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村上春樹を初めて読む人におすすめする作品(タイプ別)長編・短編小説

   

村上春樹が好きです。

でも、好きな作家は?と聞かれて、村上春樹だと答えると、「ああ、ハルキストか」と変なカテゴライズをされることがあるので、
日本だと安部公房や川端康成、海外だとガルシアマルケスやカミュが好きですと答えた上で、様子を見て、最近の作家だと村上春樹が一番好きです、と答えるようにしています。

そんなへたれな私ですが、人にお勧めの小説を聞かれたときには、村上春樹作品から選ぶことが多いです。
もちろん他の作家さんをお勧めすることもありますが、これまで多くの人に、その趣味嗜好を考慮してお勧めの村上春樹作品を選んできた経験から、
タイプ別に、村上春樹を(ほぼ)初めて読む人にお勧めする作品を紹介したいと思います。

【目次】

①本自体、ほとんど読まない人
②ビジネス本や実用書は読むけど、小説をあまり読まない人
③ミステリ好きな人
④村上春樹に(少し)興味がある人
⑤村上春樹に(強く)興味がある人
⑥村上春樹を毛嫌い・敬遠している人
⑦最近・最新の作品を少しだけ読んだという人

 

①本自体、ほとんど読まない人
⇒パン屋再襲撃

義務教育が終わって以来本なんて読まないよという人、本を読む習慣自体ほとんど無いという人。

なんてもったいないんだと思いますが、そういう場合いきなりヘビーな長編を読もうとしても、冊子の厚さだけでギブアップしてしまいます。

そんなタイプには、軽く読める短編小説がお勧め。村上春樹の短編がよく合うと思います。

その中でもお勧めしたいのが「パン屋再襲撃」

パン屋再襲撃 (文春文庫)

 

冒頭にある表題作は、短くて簡潔なストーリながら、村上春樹独特の世界観があり、軽く読めるけど何か心に残るという作品です。

コミカルな違和感というか。村上春樹作品は、短編を読んでも中長編を読んでも、同じような読後感が残るように思います。

これを読んで、本って意外に面白いかなと思ってくれてから、他の中編を読んでもらいたい。

 

②ビジネス本や実用書は読むけど、小説をあまり読まない人
⇒海辺のカフカ

ビジネス本はよく読むけど、小説はほとんど読まないという人は意外と多くいます。
小説というものを軽んじていたり、単に時間がもったいないと思っていたり。

そういう人に小説を楽しんでもらうのは意外と難しかったりするのですが、感動して、心が揺れ動く作品を読んでもらいたい。
そんな人にお勧めしたいのが「海辺のカフカ」

海辺のカフカ 全2巻 完結セット (新潮文庫)


本作は、村上春樹作品の中では珍しく15歳の少年が主人公です。
厳密に言うと、15歳の少年カフカ君と、猫と話せる老人ナカタさんの二人が主人公で、この二人のストーリーが間接的に絡み合い、一つの場所に集約していくのですが。

本作以前の作品では、30代くらいの主人公「僕」の心の穴のようなものに素直に共感でき、入り込む、代替可能な「僕」といったものでしたが、
本作では、世界で一番強い15歳たろうとする、少年のあまりのナイーブさが、読む人の心の柔らかいところに触れます。

 

③ミステリ好きな人
⇒羊をめぐる冒険

ミステリ好きな人は、しっかりとしたストーリーを好むのではないかと思います。
そういう人に、ストーリーがあるのか無いのかも分からないような、ふわったとした作品を渡すと、「よく分からなかった」という感想で離れていってしまいます。

よく分からないところに魅力があるんだよ、など言葉で言っても難しい。


そういう人にまずお勧めしたいのが「羊をめぐる冒険」

羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)


本作は、青春三部作(四部作)とか羊三部作(四部作)と呼ばれるものの三作目に当たるのですが、本作から読み始めても支障はありません。

古い友人「鼠」からの手紙をきっかけに、右翼の大物に巻き込まれ、不思議な羊を探す旅に出て、謎を解きながら最終的に再開した鼠の口から聞かされる衝撃の結末。

一見めちゃくちゃな設定のようですが、練られたストーリーと、その背景にある僕と鼠それぞれの心の傷。
チャンドラーの「長いお別れ」を下敷きに書かれたと言われ、ミステリ好きにも楽しんで読んでもらえる作品だと思います。

 

