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LEC弁理士講師 納冨美和 ×IPFbiz ~弁理士試験 合格の秘訣~

      2015/02/22

今年から企画している対談シリーズ「○○×IPFbiz」ですが、

第1回の企業法務戦士第2回の「IP Force」成田弁理士に引き続き、今回はLECで弁理士試験の講師をされている弁理士の納冨美和先生と対談させていただきました。

納冨先生と言えば、弁理士試験の顔、LECの看板。
丁寧な指導と受講生との密なコミュニケーションで、今もっとも人気のある弁理士試験講師の一人です。
実は私も、弁理士受験生時代は、納冨先生のゼミでお世話になりました。

そんな弁理士受験界のカリスマである納冨先生に、LECの講師になったきっかけや弁理士試験合格の秘訣や勉強のコツ、最近の弁理士試験の動向などをお伺いします。

納冨美和

納冨先生のキャリア LEC講師を始めたきっかけ

安高:納冨先生、お忙しい所ありがとうございます。今やすっかり人気講師で、納冨先生の講義を受けて弁理士になっている人も多いでしょうが、納冨先生がどんな人なのか、興味を持っている人も多数いると思います。まずは基本的な所から聞きたいのですが、先生がLECの講師を始めたきっかけは何ですか?

納冨:最初は企業に勤めていて、その時の顧問の先生がLECの講師だったんですよ。それでご縁があって、私が合格したときにスカウトされましたのがきっかけですね。

安高:へー、スカウトだったんですね。

納冨: ええ、最初はあまり乗り気じゃなかったんだけど、まずは1回ゼミをやってみて。LEC内部向けのゼミだから、予行演習のような感じですけど。そうしたらゼミ生が全員短答試験に受かって。論文も7割くらい受かったんですよ。それで、じゃあやってみようかなって。

安高:きっと元々向いていたんですね。その時はもう特許事務所に移られていたんですか?

納冨:企業から事務所に移ったタイミングで弁理士試験を受け始めたので、その時は事務所勤務ですね。

安高:ちなみに企業から事務所に転職した理由は?

納冨:勤務先の企業が大手に合併されちゃって。それでちょうど弁理士試験を受けようと考えてて、企業に勤めてると予備校に通うことも難しいと思ったからですね。

安高:なるほど。それでLECの講師になられて、どのくらい経つんですか?

納冨:11年目ですね。関東では3番目の古株です(笑)

安高:おお、すっかりベテラン講師ですね。

 

事務所での仕事

安高:LECの講師と同時に、特許事務所でも働いているんですよね?仕事の割合はどちらが多いんですか?

納冨:今は、ちょうど半々くらいでしょうか。時間的な拘束でいうと事務所のほうが長いけど、精神的な負担はLECのほうが大きいかも。

安高:特許事務所ではどんな業務をやられてるんですか?

納冨:はじめは特許もやりたくて、電気情報系の事務所だから、情報の資格を取って明細書も書いていたんですけど。その頃はLECもそんなに忙しくなかったし。
でも最近はLECの拘束が長くなったので、商標が中心で、後は著作権とかですね。

安高:特許事務所で著作権の業務って珍しいですよね?

納冨:うちは法律部門もあって連携しているから、入口は法律部門のほうですね。著作権など知財系は法律部門でも必ずしも詳しくなくて、私は会社にいるときに著作権業務もしていたので。著作権に関するタイムチャージの相談という感じですね。

安高:そっか、それはいいですね。著作権は一応弁理士の専門分野の一つですけど、実際に著作権業務をしている弁理士は少ないイメージです。

納冨:著作権がそんなに好きなわけじゃなかったんですが、何か縁があるんでしょうね。

 

論文選択科目から著作権がなくなる

安高:そういえば、選択試験の科目から著作権がなくなるんですよね。あれは何故ですか?ちょっと残念です。

納冨:短答試験に著作権が入っているから、それで十分に知識を問えているということですけど。実際は著作権科目を選択する人が増えすぎているということも一因としてはありそうですね。

安高:そんなに皆、著作権を選択していたんですか?

