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画面デザイン意匠の最近の登録例の紹介

   

2016年に画面デザイン意匠の制度改正がされ、アプリの画面デザインについても意匠で保護ができるようになりました。
(当時の改正内容はこちらの過去記事をご参照ください。)

そしてまた、画像デザイン意匠の、今度はしっかりした法改正が検討されているようです。
(特許庁:意匠制度の見直しの検討課題に対する提案募集について

画面デザイン意匠の制度改正、実務で気にしている人は少ないような感覚ですが、実は結構影響の大きいものです。

これまではアプリの画面デザインという、競争力としては重要なものが、基本は意匠で保護することができませんでした。それが2016年の制度改正により、後からスマホ等にインストールされたアプリについても、意匠で保護されるように変わりました。
しかしそれでも、アプリとして端末に記憶されるプログラムにより表示される画面デザインは保護されるが、SaaS等でネットワークから送信されて端末に表示される画面デザインは保護されないという、実体にはそぐわない中途半端な改正となっていました。

で、今検討している法改正によって、物品に記録されていない画像(クラウド上の画像、ネットワークによって提供される画像など)も保護対象にすることが検討されているわけです。

影響範囲が大きく、新しくアプリやWebサービスを作るときに、いちいち意匠の調査が必要となり負担をかけるという点で、反対意見も多いです(例えば企業法務戦士さんの記事など参照)。しかし、サービスのUI/UXは競争力の源泉として非常に重要なポイントで、かつ今の制度だと中途半端になってしまっているので、一般的なWebサイトのデザインまで保護するかはともかく、物品の機能(アプリ・サービスの機能含む)として提供される画像デザインであれば、それがアプリだろうがSaaSだろうがWebサイトだろうが関係なく、保護されるように改正してほしいなと個人的には思っています。

 

 

ところで、前回の制度改正から2年ほど経ったわけですが、制度改正後の画面デザイン意匠は、どのくらい出願・登録がされていて、どのような権利が発生しているのでしょうか。

新制度の画面デザイン意匠は、物品が「○○機能付き電子計算機」として登録されています。これらを検索して全部ダウンロードしてExcelで一覧にしてみました(さすがにここに全てはアップしないですが、欲しい人はExcelファイル差し上げます)。

意匠は出願してから8か月ほどで登録になって、登録になると登録公報として公開されます。審査中のものは公開されないので、今見ることができるのは登録済みの308件でした。昨年末に出願されたものくらいまでが見ることができるので、出願件数はこの倍くらいはあるかなと思うのですが、それでも意外と少ないなというのが私の感覚です。

 

出願件数ランキングも作ってみました。

1位はヤフー、次いでアップル、三菱電機などですね。なんとなく、もっとアプリを出している企業が上位に来てもおかしくないのですが、一部の企業(画面デザイン意匠って重要じゃないかと考えている企業)に出願が集中しているような気がします。

○○機能として、どのような機能の画面デザインが登録されているかというと、
比較的多かったのは、コミュニケーション機能、メッセージ機能、チャット機能など(アップルやGoogleなど)、
位置情報送信機能、経路案内機能など(ヤフー、ナビタイムなど)
カメラ機能(キヤノン、シャープなど)
ホームメニュー機能(アップル、ドコモなど)
などです。

しかし、わりとユニークな機能が多く登録になっています。資産管理機能とか、ショッピング機能とか、人工知能機能というよく分からないものもありました。

これらの中で、強そうな意匠や、興味深い意匠を数件ピックアップして紹介します。

 

最近の登録例

意匠登録第1602861号

文字採点機能付き電子計算機

学校ネット

本物品は、文字採点機能を有する、タッチパネル式の表示部を備えた電子計算機である。また、本物品は、その他にも、文字出題機能、文字書き取り機能、文字学習機能等の複数の機能を有する。正面図に表された画像は、本物品の機能として、文字採点機能を発揮できる状態にするための操作に用いられる画像であって、表示部のタッチ操作によってユーザーが書き取った漢字等の文字を採点する操作を行うものである。具体的には、最上部に文字の出題が表示され、右上部の枠内にユーザーが書き取った文字が表示され、左上部の枠内に正解の文字が表示され、下部の枠内に文字の説明や書き取り上の注意点その他の関連する情報が表示される。そして、ユーザーは、右部の〇、×をタッチすることで、書き取った文字の採点や評価等を行うことができる。以上の機能により、文字の学習を行うことができる。

