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香月啓佑×IPFbiz ~インターネットユーザー協会(MIAU)の活動~

      2015/12/12

対談シリーズ第23回目、今年の締めは、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)事務局長の香月啓佑さんです。

香月さんは私と同じ北九州の出身で、同年代でもあるので勝手に親近感を覚えているのですが、MIAUの事務局長として議員会館に出入りしたり、セミナーをやったり、ラジオに出演したり、そのネットワークと情報網は凄まじいです。

特に今年はTPPという著作権の大きなテーマがあり、MIAUとしても香月さんとしても大きな存在感を発揮していました。

そんな香月さんに、MIAUに参画したきっかけや、MIAUの活動内容、今後の展望などについて話を伺いました。

また後編では、香月さんと私の2人で、今年の知財ニュースランキングを決定します!

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香月さんの現在の活動

安高:香月さん、よろしくお願いします。まず最初に、香月さんの現在の活動についてざっくり教えてください。

香月:今はMIAUの事務局長としての活動と、有限会社ネオローグで「ポリタス」などの編集部員をやっています。MIAUには2009年の6月くらいにコミットするようになって、事務局長は2011年9月からですね。有限会社ネオローグに転職したタイミングからです。MIAUの活動のメインはインターネット、特に著作権に関わる法改正などで声を上げる活動ですね。事務局長としては2010年の著作権法改正で盛り込まれてしまった違法ダウンロードの刑事罰化、そしてアクセスコントロール回避規制に関する運動がスタートでした。

安高:なんとなくどんなことをやっているかは知っているのですが、実際どのレベルのことまでやっているか分からないんですよね。MIAUの概要については、どうやって知ればいいですかね?

香月:うーん。本当はちゃんと僕らがウェブサイトを整備できていればいいのですが……。なにを目指しているのかというのはMIAUのサイトの「組織概要」をみていただけると。また思想的なところについては「設立趣旨」を一読いただけるといいと思います。MIAUの設立者の一人、白田秀彰先生の文章で、僕が好きな文章の一つですね。

安高:活動の経緯などはWikipediaを見たほうがいいみたいですね。ちょっと引用しておきましょうか。


2007年10月16日に設立された任意団体・インターネット先進ユーザーの会が前身。同会は2008年6月25日付で中間法人法に基づく無限責任中間法人となった後、公益法人制度改革に伴い2009年2月27日付の官報告示により一般社団法人へ転換すると共に4月1日付で団体名を改称した。

日本国内においては、アメリカ合衆国における電子フロンティア財団(EFF)や、イギリスにおける権利開放団体(ORG)のような知的財産を利用する立場から専門的な政策提言を行う団体が存在しなかった。それに伴い、文化審議会著作権分科会を始めとする知的財産法や、インターネット関連法規の改正議論の場においても権利者や業界団体の主張が優先され、インターネット上における言論・表現の自由を知的財産権により制約する方向への立法に歯止めが掛からないでいる。その反面、ネットワーク技術の恩恵をより拡大する方向での立法がなかなか進まない傾向が強いと指摘されている。
MIAUでは、上記のような傾向に対してインターネット利用者の利益代表として「情報技術を応用することで、現在よりも自由で幸福な社会を作れる」と考える人々の声をまとめ、既存の法や制度に依拠する人々に対して、新たな技術による自由がもたらす利益と幸福について説明することを活動目的としている。
MIAU設立後の当面の活動目標としては、
1.違法サイトからのコンテンツダウンロード違法化への反対意見表明
2.コピーワンス及びダビング10技術の採用に対する反対意見表明
3.著作権の保護期間延長に対する反対意見表明
上記1〜3に関するインターネットユーザーの意見表明の支援
が挙げられている。10月18日に東京都内で行われた記者会見では、10月16日から11月15日まで文化審議会著作権分科会が募集しているパブリックコメントの提出を一般ユーザーに呼びかけると共に、一般ユーザーの意見提出に対する支援を実施した。
2008年以降は知的財産権に関わる問題に加えて、いわゆる「有害情報」に対する表現規制に関わる問題へ活動範囲を拡げ、日本ユニセフ協会が主催する「なくそう! 子どもポルノキャンペーン」の活動趣旨に対する公開質問状を提出したり、同時期に自民党・民主党がそれぞれ国会への提出準備を進めていた「青少年の保護」を目的とするネット規制法案(6月11日に「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」の名称で成立)への反対声明をWIDEプロジェクト他の団体と共同で公表する等の活動を行っている。

 

安高:ダウンロード違法化からスタートして、表現規制などについてもカバーしているんですね。具体的に最近はどんな活動をやっているんですか?