納冨:文系の多くは著作権を選んでますね。受験生の層が、昔とは変わってきているんですよ。弁理士は本来的には理系の資格だと思うんですが、文系で弁理士を受ける人も当然いて、それが昔は法務部や知財部など、法律学科出身の人が多かったんですね。
それが最近は、経済とか文学部とか、法律が専門ではない文系の人が多く受験するようになってきています。そういう人が民法で太刀打ちするのは大変だから、こぞって著作権を選んでいたんですよ。

安高:うーん、文系の受験生層が変わってきている。それって何故でしょう?

納冨:最近の受験生の属性は、知財法務が出身じゃない人が多くて、転身を図りたいという意味で試験を受けるんですね。

安高:なるほど、もともと知財法務の人が専門性を高めるために試験を受けるんじゃなくて、他分野の人が知財業界に入るための手段として、弁理士試験を受けていると。

納冨:ええ、そういう人は他の選択科目の専門性がないので、消去法的に身近な著作権が選びやすいんですよね。
それで、そんなに著作権専門の弁理士を増やしても仕方ないんじゃないかと。

 

文系受験生の苦難

安高:そうすると、法律出身以外の文系受験生は、大変になっちゃいますね。

納冨:本当にその通りで、弁理士会から文系弁理士はそんなにたくさんいらないと言われているような感じです。

安高:でも確かに、合格した後も文系弁理士のキャリアの問題はありますよね。

納冨:そうですね。理系出身者が商標をやろうと思ったら、勉強して実務を積めばできるけど、文系出身が特許をやろうと思うとハードルが高いですからね。もちろんその人の努力次第でどうにでもなる部分はありますけど、ガイダンスの時にも、合格したその先のことを考えてアドバイスしないといけない。

安高:最近は大学でも知財を教えているところが多いですけど、大学での知財は文系の学問なんですよね。経営学寄りの。そういう所で知財に興味を持って、知財業界で働きたいと相談してくれる学生さんなんかもいるんですが、実際の知財業務の多くは理系の技術知識が必要なことが多くて、ミスマッチがあるように思います。

納冨:もちろん本人の努力次第ですけど、外国語とか会計の知識とか、知財+αの何かを持って、キャリアプランを考えないといけないですね。
若い人なら、どうにでも出来ますよね!若い人にどんどん受けてもらいたいです。大学に弁理士試験をもっと浸透させて、学生の受験生を増やしたいですね。

 

最近の弁理士試験動向

安高:話は変わりますが、最近の弁理士試験の動向はいかがですか?

納冨:大きな変化があったのは平成19年で、短答免除という制度的な変化があった年でもあるんですが、この頃から論文でも短答的な問題が出るようになりました。事例問題で処理能力を問うような試験内容ですね。
その変化があって、処理的な問題が多くて論述力が落ちたんじゃないかと言われて、また趣旨問題のような書かせる問題が出てきていました。
最近はまた落ち着いてきて、バランスよくなんでも聞くような感じですね。

安高:そうすると幅広い対応力が必要となりますね。

納冨:事例問題だったり、趣旨だったり、判例だったり、様々なタイプの問題が出るので、時間が足りなくなるというのが受験生の問題になっています。
問題のボリュームが多いというよりは、問いの種類が増えているからですね。

また、出題の予想も難しくなっていて、以前は出ないと言われていた、判決が出て1年以内の判例だったり、過去に出た判例だったり、地裁の裁判例だったり。こういうのは以前は出ないと言われていたんですが、最近は出るようになって、何が出ないというのが言いにくい状態ですね。
意匠の13条の2が出たりしたんですよ。

安高:意匠法13条の2・・なんでしたっけ?

納冨:特許協力条約に基づく国際出願に係る実用新案出願の意匠への変更です。

安高:おお、、マニアック。それは読めないですね。

納冨:目を疑いましたよ。正直、この条文は試験に出ますかと聞かれたら、出ないと答えたくなるような条文。でも今はそれが捨てられないんですよ。問題のタブーがなくなった状態です。
一つ一つの設例の難易度は高くないんだけど、それが色んな角度からくる感じですね。

安高:以前に比べると問題のバランスが良くなってるとも言えるんですかね?

納冨:ええ、本試の問題は良くできていると思います。いい問題が多いですね。昔にくらべると、たまたま予想が当たったから受かったという人は少ないと思います。総合力が問われるし、何かミスをしても他でカバーできる。昔みたいに地雷を踏んだら1つのミスで命取りみたいなことはないですね。

 

弁理士試験合格のコツ

安高:そういう試験動向を踏まえて、弁理士試験に合格するために重要な事、合格のコツのようなものは?

