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齋藤憲彦 × IPFbiz ~Appleに特許で勝った個人発明家~ (前編)クリックホイール発明秘話

   

対談シリーズ第19回目は、iPodのクリックホールに関する特許訴訟で、Appleに勝訴したことでニュースを賑わせた、発明家の齋藤憲彦さんです。

河口湖の近くにある齋藤さんの拠点にまでお邪魔して、発明家になった経緯、クリックホイール特許を発明したきっかけ、訴訟に至るまでの流れと、日本知財司法に対する思いなどを、お伺いしました。

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発明家になるまでの経緯

発明家ブームだった中高時代

安高:齋藤さん、よろしくお願いします。最高裁判決が出たばかりでご多忙のところ、お時間を頂いてありがとうございます。
まずはこの度の勝訴確定、おめでとうございます。判決の話をぜひ聞きたいのですが、順を追って話を聞かせてください。最初に、今のような発明家という職業になった経緯を教えていただけますか。名刺にも「発明家」と書いていますね。結構珍しい職業ですよね。

齋藤:私が中学・高校時代の頃は、発明ブームだったんですよ。ソフトバンクの孫さんと同じ年くらいなのですが、孫さんの自伝の中にも、一日一発明のようなことが書いてあったでしょ。
私が若いころは、大きなショッピングモールのある所に行くと、王様のアイデアという、個人発明家の発明したものなんかが置いてあるお店があったものです。

安高:その頃に発明家ブームの時代があったのですね。知りませんでした。そのお店の名前も初めて聞きます。

齋藤:日本中にあったんですよ。そこに行って、面白い事考えている人がいるなーと感心しながら見ていました。
当時、豊沢豊雄さんという有名な知財の啓蒙家がいて、彼が中学校に講演に来たんですよ。

それで、学友が中学生で発明をしたものが製品になったりして。私は中学の頃はそんなに興味が無かったのですが、高校に入ってから興味が湧いてきて。
高校に入ってから、どうやって発明をするかという本を買ってきたり、また凝り性なもんだから、特許法の出願の仕方の勉強なんかもし始めて、特許法に興味を持ってね。高校生で、法律のホの字も知らないのに、判例集を買ってきたりとか。

安高:高校生で特許に興味を持って勉強するのは、すごいですね。高校では、自分でも発明を考えたりしたんですか?

齋藤:セロテープを反対にしてまとめて、洋服の毛玉を取ったりとかするでしょう。それを便利にするような方法を考えて、豊沢先生のやっている発明学会という発明奨励団体に送ったんですよ。そうすると、推薦状をくれて。これを特許出願して売り込みをかけてみなさいというね。

安高:推薦状、それは凄いじゃないですか。売り込みしたんですか?

齋藤:いや、社会人だったら色々と考えたんでしょうけどね、いかんせん高校生ですから。その時はほったらかしにしちゃった。

安高:もったいない(笑
じゃあ、かなり若い時の実体験が、今の発明家という職業に影響を与えているんですね。
大学を出てからは、会社に就職されているんですよね。

発明魂―大衆発明家の父・豊沢豊雄の生涯 (コミュニティ・ブックス)

就職、転職、そして起業して・・

齋藤:ええ、富士通系の、ソフトウェアの開発をする会社に就職しました。OSや、ロボット制御系のソフトウェアの開発ですね。
途中でJAIMSというビジネススクールにも半年ほど通わせてもらって、3年ほど勤めたのですが、その頃はベンチャービジネスブームが始まった頃で、自分も何かしたいと思って、外資系のOSを作っている日本支社に転職しました。そこは1年くらいでしたけど。

安高:制御系やOSのソフトウェアの開発をやられていたんですね。サラリーマンとしては4年くらいで、それから独立されたんですよね。

齋藤:友人と数名で、銀行からお金を借りて、ポセイドンテクニカルシステムズ株式会社という会社を立ち上げて。制御システムのソフトウェアの請負がメインの仕事でしたね。最盛期は社員が50人くらいでしたね。

安高:結構大きくしたんですね。

齋藤:でも、そんなに大きく儲かったということはないけど。今振り返ってみたら、会社ごっこみたいな感じでしたね。
今の新しいスタートアップだと、何か知財があってとか、強烈なビジネスのアイデアがあってとか、それを膨らませていくじゃないですか。

安高:コアとなる独自の強みを持って、ということですね。

齋藤:もちろん、私の会社も独自の強みがあったんですよ。
OS9というモトローラ系のCPUのために作られたOSがあって、その開発なら日本一という。実はCERNのサイクロトロンのシステムは、OS9でできているんですよ。それで日本でも世界最大のシンクロトロンを作るというときに、OS9で仕事を受けられるところを探したわけですよ。それで、そんな専門家集団はうちだけだったから、国のプロジェクトとして、依頼がかかってということもありました。

安高:マニアックな専門性をもって、順調に行っていそうですが。

齋藤:そこでバブルが弾けましてね。大きな入金のタイミングが1年遅れて、その1年でガタガタになっちゃったんですよ。優秀なエンジニアが抜けてしまったり。
貰っていた仕事だけはなんとかこなして、ばったり倒れました。

安高:ばったり倒れて、そこから発明家になるというのは?