香月:この2年くらいはとにかくTPPに振り回されているのが現状ですね。特にTPPはその性質上、海外とのやりとりが増えたというのがMIAU的に新しいところでしょうか。実際にニュージーランドとシンガポールの交渉現場に行って取材したり、海外のインターネットユーザー団体と情報交換をしたりしました。それ以外にも定期的にSkypeなどで電話会議をしたり、メーリングリストで情報交換したりとか。基本的に英語でのやりとりだったので辛かったですね。でもいい経験でした。

安高:香月さんは私の中で、“TPPに一番詳しい人”というポジションでした。

香月:国内ではthinkTPPIP(「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」)というプラットフォームを立ち上げ、その中の事務局員の一人としてもやっています。

安高:TPPによる著作権侵害の非親告罪化は大きな話題になりましたよね。知的財産ウォッチャーだけでなく、メディアでも大きく取り上げられました。また安倍総理大臣が「2次創作が萎縮しないよう留意する」と発言するまでに至りました。

香月:やはり論点が分かりやすかったということがあるんでしょうね。分かりやすさというのは、”運動”というものを考える上で非常に重要なことで、例えば今回の非親告罪化もコミケというわかりやすい存在があったのが良かったんだと思います。

安高:「日本の文化にとってコミケって必要ですか? 不要ですか?」っていうシンプルな論点に落とし込めたからこそ、ニュースにもたくさん取り上げられて、総理大臣の答弁に出てくるまでに至ったと。

香月:保護期間延長の話が相対的に薄くなってしまったのは寂しかったですね。あと逆に話を単純化しすぎて、コミケや同人誌即売会の当事者の方からすれば「そこまではいかないでしょ。不安を煽りすぎないでくださいよ」と思われてしまったことも事実で。

安高:実際、非親告罪化は重要な論点ではあるけども、運用ベースではそこまでの影響はない、少なくともそれだけが理由でコミケが終わるものではないとは思いますね。

香月:そこなんですよね。専門家や現場の人たちはそういう分析をしてもいいと思うんです。でも運用上は大丈夫なのかもしれないですけど、条文の上に「二次創作を害しない」とか「別件逮捕には使わせない」なんて担保はないんですね。しかも「ハイスコアガール事件」も起きちゃった。警察が著作権侵害でそう簡単に介入なんてしないよ、って何となくあった前提が壊れちゃったんですよね。そうなるとやはり条文上で「ご懸念のことは生じませんよ」ということを明示してもらう必要がある。「そこまでやらないよ」って言うなら「じゃあその旨明記してください」というのが僕らのやっている「運動」の意味なんだと思います。表現や言論と密接に関わる分野を扱う上では萎縮効果が一番の問題です。大げさに見える論点かもしれないけど、大げさなことが実際に起きないように確実に潰すことが、特にTPPでは一番なんじゃないですかね。その上ではある一定の範囲でわかりやすさを強調することは大事なのかもしれません。

 

MIAUの体制

安高:TPP以外にも国内の著作権政策、審議会の中での存在感も大きいMIAUですが、香月さんが事務局長というのは見えるのですが、全体的にはどういう体制なんですか?

香月:役付といえばジャーナリストの津田大介さんとAV機器評論家の小寺信良さんの2人が代表理事、そして国際大学GLOCOMの庄司昌彦さんが理事としています。そして事務局長として私がいると。津田さんは僕の有限会社ネオローグでのボスでもありますね。

安高:そのほかに、ボランティアメンバーとかコアな会員とかもいるんですか?

香月:立ち上げ時のメンバーの多くが幹事会員として残ってくれていて、かなり相談していますね。それ以外にもTwitterなどを通して仲良くなった人とか、企業や各種団体で仲良くしてくださっている方などとも情報交換しながらやっています。

安高:幹事会員というものがあるんですね。

香月:会員制度も変えていきたいと思っているのですが、日々の業務に忙殺されて、なかなか手が回っていないんですよね……。実はもうプランはあって、メールマガジンで一度告知をしてみたりはしたんですが「そういうふうなものにはしてほしくない」って支援者の人たちの声もあって。本来はそういうのも事務局長の仕事のひとつなのですが、正直そこまで僕が回せていないのは事実です。事務局長なのに事務ができていないというか。そこがMIAUの組織としての悩みですね。事務を回せる人を雇うわけにもいかず。

安高:それはMIAUとしての収入が足りないからですか?

香月:それもあります。ただ、それだけじゃなくて、なかなか人材がいないというのも大きいですね。4年やって思ったのは、ある程度分かってて、理想が共有できる人じゃないと難しいですよね。自分で言うのもあれですけど。

安高:MIAUの実働は主に香月さんがやられているんですよね。香月さんにとって理想的なMIAUの体制というのは?

