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商標法 超入門 (ベンチャー経営者向け)

   

大学の講義で、商標法の入門資料を作ったので、せっかくだからこちらでも記事としてまとめてアップしておきます。

ベンチャー・中小企業の経営者向けをイメージして、ビジネスで重要なポイントだけを分かりやすくまとめてます。なので、法律的には不正確な表現もあります。

商標法とは

商標法とはどういう制度かというのを、一言でかみ砕いて説明すると、
自社の製品と他社の製品とを区別するためのマーク(商品名や、サービス名などのブランドであって、これ即ち商標)を保護するための制度です。

 

商標によって、まず一つには、
①他社による商標の模倣・不正使用を防ぐ
ことができます。

これによって、海賊版などを差し止め、ブランディングを推し進めることができるわけです。

 

そして、もう一つの重要な効果として、
②自社の商標使用を確保する
というポイントもあります。

 

商標権の効果

まずは、商標権の効果、つまり商標権を取得することで何が主張できるかを見てみましょう。

商標権の効力は商標法25条に、下記のように規定されています。

(商標権の効力)
第二十五条  商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標使用をする権利を専有する。

 

商標のありがちな誤解が、商標登録された言葉をどのような場面でも独占できる、というものです。

ちょっと前のニュースで、バンダイが「必殺技」という商標を出願していて、ユーザーから非難の声が上がっているというニュースがありました。非難の声というのは、「必殺技」で商標を取ると、他の誰も「必殺技」という言葉を使えなくなるじゃないか、というもの。まさに典型的な誤解です。

商標法は、決して言葉を全て独占できるようなものではありません。

 

上記の条文にあるとおり、商標権というのは、
・登録された商標(とそれに類似する商標)を、
・指定商品・役務(とそれに類似する範囲)に、
・使用する行為
を独占するものです。

それでは、商標とは??指定商品・役務とは??商標の使用とは??
という点を順番に見ていきましょう。

 

商標とは

商標とは何か。

簡単に言うと、
文字や図形や記号、またはそれらの結合であって、
業として商品または役務に使用をするものです。

つまり、文字や図形などのマークは、業として使用しなければ単なるマーク(標章)であって、それを業として商品やサービスに使用してはじめて「商標」に昇華するという構造です。

 

商標にはいくつか種類があります。

ざっと種類を上げると、文字商標、図形商標、記号商標、立体商標、結合商標、動きの商標、色彩のみの商標、位置の商標、ホログラムの商標、音の商標。

ただ、実際に出願するものは、ブランドを文字のみで出願する文字商標か、ロゴとして出願するロゴの商標がほとんどです。

例えば、有名なナイキブランドの場合、
NIKEという文字での出願、ロゴ図形での出願、文字と図形の結合としてのロゴ出願の3通りで出願されています。

TM_DISPLAY_A (1)TM_DISPLAY_A (2) TM_DISPLAY_A

登録商標に類似する範囲まで商標権は及ぶので、取れるなら、文字だけの商標で出願しておくのが良いです。
文字だけでは取りにくい場合は図形と組み合わせてロゴの商標で出願したり、実際の使用態様に近い形で出願する感じになります。

 

指定商品・役務とは

続いて、指定標品・役務ですが、これを説明する前に、まずは商標権の構成について理解してもらいます。

商標権の構成

商標権は、「商標」と「その商標を使用する商品・サービス」でワンセットです。

上で説明したとおり、業として使用してはじめて商標ですからね。出願をするときに、その商標をどのような商品やサービスでの保護を求めるかということを指定するのです。

つまり、商標を使用すれば全ての分野で商標権侵害になるのではなく、指定された商品と役務(サービス)に類似する範囲内でのみ商標権侵害となります。

その、指定された商品と役務のことを、「指定商品・役務」と言います。

指定商品・役務

指定商品・役務は、上の表のように、1類から45類までの45個の区分に分かれています。

1類から34類までが指定商品の区分で、35類から45類までが指定役務の区分。出願するときには、ここからいくつかの区分を選んで、さらにその区分に含まれる具体的な指定商品・役務を記載することになります。

 

この指定する区分の数が多いほど、多額の料金が発生します。また、出願だけしておいても、実際にその区分での使用実績が全くなければ、将来的に不使用を理由として取り消しされることもあります。

したがって、どの指定商品・役務を指定して出願するか、というのが重要なポイントとなりますし、
他社の商標権侵害を回避するうえでも、どのような指定商品・役務で権利化がされているかをしっかり把握することが重要ですね。

 

商標の使用とは

最後に、商標の使用とは何かについて説明します。

形式的には、商品に商標を付して販売したり、商標を表示させて役務を提供することが商標の使用です。

なんだ、簡単じゃないかと言いたくなりますが、実は実質的な商標の使用を判断するには、商標の有する機能を理解する必要があります。

 

