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サーチャー酒井美里×IPFbiz ~特許調査のプロフェッショナル~

      2015/02/23

対談シリーズ第10回は、スマートワークス(株)代表でスーパーサーチャーの酒井美里さんです。

特許検索競技大会の第1回で優勝されて、特許調査のスペシャリストとして有名になりましたが、その前から独立し、様々な形での調査や講演をされています。
独立のきっかけや最近の業務、特許調査のコツなどについて、お話を伺いました。

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これまでのキャリア 企業特許室⇒独立

安高:酒井さん、よろしくお願いします。私も前職、前々職と特許調査にも深く関わる仕事だったので、酒井さんのご活躍は以前から注目していました。企業の中での特許調査担当から、独立起業されたきっかけなどに非常に興味があるのですが、まずはこれまでの大まかなキャリアについて教えてください。

酒井:もともとはセイコーエプソンに勤務していて、新卒の時から知財として入社しました。当時は知財という名前ではなくて、特許室という配属ですね。

安高:知財を希望されていたんですか?

酒井:第2希望に書いた記憶はあります(笑) 実は第1希望は開発だったんですよ。大学では理学部だったので、開発・設計方面にばかり目が行っていました。でも就職説明会の時に、当時の特許室の方の説明が凄く上手くて。今のような人気も知名度もなかったですし、「特許」という仕事自体、その時初めて知ったくらいだった(笑)のですが、やりがいがありそうだと思って、第2希望に知財を書きました。それで蓋を開けたら特許だった(笑

安高:特許室、知財ではどのような業務をされていたんですか?

酒井:主に出願権利化です。当時は旧異議申立制度もあったので、出願しながら、特許調査も細々とやっていました。91年入社で、退職したのが2005年なので、15年間の勤務ですね。
入社前後から社内では複数の訴訟案件も動いており、同時に出願件数も増えていった時期で、色々な経験を積ませていただきました。最後の方は、知財子会社に移籍して特許調査などを主にしていましたね。

安高:それで、会社を辞めて独立されたんですよね。この辺はぜひ詳しくお伺いしたいのですが、何故独立されようと思ったんですか?

酒井:そうですね、理由は一つではないのですが。最終的に独立を決意した理由は、家庭の事情が重なって決まった時間での出退勤が少しきつくなったことですね。時間的に柔軟性が欲しかったということで。

安高:独立されて、自分の勤務時間を自由に選べるようにしたいと。

酒井:ただ、当時もフレックス制度などはありましたから、会社に残って残れないこともなかったかもしれませんし、実際、引き留めてはいただいたんです。
それでも何故辞めたんだろうと考えると、辞める直前は調査子会社に移って調査ばかりしていたんですよ。その中で、頭打ち感というか、漠然と閉塞感を感じていたのが本当は大きかったのかもしれません。

安高:確かに、特許調査という定型的な仕事ばかりを続けていくのもちょっとしんどいですよね。仕事の幅が広がらないというか、頭打ち感というのも分かります。
私が特許庁を退職したときも、同じような感覚がありました。おそらく、社内でサーチャーと呼ばれる仕事をしている人全般、同じような問題意識というかジレンマのようなものは抱えているんじゃないかと思います。

酒井:私は、先行技術調査とか侵害調査といった、名前が付いている定型的な調査よりも、変則的・非定型的な調査を自分なりに工夫する事にやり甲斐が感じるタイプなんだと思います。定型的な調査ももちろん出来るけれど、良い意味でも悪い意味でもパターン化してくると、さほど知恵を絞らなくても、仕事はこなせてしまう部分が出てきて。それでは自分が成長しないという閉塞感だったのでしょうね。

 

独立に向けて

安高:退職されてすぐに、今のスマートワークス(株)を立ち上げられたんですか?クライアントさんの見つけ方とか、独立の準備はどのようにされていましたか?