④村上春樹に(少し)興味がある人
⇒世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

村上春樹を特に敬遠しているわけでもないんだけど、まだ読んだこともない。ちょっと興味があるけど、全作読んでやるぞというほどの強い興味でもない。

そんな人には、いきなり最初から、村上春樹の中でも最も優れた、面白い作品を読んでもらいたい。そして村上春樹ワールドに引き込まれてもらいたい。
それはずばり、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」です。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 全2巻 完結セット (新潮文庫)


本作は、比較的初期の作品で、初の長編書き下ろしになりますが、その完成度たるや素晴らしいです。

「僕」と「私」の二つの物語が同時並行的に進んでいき、終盤でその関係性が明かされます。

この作品を読んで、面白くないと言われたら、もうどうしようもないというほど、私にとっては一番の作品です。

 

⑤村上春樹に(強く)興味がある人
⇒風の歌を聴け

村上春樹に強く興味があって、全部読んでいきたいんですが、どんな順番で読むのがいいですか?

そう聞かれると、やはり処女作から読んでいきましょうと答えます。

まずは「風の歌を聴け」をお勧めします。


風の歌を聴け (講談社文庫)

本作は、他の作品とは少し異なり、およそストーリーというものが欠落しているようなところがあります。
彼の心の中にあったもの、書きたいと思ったものを全てキャンパスにぶちまけて出来上がったような。いわゆる普通の小説とは少し異なるため、少し抵抗があるかもしれません。
しかし、後に続いていく作品のまさに原点になろうかと思います。

なお、風の歌を聴け、1973年のピンボール、羊をめぐる冒険の青春三部作を読んだ後、出版時系列的に次の世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドを読むのか、続編に当たるダンス・ダンス・ダンスを読むのか、悩むかもしれません。

私は、やはり時系列に沿って世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドを読んで、ノルウェイの森を読んでから、ダンス・ダンス・ダンスを読むことをお勧めします。
この2つの作品を書き上げたことで、彼の中で心の変化のようなものがあり、全てを失っていった僕に救いを与えるためにダンス・ダンス・ダンスを書かなければいけないと考えたのではないかと思うからです。

 

⑥村上春樹を毛嫌い・敬遠している人
⇒ねじまき鳥クロニクル

村上春樹作品が嫌いだという人がいます。
私が出会ったそのような人の多くは、ノルウェイの森だけを読んで、合わないという結論に至った人でした。

ノルウェイの森は、村上春樹作品の中でもかなり特殊な位置づけになろうかと思います。決して代表作ではないと。
せめて、もう一つ二つの作品を読んでみてほしい。

そんな人にお勧めするのが、「ねじまき鳥クロニクル」です。

ねじまき鳥クロニクル 全3巻 完結セット (新潮文庫)

 

村上春樹の代表作を一つだけ挙げろと言われると、難しいですが、ねじまき鳥クロニクルということになるのかなと考えています。

個人的に一番すきなのは世界の終わりですが、少し他の作品とは毛色の違うところがあるし、羊をめぐる冒険も代表作っぽいけど、三部作の一つだし。

ねじまき鳥クロニクルは、妻が去る、井戸、必要とされる暴力といった、他の作品にも共通して出てくるところが多くあります。

もちろん他とは全く違うところもあり、根源的な悪との対決、去った妻を取り戻すというのは特色があるのですが。

ストーリーがしっかりしていて、比較的結末がクリアという特徴もあるので、ぜひ本作をトライしてみて欲しいです。

 

⑦最近・最新の作品を少しだけ読んだという人
⇒1973年のピンボール

1Q84が話題になりましたから、それだけは読んだという人も多くいると思います。

村上春樹作品は、その長い歴史の中で大分テイストが変わっていったように感じます。
どうも地下鉄サリン事件などの社会的な事件と、作品が大きくヒットしたことによる社会からの干渉が影響しているのではないかと思うのですが、
初期の頃の個人的なテーマに終始した作品から、後期の社会的なテーマを見据えた作品に変わっているように感じます。

最近の作品しか読んだことの無い人は、是非初期の作品を読んでもらいたい。
そんな人にお勧めするのが、「1973年のピンボール」です。

1973年のピンボール (講談社文庫)


私が一番多く繰り返し読んだ作品です。30回くらいは読みました。

この作品の魅力は、上手く言葉にできないのですが、とにかく好きです。

タイトルは大江健三郎の「万延元年のフットボール」(これまた傑作!)のパロディかなと思いますが、内容に影響を受けているかは分かりません。

 

以上、タイプ別のお勧め村上春樹作品でした。

 - 書評

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