

記念すべき対談シリーズ第1回は、なんと企業法務戦士さんに来ていただきました。
企業法務戦士の雑感」は、法務界で最も有名なブログの一つでしょう。最近は知財・法務系のブログも増えてきましたが、他のブログと比して、その際立った評釈と見識の深さが特徴です。格調高い文章は、一つ一つの記事がまるで論文を読んでいるかのよう。

今回の対談では、企業法務戦士さんがブログを始めたきっかけから、最近の法制トピックスへの思いなどまで、お伺いしていきます。

 

ブログを始めたきっかけ

安高:企業法務戦士さん、本日はお忙しいところありがとうございます。企業法務戦士の雑感は私が知財業界に入った頃からよく見ていたんですが、ブログはかなり長く続けられているんですよね?

戦士:ブログを始めたのは 2005年の、最初の記事は8月4日ですね。今年で10年目を迎えることになります。ちなみに「企業法務戦士」はブログのタイトルであって、私の IDではないんですけどね。

安高:そうか、でも企業法務戦士が書いているブログだって認識ですね(笑 ここでは企業法務戦士さんと呼ばせてもらいます。 10年ブログを続けるというのは凄いですね。書き始めたきっかけは何かあるんですか?

戦士:あれはちょうど、仕事のかたわらに(旧)司法試験を受け始めた頃だったのですが、 7月に論文試験が終わって、ちょうど時間も空いたし、やりきった感と虚脱感があって、ブログが流行っていたころでもあったので、自分も書いてみようかなという感じでしたね。
当時の背景でいうと、法科大学院が出来て法曹人口が急激に増えていくのが見えていたころでもあって、自分はこれからどうしていこうかなと考えていたし。本当は法務部門で仕事をしたかったのに、知財専門の部署に回されてしまって、少し鬱屈気味だった時期でもありましたね。タイトルに「法務」を入れたのは、自分は法務の人間として仕事をやりたいんだという思いもありました。

安高:そんな思いがあったんですね。知財の中でも法務寄りの仕事だったんですか?

戦士:最初は細々と商標周りの仕事などをやっていたのですが、知財絡みの案件が急増していた時期だった上に、部署内に法律系のスタッフが他にいなかったこともあって、契約から紛争対応まで、あっという間に守備範囲は広がっていきました。だから、仕事自体は面白かったですし、法務部の連中がやっている仕事より、今自分がやっている仕事の方が、よっぽど「法務」らしい仕事じゃないか、と思うことも多々あったので、そこを主張したい思いもありましたね(笑

安高:でも、企業法務戦士という言葉はいいですよね。最近では戦う法務なんてよく聞きますけど、この言葉はそんな特徴をよく捉えているように思います。

戦士:企業法務戦士という言葉は私が適当に作った造語です。なんとなく、戦わなきゃいけないと。仕事の中身もそうですが、それ以前に、社内で「法務」という職種自体が軽くみられる傾向がある中で、自分のキャリアを築くためにも、戦わないといけない状況がありましたし。

 

ブログのスタイル

安高:なるほど。ところでブログの記事は、毎回長文で考察も深いし、文体も格調高いですよね。

戦士:文体のスタイルは、論文を書くときのイメージを意識して固めのスタイルで書くことが多いですね。最近はだいぶ端折ってますが、昔は、脚注まで論文と同じようなスタイルでつけていましたし。

安高:相当大変なんじゃないですか。書くのも時間がかかるでしょ?

戦士:手間は手間ですよ。書くのにも時間はかかるし。それ以上に書く前のリサーチに、相当の時間をかけることも多いです。

安高:でも格調高い文章が格好良くて羨ましいです。私のブログはまだあんまり文調が固まってないんですよね。大体は柔らかいですます調ですけど、時々固い文章で書きたくなることもあって。

戦士:私もブログを始めた当初は模索していましたよ。初期の頃はですます調で書いていたころも少しだけあったんですが、じきに今のスタイルが固まったので、初期のですます調の記事はある時期にこっそり語尾だけ修正したりもしました。