まず最初に、うちで出願して登録になった意匠を紹介します。権利者は学校ネットさんという、教育系アプリでトップシェアを取っている企業です。

上の図の実線で描かれているのが権利範囲を定めるもので、下は使用状態を表す参考図です。
下の図を見てもらうと分かりやすいですが、問題文に対して手書きで漢字を書き取り、書き取った字と正解とを見比べて、自己採点をして次の問題に進めるというUIです。

権利範囲としては、それぞれの領域をさだめる区切りの部分と、採点をするための○×などのボタンの部分だけで定義しているので、これと同じようなUIを提供すると意匠権侵害になるという権利範囲です。

もちろん同じような機能を提供するのに他にも様々なUIが考え得るのですが、試行錯誤の結果、一番見やすいUIが出願した内容であり、同じようなアプリを提供するときにはちょっと不便なUIでしか提供できない、という効果ですね。

 

意匠登録第1612932号

表示輝度切り替え機能付き電子計算機

半導体エネルギー研究所

正面図及びアイコンの拡大図に示す画像は、電子計算機を、表示輝度の切り替え機能を発揮できる状態にするための操作に用いられる画像である。

次に、半導体エネルギー研究所という、特許業界では有名な会社さんの出願。

権利範囲は非常にシンプルです。左上のアイコンをタップすることで、表示輝度の切り替えをするというものですね。

アイコンの部分は実線で描かれているので、このアイコンの図案に類似しないと権利範囲には入らないですが、なかなかユニークな取り方です。

 

意匠登録第1613657号

列車乗降支援機能付き電子計算機

三菱電機

この意匠に係る物品は、主に鉄道利用客に対し、鉄道利用客の個人属性や定期区間情報に基づき、列車到着までの残り時間や、乗車を推奨する号車番号等を表示することにより、鉄道利用客にとって効率的な列車乗降を支援する機能を有した電子計算機である。具体的には、意匠登録を受けようとする部分のうち、左方の矩形部分に時間を表示し、右方に配置された列車のイラストで、予約した座席のある号車番号や、到着駅での乗り換えが容易となる号車番号等の表示を行う表示画像である。

三菱電機さんの、列車乗降支援アプリのUIです。

上が権利範囲を定める図で、下は参考図です。

各車両に分割された列車の部分が実線でかかれていますが、確かに列車の乗降支援を図で書こうと思うと、大体こんな感じになるのではないでしょうか。
結構強い意匠権だと思います。

 

意匠登録第1597305号

ホームメニュー機能付き電子計算機

東芝

本物品は、ホームメニュー機能付き電子計算機であり、使用状態を示す参考図に示す通り、電子計算機は、ノートPCと同等の性能を備えたモバイル型の小型PC端末であり、その端末の画像をメガネのグラス部や、グラス部に取り付けたヘッドマウントディスプレイに表示して、主にメンテナンス作業などの作業支援に使用するものである。画像図に表す画像は、本願の意匠に係る物品と一体として用いられる表示機器に表示されるものであり、PDFファイルの閲覧機能、メール機能、カメラ機能、電話機能等の機能を発揮できる状態にする操作に用いられるものである。当該画像は、横に三分割のエリアを設けてアイコンを配しており、各エリアの境界を曲線で表現し、パノラマ形状にすることにより、当該画像が使用者を取り囲むような臨場感を再現し、より直観的な操作を実現している。変化した状態を示す画像図1ないし同4は、上段のアイコンを選択する場合の動きを表しており、変化した状態を示す画像図5ないし同8は、下段のアイコンを選択する場合の動きを表している。

 

東芝さんのホームメニューのUI。

ユニークな点がいくつかあり、まずは、これがヘッドマウントディスプレイで表示されるVRの画面であるという事。一番下の使用状態を示す参考図がそれを表しています。
この曲線表現は、実際にHMDで見た時のものを表しているのかな。

また、こういうホームメニューだと、表示の切り替えによって様々な見た目に代わるので、どこまで実線で書くべきか悩むのですが、この出願の場合は、全て実線で描いた上で、変化した状態を示す図面を複数付けています。

こういう意匠の権利範囲(類似の範囲)はどこまで含むのか、権利侵害場面での判断が難しそうですが、今後の出願の参考になると思います。

 