これを理解するのに分かりやすい裁判例からご紹介しましょう。その名も「巨峰事件」。

商標権者は、指定商品「包装容器」について、商標「巨峰」という権利を有していました。

そして、ある巨峰屋さんが、商品の巨峰を売るために、巨峰を梱包した段ボールに「巨峰」という文字を表示させていました。

これって、形式的に見ると、包装容器たる段ボールに、商標「巨峰」を表示させているので、指定商品「包装容器」についての商標「巨峰」の使用に当たりますよね。ということで商標権侵害だと訴えられたのですが、さすがにこれを侵害とするのはまずいでしょう。だって巨峰屋さんは巨峰を売るのに巨峰と書いているだけなんだから。

 

このような事例を商標権侵害としないために、商品の出所を示すための機能(出所表示機能)を発揮しないような使用は、形式的には商標の使用であっても、実質的には商標の使用に当たらない、つまり商標権侵害にはならないように定められています。

この場合に「巨峰」という文字を表示させているのは、内容物が巨峰であることを説明するためのものであって、段ボールの出所(製造・販売元)を示すためのものではない、つまり商標としての使用ではない、ということです。

 

形式的には商標の使用であったとしても、出所表示機能を発揮しない使い方であったり、商品の性質などを普通に表示するだけの使い方であれば、それは商標権侵害にはなりません。

そういう意味で、「商標の使用」というのは実は結構に奥深い論点だったりします。

 

 

ここまでをもう一度まとめると、
「登録商標」を「指定商品・役務」について「使用する」権利を独占するのが、商標権です。

また、指定商品役務や登録商標は、そのものズバリでなくても、それに類似する範囲で権利が及びます。

 

出願をするときには、類似範囲も考えながら、
・商標を文字にするのかロゴにするのか、
・指定商品・役務をどの範囲にするのか、
ということを検討して出願書類を作成します。

 

出願から5か月ほどで審査結果が通知され、登録されたり拒絶されたりします。

それでは続いて、どのような商標なら登録されるのか、逆に言うと、どんな商標は登録を受けることが出来ないかを見ていきましょう。

 

商標登録を受けることができない商標

商標登録を受けることができない商標には、いくつか理由がありますが、代表的なものを2つ挙げると、
①識別力の無い商標
②他人の登録商標や周知商標等と紛らわしい商標
の2つです。

①識別力の無い商標

商標というのは、自分の商品と他人の商品とを区別させて、出所を示すためのものです。

そうすると、識別力の無いような、特徴の無い商標を登録させるわけにはいきませんよね。

 

例えば、商品・役務の普通名称

指定商品「コンピュータ」において商標「パソコン」というのは、普通名称であって、これを商標として用いても識別力はありませんから、商標登録を受けることはできません。

なお、ここで重要なのは、その商標が普通名称か否かは、指定商品・役務との関係で決まるということです。

例えば、指定商品「りんご」について商標「アップル」は普通名称ですが、指定商品「コンピュータ」においては商標「アップル」は十分識別力がありますよね。だから、その言葉が一般的に使われる言葉かどうかではなく、あくまでもその指定商品・役務との関係で普通名称であるものは、識別力が無いという判断になります。

 

あるいは、商品の品質を説明する表示

例えば、指定商品「肉製品」において商標「炭焼き」は、その肉製品が炭焼きであるという品質を説明する記述であって、識別力はありません。

 

そのほかにも、ありふれた氏・名称や、きわめて簡単かつありふれたものは、識別力が無いとされます。

ただしこれには例外があって、その商標を使用した結果有名になって、識別力を獲得した場合は、商標登録を受けることができます。

例えば「SUZUKI」はありふれた氏のアルファベット表記ではありますが、使用された結果、著名なブランド名なったので、商標登録を受けることができています。

 

新しいサービス名を考える時は、あまりにシンプルな名前だったり、その分野における普通の名前だと、識別力が無いとして商標が取れない可能性があります。また、ブランディングの観点からも、ある程度独自性のある名前のほうがいいですよね。

 

②他人の登録商標や周知商標等と紛らわしい商標

もう一つ、商標登録を受けることが出来ないのは、先に登録されている他人の商標や、登録されていなくても非常に有名な他人の商標と紛らわしい商標。

商標は出所を示すためのものなので、紛らわしい商標が2つあったら、どっちが誰のものか分からなくなるから、当然ですよね。

 

逆に言うと、先に商標を出願して登録しておくことで、後から他の人が出願しても商標権を取らせなくすることができるということです。基本的には商標は早いもの勝ちなのです。

他人に商標を取らせないことで、自分の使用を確保する。そうしないと、後から他人に商標を取られてしまうリスクがあります。

 

さて、この、他人の商標と紛らわしいかどうかは、「商標」が類似しているか否かと、「指定商品・役務」が類似しているか否かの2つで判断されます。権利侵害の有無の判断と大体同じですね。

ただ、この商標が類似しているか否かの判断が、実は非常に難しいのです。

商標の類似は、称呼(読み方)・外観(見た目)・観念(言葉の意味)の3つの観点から総合的に判断されます。

 