安高:戦士さんにもそんな時期があったんですね。なんだか嬉しいです。

戦士:それでも、最初の頃は閲覧する人も限られていたので、思いつきで書いたような緩めの記事が多かったんですけどね。段々と、判例評釈っぽいのを固く書くようになったりもして。きっかけがあるとしたら、 2005年9月に「ノマネコ」の事件に絡んで記事を書いた時に、「思いつきで適当なことを書いたら炎上しちゃうな」と思ったのが最初かもしれませんね。こういう話題性の高いネタを書くのであれば、隙が見えないように、きっちり調べて裏もしっかり取って、学者っぽいスタイルで書いた方が叩かれにくいと思うので(笑。

安高:一つの記事にすごく時間をかけてますよね。

戦士:ネタは新聞の朝刊を見て決めたりしますが、その日のうちに書ききれることはほとんどないですね。タイムリー性は諦めて、逆にしっかり裏をとったものを後から上げるようにしています。

 

ブログをやっていて良かったこと

安高: 9年以上ブログを続けていて、ブログをやっていて良かったことはありますか?

戦士:ブログを通じての知り合いが増えたことですかね。元々私のブログは、宣伝とか誰かとのコミュニケーションを求めるためのものではなく、自分のために後で役に立つものを残したいという目的のほうが大きいので、コメントもできない仕様だし、閉じたブログではあるんですが、それでもブログを見て連絡してきてくれる方は結構いました。
特に、最初の頃に、業界で有名なT先生からコンタクトをいただいた時はびっくりしました。

安高:T先生から!それは凄い。

戦士:ブログを始めて半年くらいの頃でしたが、営業秘密について書いた記事が目に留まったようで・・・。他にも学者や弁護士の先生から、就職活動中の学生、司法修習生といった方々まで、現在に至るまで様々な方からご連絡をいただく機会があります。新聞、雑誌関係の方からコメントを求められる機会もあったりしましたしね。

安高:企業法務戦士としての知名度は大分上がってますよね。本名を出そうとは思わないんですか?

戦士:自分が何らかの組織に属している間は、それはないでしょうね。書き手が誰なのか、ということを知っている人が既に増えているとしても、それをオープンにはしていないという建前は貫くべきだと思っています。あと、所属や名前をオープンにしてしまうと、読み手にとっては、想像力を働かせる余地がなくなりますしね。どこの業界のどんな人が書いているんだろうと想像しながら読んでもらう、というのも、個人ブログの面白さであり、一つのエンターテイメントだと思うんですよ。会社を辞めてフリーになったらまた考えるかもしれませんが。

 

企業法務戦士の将来

安高:会社を辞めてフリーに、というのは近いうちにあり得るんですか?アカデミアの世界に入るんじゃないかなーとかも思ったりしてるんですが。

戦士:そうですね、近いうちに、という思いはあります。何をやるかも考えてはいるけど、今はまだ言えません。弁護士としてやりたい仕事はもちろんありますが、その枠にとどまらずにやりたいこともあるので。
アカデミアは、さすがに考えられないかな。元々学者的に突き詰めて考えるようなストイックさは自分にはないので、本質的に向いてないと思いますよ。それよりは、目の前に現れた有象無象の出来事をバサバサと捌いていく方が、自分の性には合っていると思っています。

安高:そうなんですね。事務所としての独立+αという感じですか?

戦士:ええ。苦しいと言われて敬遠されがちな状況にこそチャンスが転がっている、というのは良くある話ですし、実際、ニッチ分野のニーズは、まだまだ満たされていないと思いますし。
試験に受かったときは、幸いにも声をかけてくれる人がいたりして、色々と進路の選択肢はあったのですが、まだ会社のインハウスの弁護士が少ない時代でもあったから、それをやってみたらどうなるのかなという楽しみが先に来ていました。でも、やってみて思ったのは、インハウスって弁護士の本来の働き方ではないかな、ということですね。

安高:インハウスは弁護士の本来の働き方ではない?ちょっと意外な言葉です。最近増えてはいますよね。

戦士:もちろん、仕事が楽しくない、面白くない、ということではないですよ。少なくとも「企業法務」という仕事にかかわるのであれば、会社の外側で法律事務所の人、としてかかわるよりも、会社の中でかかわった方が遥かに面白いと思ってやってきましたし、その思いは今でも全く変わっていません。
ただ、それは「弁護士」という職業や資格そのものに由来する面白さではなく、あくまで、ビジネスプレイヤーの一員である「企業法務担当者」というポジションに由来する面白さですからね、端的に言ってしまえば、そこにいるのが弁護士である必要は全くない。
企業法務の仕事に関して言えば、自分の中では、今の立場でできることは、かなりのところまでやり切った、という思いはあります。だとすれば、せっかくチャンスがあるのだから、「職業としての弁護士」にしかできない仕事や働き方に目を向けるときに来ているのではないかな、と思っているところです。

安高:弁護士の本来の仕事、というと?訴訟ですか?

