松本翔×IPFbiz ~資格を取って自由に生きる、公認会計士・税理士の独立~
2015/05/04
対談シリーズ第16回目は、公認会計士・税理士・FPでLEC講師の松本翔先生です。私の受験生時代の恩師でもあります。
松本先生に対談企画を持っていったら、逆にLECの「会計ラジオ」の出演をお願いされて、会計ラジオの第3回・4回にゲスト出演してきました。
第3回は主に試験勉強について私が話していて、第4回で松本先生の現在の(LEC講師以外の)仕事やこれまでの経歴、独立についてなどお話を伺いましたので、第4回の内容から抜粋して、ここで紹介しようと思います。
講師以外の仕事内容
安高:松本先生がパーソナリティをやられている「会計ラジオ」ですが、ゲストの話を聞くばかりだともったいないですよ。松本先生の話を聞きたいという人も多いと思うので、今回は、立場を逆にして、松本先生の話を色々と聞かせてください。
松本先生のことを、LECの講師だけをしている人と見ている受講生も多いんじゃないかと思うのですが、実際は公認会計士・税理士として会社や事務所を設立して仕事をされているんですよね。
LEC以外でどのような仕事をやっているのか、教えてください。
松本:形態としては色々分けてやっていて、収入の複線化ではないけど、株式会社が2社と、
安高:会社は、仕事内容で分けているんですか?
松本:そうですね、仕事内容、ビジネス内容で分けていて。1社は5年前からやっていて、もう1社は去年作ったんですけど。
1社目は、2010年に独立したときに作ったんですけど、メインは会計コンサルですね。
独立するときに、どういう形がいいかと調べまして。監査業務と税務業務は、株式会社じゃ出来ない。
安高:公認会計士法とか、法律上の制限ですね。
松本:だからこれは事業所得になると。
安高:個人事業主としての所得ということですね。
松本:そうそう。個人事業は、重税感があるというか、税金に関しては優遇されていないないですよね。
そうするとじゃあ、所得の分散化だと、給与所得にするしかない。
安高:なるほど。
松本:給与所得にするには、株式会社を設立してやるわけですね。例えば税務についての確定申告は税理士事務所としてやるわけですけど、それ以外の、いわゆる月数万もらって行うような税務関連業務は、コンサルという形で株式会社でやると。
安高:税務関連業務のほうは、株式会社で受けられるんですね。
松本:そう、そうやって所得を分けようと。まあ税務業務のほうは、今は規模を拡大する方向では実はなくて。もしやるなら資産税とか相続税とかかな、FPを持っているし。
安高:もう一個の会社のほうでは何をやっているんですか?
松本:投資法人です。投資を専門に行う法人ですね。これは、本業とは一緒くたにしないほうがいいと思って。
安高:投資法人ですか。何に投資しているんですか?
松本:何に、、銘柄はちょっとw
安高:いや、種類でいいですw
松本:種類は、普通に株式と、あとは不動産ですね。
安高:投資は、個人ではなくて、会社でやったほうがいいんですか?
松本:個人だと、不動産所得って総合課税になって、これまた重税感が強いんですよ。なんだかこんな話ばっかりしてますがw
法人でつけると、経費の認定がしやすいとか、何かと分けておくと良いことが多くて。
安高:いや、節税は重要ですよね。
松本:後は、銀行から融資を引っ張ってくるときも、個人ということだとやりにくくて、法人のほうが、連帯保証なんかがいらなかったりとか。また所得の分散という意味でも非常に有益ではないかなと。
安高:税務業務をするというのは分かるんですが、投資法人というのは、また少し飛びましたよね。
松本:これはね、非常に重要な話なんですけど。自分が監査法人にいて、独立しようとしたきっかけでもあるんですが。
安高:まさにその話を聞きたいと思っていたんですよ。
独立の理由
松本:ピケティの「21世紀の資本」って読みましたか?めちゃくちゃ分厚い本なんですけど、あれの「r>g」は今年の流行語にノミネートされると思っています。まあ一位はラッスンゴレライでしょうけどw
安高:間違いないw
松本:これに関連して話すと、rは資本の利益率で、gは経済の成長率。つまりr>gっていうのは、経済の成長率より資本の利益率のほうが大きいということですね。
これはつまり、経済が成長すると格差が拡大していくということを意味していると。
早い話が、自分で働くよりも、お金に働いてもらうほうが儲かる、つまり薄々気づいてはいたけど、自分であくせく働くよりも、お金持ちが投資をしたほうが儲かると。
安高:なるほど。
松本:私がその事実に気づいたのは、8年前なんですよ。2007年ですが、私が修了考査を受けた年、その年に税務実務の勉強をしたときに、r>gとは違う観点から、あれ、世の中の仕組みって違うんじゃないかと気づきました。
安高:税務実務の観点から?
