画像を含む意匠・画面デザイン意匠の改正のポイント解説
近年、サービスの差別化のためのUIの重要性はますます高まっているように感じます。
そんな中、画像を含む意匠、あるいは画面デザイン意匠といったり、画像デザイン意匠といったり、呼び方はまだ共通されていませんが、
とにかく、スマホやPC機器の画面に表示される画像の意匠について、改正がされます。
ここでは、「画面デザイン意匠」と呼んでおこうと思います。こんなやつです↓
画面デザイン意匠における「意匠」の概念を拡大させる、つまりは画面デザイン意匠の保護範囲を拡大させる改正です。
今後は、スマホアプリのデザインの一部も、意匠で保護されるようになります。
これは、こだわりのUIを開発しているアプリパブリッシャーにとっては嬉しい反面、新しいアプリを出すときに、他者の意匠権を侵害していないか、しっかりクリアランス調査をしなければいけないという負担も生じます。
制度改正によって、どのような意匠を権利化することができるのか、どのようなアプリ等を出す場合にクリアランス調査が必要なのか、権利範囲はどう考えればいいのか、
といった実務上の指針について、ここでまとめます。
改訂のポイント
なお、今回の制度改正は、法改正ではなく審査基準の改訂によるものなので、改正ではなく、「改訂」と表現しておきます。(記事タイトルのみ分かりやすいように改正にしてます。)
また、特許庁の説明会資料を使用させて頂いています。
さて、今回の改訂の背景がこちら。
簡単に言うと、従来は、画面デザイン意匠が法上の「意匠」たるためには、いわゆる「あらかじめ要件」というものが審査基準で課されており、「物品にあらかじめ記録された画像」(機器の組み込み画像)のみが意匠登録の対象として取り扱われてきました。
この「あらかじめ要件」を撤廃し、「事後的に」物品(PC/スマホ等)に記録された画像も、意匠登録の対象とするというものです。
つまりは、後からダウンロードされインストールされるアプリの画面デザインも、意匠登録の対象にするということ。
「○○機能付き電子計算機」という新しい物品概念が追加されます。
ただし、今後も登録の対象とならないものもあり、
一つは、「外部からの信号等による画像を表示したもの」
これは個人的には突っ込みどころ満載なのですが、つまりは、意匠というものは制度上あくまでも物品に紐づけられたものであるため、「物品に記録された」画像のみが対象になる、物品外の制御により物品の画面に表示される画像は対象外だ、ということです。
その典型的な例は「ウェブサイトの画像」
これは、まあ分かります。つまり、スマホのブラウザ機能を用いて表示されたウェブサイトの画像は、対象外。
あとは、「テレビ番組の画像」
これも、そうでしょうね。
スマホのワンセグ視聴機能を用いてたまたま表示されたテレビ番組の画像で意匠権侵害ってことはないでしょう。
最後に、重要なのが「インターネットを介して使用するソフトウェアの画像(クラウドコンピューティングを含む)」
(クラウドコンピューティングを含む)っていう括弧書きがいかにも特許庁っぽいですが、つまりは、ネットを介してサーバから送られる画像は、今回の意匠登録の対象外ということです。
あくまでも、端末の方に記録された画像でないといけないと。凄く単純化して言うと、ネイティブアプリは保護されるけどWebアプリは保護されない。
これに関しては、気になる点が多いので、後ろのQ&Aの方で詳述します。
そしてもう一つ、対象外となる画像が、「映画等(コンテンツ)を表した画像」
具体的には、映画やゲームの画像です。
コンテンツ自体は意匠ではないと。確かにね。
ここで、具体例として「ゲームの画像」が挙げられていますが、じゃあゲームアプリは画面デザイン意匠を全く気にしなくていいかと言えば、おそらくそんなことはないでしょう。
ゲーム要素を含む、例えばSNSとか文書管理とかスケジューラとか位置・ナビアプリとか、
あるいは、ゲーム中における、音声認識機能の画面とか、ファイル選択の画面とか、
そういうものは、ゲームではなく、それぞれの機能を発揮するための画像と認定されるのではないかと思います。
出願書類(願書と図面)の記載方法
今回の改訂で追加される「ソフトウェアのインストールに基づく電子計算機の付加機能」の画像について出願するときは、物品は、「○○機能付き電子計算機」となります。新しく作られた物品概念です。