戦士:そういう仕事の中身の話よりは、依頼者との関わり方とか、自分の立ち位置とか、そういったところの違いの方が大きいのですが、今の仕事のスタイルを生かせるところも多々あるとは思っていますので、いつかは、自分の看板だけで濃密な仕事関係を築けるように、というのが、この先の目標ですね。

安高:なるほど。じゃあ近いうちに独立があり得るんですね。

企業法務戦士

職務発明規定

安高:ここからは、最近のトピックスについてお話を伺いたいと思います。まずはそうですね、職務発明規定については、いくつかブログに書いていましたよね。戦士さんはどのようなお考えですか?

戦士:会社によって事情は多少異なると思いますが、対価が従業員にとって何らかのインセンティブになっていることを否定するのは難しいと思います。「おまけ」的な位置付けのものとはいえ、実際、それをささやかな励みにして開発に取り組んでいた人も見てきましたし。また、補償金をめぐって訴訟が頻繁に起こるかというと、多くの企業ではほとんど起きていない、というのが実情でしょう。
平成 16年改正後の特許法35条は、しっかり議論されて良くできた規定になっていると思いますよ。この10年ほどの間、実務上は安定した運用がなされていましたから、ここであまり変にいじってほしくはなかった。改正に向けた議論の進め方も強引だったように思いますし、何よりも、合理的な立法事実が本当にあるのかというところが引っかかりましたね。

安高:確かに、若干強引な感はありましたね。でも、えらく騒ぎになったわりには、実はあまり実体的な影響がないというか、大して変わらないようにも思いますけどね。

戦士:原始帰属を発明者と会社のどちらにするのか、という点についてはそうですね。現行法の下でも、結局はほとんどの場合に、会社に帰属させますからね。ただ、法定の補償金は残したほうが良かったと思います。ひどい会社は本当に払わなかったりするかもしれないし、知財部門が報奨制度を残そうとしても、その部門に力がなければ、法定補償でなくなった途端に、発明者に支払う報奨の予算が削減されることだってありうるわけですから。

安高:最終的に条文がどのようになるかは分かりませんが、対価なのか報償なのか経済的な利益なのか、結局なんらかの請求はできて、算定方法の違いはあれど、実はあまり変わらないような気はしています。

戦士:そこらへんは、具体的な法律の条文やガイドラインの中身がどうなるのか、ちょっと蓋を開けてみないと分からないですね。制度をいじることはそれ自体にリスクがあるから、やることのメリットがそれを上回らないとね。

安高:発明は企業のものなのか従業員のものなのか、みたいな対立構造で世に出たのは微妙でしたよね。

 

フェアユース

安高:続いて、フェアユースについて話を聞かせてください。文化庁の審議会においては、フェアユースのような権利制限の一般規定導入については明確な立法事実なしということでまとめられましたが。戦士さんは、ポジショントークとか抜きで、フェアユースについてはどういう考えですか?

戦士:過去の記事にも書いていますが、フェアユースについてはある時期からかなり懐疑的なスタンスになっています。導入することに強い思い入れはないですね。

安高:なるほど、特にフェアユースのような規定が必要だ、という考えではないんですね。

戦士:結局、フェアユースの規定が入っても、それを適用できるかどうかは司法で争わないといけないんですよ。今、リスクがあるから新しいサービスができない、と言っている企業は、結局フェアユースが導入されても、訴訟リスクを恐れて何も出来ないんじゃないかと思います。

安高:確かに、フェアユースが入れば全てクリアに自由になるわけではないですからね。

戦士:一口にフェアユースと言っても、どの範囲まで権利制限を求めているのかは人それぞれだと思いますが、なんでもかんでも自由にできるようにしてくれというのは、さすがにバランスが悪いように思います。
フェアユースという言葉に踊らされて、まともな議論が出来なくなっているのが最近の状況ではないかと感じますね。