意匠登録第1600680号

経路案内機能付き電子計算機

ナビタイム

本物品は、電車の経路案内機能を有する電子計算機である。本願意匠は、経路案内に要する出発駅と目的駅を設定するための路線図に係るものである。利用者は、路線の上に配置された駅を示す各種の図形を選択することにより出発駅と目的駅を設定して所望の条件に応じた経路案内を受けることができる。

ナビタイムさんのナビアプリのUI。

実線で路線図をがっつり書いていますが、いや、東京のナビアプリを提供しようと思ったら、大体こんなUIになるでしょう。

これは結構強い意匠なのではないでしょうか。

 

意匠登録第1614029号

野球の実況情報提供機能付き電子計算機

ヤフー(ワイズスポーツ)

本物品は、野球の実況情報提供機能を備えた電子計算機である。正面図に表された画像は、野球の実況情報提供機能を発揮できる状態にするための操作に用いられる画像である。具体的には、正面図に示すとおり、表示部に野球場を模した形状(A領域)が配されており、A領域の上方及びA領域内にコンテンツ情報表示領域が配されている。使用状態を示す参考図に示すように、情報提供装置から提供された情報を受信すると、表示部の野球場を模した形状上に、出塁状況や打球の方向、守備位置等を表示すると共に、コンテンツ情報表示領域にコンテンツ情報(例えば、広告、写真、画像、映像、テキスト)を表示する。また、コンテンツ情報表示領域を指やマウスポインタ等で触れると、表示したコンテンツ情報の詳細情報画面へ遷移する。コンテンツ情報表示領域は、現実の野球場に設置される看板等の位置に基づいて配されているため、使用者があたかも現実の野球場で看板を見るかのように、自然にコンテンツ情報に接することを可能とする。

ヤフー(ワイズスポーツ)の野球観戦アプリのUI。

下の参考図を見たらわかるように、打球がどこに飛んだかや、どの塁に出塁しているかが分かりやすく表示されます。

権利範囲として実線で描かれているのは、グラウンドを俯瞰した基本図のみなので、これも回避がしにくい強い意匠になっていそうです。

 

意匠登録第1600054号

乳幼児の排泄情報管理機能付き電子計算機

ユニ・チャーム

本物品は、画面上のGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)を表示する電子計算機であって、利用者が日々の乳幼児の様子を撮影した写真、乳幼児の排泄の日時やオムツの交換の有無など当該乳幼児の排泄に関する情報を入力することで、これらの写真や排泄に関する情報を管理・表示する機能を備えており、これにより乳幼児の排泄に関する習慣を身に付けること(トイレトレーニング)を支援することができる。「正面図」及び「a-a´,b-b´部分の拡大正面図」に表された画像は当該物品のカメラ機能の操作画面であり、当該物品に備えられたカメラのレンズを被写体に向けるとそこから取り入れられた被写体や情報等が上記操作画面の表示部に写し出される。

ユニ・チャームの乳幼児の排泄情報管理アプリのUI。

機能としてはユニークですが、実際の権利範囲としては、下の方の区切り線だけ?これで取れてしまうのは結構ヤバいような。

 

意匠登録第1610696号

文字入力機能付き電子計算機

ヤフー

本物品は、文字入力機能を備えた電子計算機である。正面図に表された画像は、文字修飾・書式設定機能を発揮できる状態にするための操作に用いられる画像であり、文字修飾・書式設定の各機能の選択肢の数を表すものである。具体的には、A-B部分拡大図に示す通り、各機能の下に選択肢の数に応じた数の円形アイコンが表示され、選択中の選択肢が着色されて表示される。表示部をタップすることで、選択肢を切り替えることができる。

最後に、ヤフーの文字入力機能のUI。

小さくて見にくいですが、権利範囲として実線で描かれているのは、入力した文字の下に表示される黒丸と白丸だけ。この丸が、文字修飾の機能の選択肢の数を表すようです。

確かにUIの機能としてはユニークな感じがしますが、こんな微細な表示だけでも取れてしまいます。

 

 

ざっと紹介しましたが、出願の仕方は各社各様で、それぞれに面白く、また結構に強そうな意匠が登録されています。

まだ日本では画面デザイン意匠の権利侵害訴訟が無いので(無いですよね?)、実際に権利行使をする段階で、これらの画面デザイン意匠の権利範囲(類似範囲)がどこまでと解釈されるのかは、正直よく分かりません。

ただ、今後も保護対象が拡大されそうな画面デザイン意匠、まだ出願件数が多くはないですが、もっと注力してもいい領域ではないかなと感じています。

 

 - 意匠・商標

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