香月:とにかく規模は大きくしたいですね。我々にとって最終的な目標はやっぱり米国のEFF(Electronic Frontier Foundation:電子フロンティア財団)ですよ。彼らみたいになりたいけど、差は大きいですね。

 

EFFとMIAUの違い

安高:EFFは情報発信力も存在感も凄まじいですよね。ブログの更新も多いし。EFFとMIAUの一番の違いって何なんでしょう?

香月:まず彼らは財団だというのが大きいですよね。支援者もたくさんいて、相当寄付も集めています。特に最近はスノーデン事件が大きかったですよね。スノーデン氏がメディアのインタビューに答える時ってほぼ必ずラップトップを持ってるんですけど、彼のラップトップにはデカデカとEFFのステッカーが貼ってあるんですよ。これが実質的にEFFの宣伝にも繋がったらしくて、相当寄付が集まったみたいです。

安高:端的に言うと、寄付金の集まり具合が違うということですか?

香月:そうですね。日本と米国の寄付税制の違いという理由もあると思うけど、それ以上にやっぱり僕らのプレゼンスが足りないということに尽きると思います。積極的に寄付の呼びかけをやってないとか、支援者の方への対応も疎かになってしまったこともあるんですよ。情報のアウトプットも貧弱だし。やらなければいけないことをやってないというのはそもそもあると思います。制度の問題にする以前の問題なんですよね……。

安高:でも津田さんの影響もあって、MIAUもプレゼンスは出てきてると思うんですけどね。EFFってどんな人が寄付してるんですか?

香月:もちろん企業や篤志家からというのもあると思うんですが、メインは一般市民でしょうね。アメリカだと、インターネットの話題って社会的な問題になるじゃないですか。最近だとネットワーク中立性の問題とか。インターネットに関する問題が市民運動になるんですよね。

安高:日本でも非親告罪化に関する動きは、総理大臣が答弁するくらい大きくなったんですけどね。日本でも話題にはなるけど、MIAUに寄付しようという大きな動きにまでは至らないと。

香月:あと寄付の集め方がうまい。HundleBundleってDRMフリーのゲーム販売サイトがあるのですが、そこでゲームを購入するときに、その代金の一部をEFFに寄付するって仕組みがあったりしたんです。あとはTumblrで自分の書き込みを目立たせるオプションを付けるときに、その代金の一部をEFFに寄付できるとか。そういう小さな寄付を集める仕組みを考えるのが上手ですよね。でもそれもEFFの活動に賛同する企業にアピールできているということなんだと思います。専業の人がいると変わるかなと思いつつも……。完全に言い訳ですけど。2016年はそういう言い訳を減らしていきたいと思ってます。

安高:MIAUも寄付を募集してますよね。

香月:そうですね。加えて今は有料のメールマガジンをやっているので、そちらを購読してもらうのがありがたいです。メールマガジンなんですが、月に2回Podcast的なトークが届きます。

安高:MIAUはネットユーザー=私たちを代表する消費者団体なので、ポジションとしては非常に重要な団体じゃないですか。私はプレゼンスも十分あると思いますけどね。ただ普段何やってるかは、香月さんのFacebookなどを普段から見ている私からしてもよく分からないことがあるんですよね。

香月:実はメールマガジンを始めた理由は、年会費を払ってくださっている会員の人向けに普段の活動をお知らせしたかったからなんですよね。その上で自前の有料システムをつくるのは難しかったので、ドワンゴのブロマガプラットフォームを使わせてもらうことにしたんです。ただ有料の人だけ見せるとなると広がりがないんですよね。あまり広く話すとロビイング戦略などに影響がある話なども有料で聞ける人を限定するとできるよねって言ってたんですが、今は結構権利者団体の人が購読してるみたいで(笑)。しかもCCライセンスにしてるから転送されまくってるそうですよ(笑)。文句を言うつもりはもちろんないんですが、最初の想定とは全然違うことになっているので、根本的な変更が求められている気がしますね。特に会員サービスというか、支援者の方に向けたメッセージの配信はもちろん、対外的な広報戦略というか。企業における広報とかCSRのセクションのような仕組みを組織化してやっていけたらなと思います。もうちょっと僕らがちゃんとやれていれば影響力も違っただろうし。正直反省することばかりですね。

安高:具体的な広報戦略って何か浮かんでいるものってありますか?

香月:戦略といえるかどうかはわかりませんが、問題点みたいなものを、もっと分かりやすく伝えられたらいいなと思ってますね。その点EFFのブログ「Deeplinks」はスゴいですよ。非常に分かりやすいし、オンタイムでいい記事をアップしてます。しかも執筆者はEFFの政策分析担当はもちろん、エンジニアや弁護士も記事を書く。さすがですよね。

 

香月さんの1週間

安高:少し具体的に、MIAUというか香月さんが日々何をやっているか聞きたいんですけど、例えば先週1週間、香月さんは何やってたんですか?

