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2015年の知財ニュースランキング with MIAU香月

   

早いもので、今年も残すところ後2週間となりました。

前編の対談記事に引き続き、香月さんと2人で喧々諤々の議論を交わした結果、2015年の知財ニューストップ10を決定しました。

第10位からお届けします!

知財ニュース2015

第10位:サブスクリプションモデルの台頭

香月:今年は特に音楽のサブスクリプションサービスが盛り上がりましたよね。

安高:Apple MusicやGoogle Play Music、AWA、そしてLINE MUSICなど、連続してサブスクモデルのサービスがローンチされました。サブスクリプションだと、これまで以上にプラットフォーム側が強くなって、個々のコンテンツの力は弱まるように思います。

香月:テイラー・スウィフトの一連の騒動が代表的ですよね。アーティスト自らがTwitterを使って交渉するなど、契約の実務が変わっていくと思います。ただ他の音楽関連サービスの事業者から見ると、あの騒動を芝居だって思ってる人もいるようですが。全体的なガバナンスを考える中で、プラットフォーマーがきちんと公正に振る舞えるかどうかですよね。あとは日本法人もすでにあるSpotifyがいつ日本に上陸するのか。

安高:まだレコード会社との交渉が上手くいっていないんですか?

香月:聞いた話によれば、どうやらSpotifyのフリーミアムモデルに権利者サイドは不満のようです。音楽がタダになるのが嫌だということでしょうね。実際、テイラー・スウィフトはSpotifyからカタログを下ろしているし。知財におけるフリーミアムモデルが成り立つかどうかの試金石になりますね。

 

第9位:画面デザイン意匠の拡大と画像意匠検索ツール

安高:個人的には画面デザイン意匠の保護範囲拡大の審査基準改訂は大きいニュースです。スマホなどの画面デザインもしっかり保護がされるようになる反面、アプリを出すときにもちゃんと意匠調査をしなければならないと考えると、企業側としては負担も大きいです。

香月:あとで話にも出てくると思うんですが、 新しいタイプの商標との絡みも気になりますよね。「色彩のみからなる商標」ってやつですか。

安高:これは前から言っているのですが、法改正じゃなくて審査基準の改訂で事を済ませたのは、個人的には納得いってないです。ただ、改訂と合わせて画面デザイン意匠の調査ツールをリリースしていて、これは割といい感じなので、触ってみてください。

 

第8位:TRIPP TRAPP応用美術著作物、最高裁判決

安高:著作権の判決で、今年一番影響が大きかったのは、TRIPP TRAPPの最高裁判決じゃないかと思います。応用美術であっても著作物性を認めるという。

香月:僕らがいま座っているこの椅子もリプロダクトですけど、そういう所にも影響を与えるんでしょうかね?

安高:何かで保護しなきゃというのは分かるんですけど、著作権で保護しなくてもいいんじゃないかという気はします。写真撮ってアップしたら侵害ですからね。今後、この判例による影響がどういう所で出てくるのか、気になります。

香月:意匠権とデザインの著作権って本当に難しいですよね。最近だとキングジムの「ポータブック」と川崎和男の「MindTop」の話なんかもありましたよね。そもそも「応用美術」って言葉がダメなんじゃないかという気が個人的にはしてます。

 

第7位:イーライセンスとJRCの経営統合・JASRAC最高裁判決

安高:JASRACの独禁法最高裁判決とまとめちゃいますけど、この経営統合は業界に衝撃が走ったんじゃないですか?

香月:でも経営統合が決まって、表面的にはまだ何も動きは見えてきていないですね。ただ契約の現場ではいろいろとうごめきがあるようですが。イーライセンスは海外展開を重視していますから、そこでどれだけJASRACと差別化できるか。実際、海外に活動範囲を広げるBABY METALやONE OK ROCKはイーライセンスに信託していますね。あと現状では演奏権の管理ができませんが、これがいつからスタートするのかも大きなポイントになりそうです。そして一番大きな論点は「どれだけ透明化できるか」ということでしょう。不透明さがJASRACへの大きな不満の一つですから。第2JASRAC構想のこれからに期待も含めて7位にしたいと思います。

第6位:特許法(職務発明)・不競法(営業秘密) 法改正

安高:同じような種類の法改正ということで一つにまとめちゃいますけど、特に職務発明の法改正は大きな話題を呼びました。

香月:朝日新聞の記事は、色々話題になりましたよね。

安高:職務発明の法改正は、実態としてはほとんど変わってないと思うんですけどね。発明者が不遇になるということで、記事の書き方も上手くなくて、過剰に反応があったように思います。

香月:職務発明の話は、かならず青色LEDの件と絡んで話されますよね。そういう意味では、バイアスがかかりやすい話題だけに、もっとうまく伝える必要があったのかも。

 

第5位:特許・知財の無償開放ブーム

安高:今年を振り返ると、今年最初の大きな知財ニュースは、トヨタ自動車による燃料電池の無償開放でした。その後も、パナソニックやサムスン、山口大学など、大手の企業による特許の無償開放が引き続いて発表されました。特許ではないですが、バンダイナムコによるゲームIPの無償開放なども。コンピューターの世界では、OSSを代表に、技術をオープンにする文化があるのですが、それがハード・メーカーの方にも広がってきているような気がします。

香月:「自分たちの商品だけでまとめよう」と考えるのをやめたんでしょうね。ハードウェアにおいても、ソフトウェアにおけるAPIのような、技術的なインターフェースをどう確立するかが大切になってきたということなのかなと。くわえてある種のMAKERムーブメントの影響を企業サイドも受けたのかもしれません。

 