こちらの例のように、「はがき作成機能付き電子計算機」とか、「歩数計算機能付き電子計算機」といった形です。
従来、スマホアプリ系の画像は「携帯情報端末」で出願されることが多かったと思いますが、それとの関係もQ&Aのほうで。
この「○○機能」については、経済産業省令で定める物品の区分又はそれと同程度の区分により表される物品の機能と同等の一の機能とすることが必要です。(改訂基準74.2.1(2)、74.7.1.2)
ある程度具体的な機能を指定する必要があり、「決定機能」とか「選択機能」というものはNGのようです。
何かの選択画面であっても、選択機能ではなく、そのアプリ元々の用途である「カメラ機能」とか「経路誘導機能」とかじゃないといけない。
ただし、二以上の付加機能に係る画像である場合は、例えば「経路誘導機能及び音楽再生機能付き電子計算機」のように記載してもOKだそうです。
また、「意匠に係る物品の説明」の欄には、その画像の具体的な用途及び機能についての説明を記載します。
図面は、画像のみでなく、意匠に係る物品全体の形態について、一組の図面が必要です。
正投影図法による6図が原則です。
ほとんどが部分意匠になるでしょうから、正面図以外は破線のみで描き、正面図の画面部分のみを実線で描く感じになろうかと思います。
類否判断
さて、画面デザイン意匠の権利範囲を考える上で重要になるのが、類否判断です。
両意匠の「形態」「物品」「画像の用途と機能」の全てが同一又は類似の場合に、両意匠は類似する(意匠権を侵害する)ことになります。
物品の類比については、これまで使われていた物品と○○機能付き電子計算機とは、機能が相互に類似していれば類似ということになります。
例えば、「音楽再生機」と「音楽再生機能付き電子計算機」とは類似するということになります。
また、「○○機能付き電子計算機」同士については、その機能が類似する場合に物品類似ということになります。○○機能の選び方も重要ということですね。
今後の実務で本当に難しいのは、形態の類否でしょうが、これはある程度事例の積み重ねを待ち、それまでは慎重めに判断するしかないかなと思います。
勝手にQ&A
気になった点について、勝手にQ&A形式でまとめます。
Q:外部からの信号による画像にすれば回避できるの?
A:
前述しましたが、今回新たに保護対象となる画面デザイン意匠は、物品に記録された画像であり、外部サーバから配信された画像は対象外です。
凄くざっくり言うと、ネイティブアプリは保護対象だけど、Webアプリは保護対象じゃないということ。
とはいえ、最近のアプリでネット接続しないものなんて、珍しいのではないでしょうか。
ここで言っているのは、スタンドアローンで実行するアプリの画像でないといけないということではなく、ローカル端末のほうに画像自体が記録されていないといけないということ。(多分)
だから、ネイティブアプリであっても、画像ファイルがサーバのみにあって、サーバからの制御で画像が生成される場合は、保護対象外。(多分)
画像ファイル(特に基本的な構成の部分)が端末に記録されていて、サーバと通信しながら各項目の表示が変わったりする態様の場合は、保護対象内。(多分)
しかし、機能や画像ファイルを端末に持たせるかサーバに持たせるかって、どちらにも出来る、設計事項ではないでしょうか。
最初のダウンロードを軽くするために、サーバ側に機能等を寄せる方向にあるんじゃないかと理解しています。
特許庁の整理では、サーバから配信される画像が一時的に端末のキャッシュに記録される行為も、対象外だそうです。
そうすると、今回例に挙がっているような、カレンダー機能とかナビゲーション機能とか万歩計機能とか、
いずれも、端末側に記録させなければ、意匠権侵害を回避できることになります。
本当にそれでいいのかな?という気はするし、
今回の基準はあくまでも特許庁側が勝手に作った審査基準(法的根拠なし)なので、裁判所がどう判断するか、予断を持つことはできません。
やはり、実際にローンチするアプリが「外部からの信号による画像」だとしても、特徴的なUIであれば意匠登録出願をしておいたほうがいいし、
同じように、他者の意匠権についてはクリアランス調査をする必要があるんじゃないかな、と思います。
Q:○○機能はどう選べばいい?
