katax × IPFbiz ~企業法務のキャリアについて考える~
2015/02/22
対談シリーズ第7回目は、「企業法務について」のkataxさんです。
以前に対談頂いた伊藤先生から、企業法務について長くブログを書いているkataxさんと対談するといいよと言って紹介いただきました。10年以上企業法務に関するブログを書き続けているkataxさんは、企業法務の専門家として多くの企業を歴任してきてもいます。
企業法務としての働き方や転職、ブログや出版等の活動、契約法務ノウハウの承継などについてなどをお伺いしました。
これまでのキャリア
安高:kataxさん、よろしくお願いします。kataxさんは多くの企業を遍歴されてきたと思いますが、まずはこれまでのキャリアについて教えていただけますか。
katax:大学を出て、最初は司法試験の勉強をしていたのですが、それを辞めて、1社目はいわゆるシステム子会社に経営企画兼務の法務として入りました。今までの蓄積をムダにしないという意味で、法務が出来たらどこでも良かったのですが、なかなか経験者しか取ってくれないところが多くて。
安高:新卒の就職タイミングを逃すと、ちょっと大変になりますよね。
katax:その企業は未経験でもいいよと言ってくれて入ったのですが、業務内容としては定型的な契約だとか、雛形を直したりだとか。やっぱりシステム子会社なので法務の幅も広くないんですね。業績も先細り感があって、このままじゃ駄目だなと思っていたところでスカウトメールを頂いたことがきっかけで、3年くらいで転職をしました。
転職先は、ちょうど企業再編で法務も自前で持つということで募集をしていたところです。
安高:新しい法務組織だと、楽しそうですね。
katax:ええ、自分以外は法務未経験の人たちで、新しく作った法務部の組織化をどうするかなど、楽しかったですね。BtoCの事業なので多種多様な問題も発生しますし、新しいサービスも立ち上がるので法務の面白い問題はあって。
でも、いかんせん、業績の方が落ち込んでいっちゃって。
安高:それで2回目の転職ですね。
katax:まだ20代後半でしたし、どこでもいけるのかなと甘く考えていました。転職なんてちょろいぜと。それで今度はベンチャー企業に入りました。
携帯電話に組み込むソフトウェアを作っている会社です。
安高:キャリアや機種に共通するシステムを握るのは事業として強そうですね。
katax:それが、悪魔のスマートフォン時代ですよ(笑
私が転職した翌年くらいから利益がすごく落ち始めて。経営がヤバい状態になりました。文字通りにヤバい。脱出するように次の会社に移りました。
安高:これはちょっと仕方ない。それで3回目の転職、4社目ですね。
katax:ええ、次はWebのインテグレータの企業です。ある程度大きな所です。もう潰れないように(笑
ここには長く勤めようと思ったんですよ。妻からもそう言われたし、私は本当に転職が好きなわけではないんですよね。それなのに、3年位勤めたところで友人から今の勤務先を紹介されて。法務を募集しているよと。
凄く悩んだのですが、とは言えこのチャンスは逃したくないと思って面接を受けました。
内定をもらった後に、妻から大反対をされて、許さんと。ひと悶着あったのですが、なんとか説得して、今の会社に転職したという流れです。
転職について
安高:それで今の会社が5社目ですね。ブログにも書かれていましたが、本当に3年に1回ペースで転職されているんですね。私もあんまり人のことは言えないのですが(笑
katax:いや、私は何度も転職を重ねるのは良くないと思っているんですよ。これは本当に。直近の1回を除けば、どちらかというと会社業績の関係で迫られて仕方なく転職しているんです。
安高:確かにそうですね。そんな転職経験豊かなkataxさんから、今転職を考えている若者たちにアドバイスなどありますか?
katax:一番は、30を過ぎたら応募できる案件が少なくなるぞ、ということですね。20代で実務経験があれば、引く手あまたなんですよ。でも30を過ぎてくるとそうはいかない。募集案件事態が少なくなってくるうえに、マネージャーの経験があるとか、英語が凄くできるとか、何かしら+αの要件がないとバンバン落とされちゃいます。
安高:そっか、私も今の企業が3社目なのですが、もう30を過ぎたし、次の転職は難しいですね(笑
katax:もちろん無いわけじゃないと思いますよ。でも希望年収に合う案件が見つかりにくくなります。
安高:それはやっぱりkataxさんの実経験ですか。
katax:ええ、3回目の転職のときに、落ちまくって。あれはショックでしたね。自分の市場価値はその程度だったのかと。
安高:じゃあこれからは今の会社に腰を据えようという思いですか?