松本:その時に何を勉強したかというと、事業所得とか給与所得とかですね。労働で得る所得の税率は最大45%、さらに10%が住民税なので、55%。例えば年収が2000万円の人は、バンカーとか相当のお金持ちだと思いますけど、半分くらいしか手元に残らないんです。
でも、配当所得は、当時10%しかなかった。ということは、金融資産が10億円あるとして、これを全部株に投資して、例えば2%の配当があるとすれば、2000万の配当収益ですよね。これは手元に90%の1800万円が残るわけです。
そうすると、労働だと半分も残らないのに、投資してお金に働いてもらうと、9割残ると。
安高:同じ2000万円の収入でも、全然違いますね。
松本:よくよく考えてみると、租税の策定に関与しているのは、豊かな人だと。
もしかすると、租税の公平とは名ばかりで、税制って豊かな人のための仕組みなんじゃないかと。
そこで初めて、自分の中に見えてなかった世界が見えてきて。
普通に労働する人を否定するつもりはないけど、自分で働くよりも仕組みに働かせることが、これからの時代は重要なんじゃないかと。
安高:仕組みに働いてもらう。
松本:そうすると、監査法人の中だと狭すぎて、自分でお金を操れる立場になったりとか、自分で領収書切ったりとかはできないし。
ということを2007年に感じて、自分の人生だし、面白いことをやったほうがいいんじゃないかと思ったんですね。
誰のために仕事をするのか、監査法人業務
安高:そうすると松本先生は、独立して自由な仕事がしたいというよりは、自由な立場になって、労働よりも投資をするなり、ということがしたかったと。
松本:そう、立場が欲しいというのはあった。
でも当時は投資というのは頭になくて。やっぱり監査法人の中で監査をしていると、まあぶっちゃけると、言ってもサラリーマンですよ。
監査って、監査論で学習したのは、利害関係者のためですよね。
安高:はい、会社の利害関係者のために監査を行う。
松本:利害関係者のために本当にやりたいのかなっていう疑問が正直あったんですよ。
利害関係者って、銀行とか投資家とか、お金を出す側です。その裏側を数値として担保するのが会計士の仕事だとすると、これによって潤う人たちは、自分たちではなくて。
結局、マネーゲームの数値を担保する立場であって、自分が投資をしているわけではない。使う使われるで言うと使われる側。
監査って、確かに素晴らしい仕事だけど、本当にこれに全身全霊をささげて魂を燃やせるのかというと、いや待てよと。
財務諸表を使う側の立場に立ちたいというのが、法人にいたときの気持ち。それが法人の中で感じた限界でもあったんですよ。
安高:独立したい人の気持ちって、自分の好きな仕事をしたいという仕事内容の理由が大きいと思うんですが。
それよりむしろ立場を重視してということですか?
松本:いや、独立のきっかけは立場だけじゃなくて、仕事内容ももちろんありますよ。
実際には、クライアントの役に立ちたいというのは本当にあって。
せっかく身につけた税務なり会計なりのスキルを、必要としてくれる人のために使いたいと。
安高:それは、監査法人だとそういう手ごたえが薄かったということですか?
松本:無いですね。
何よりも、入って気づいたんだけど、監査って誰のためにやるのかというと、さっきの話では、利害関係者という建付けなんだけど。
実際は、パートナーのためだと。
安高:パートナーというと、監査法人のパートナーですね。
松本:結局、彼らのリスクヘッジのためにやっていると。
その時に達観したのは、大企業は全部そうだと思ったんですよね。
誰のためにやっているかというと、一つ上の課長のためとか、一つ上の部長のためとか。直接お客様のためにやることはほとんどないと。
じゃあ、どうやったって、自由な立場と自由な仕事を選べるっていうもの、それはもう独立してやるしかないかと。
独立に向けた準備
安高:独立も結構にリスクはあると思うんですが、辞めようと思ってからの行動って、実際どんなことをしました?
松本:準備は結構しましたね。3年くらいは準備をしました。
安高:準備期間、結構長いですね。
松本:大分長いですね。法人の中で、虎視眈々と考えていましたから。
始めに、FPの資格を取りました。税務と会計ファイナンスって一体なので、トータルサービスという観点じゃないといけない。税務だけ出来ますっていうことだと、え?って感じになってしまうので。
安高:なるほど、公認会計士・税理士以外のスキルも重要ですね。
松本:FPの勉強はある程度時間をかけてやって。あとは税金の勉強をやりました。
安高:これは、監査法人での業務とは別に勉強したということですか?