A:
これも前述したとおり、「○○機能」については、経済産業省令で定める物品の区分又はそれと同程度の区分により表される物品の機能と同等の一の機能とすることが必要です。
ただし、この機能が非類似であれば、物品が非類似と判断されてしまいます。
そういう意味では、できるだけ広く機能を書きたいけども、包括的すぎると拒絶されてしまいます。
また、様々なアプリに適用することができる画像(例えば音楽再生機能の曲の選択画面にも使えるし、ナビ機能の目的地の選択にも使える)であっても、これを包括的に記載することはできません。
工夫の余地はあるのかもしれませんが、典型的な○○機能のうち、最も適当なものを一つ選ぶしかないのかな、と思っています。
また、複数の機能が組み合わされている画面(例えば、ナビを見ながら音楽が聞ける画面とか、地図上にお店口コミを表示する画面とか)の場合は、複数の機能を並列に記載することも出来るし、主たる機能のほうだけを記載することもできます。
この場合、どちらのほうが類似の範囲が広いかというと、、どっちなんでしょう。すみません、分からない。
でも多分、主たる機能を1つだけ記載するほうがいいんじゃないかと思います。たぶん。
Q:アプリのアイコンも意匠になるの?
A:
実際、アプリアイコンを意匠登録出願している例も見られますが、今回の改正により、アプリのアイコン画像なども「○○機能付き電子計算機」の物品で登録になるようです。
例えば、音楽再生アプリのアイコンであれば、「音楽再生機能付き電子計算機」を物品として、意匠登録を受けることができます。
Q:4/1まで出願を待つべき?
A:
今回の改訂基準が適用されるのは、2016/4/1以降の出願からです。
じゃあ、アプリの画面デザイン意匠を今出願したいんだけど、4/1まで待たないといけないの? というと、それは疑問です。
審査基準には法的根拠がないため、法改正のような明確な適用基準日はないはずで、法律の理解の仕方を変えるだけのようなもの、遡及されて適用されるんじゃないかと思います。
そうすると、行儀よく4/1まで待ってないといけないこともないようには思うのですが、でも、まあ。待った方がいいんでしょうね。
3月にローンチするアプリのUIを保護したいんだ、というと、従来どおり、携帯情報端末の物品で出願するしかないのかな。
その場合の効力については、次の項目で。
Q:過去の「携帯情報端末」での出願の権利効力は?
A:
今回の改正で、物品にあらかじめ記録された画像でない、後から記録される画像についても保護対象となったわけですが、
実際は、すでに多くの画面デザイン意匠が出願されています。
その中には、どうみてもこれは後からインストールするアプリの画面じゃないか?というものも多数あります。
それら登録されている意匠の効力は、どうなっているのか。
つまり、建前上は、あらかじめ物品に記録されている、出荷時からスマホに組み込まれている機能の画像ですよ、ということでしょうけど、それと、後からインストールされるアプリの画像とが類似する場合に、侵害となるのか。
特許庁的には、それは(制度改正前に出願されたものは)侵害じゃない、ということにしたいと思いますが、やはり裁判所がどう判断するかは分かりません。
今回、法律は変わっていないのです。あくまでも、法律を特許庁がどう理解して審査を運用するかという、法的根拠のない審査基準が変わっただけ。
そうすると、4/1以前に出願された画面デザイン意匠についても、形態が類似しないように、クリアランス調査の対象に加えるほうがいいのかな、と思っています。
実質的には遡及的に画面デザイン意匠の保護範囲が拡大したと捉えてもいいのではないでしょうか。早く出していた者勝ち。
今回の制度改正は、影響の大きなものなのに、法改正が出来なかったからといって審査基準改訂で済ましてしまったせいで、余計な歪みが生じるんじゃないかと、個人的には不満です。
以上、個人的な理解も含めたまとめです。
気になる点やご指摘がありましたら、コメントください。
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