katax:常にそうです!(笑
色んな経験をしたいなら、20代までですね。
安高:なるほど、でも今の会社に移ったのは、転職の必要性に迫られたというよりは、ご自分の選択ですよね。チャンスを逃したくないということでしたけど、もっと具体的な理由はあるんですか?
katax:うーん、やっぱり本質的には、新しいことが大好きなんですよね。転職は軽々しくすべきじゃないと思っているけど、転職によって環境が変わるのは嫌いじゃない。環境を変える気持ちよさってありますよね。
安高:それはちょっと分かります(笑
katax:もちろんそれだけじゃなくて、今の会社は利益もちゃんと出てて、BtoCで、新規事業もどんどん出てきているし。あとは紹介されたというのも大きいですね。買ってくれた人がいたんだから、それに応えたいという気持ちがありました。
でもやっぱり、そこにボタンがあると押したくなるというか、伏せたカードが置かれていたらめくりたくなるというか、そういう性分はあるんだと思います。
企業法務としての働き方
安高:kataxさんは長いこと企業法務を専門にやられてきて、そこにこだわりのようなものはありますか?
katax:こだわりはあんまり無いですね。今までずっと企業法務を続けてきたのは、自分が一番バリューを出せるのが企業法務だと思っているからです。でも本当は企業法務にこだわらずにやっていけないといけない。法曹資格も無いし、そこにこだわるのはキャリアとして得策ではないですよね。
安高:企業の中で法務をするのに、法曹資格はあったほうがいいですか?
katax:自分が採用する側だったら、そっちを選びますよね。昔はインハウスの弁護士といっても腰かけみたいな人が多かったけど、最近はそうじゃない。会社員として働きたいと、積極的にインハウスをやりたいという人が増えてきています。そういう若い人が出てきている中で自分の価値を考えないといけない。
安高:企業の中での法務なら、もちろん弁護士さんの知識は凄いですけど、実務の経験に勝るものはないようにも思いますけどね。
katax:いや、経験の多さが等差級数的に価値を生むのは、限界がありますよ。いつか頭打ちになります。だから「経験」のような抽象的なものに頼るのではなく、もっと具体的に自分が何をできるのか考えないと、将来どうなっているか分からないですよ。
安高:kataxさんはストイックですね!意識が高いというか。
katax:意識が高いことなんてないですよ。
安高:いや、意識というか、危機意識っていうんですかね。
katax:それはおっさんになるとそうなりますよ(笑) でも転職によって自分の客観的な価値っていうのを見せられたからかもしれないですね。気づきにはなりましたよ。
ブログについて
安高:話は変わりますが、ブログはもうかなり長いこと続けられていますよね。
katax:10年強くらいかな。古いのは古いんだけど、企業法務戦士さんや、企業法務マンサバイバルみたいな、突き詰め感はない、雑多な内容が多いですよ。
安高:いやいや、文章が面白くて私は好きです。ブログを始めたきっかけは?
katax:1社目の頃でしたけど、自由になる時間がふんだんにあったんですよね。で、仕事をしながら新しい学びや発見があったときに、備忘録として記録していました。その頃はブログではなくて、HTMLに直打ちして、テキストサイトみたいなものですよ。
その中に、雑記として日記みたいなことも書いていました。
安高:テキストサイトというと、昔のいわゆるホームページみたいなものですよね。テキストだけの。HTML直打ちでやっていたんですね。
katax:ええ、ちょうどその頃からブログというものが出てきて、Weblogからブログに名前が変わるころですかね。そうか、世の中にはブログというシステムがあって、簡単に書けるじゃないかと。で、ブログに置き換えて、当時の雑記の部分だけが残った感じです。
安高:なるほど、それで10年以上続いているのが凄いですね。
katax:途中で2回くらい、辞めますと宣言して、すぐに復活したりしましたよ。若かったんですね(笑
安高:辞める宣言の理由は?
katax:うーん、ずっと雑記みたいなことを書いていても、書く意味が無いんじゃないかと思って。ここはもう辞めて、他の所で法務のことだけを書こうかと思ったりしたんですが。でも他の場所でやる意味もないなと思って。今の場所で、出来るだけ法務寄りのことを書こうとしています。
安高:書く内容というか、コンセプトや方針は悩みますよね。それも10年も続けられたらより一層だろうと思います。10年以上ブログを続けてきて良かったことはありますか?
