商標的観点から考えるネーミングのコツ
これまで色々と商標の仕事をやってきて、良いネーミングにもそうでもないネーミングにも出会って、商標も取れたり取れなかったりして、事故に遭遇したり良いブランドに育っていったりするのも見ている中で、
なんとなく自分の中で商標的観点からのネーミングのコツのようなものが出来てきた気がするので、ちょっと体系的にまとめて言語化してみました。
これからネーミング考えようという人の参考になればと思います。
※IT系の業種に特化してやってるので、Webサービス名とかに寄ってるところもあると思います。
※商標的観点と言ってますが、法的な言葉は使わずに分かりやすさ優先で書いてます。
ネーミング⇒ブランディングの重要性
ネーミングって重要だよね、という話は、今さら語ることもないので割愛します。
ただ、特にネーミングについては後戻りが出来ないという点と、長期的なブランディングが重要だという点は強調しておきたいです。
スタートアップとお仕事していると、既にサービス名や社名を決めてやっていて、この名前で商標を取りたいと相談を受けて調べると、他社に取られていて、もうどうしようもない状態になってしまっているというのがよくあります。
ネーミングは、ただ決めるだけではなく、商標的にOKなものにしたうえで、少なくとも日本では商標を取っておかないといけない。
また、短期的には分かりやすいネーミングにしておけばよくても、長期的なブランディングを考えると、(日本だけでなく各国で)商標が取りやすい言葉にしておくことも重要。
商標が取りやすいかどうかという観点も含めて、経験則的なネーミングのコツを、要件としてまとめます。
ネーミングの要件
良いネーミングの要件3つ
①意味が伝わる・サービスの特徴やビジョンを表している
当たり前ですが、重要です。覚えやすいという要件も別途ありますが、これに吸収されるんじゃないかと思います。
②検索されやすさ(ググらビリティ)
ありふれた単語や、短すぎたり、同じ名前が既にあったりと、そのワードで検索しても上位にヒットしにくい名前は、避けたほうがいいですよね。
③商標の取りやすさ
よくここが抜けがち。商標の取りやすさですが、大きく分けるとさらに2つの要件があります。
③-1 造語であること
③-2 音数が短すぎないこと
(法的には、識別力があることと、類似の先行登録商標が無いことですが、これを実践しようとすると上記2つになると考えています)
まず、造語であること。これによって、識別力も出やすいし、類似の商標が存在する可能性も下がります。要件②(検索されやすさ)もこれにすることで満たされる可能性がぐんと高まります。もちろん、わけの分からん造語だと要件①(意味が伝わる)を満たさなくなるので、この点を考える必要があります。
造語と言っても、全く新しい言葉ではなく、既存の言葉のもじりであったり、2以上の言葉の独自の組み合わせも含みます。
ついで、音数が短すぎないこと。理想的には4音以上。これによって、類似の商標が存在する可能性がぐんと下がります。
※4音以上という発想、Treruの土野さんの受け売りです。
※類似商標の有無は、調べれば分かるじゃんという意見もありますが、海外商標を考えた時に、初期の段階で全ての国の手当てはできないので、個別に取れるかどうかよりも、取りやすいかどうかが結構重要かと思います。
あんまり良くない例
逆に、あんまり良くない例
既存の単語そのまま
辞書で調べてかっこいい単語をそのまま付けました、みたいな名前だと、商標取りにくいし、ググらビリティも低いので、あんまり良くないです。
ただし、既存の単語であっても、この商品にこの名前という組み合わせは普通思いつかないというものは、無しではないです。(AppleとかAmazonとか)
でも、著名性を獲得するまではググらビリティ低いので、基本的にはお勧めしません。
サービス・製品の性質そのまま
これは結構ありがち。要件①(意味が伝わる)は満たすものの、識別力が出ないので商標が取りにくく、おススメ出来ないです。ブランディングもしにくいと思う。
極端な例をあげると、データをエキスポートするツールに対して、「データエキスポーター」とか。
最近ニュースにあったのだと、「サラダチキン」とか。
(一次ソースに当たってないのでメディア受け売りですが、一般的な名前過ぎて商標取れず、競争に巻き込まれてしまっているそうな)
※ただし、一時的な売上が重要で検索ワードがとにかく重要なアプリ(長期のブランディング不要のもの)とかだと、それでもいいのかも。
2音以内のシンプルすぎる語
商標取りにくいし、識別力も出にくいので、おススメできないです。
意味が分からない語
そういうネーミングする人はあんまりいないと思うけど、当然おすすめできないです。
要するに
上記のことをまとめると、
「なんとなく意味が分かる4音以上の造語」
というのが基本的な要件かと思います。
良い例
それぞれの由来とか意味とかは、調べればすぐに出てくるし、長くなるのでここには書きませんが、良いなーと思うネーミングの例を列挙します。
大体のものが、「なんとなく意味が分かる4音以上の造語」になってるかと思います。
・Facebook
・Twitter
・Slack
・アスクル
・Google
・Netflix
・Wikipedia
・Skype
・YouTube
・Instagram
・MoneyForward
・ビザスク
・ビズリーチ
基本的には、サービスの特徴を表す言葉のもじりか、2語をひねって組み合わせたもの、がいいんじゃないかと思っています。
その他
また、流行りそうな言葉というのもあって、それは純粋な早い者勝ちになります。
例えば、〇〇Techとか、いろいろ出てきてますよね。FinTechとか、リーガルテックとか。さすがに広く認知され過ぎているものは、欲しいところでは誰も取れてないものも多いですが、認知される前なら取ることができます。リーガルテックは複数社で持ち持ちになってるし。うちも、知財業界(IP)のTechということでIPTechという商標取ってます。この辺は、早い者勝ち。
あとは、〇〇coinもそうですね。仮想通貨が流行って、各社がそれぞれの仮想通貨に何とかcoinの名前つけているので、〇〇coinの商標は最近大量に出願されています。これも人気が出そうなところは早い者勝ち。
少し前だと、スマート〇〇ですね。これも、主要どころは取られているので、今からスマート〇〇の商標とるのは大変。
最後に ネーミングの壁打ち相手やります
商標的観点から考えるネーミングのコツとして、まとめると、「なんとなく意味が分かる4音以上の造語」がいいよってことです。
また、単なる形式的なコツではあく、「短期的なネーミングではなく、ちゃんと商標取ってブランドとして育てる」という考え方のほうが重要なことかも。
これまで弁理士として仕事していて、大体はクライアントの方がネーミングを考えて(あるいは先に使っていて)、「これって商標取れますか?」に対して、
「取れます、取れません」あるいは「こういう風にしたら取れるかも」という感じで受け身で動いていたのですが、
やっぱりもっと能動的に、最初にネーミング案を考える段階から入り込んだほうがいいのかな、と思い始めてきました。
なので、「ネーミングの壁打ち相手・ブレスト参加」をサービスメニューに加えようかと思います。
基本はオンラインで。そのうち料金決めますが、最初はテストしたいので、何回か無償でやってみようと思います。
興味ある人、個別にご連絡くださいー。
ネーミングをばしっと決めてあげるというサービスではなく、あくまでも壁打ち相手くらいのイメージです。
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