納冨:何よりも基礎を大事にすべきです。

安高:そういうことですね。総合的に対応するために一番重要な条文の趣旨なんかは、一番最初の入門講座でやりますしね。

納冨:ええ、独学で勉強を始めると、そこが弱くなるんです。条文を暗記しようとか、過去問を10周回して暗記で勝負しようとか。そういう勉強をすると、条文の趣旨が分からなかったり、文言の解釈が分からなかったり。

安高:最初の入門講座が重要だと。

納冨:入口はちゃんとやったほうがいいですね。入門の後は、自分で独学でやってもいいし、勉強スケジュールをしっかりやりたければ予備校を使ってくれてもいいし。まず最初の入口としての入門講座はしっかり受けたほうがいいんですが、何故か逆のことが多いんですよね。

安高:確かに、最初に予備校の扉をたたくのは、ちょっとハードルがあります。まずは市販のテキストで自分で勉強してみようかなって思ったりしちゃいますよね。

納冨:最近は受験生にとっては情報が溢れているし、手軽な教材なんかもある。これは素晴らしいことではあるし、私が受験生だった頃はそんなもの無かったんですけど、逆にそのせいで予備校に行くしかなくて、それが良かったかもしれない。

 

今後の目標

安高:納冨先生の今後の目標を教えてください。

納冨:今まではLECが作ったテキストでそれをカスタマイズしながら講義をやっているんですが、入門とか入口のところの講義で、自分のオリジナルなものをやってみたいですね。

安高:それは入門のテキストをオリジナルで作るということですか?すごい大変そうです。

納冨:弁理士四法「特・実・意・商」対照で見る知的財産法入門 という入門的な本を出していて、それをカスタマイズすることもできるので。最初から自分のオリジナル教材での講義をやってみたいですね。
あ、後は、将来的には試験委員になってみたいです。

安高:弁理士試験委員、面白そうですよね。私もなってみたいです。予備校講師をやってたら、辞めて2,3年経たないと委員になれないんですよね?

納冨:そうなんです。だからなるとしたら、私がおばあちゃんになってからですね(笑
でも受講生からは、私が試験委員になったら、どんな問題が出るかすぐに分かるなんて言われました。

安高:納冨先生ならいい問題作りそうですよ。

納冨:私のマイブームというか、好きな問題は、法域間のミックスです。他にも条約を絡めたり、とにかく何か絡む系の。商標のことを聞きつつ、特許との違いはなんですか?とか。

安高:本質的な理解が問われますね。

納冨:そう、本質的な理解が必要だし、定型的な試験のノウハウだけでは対応できない。そういう問題は受講生は嫌いみたいですけどね(笑

納冨派閥

安高:自分の受講生が弁理士になっていくのはどんな感じですか?

納冨:それはやっぱり嬉しいですよ。
どの事務所にも自分の教え子がいるようになるのが目標かも。

安高:ゼミ生や通学生だけじゃなく、通信で受けている人も入れれば、相当な数が納冨先生に教わって弁理士になってますもんね。

納冨:ある受講生からは、派閥を作ったらいいんじゃないかって言われて(笑) 春秋会とか弁理士クラブみたいな。

安高:ああ、それはいいじゃないですか。きっと最大派閥になれますよ(笑) 弁理士会長になれるんじゃないですか。

納冨:政治的なところには興味がないからなー。
でも、自分が関わった弁理士が一人でも増えて欲しいという思いはあります。

 

条約が重要

安高:最後に、受験生に言いたい事などありますか?

納冨:うーん。あ、条約の重要性について。
最近は条約の重要性が増してきているんですよ。一方で受講生は条約は捨ててしまいたいという人が多くて。そんな受講生と試験委員とのいたちごっこみたいになってますけど。でもやっぱり条約は実務でも大事だし、試験での重要性も高まっているので、捨てずにちゃんと勉強して欲しいです。


最後まで受験生思いのコメントを頂きました。

問題の問われ方が多様になっている現状では、幅広く対応するために趣旨の理解など基礎を大事にすることと、条約も含めて穴を作らない偏らない勉強が重要だと。そのためにも勉強の入口としての入門講座が重要だということです。

定期的にガイダンスをやっているそうなので、これから弁理士試験を受けようかなと考えている人は、ぜひ入門講座から!

 - 弁理士

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