知的財産権のBS資産計上について(特許権・具体例編)
2014/10/23

前回は特許権の資産計上について、
その取得ルートに分けて説明をしてきました。
今回は、その実例を見ていきます。
まずは自己創設の特許権について、
日本企業の有価証券報告書において、
特許権等がどの程度の額で資産計上されているかを見てましょう。
日本企業の有報から、特許権等の資産計上がされている例と、
その額を見ていきます。
(一部、推測や不正確な点があると思います)
村田製作所の場合、
特許権2,799百万円
商標権5百万円
が資産計上されています。
村田製作所が保有する、権利継続中の日本特許は約6,000件です。
海外特許を加えると、ざっくり1.5倍程度でしょうか。
そうすると、1件当たり約30万円で計上されていることになります。
※全ての特許が自己創設で、均等な会計処理がされている前提です。
ソニーの場合、
特許権3,343百万円
特許実施権40,139百万円
が資産計上されています。
特許実施権はライセンス契約によるものでしょう。
保有する日本特許は約2万件なので、海外特許比率が上記同等として、
1件当たり約15万円となります。
シャープの場合、
工業所有権4,694百万円
として計上されています。
保有日本特許が約22,000件なので、意匠・商標を無視すると、
1件当たり約15万円程度。
本田技研は額が小さく、
特許権26百万円
商標権17百万円
と計上されています。
保有日本特許が21,000件なので、
1件当たり600円程度となります。
帝人は、
特許権160百万円
が計上されており、
保有日本特許は2,000件程度、
1件当たり7万円程度となります。
大体、1件当たり数十万円前半の額で資産計上されているようですね。
もちろんこれは減価償却をされているはずなので、
計上当初の額は、平均して2倍程度で、
1件当たり40万円程度でしょうか。
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※重要な追記:
どうも後から調べたところ、自己出願による特許権を資産計上している企業はほとんどなく、資産計上されている特許権は基本的にMA等によるもののようです。
上記の前提・仮定が全く成り立っていない可能性が高いです。
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一方で外部取得の場合の特許権の取引価格を見てみましょう。
近年の例では、
・sony、apple等のコンソーシアムがnortelの特許ポートフォリオ約6,000件を約45億ドルで購入
・microsoftがAOLの特許925件を約10億ドルで購入
・船井電機がLexmarkの特許1,651件を73.5百万ドルで購入
などなど。
特許の1件当たり取引価格は、平均20万ドル程度らしいです。(明確なソース無し)
そうすると、自己創設の特許権の場合、
外部取得による時価の1/50程度の額でしか資産計上されていないことになるわけです。
なんとか、合理的な見積額が開示されるようになればなー、
というのが知的財産会計の課題なんですね。
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Comment
特許権の有効期間は発がんの日から20年、登録してからも20年とすれば、20年間の売上収益に貢献する期間ととらえれば、経済的有効期間を20年として、償却することは会計上合理的ではとも思われます、1)この20年で償却しても、問題ないと思われますか?2)又実務上、法定耐用年数の8年でなく、この場合のような経済的耐用年数の20年で償却している企業の事例はありますでしょうか?
逆に暖簾については、会計上の20年以内償却が、定着してるようで、法定耐用年数5年を使ってる企業は少ないのではと推測します、前者と逆です、ご見解を聞きたくご教示よろしくお願いします。