酒井:お客様によっては、個人事業主との取引が難しくて法人格が必要なことがある、と周囲から聞いていました。ですので、前職を退職した直後、真っ先に法人登記に向かいましたね。(笑)

安高:クライアントさんの最初のあてはあったんですか?

酒井:ある程度は、そうですね。でも、前職から仕事を貰えるものではない、という心構え、0から始まるのだと思って気持ちの準備をしていました。
後は独立の頃からメルマガを発行していたので、それが一種の営業基盤にはなりましたね。

安高:メルマガ、まぐまぐとかですか?

酒井:まぐまぐも一瞬だけ使ったのですが、すぐに自社配信にしました。まぐまぐだと誰が購読して下さっているのか、配信側からはわからない仕組みだったので。

安高:なるほど、メルマガを使ったマーケティングの準備ですね、勉強になります。どういう内容のものを書いていたんですか?

酒井:特許調査に関するネタはたくさんありましたから。あとは、前職の頃に機会があって、本を出していたんですよ。「日本でできる韓国特許調査」という本です。日本でいうIPDLみたいな、特許調査ができる韓国のHPがあって、その使い方の解説ですね。

安高:今のKIPRISみたいなものですね。

酒井:そうです。そのKIPRISの画面構成が変わった時に、本は既に絶版だったのでレポートを書いて、自分のHPに載せていて。そこでメルマガの告知もしていましたね。

安高:そうか、そういう情報発信をしながらリストを集めて、それが顧客基盤にもなるわけですね。

酒井:ええ、調査の仕事って、営業しにくいですよね。急に会社を訪問して「調査の仕事ありますか?」って営業して、その日に取れるものではないでしょうし。(笑
どちらかと言うと、企業の中で「あっ、これ調査しなきゃ」って思ったときに、どのサーチャーを最初に思い出すかが肝になるのかな、と思いました。

安高:押しかけ営業で案件が取れるようなものとは少し違いますよね。私の前職の特許の仕事でも、セミナーをしたりHPに情報を載せたりという情報発信をして、興味を持って問い合わせをしてくれた人にしっかり説明をする、引き合い営業がほとんどでした。

酒井:そうですね。だから情報発信をしながら、メルマガのリストは独立を心に決めたころから持たせてもらっていました。
あとは前職の頃からある特許DBのユーザ会に入っていて。そこで「近々退職する事にしました」と報告したら、それをたまたま耳にした方からJPDSで知財寺子屋というのをやるから、講師をやらないかと声をかけてもらって。
前職でも社内知財教育をすることはありましたけど、毎回緊張して、社内研修でも膝が震えてました。(笑) だから外でセミナーをするのは恥ずかしいし抵抗があったんです。それでもせっかく声をかけてもらったんだから、1回やってみようと。
実際にやってみると、まさにセミナーがきっかけでお仕事の引き合いが来ることも分かったので、恥ずかしいなんて言っていないで、やっていこうと。

特許検索競技大会 優勝

安高:そうこうして、調査や講演の仕事を続けられていたところで、特許検索競技大会で優勝されたわけですね。

酒井:はい、2007年が第1回の検索競技大会だったのですが、当時の日本知的財産協会のOBの方々が、イベント的にやってみようじゃないかと企画されて。私は知り合いから、そういう大会が開催されるよ、と教えてもらって、面白そうだからと参加することになりました。

安高:第1回だと、それがどういう大会かとか、どういう問題が出るかとも分からないですよね。

酒井:そうですね、問題の傾向なんかも分からないですよね。それでも運よく優勝できて。表彰式の時に「1回目の優勝者はずっと言われることになるからラッキーだよ。」と言われて、その時は「そんなものかな?」と思う程度だったのですが、これは本当にそうでしたね。
それから急に講演依頼が増えました。優勝した時のコンテンツで講演ができないかと。そして講演が増えた分、お客様との接触機会が増えて、引き合いが増えてという感じです。

 

業務内容

安高:今は大分忙しいんじゃないでしょうか?会社はお一人でされているのですか?