例えば、「BARICAR」と「バルカー」は称呼が類似するから類似。
「ふぐの子」と「子ふぐ」は観念が類似するから類似。
「天使のスィーツ」と「エンゼルスィーツ」は観念が類似するから類似。

また、「スーパーライオン」と「ライオン」は類似。「ピンクレディ」と「レディ」も類似。ただし、「ワイキキパール」と「パール」は非類似。

「ミギオン」と「ミチオン」は類似。ただし「コザック」と「コダック」は非類似。

「バルケン」と「バルカン」は類似。ただし「ソンテックス」と「シンテックス」は非類似。

うーん、難しいですね。

 

ビジネス実務で重要な事

さて、ここまでの説明を踏まえて、事業をやる上で重要なことは2つ。

①サービス名・ブランド名を決める前に商標調査をすることと、

②サービス名・ブランド名を決めて、それを使い続けるなら、商標出願をしておくこと。

 

商標調査はしっかりしておかないと、うっかり他人の商標権を侵害してしまいます。

そして、調査した結果使えるということであれば、そのブランドを大切に育てるためにも、つまり他人に模倣されずに自分の実施を確保するために、商標出願をすることが重要です。

それらを怠ったことによるトラブル事例を、最後にいくつか紹介しましょう。

 

「小説家になろう」セミナー事件

これはちょっと可哀想な事件なのですが、「小説家になろう」というタイトルで10年以上セミナーを実施していた会社がありました。

しかし、それを商標出願していなかったため、別の会社が「小説家になろう」という商標を取ってしまい、セミナーを実施していた会社に権利行使しました。

その結果、長年使い続けていたセミナータイトルを変えることを余儀なくされたわけです。

 

セミナーやイベントの名前も、立派な商標です。

これを使い続けて、ブランディングをするためには、商標を取得しておかないと、せっかく名前が育ったところで権利行使されて、名前の変更をしなければならないリスクがあります。

 

堂島ロール、モンシュシュ事件

堂島ロールという有名なロールケーキを販売している株式会社モンシュシュという会社がありました。

商品名である「堂島ロール」については、しっかり商標を取得しています。しかし、商品のロールケーキには、商品名の「堂島ロール」に加えて、「Mon Chouchou」という表示もされていました。これは社名ではあるのですが、商標としての使用にも当たります。

そして、「モンシュシュ」という商標を有する会社は別にあったため、その商標権者から訴えられ、多額の損害賠償を支払うとと共に、今後は「Mon Chouchou」という表示をすることができなくなったため、仕方なく、社名を株式会社モンシュールに変更することになりました。

 

一つの教訓としては、社名も商標のように使うのであれば、商標を取得する必要があるし、侵害しないように調査もする必要があるということ。

しかし細かい話をすると、実は、株式会社モンシュシュは「モンシュシュ」という商標を、指定役務「飲食物の提供」について取得していたのです。しかし、この役務とは別に指定商品「菓子」というものがあり、上記の商標権者はこの指定商品「菓子」についてモンシュシュの商標を保有していたのです。

つまり、株式会社モンシュシュは、飲食物の提供という役務提供と同時に、菓子という商品の販売もしているので、この両方の指定商品・役務を押さえていないといけなかったのですね。

適切な指定商品・役務を把握するのは結構難しいのです。

 

ロッテリア 黒七味事件

ロッテリアが、新しいメニューの提供に当たって「黒七味風味」という名前を使いましたが、実はこの「黒七味」という名前は、商標登録がされていたのです。

それで商標権者が怒ってクレームして、ロッテリアはすぐに新メニューを取り下げ謝罪しました。

新しい名前を使う時は、商標調査をしておかないと、うっかり商標権侵害をしてしまうという典型例です。

 

知らずにボクササイズ事件

実は「ボクササイズ」という言葉も、商標登録されています。

ある市のイベントでこの言葉を使ったところ、商標権者からクレームがつき、損害賠償を支払ったとのこと。

一見、一般名称のようなものでも、実は商標登録されていたということもあります。

 

アイホン株式会社 iPhone事件

最後は、トラブル事例ではなくラッキー事件。

アップルが日本でiPhoneを販売するために商標を取ろうと思ったら、実は「アイホン株式会社」というインターフォン分野の老舗企業が、指定商品「携帯電話」について「アイホン」という商標をすでに押さえていました。アイホンとiPhoneは類似するため、アップルはiPhoneの商標を取得することができないし、そのまま使えばアイホン株式会社の商標権を侵害してしまいます。

仕方ないので、交渉の結果、アップルはアイホン株式会社からライセンスを受け、年間1億円以上のライセンス料を支払っているそうです。

良い商標を持っていると、こんなラッキーなことが起こる可能性もあるんですね。

 

 

さて、以上のように、新しいサービスを始める時には、他人の商標権を侵害しないブランドかどうかを調査して、しっかり商標を取得しておくことがとても重要です。

新しいWebページを作成するときにはまずドメインを取得するというのと同じような感覚で、新しいサービスを立ち上げるときはまず商標を取得する、と考えておきましょう。

以上、商標法 超入門でした。

 - 意匠・商標

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