第4位:新しいタイプの商標

香月:私は新しいタイプの商標、特に音商標が気になっているんですよ。このサイトをご覧になっている方はTwitterの商標速報botはチェックされていると思いますが、音商標にも対応してるんですよね。Soundcloudでまとめてチェックできるので、移動中に聞きながら移動してたりして。いいですよ、いろんな会社のサウンドロゴやCMの音楽が聴けたりして。

安高:相当な変人ですね。新しいタイプの商標は、企業側としてもどう対応するかは悩むことが多かったですね。音の商標とかは、見ていて(聞いていて)面白いですよね。

香月:でも、何の音か全然分からないものもありますよ。個人的には「これで登録されちゃったらまずいだろ〜」と思ってしまうものもありますね。

安高:私は色の商標がどの程度登録になるかに注目しています。まだ審査は着手されていないみたいですけど、単色の商標なんかは審査も難しいでしょうし、登録された場合の権利範囲も正直よく分からないですよね。

 

 

番外編

香月安高

ここで、残念ながらトップ10に入らなかったけど、注目すべき知財ニュースを紹介します。

・YouTubeの「ダンシングベイビー」に係るフェアユース判決と、YouTubeのフェアユース支援施作
・鳥貴族 VS 鳥二郎
・アサヒ VS サントリー ノンアルコール訴訟
・Google Books フェアユース判決
・新日鐵 VS ポスコ 和解
・著作権判例百選 差止
・ハイスコアガール和解に
・J-Platpatリリース
・プロダクトバイプロセスクレーム最高裁判決
・医薬延長出願最高裁判決

などなど、ランキング入りしなかったものの中にも、大きなニュースはたくさんありました。

さて、ここからはトップ3です!

 

第3位:iPodクリックホイール特許訴訟

安高:個人発明家がアップルを訴えて、3億円の損害賠償額を勝ち取った訴訟です。

香月:個人や中小でもアップルに勝てるという、大きなインパクトがありましたね。ほかにもアップルと戦っている島野製作所もありますよね。

安高:まさに下町ロケットみたいな、技術と特許で大企業に勝てるという事例ですね。また本件はそれと同時に、日本の損害賠償額の低さという課題も浮き彫りにした事例だと思います。今、審議会でも特許の訴訟システムについて議論がされていますが、今後の日本の特許制度を考える上で非常に重要な論点です。

 

第2位:東京オリンピック・パラリンピック エンブレム

香月:私は1位に匹敵すると思うくらいの話題ですね。著作権をめぐる問題が社会問題にまで発展した事件ってこれまでになかったんじゃないでしょうか。日本における商標や著作権に対する意識がどういうものなのかが、ここまで明らかにされたというのは大きいですよね。

安高:この事件があった以降、社内でも著作権の問い合わせは非常に増えました。日本人全体の著作権とか商標権とか、知財に対する意識を変えましたよね。

香月:なぜか僕にも何件か相談が来ましたよ。ただ僕は弁護士でも弁理士でもないので、お世話になってる知財事務所を紹介しただけですけど。知財がオリンピックを大きく揺るがす、って思ってもみませんでしたよね。と同時に知財が完全に「面倒くさいもの」として認識されるようになったな〜とも思います。いや、実際面倒くさいんですけど(笑)。

安高:私自身は、あのエンブレム自体は、法的な問題はなかったと思うんですよね。ただある種のネットリンチというか、炎上が今回の撤回に結びついたというか。ネットの良くない側面が出てしまったようにも思います。

香月:サントリーのトートバッグの話が掘り起こされてからは、特にその風潮が強まりましたよね。あとはGoogle画像検索。最強の知財調査ツールっぽく見えますが、Googleのサーバにアップロードした時点でもうダメになっちゃいますからね。個人的には調査段階においてはそういうのもアリにしちゃうってものいいんじゃないかと思ってますが。とにかく大きな影響を与えた事件でした。

 

第1位:TPP

安高:エンブレム事件も非常に大きかったですが、やはり1位はTPPと著作権でしょう。TPPと一つに括るのが大きすぎるくらい、色んなテーマを含んでいるものです。

香月:非親告罪はもちろんですが、著作権保護期間についても今年はいろいろ話題がありましたよね。ハッピーバースデーの著作権はやっぱり切れてた話とか、アンネの日記の話とか、色々ありますよね。TPPに関する話題は、今後2,3年は続くんじゃないでしょうか。TPPといえば日本では関税の話がメインになっていますが、実は知財分野の交渉、特に医薬品のデータ保護期間に関する内容が一番難航していたというのはご承知のとおりで。まさに知財の時代という実感がありますよね。

 


以上、1位から10位まで、今年の10大知財ニュースの発表でした。

今年は、特に1位のTPP、2位のエンブレムや、ニュースではないけど下町ロケットのブームなどで、「知的財産」というものが一般社会に広まった年だったように感じます。

来年はどんな年になるでしょうか。

 

 - 知財ニュース

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Comment

  1. 神宮司信也 より:

    Google Books フェアユース判決は「ネットから本の意味にたどり着く、情報整理の第四段階」、といえる事件。

    「これを受け、Google側は声明を出し、「このプロジェクトはデジタル時代に向けた(新しい)図書カード(英文では card catalog for the digital age. )のようなものであり、本日の判決はGoogle Booksが、

    ・人々が読みたい、購入したいと望む書籍を発見できるよう、簡単で役に立つ方法を提供すると同時に、
    ・著作権保有者にも利益をもたらすものである(本を発見した読者が本を購入する可能性)ことを

    明らかにした」とした。

    読者、消費者、ユーザー、すなわち著者以外の人の興味、関心から出発する、「意味」探索のためのツールを、我々はついに手にすることとなった。だからこのたびのGoogleの勝利は、読者の勝利でもあるのだ。」

    フェアユース Google Book訴訟と |EdTechPedia | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/archives/3155

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