安高:そうですか。私はフェアユースはあったほうがいいんじゃないかと思ってるんですけどね。諸外国の導入も進んでいますし。

戦士:私も最初の頃はフェアユース信者というか、「フェアユース」と聞くとすごく良い提案のように思えて踊らされていたんですが、ある時期から、なんか違うなと。
これまでの改正で追加された個別の権利制限規定をしっかりと使えば、実は漏れるものは少ないんじゃないかと思います。もちろん、今の権利制限規定ではカバーできていない部分、というのはあるのですが、それらについてまで権利制限することを正当化する必要があるのかどうか。

安高:確かに、個別の権利制限規定でも相当の範囲はカバーされていると思いますし、これが出来ないから困る!と明確なものを示すのも難しい点はあります。でも、なんらか柔軟性の効く規定があればいいと思うんですけどね。

戦士:フェアユースのようなものを漠と入れるよりは、今の規定で、主体や利用態様が限定されているところに、例えば、「~その他の○○」といったような小さなバスケット条項を設けて、条文解釈の幅を広げられるようにするほうが良いと考えています。平成24年法改正のときの報告書は解釈の可能性も追求した上でよく検討していたと思いますよ。

安高:では今の規定であまり問題がないという考えですか?

戦士:これまでの法改正の経緯からしても、不十分なところはあると思いますが、漠然とフェアユース規定を入れるための立法事実を用意するのはなかなか難しいと思います。個別の権利制限規定の十分な活用や、その修正を考えたほうがいいし、あとは解釈論の話、そして Tolerated Useのような社会実態に委ねる方がよいのではないかと思います。

安高:今回の審議会でも痛感しましたが、フェアユースを必要とする立法事実は難しいですね。ニーズとしてはあると考えているんですが。

戦士:立法事実の見せ方、示し方というのは難しいな、と思いますね。

安高:フェアユースを推進する立場からは、何を立法事実として出したらいいんでしょうね?

戦士:萎縮効果だけで主張するのは難しいんじゃないですか。

安高:フェアユースではなく個別の制限規定が積みあがっていくのは、立法過程でもその法運用でも、非経済性があると思うんですけどね。

戦士:個別の権利制限規定をやみくもに増やしていくのが良い方向だとは、私も思っていません。既にパッチワークになってしまっているのも間違いない。
だから、細かい規定を増やしていくというよりは、既存の規定を手直しするとか、場合によっては、それらをひとまとまりにすることはできないかと。既に認められている立法事実をうまく整理することで、現在の権利制限規定をグループ化し、細かい要件を取っ払って包含できるような規定が作れないかと思います。

安高:なるほど。具体的な条文案を考えるのは難しそうですね。フェアユース的な規定を入れるか、個別の制限規定を拡充・柔軟化するかは難しい選択肢ですね。私はフェアユースのような規定を入れてしまったほうが、シンプルでいいと思ってしまいます。

戦士:個別規定が積み重なっていくのがいいとは思わないですが、フェアユースをドンと入れるとなると、話が進まなそうですね。

 

クリエイターへの対価還元

安高:続いて、審議会では次回以降、長い期間を取ってクリエイターへの対価還元のテーマが検討されそうです。このテーマについてはどうお考えですか?

戦士:まずは、誰に対価を還元するのかということですよね。権利者団体にだけ還元しても仕方なくて、そこから先、クリエイターへの分配の仕方が問題になります。
あとは、対価還元の話が、ネットが普及したせいで CDの売上が落ちているから何か補償してくれ、というところから出てきているのだとしたら、ちょっと違いますよね。

安高:補償金制度の立て直しがまずは提案されるのかなと思っているんですが、補償金制度についてはどう捉えていますか?

戦士:制度としては、特に徴収の方法としては、それなりに合理的な方法だと思っています。薄く広く徴収することで、エンドユーザーの痛みを最小限にとどめつつ、大きな金額を徴収する、ということですから、そんなに叩かれるものではないんじゃないかと。問題があるとすれば、配分の仕方ですよね。

安高:では補償金制度を立て直すことで特に反対はないですか?

戦士:デジタル複製については技術でコントロールできる時代なので、「補償金」のような丼で対価を徴収するよりは、技術とビジネスでコントロールして、クリエイターによりダイレクトな方法で対価が還元されるようにするほうが自然ですよね。そういうビジネスが出てきているし、今後もそうなることが期待される中で、それをやっていない人のために補償金制度を作り直す、というのはどうかとも思います。

安高:ビジネスモデルで対価が還元されるほうが良いと。それは同感です。

戦士:補償金制度は、徴収方法としてはあり得る制度で、潰さなくてもいいとは思います。でももちろんダイレクトにクリエイターに還元できる仕組みが作れるなら、そのほうがいいですよね。それが全てについて無理なら、やはり補償金でやるしかない、ということになるのでしょうが、配分の問題は最後まで残るような気がします。

 

営業秘密

安高:営業秘密も、不競法改正の方向性が見えましたね。何か意見などありますか?