松本:もちろん、そうです。あとは、今は行かなくなったけど、異業種交流会に行ったり。まずは人脈をと。色々な人にリーチして。
安高:そんなこともやってんたんですね。
松本:実際に独立する前も、税理士事務所で半年くらい修行しましたね。
安高:監査法人を退職した後に?
松本:そうそう、頭の中で考えたことはあっても、実際にどういうことをやっているかを掴まないといけないと。
これはすぐに辞める前提だし、辞めることは承諾してもらって。
安高:修行させてくださいということですね。
松本:どういうタイミングで申告書を出すのかとか。提出書類ってたくさんあるし、締め切りを過ぎると大変なことになりますからね。
安高:じゃあ税務をベースにして、独立しようとしていたんですね。やっぱり会計資格を取った後に、監査法人を出て独立しようと思ったら、税務をする人が多いんですかね?
松本:税務の魅力というか、ある程度安定した収入がありますからね。
安高:顧問契約ということですね。今時そういう契約って、他にはあまりないですよね。
松本:そうですね。でも、これはいずれ廃れると思う。だからこれについて拡大戦略を取ろうとは思ってなくって。
安高:ほう、なぜですか?
知的労働者の将来
松本:例えば弁護士業務とか、昔は一時間単価2万円ですとか、砂時計をひっくり返して、はい終わりましたみたいな。そんな話って今は全くやってないですよ。
典型的なのは、弁護士ドットコム。対面でやるというコンテンツ自体の価値がなくなってきている。
税務についても、それは分かりきっていて、無料の確定申告ツールとか出回っていて、申告業務は縮小していきますよね。
安高:そうですね。
松本:マッチングのビジネスをするとかいったら将来あるでしょうけど、これは仕組みだから。
でも、コンテンツで勝負しようと思ったら、これはきついと。
同じ一直線上の中で勝負しても、規模の大きいところが単価を下げて、価格競争になったら勝てない。
いずれ税務の顧問契約も、無料が出てきますよ。顧問契約は無料です、その代わり相続の話はお願いしますよみたいな。
安高:だいぶ将来を読んで、考えているんですね。
松本:もちろんもちろん。それがないと、専門家っていうライセンス自体が・・・ぶっちゃけトーク大丈夫かなw
安高:ぶっちゃけて行きましょうw
松本:専門家って、一昔前に最も潤った時代があって。いわゆる情報の時代だと言われるようになってからの20年間くらいですね。この20年間で、ナレッジワーカーと言われる知的労働者は、情報の高度化に対応するだけで儲かったけど。これからは専門家だから何?と言われる時代になっていくと。
安高:クライアントとの知識の差は薄まっていますよね。インハウスの専門家も多くなっていますし。
松本:まさに。ネットがこの20年で犯した最大の功罪と言ってもいいでしょうけど、リーチできる情報は2000倍くらいになってますよね。逆に言うと専門的スキルは2000分の1に薄まったといってもいいと思うんだけど。
ここで試験批判をするつもりはないけど、例えば税理士の試験で、これの定義は何か書けみたいな。
そんなの、答えはWikipedia参照でいいんですよ。
安高:おー、ぶっちゃけますね。
松本:そういう時代に試験が追いついていないですよね。
時代性として見ると、いくつか専門スキルを組み合わせていって、
そういう掛け算から、全く新しいものが生まれ、そういうものに人が興味をもっていく。
そういう予期せぬ化学反応を、意図して生み出していかないといけない。
裸一貫で資格だけ持ってますみたいな話だと、資格の皮を剥がされたときに、あなたに何が出来ますかと。
これからの時代は、その真の実力が問われているなあと、思いますね。この5年10年の動きは凄く早いんで。
松本先生、ありがとうございました。
ぶっちゃけトークを聞いちゃいましたね。でもこれが、資格を取って自由に生きようとする人の本音なんだろうと思います。
資格を取っても、大きな組織の中にいるとつまらん。
でも一つの資格に象徴される単一の専門知識を持っているだけだと、今後拡大しない。
また専門知識のコンテンツによる一直線上の労働力勝負ではなく、投資なりの儲かる仕組みを作らないといけない。
とても勉強になります。
良かったら、他の会計ラジオも見てみてください。
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