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AIによる知財業務を勝手に将来予測してみる

   

本日、7/1は弁理士の日。

ということで、弁理士の日記念ブログ企画(テーマは「知財業界でホットなもの」)に参加します。

知財業界でホットなものということで、「AI(人工知能)」について書いてみようかと思います。
AI創作物の権利とか、機械学習における大量データの取り扱いと著作権とか、色々論点はありますが、ここでは、AIがどのように知財業務(弁理士の業務)を奪っていくかについて、予測をしてみます。

AIが人の仕事を奪うという考え方は、あんまり好きじゃないことは前の記事で書きましたが、単純に、各知財業務のどういう所にAIが今後入り込んでくるかという予測です。

商標の方が現実的な面もあるかもしれませんが、ここでは特許に焦点を当てます。ちなみに、何らの科学的根拠のない勝手な予測なのでご笑読ください~。

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Level1:明細書チェック

まずは現実的な所で明細書チェック。

明細書チェックツールは既に、結構前から出回っています。今は誤字脱字チェックや表現の揺れ、符号の間違いなどの機械的な形式面チェックがほとんどですが、AIの発展により、より高度なチェックが可能となることが予測されます。

例えば、36条の拒絶理由通知と補正書のデータセットを学習データとして機械学習させることで、不明確さの指摘や、サポート要件の指摘まで可能となるかもしれません。

 

Level2:特許分類の付与

これは特許庁内の業務の話です。現実的に議論されていますね。

特許が出願されると、公開(と審査官への割り振り)の準備のため、特許分類が付与されます。今は外注による人力作業+審査官のサンプルチェックですが、これはAIが活用しやすい業務内容だろうと思います。

なにしろ、大量の特許文献と特許分類のセットという学習データが揃っているので。

テキストマイニングにより分類ごとの特徴語を抽出して、という古くからの手法でも、ディープラーニングでも、どちらも上手くいきそう。Fタームの付与なんかは、機械がやった方が漏れなく出来るかもしれません。

 

Level3:特許分析

続いて、特許分析。これも、AIによる特許分析ツールという触れ込みは出てきつつあります。

といっても、昔から、テキストマイニングだったりクラスタリングだったりベイズ推定だったり機械学習だったり、様々なテクノロジーによる特許分析ツールというのは存在してきています。

これらは、今後より精度を上げながら発展していくでしょうね。

おそらく精緻な特許調査よりも、大量文献を群として分析する特許分析のほうが、AIの活用に向いていると思います。

 

Level4:特許調査

この辺から少し難しくなるでしょうか。

特許調査といっても、概念検索により近そうな文献を抽出する技術は昔からあります。そのような、新規性を否定する文献の抽出は難しくないかもしれませんが、本当の意味での特許調査、つまり進歩性のロジックを踏まえた先行技術調査や、上位概念や権利範囲も理解したクリアランス調査などは、もう少し先になりそう。

 

Level5:発明発掘

研究ノートや事業企画書や会議議事録などを読み込ませることで、発明の種になりそうなものを発掘して抽出する。

そんなことできたらいいですよね。

言語解析により、発明の種となる可能性となるものを大量に抽出して、それに類似する先行技術を勝手に調査することで、進歩性がありそうなものだけを摘出するとか。

 

Level6:知財戦略の立案

知財戦略と言っても広い言葉ですが、例えば出願戦略。

会社の事業計画と財務情報および外部情報を基に、今後どの分野に注力して、どういう特許をどこの国に出願すべきか。

そういう方針の策定と発明の発掘が出来れば、知財部員のリソースはだいぶ軽減されます。

 

Level7:渉外

いわゆる知財の活用の観点からも、例えば、保有する特許権を侵害する他社製品を見つけてくれたり、そこに対して差止請求をするのがいいのか、ライセンス契約を結んでコワークするのがいいのか方針を示してくれる。

ライセンスをする場合のライセンス料率はいくらが適切かも計算してくれます。もちろん交渉もAI同士なので一瞬です。

 

Level8:明細書作成

この辺から、今段階では夢物語のような話。でも、確か明細書自動作成ツールって、一応あったような気もします。

発明の概要を入力すると、明細書案を作成してくれる。大量の明細書を学習データとして、どうすれば明細書っぽく書けるかの学習は出来そう。あるいは、ある文章を、特許明細書風に変換するとか。

Level1で既に明細書チェックの自動化は出来ているので、36条はクリアする明細書が書けるし、Level4で特許調査もできているので、一応は進歩性がクリアしそうな請求項を書いてくれる。さらにはLevel5で発明発掘ができるので、研究ノートや事業企画書をDBに保存すると、自動で抽出して調査して明細書まで書いてくれる。

さすがにしばらくは、明細書(案)であって、それを弁理士なりが確認・修正する必要があるでしょうが、その修正ログから学習することで、だんだんと精度は上がっていく。

明細書作成の前提として、明細書の評価も出来るようになるでしょうね。単なるチェックではなく、良い明細書かどうかの評価。この辺まで行けば、まさに弁理士要らずになりそう。

 

Level9:審査

これも特許庁側の業務ですが。

審査の補助としての特許調査は、もっと前のLevelで達成しています。そこからさらに、審査官に代わるほどの精度で、進歩性否定のロジックを構築して拒絶理由通知が書けるか。

今の段階では想像がつきませんが、いつかは出来るような気もします。

 

Level10:発明

さあ、とうとうAIが発明をしてしまいます。

今でも、Word2Vecとかで既存の文献を組み合わせて新しい概念を作ること自体はできなくもないですし、発明というのは何かしらの課題かシーズと、先行技術の組み合わせから出来上がるのが通常なので、様々な情報にアクセス出来て、そこから発明が発掘できるなら、それらを組み合わせて発明自体をする事も出来るようになるでしょう。

このLevelでは既に特許調査も出来るので、進歩性のありそうな発明だけ抽出することも当然できます。そしてなんと、AI自身で明細書を書くこともできるので、大量に自動で発明をして、自動で明細書を書いて出願することで、大量の特許権を獲得できる。なお、審査をするのもAIです。したがって、最初から権利が取れるギリギリの範囲で出願して効率的に権利化できる。
そしてAIが考えた最適な知財戦略に沿って強い特許ポートフォリオを構築し、AIが権利行使まで行う。

そんな世界になったら、特許制度はどうしたらいいんでしょう。

 

・・・なーんていう、妄想でした。

でも、今時点では想像もつかないけど、技術進歩のスピードは指数関数的に増加しているので、シンギュラリティを迎えた後では、このようなこともあり得ない現実ではないはず。

 

 - 弁理士

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