酒井:おかげさまで仕事は増えて、常勤で調査をやっているのは私ともう一人、後は事務方の人もいます。それから、最近は社外の方と業務分担しているケースもあります。検索式は私が作成しますが、資料の抽出以降を分離して外部契約の方にお願いする、という方法で、業務の効率化を図っています。

安高:現在の仕事の割合としてはどのような感じですか?

酒井:拘束時間で言うと、講習会が半分弱、調査系のお仕事が半分強ですね。

安高:調査系の仕事は、具体的にはどのようなものがありますか?

酒井:定型的な調査が半分くらいでしょうか。あとは、完全に非定型の調査ですね。嬉しいことに、口コミで非定型調査を頂けることが増えてきていて。
例えば、開発企画系の部門から「社内説明をするためにこんな資料を作りたいんだが、裏付け資料が欲しいんだよね」という依頼です。それで先方が考えている戦略なんかを聞いて、資料を集めて。特許も非特許情報も、それこそ財務資料なんかも集めて、プレゼン用のパワポまで作るようなこともしています。
こういう仕事が、一番やりがいがありますね。

安高:なるほど、特許調査屋さんというよりは、大きなコンサル企業の中にあるライブラリの役割に近いかもしれませんね。

酒井:そうですね。あと仕事としてもう一つあるのは、大きな企業さんからの年間契約です。月1回とか隔月とか、定期的に伺って相談を聞くような。

安高:顧問契約みたいなものですか?どんな相談が来るんでしょう?

酒井:知財部門ですと社内教育系が多いですね。次に多いのは、調査品質の評価方法あたりです。 

サーチャーのあるべき姿

安高:酒井さんは、サーチャーのプロフェッショナルという紹介のされ方が多いと思いますが、やっていることは幅広いですね。サーチャーのあるべき姿みたいなことって、よく大企業の知財部の中でも論じられることがあると思うのですが。

酒井:うーん、そうですね。サーチャーってタイプが2つあると思うんですよ。定型的なことをずっと続けても苦にならない、むしろ非定型的なことが来ると困るという人と、
逆に、定型的なことばかりだとやりがいがなくなる、それじゃ成長しないと思って色々やりたくなる人。

安高:サーチャーってどうしても業務が受身になるので、特に後者のタイプの人で、悩んでいる人は多いんじゃないかと思います。

酒井:自分の場合は、という話しかできないですけど、私は一見調査とは無関係な依頼でも、時間の許す限り引き受けてみる、チャレンジしてみる、というスタンスで仕事をしてきました。そうすると企業にお勤めの方でも社内で口コミが広がっていって、「それだったら、あいつに聞いてみれば?」となって。最終的には依頼される業務が幅広くなっていくと思うんです。
「頼まれごとは試されごと」なんて言葉がありますけど、誰かにものを頼むときは、その人なら出来そうかなと思っているから頼むんですよね。
私の場合は、「色んなことをやりたい」という指向はあるんだけど、「具体的にこれ」がしたいというイメージがなくて、何でも「滅多にない経験をさせて貰って、嬉しい!」と思う事が多かったから、それが良かったのかもしれないです。

 

好きな特許情報ツール

安高:特許調査の具体的な話も聞いてみたいのですが。そうですね、好きな検索DBとかはありますか?

酒井:国内調査では、JPDSのJPNETをよく使っています。コマンドモードで100行くらい入力出来て、検索の自由度が高いですし、公報の表示もスムーズだと感じています。

安高:海外調査では?

酒井:海外は、SRPartnerをメインに使っています。後はEPOのGPIという、espacenetのプロフェッショナル版のようなものですけど、これもよく使っています。

安高:他のDBも使われます?何か印象とかあれば。

酒井:各企業さんでの講習のために、そこが導入しているIDをお借りして、研修をすることがあるので、国内の有名なDBはほとんど使用経験があります。その中で、比較的個性的と言いますか、印象が強いのは日立のShareresearchでしょうか。検索機能は比較的オーソドックスですが、表示や出力のスタイルは独自のものだと感じますね。

安高:私は、特許庁の審査官端末が、純粋に調査をするならやっぱり一番早くて使いやすかったですね。今はNRIのCPD2と日立のShareresearchを使っています。DBごとの癖って、やっぱりありますよね。

酒井:そうですね、でも私は、どのDBを使ってもすぐに慣れるほうです。

安高:その辺は、さすがプロですね。

 

J-Platpat

安高:特許庁のIPDLが、J-Platpatに変わりますね。どのような感想をお持ちですか?