齋藤:会社がつぶれて、ふと正気に戻ったんですね。会社を起こしてから、自分で思いっきりパソコンで遊ぶってことを随分していないなと。昔は機械語を覚えているくらいやっていたんですが、経営している間は自分では触りませんでしたから。

安高:経営者であってエンジニアではなくなっていたと。

齋藤: そうです。技術戦略はわかるんだけど、ソフト屋としては現役ではなくなってしまった。そうすると、残ったのは自分の頭だけなんですね。残された資源は発明だけだと。
その時から、高校生の時に取っていたような発明ノートを、また毎日取り始めました。
その結果、自分の能力をぶち込んで、起死回生の一作としてクリックホイールの原型になるものを作り出したわけです。

 

クリックホイールの特許登録まで

クリックホイール発明のきっかけ

安高:それではここからは、クリックホイールを発明したきっかけを教えてください。
最初の特許出願が平成10年の年始ですよね。

齋藤:はい、会社が潰れたのが平成8年か9年かそのくらいなので、そこから1年くらいで出願までもっていきました。
きっかけは、電子小物おたくの友人でね、新しい携帯電話とか音楽端末とかが出ると、買って見せびらかせてくるわけですよ。それで、あるとき見せてもらったSONYの携帯電話にジョグダイアルキーが付いていて、これは便利だと。

安高:端末の側面に付いていて、クルクル回して押し込むタイプの入力装置ですね。

齋藤:当時は複合スイッチという名称もなかったと思いますけど、あれが複合スイッチの走りですよ。当時は携帯電話が爆発的に普及を始めた時期で、各社が携帯電話を出している中で、ジョグダイアルキーが人気でSONYの携帯電話が売れているわけですね。
他の会社も、きっとこれに対抗できるような複合スイッチが欲しいだろうと。よし!これだと思って。私が考えてやろうとね。

安高:なるほど、ジョグダイアルキーがきっかけであって、ベースでもあるわけですね。確かに、回して選んで押し込んで決定というのは原型ですね。

齋藤:それで考えて、結構すぐ思いついたんですよ。車輪の代わりに、短冊形のタッチセンサーをエミュレーション(並べてシミュレーション)させて、そこにプッシュスイッチを設けると。
まずこれを考え出したんだけど、相当強い特許じゃないと、特許だけではビジネスにならないと思ったので、強固な盾を築こうと、関連特許をマシンガンのようにたくさん考え出したんですよ。

安高:さすが、昔から特許を勉強しているだけありますね。一つの特許だけだと簡単に回避されたり、無効にされたりしますし、実施例が一つだと特許を取るのも大変ですからね。最初から関連特許を複数用意したわけですね。

齋藤:ええ、最終的に明細書に図面がたくさん載っているのは、元々は関連特許だったわけです。
ひも状に並べたタッチセンサーを撫でるというのが基本コンセプトですが、タッチセンサーを並べるとうのは、応用が広く効くことに気が付いて。まず、ひも状のタッチセンサーの軌道を、曲げることができるわけですね。円弧上にすることで、親指で簡単に使える。そして、円弧上がいいなら、リング状でもいいなと。
それで結局、同日出願で6つの特許を出願しました。

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特許出願、審査、面接、分割・・そして登録まで

安高:特許は、自分で出願したんですか?

齋藤:明細書は、1つだけ弁理士さんにお願いして、後は自分で書きました。その1本も大体自分で書いて持って行ったんですけど、あまり修正されず、これなら自分で書けると思ったから。同日出願しようと思ったので、最初に書いてもらってから随分待たせてしまいましたけどね。

安高:出願の経緯を見ると、登録までにだいぶ時間と手間がかかったようですね。6つ出願して、分割して、面接審査もして。

齋藤:審査を受けている頃は、まだ拒絶率も高い時期で、審査官も撃墜王のような感じでしたね。一番腹が立ったのは、審査官に「齋藤さん、真っすぐなものを丸くしただけじゃ特許になりませんよっ」と言われたときですね(笑

安高:審査の厳しさには若干の揺れ動きがあって、斎藤さんが審査を受けているときは、進歩性の判断が厳しめの時期だったかもしれません。審査官は拒絶にするのが仕事のような側面もありますから、撃墜王という印象を持たれるのも仕方ないですね。

斎藤:途中で、訴訟の代理もして頂いている上山先生に参加してもらって。なかなからちがあかないから、元特許庁で、ギリギリ通るラインとかノウハウがある弁理士先生にも手伝ってもらって、最後の請求項を練り上げたんですよ。
そうしたら、特許庁から電話がかかってきて、「社会的な影響が大きいので審査室で協議をしましたが、本件は特許査定にします。あとは斎藤さん、頑張ってください」と電話がかかってきてね。

安高:発明者に電話で告げられるというのは異例ですね。この段階で、面接なんかでAppleとのことを話していたんですか?

齋藤:ええ、面接で、なかなからちがあかなかったので、最初に出願をお願いした先生から「齋藤さん、思いのたけをぶちまけてください」と言われたので、「この発明はね、iPodのクリックホールなんですよ」と。審査官も驚いていましたね。

安高:担当審査官の驚きは想像できますね(笑 訴訟で使われる可能性がある案件だと、自分が特許にしたものが訴訟で無効と判断されると大変ですから、一層慎重になります。
そんなこんなで、平成10年に出願して、15年に早期審査をかけていたものが、ようやく平成18年に登録されたわけですね。
ちなみに、この発明に当たって、試作品なんかは作ったんですか?

齋藤:いや、この発明に関しては試作品は作りませんでした。電子工作なんかは好きなんですけど、この発明はコンセプトが本質ですから。当業者であれば、コンセプトがわかれば、構造的には直ちに出てくるはず。これを試作品がないから作れないなんていう人は、当業者じゃないですよ。

 

長くなりましたので、前後編に分けます。
後半はいよいよ、アップルへのコンタクト、訴訟の経緯、そして知財司法への思いについて

後編(明日の夜アップ予定)

 - 特許

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