katax:やっぱり知り合いが増えること、というより、知ってもらえることですかね。あのブログを書いてる人だと知ってもらえると、それをきっかけに自分の得意分野を分かってもらえるし。そういう中で本を書いたりということもありましたし。
出版について
安高:本を書いた話、ぜひ聞かせてください。
katax:アプリでの電子書籍と、紙の本の出版とがあるのですが。
電子書籍の方は、iPhoneアプリを作っている中で、少し流行りそうな気配が出てきた電子書籍もやってみようと思って、ブログを書いている4人に突撃しました。
安高:kataxさんは法務なだけじゃなくて、アプリの開発もされるんですよね。
katax:それで4人で集まって分担を決めて一緒に書いて、集まったテキストを私の方で画像化して、電子書籍にしました。電子書籍といっても、テキストを画像化してスライドショーで見せているようなものですけど。
「ITエンジニアのための契約入門」というものです。
安高:仲間内で電子書籍まで作るのは凄いですね。結構売れましたか?
katax:3回皆で集まって飲むくらいですよ(笑
紙の本のほうは、その後ですけど。ウェブサービスの利用規約の第一人者の雨宮先生が、法務担当者とタッグを組んで本を書くという企画で、編集者さんから声をかけていただきました。
その編集者さんは、以前から、勉強会やはっしーさん(@takujihashizume)と一緒に開催したLT(ライトニングトーク)に来てくれていて、それで記憶に残っていたのかもしれません。「良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方」という本です。
安高:kataxさんは、LTも主催されているんですよね。色々活動されていますが、他にもありますか?
katax:あとは、一昨年の法務系Adventカレンダーも企画しましたね。あれは大変でしたよ。なかなか人が集まらなくて。昨年は柴田先生(@overbody_bizlaw)が企画されていて、一参加者として参加だけしました。
最近の興味、ノウハウの承継
安高:非常に活動的なkataxさんですが、最近の興味は?
katax:何か最近のトピックスを追いかけているわけじゃないんですが。最近興味を持って注力しようとしているのは、契約法務のスキルやノウハウを、出来るだけ高速に人に伝達・承継するということです。ここ1年くらいでこのテーマをがっつりやりたいと思っています。
安高:若手や新人さんへの教育ですね。
katax:以前に、新入社員のメンターをやったことがあるのですが、なかなか上手くいかなくって。契約法務って、8割くらいは大したことない業務なんですよ。残りの2割に注力してもらうために、大したことない8割を本当に大したことないものにしたい。
寿司屋の修行とかでもありますよね。本当は何年もかかる修行なんだけど、システマチックに数ヶ月くらいで終わらせるような。そんな風に、契約法務をコモディティ化したいんですよ。
安高:確かに、法務の仕事は専門的というか職人的なところがあるのかもしれないですね。
katax:それじゃ非効率だし、正確じゃないし。誰にでもできるようにパッケージ化したいんですよね。知財の分野はどうですか?
安高:知財の世界も、職人的な要素が結構あって。特に明細書の書き方なんてそうですけど。良い明細書と悪い明細書の差ははっきりとあります。でも良いクレームの書き方みたいな本を読んで分かるもんでもなくて、やっぱりOJTとか経験による部分が大きいような気はします。多分、こういう明細書が良い明細書だって、抽象化するのが難しいんじゃないかと思いますね。どうしても個別のケースごとの話しになってしまうというか。
katax:例えば、プログラミングなんかは、そこが結構詰められているんですよ。良いコードを書くための教育方法とか、良いコードと悪いコードの基準がはっきりしている。
そこのところを体系化したいですね。
あとは、法務部門の組織化をして、パフォーマンスを上げる方法なども。
安高:kataxさんの今の興味は、自分のスキルを上げるというよりは、チームをどう引っ張って成長させるかという、マネージャー的な視点なんですね。
katax:自分の成長についても、マニア的なこだわりがありますよ。去年の自分が出来なかったことを出来るようになりたいと毎年思っています。仕事でもそうですが、アプリの開発でも、アプリごとに前にやらなかったことを取り入れていくことを意識していました。今回は公開されているAPIと連携してみようとか、次は無料広告モデルで出してみようとか。去年やっていた仕事は出来るだけ手放して、新しい仕事をしていきたいですね。
安高:うーん、やっぱりkataxさんは、成長にストイックですよね。
katax:ビビっているんですよ、将来に価値がなくなるのが。危機意識が高いのは、転職時のトラウマがあるのかもしれませんね。
安高:その経験とストイックさが、kataxさんの活力になっているように思います。
kataxさん、ありがとうございました!
kataxさんには、伊藤先生からの紹介で初めてお会いしたのですが、非常に気さくな方でした。一つの企業に長く勤めている法務の方とはちょっと違って、自分の成長や将来についての意識が高くストイックで、また対外的な活動も活発的な、面白い企業法務の実務家さんです。
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