酒井:インタフェースは変わるけど、中身はそんなに大きく変わるわけじゃないのかな、という印象です。それでも検索の機能も増えますし、もしかしたらJ-Platpatだけで、結構な特許調査業務が出来るようになるかもしれないですね。

安高:商用DBがなくても、普段の特許調査ではあまり困らないようになるかもしれないですね。J-Platpatへの不満などは?

酒井:一番は、公報データと整理標準化データが分かれていることですね。後は公報の固定URLが提供されないのは、やっぱり残念です。

安高:公報データと整理標準化データが分かれていると困る事、分かりやすく説明してもらってもいいですか。

酒井:例えば昔の松下電器産業が特許出願をして、公報が出た後に、パナソニックに出願人名義変更をしたとします。公報に乗っている情報が公報データで、出願人名義変更や補正などの経過情報が整理標準化データとして蓄積されています。
そうすると、公報データとしての出願人名は松下電器産業で、整理標準化データとしての最新出願人名はパナソニックなんですね。J-PlatPatでは、公報データが「公報テキスト検索」、整理標準化データが「特許分類検索」と別々の検索メニューになります。これが分かれているので、「公報テキスト検索」を使って、パナソニック、と出願人検索をすると、松下電器産業として公報が発行されたものはヒットしなくなります。

安高:商用DBではこれらが統合されているのであまり気にならないのですが、J-Platpatを使う場合は、そういう仕様をよく分かっていないと、調査結果を誤ってしまうわけですね。

酒井:そうなんです。J-PlatPatを使う方というのは、日頃、「商用DBを導入するほどは、検索しないんだけどね」というような、一般の方が多いと思うんですね。無料で手軽に使えるのに、知識がないとミスしやすい、という仕様って、一般向けのサービスとしてはどうなのかなぁ、と思いますよね。

 

検索のコツ

安高:最後に、検索のコツのようなものがあったら教えてください。

酒井:そうですね、ミクロ的なものとマクロ的なものの2つがあると思うのですが。
ミクロ的なものからお話しすると、例えばある技術内容に即してテーマ調査をするといった場合に、検索する前の段階で7,8割は決まってしまっていると思うんですよ。つまり、検索をする前に、対象技術のポイントを正確に掴んでいるかどうかというところで。

安高:検索式にこういうワードを選ぶとかFタームを使うとかいうテクニックではなく、技術ポイントの理解が重要だと。

酒井:検索テクニックは後からいくらでも身に付けることができるんですが、テーマを掴むのはセンスのような部分もあって。技術用語の言葉尻とか、こういう部品だとか、そういう細かいところについフォーカスしがちですけど、もっと大きな技術的思想のようなものが重要ですよね。ある意味出願と似ているところがあるのかもしれません。
さらにマクロ的な観点で言うと、これらに加えて、依頼元の人や企業のバックグラウンドとか、技術テーマの流れなどを含めた全体俯瞰が不可欠ですね。検索のコツというのは、ミクロ的な検索とマクロ的な観点とのバランス感覚だと思っています。

 

 

酒井さん、ありがとうございました!
酒井さんはサーチャーとして有名で、ご自身のブログでも調査ノウハウ的な記事をよく書かれているのですが、その本質はもう少し広いところにあるようです。特許と非特許を一緒にとか、変わったことを依頼したい場合にマッチするのかもしれません。
また独立の際には、当時最先端のWebマーケティングなどを勉強されたそうで、その辺のお話も非常に面白かったです。

 - 特許

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