戦士:営業秘密の保護を強化する方向性にはあまり賛成していません。

安高:そうなんですね。概ねみなさん、保護強化には賛成しているのかと思っていたので意外です。

戦士:ちょっとムードに流されているように思います。営業秘密の規定が出来てから、刑事罰が創設され、処罰対象が広がるなど、どんどんガチガチになっていっている。現状の規定からさらに強化することが本当に必要なのかは、慎重に考えるべきかと思います。

安高:昨今の事例から考えると、営業秘密保護を強化するのは悪くないように思いますけどね。確かにみんな原告の立場で考えていて、被告の立場になり得ることを想定していないのかもしれませんが。

戦士:もちろん、合理的な範囲で営業秘密を保護すること自体は、決して悪いことではないのですが、過度に保護を強化すると、どうしても萎縮効果が生まれて、技術者が新しい業界に移っていく際の足かせにならないか、という心配はあります。
また、皆、日本の技術が優れていて、それが海外に流出してしまう、というイメージで考えていますが、本当にそういう視点だけで大丈夫なのかなと思いますね。あと何年かすれば、技術流出先だと思っていた国が、独自の技術発展を遂げて、逆に日本がその技術を取り入れなければならなくなる、という部分も相当出てくると思います。

安高:日本の技術は素晴らしいのに、知財やビジネスで負けているなんてよく言われますが、そもそも日本の技術が本当に素晴らしいのか、ということですか。

戦士:いや、日本の製造現場や開発現場が素晴らしいのは間違いないと思いますよ。ただ、「知財戦略」という観点からいうと、何が日本の技術の「強み」なのか、ということは、きちんと考えた方がよいと思います。
ニーズに合わせた基本原理の応用や先行商品の改良を日々行い、生産工程を徹底して効率化し、それを製造の現場で着実に実行する、ということを繰り返す中で磨き上げてきたのが、日本の産業であり、技術だと思いますが、そのような日本の優れた部分を知的財産制度の枠の中で守ることができるのか、という問題です。
もちろん、特許化したり、営業秘密として保護したりすることができるところがないわけではありませんが、それだけですべてをカバーできるわけではありません。
そして、知財制度による恩恵を受けやすい、根幹技術や全く新しい発想で生まれた技術については、日本以外の企業が持っていることも多いので、やみくもに知財の強化をすると、日本企業が得をする以前に、海外の企業のほうが得をする可能性がある、ということに、もう少し目を向けた方がよいのではないかと思います。

安高:知財屋からすると寂しい意見ですね(笑

戦士:そうですか?どんな世界にも得意分野と苦手分野があるわけで、日本企業が活かせる部分が、伝統的な意味での知財とは違う、というだけの話だと思います。
そして、個人的には、知財権でガチガチに縛られるよりも、ある程度の模倣が許される中で競争するシステムにした方が、日本人の文化風土には合っていると思いますし、産業も栄えるんじゃないかと思いますね。
著作権では、以前からよくそのように言われますが、それは特許や営業秘密でも同じなんじゃないかな。

安高:営業秘密も含めて、知財保護強化一辺倒の流れには疑問があるということですね。

戦士:ええ、日本は色んな技術を引っ張ってきて、「知財化」できない部分の工夫で勝負できるようにしたほうが、本当は伸びるんじゃないかと思います。「知財立国」という話が出てきた頃から、そういうことを言われている学者の先生はいましたし、現場の技術者に話を聞いても、知財保護一辺倒の発想には懐疑的な意見をよく耳にするのですが、メディア受けしないのか、なかなか表には出てこないのが残念ですね。

安高:なるほど。他の知財関係者とは異なる意見が聞けて、勉強になりました。今日はありがとうございました!

 

今年で 10周年を迎える企業法務戦士の雑感、判例の評釈などは考察が深くて本当に勉強になります。今後の企業法務戦士の活躍にも期待がかかります。

 - 知財戦略

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