香月:先週は、情報ネットワーク法学会で北九州に帰ってからちょっと例外ですけど。今は年末なので少ないのですが、平均すると週に1回くらいは国会議員とかその秘書さんと話せるようにはなりましたね。

安高:週に1回議員会館というのは活動家っぽいですね。どんな話をしているんですか?何か用件があるわけじゃなく、継続的に挨拶に行っている感じですか?

香月:最近は呼ばれて行くことが多いですよ。例えば「ビットコインについて教えてくれ」とか、そういう質問を受けて説明に行くみたいな。ある種のIT分野のブレーンとして扱ってくれている方がいる感じですね。もちろん無料でやっているんですけど、その代わりに何か政策的な話をしたい時は5分でいいので議員さん本人と話す時間をくださいね、とお願いしてます。

安高:なるほど、議員さんからすると、香月さんみたいなIT技術と動向に詳しい人に話を聞きたいというニーズがあって、香月さんからするとMIAU観点の問題点をインプットできると。

香月:話をするときには、客観的に事実は事実として伝えて、自分たちの意見はプラスアルファとして伝えるように意識しています。最初は「やはり献金でしょ!」と政治資金パーティーとか行ってみたりしたんですが、カウンターパートの団体の献金額などを見て、献金は全く意味がないと悟りました。そこで献金では張り合えないので、僕らの得意な分野を生かしていこうと。

安高:他にはどんなことをしているんですか?

香月:あとは粛々と事務手続きですかね。メールでの照会に答えたりとか。あと最近は講師として呼ばれることが増えたので、企業内勉強会や企業コンソーシアム的なところで講演とかレクチャーをさせていただく機会も増えていますね。特に学校でのITリテラシーに関する講義については基本的にお断りせずにやっています。MIAUはユーザー自身のリテラシー向上というのも活動テーマの重要な一つなので、その一環です。遠方の場合は交通費の実費をいただくことがありますが、都内くらいだったら飛んでいきますよ。「日常的に使う上で実際にどんなことが起きるか」「どんなことに注意すべきか」「巻き込まれちゃったらどうするか」という実例を交えた講義なので好評をいただいていますよ。また講義の後には先生方やPTAの方との懇談の時間を設けていただくことも多くて、現場でどのようなことが起きているのかの情報収集にもなっています。

安高:議員会館とか団体とか企業の勉強会などで、コネクションを作っておいて、情報を拾ってと。それは外からは見えにくいですよね。

香月:特にロビイングは、誰に会っているとか具体的なことを言うとカウンターパートに潰されちゃうので。外にはなかなか見せづらいんですよね。

安高:ところで、会社のロビー活動の場合は会社の利益に合うような方針を中で決めた上で行われることが多いと思うのですが。MIAUはどのような形で方針や意見を決めているのですか?

香月:基本的には先ほど上げた「組織概要」や「設立趣旨」に沿った形で方針を決めています。意見書やパブリックコメントは僕や幹事会員でその分野に詳しい人が素案を書いて、GoogleドキュメントやPiratepadなどを使って議論して、代表理事の承認をもらって提出しています。今のMIAUはある種のシンクタンク的な存在なのかなぁと。でももっと広く意見を吸い上げるようなこともやりたいんですよね。「インターネットユーザーって誰か」という命題を考えたら、それはもう今やほぼ全国民なわけで。インターネットユーザー協会って「日本国民協会」って言い換えてもいいわけじゃないですか。そこがMIAU設立当時とは大きく変わったところだと思っていて。その上ではテクノロジー目線と消費者目線を重視したユーザーの団体かつシンクタンクであるってことを全面に押し出したいですね。

安高:いいですね。僕は注目や活動資金などがもっと集まるべき団体だと思っているんですよ。そういう意味では活動を通して問題点をもっと分かりやすく伝えられたらいいですね。

香月:それにはやっぱり解説記事なんですよね。来年はそういうのに力を入れて行きたいと思っているし、IPFbiz的なメディアみたいなものができたらいいなと思いますね。ぶっちゃけて言うとIPFbizは僕のネタ帳になっているので(笑)。今後もよろしくお願いします。

 

MIAUに入ったきっかけ

香月さん

安高:ちょっと話題を香月さん個人の話に移しましょう。香月さんがMIAUに入ったきっかけを教えてください。

香月:僕は元々単なる音楽ファンだったんですよ。で、著作権に興味を持ったのも音楽がきっかけです。カセットウォークマンを皮切りにいろいろと音楽プレーヤーを買い続けていて、学生時代に出たiPodにも飛びつきました。分厚いハードディスクが入っていたやつです。それでiTunesも使うようになったんですが、ある時iTunesで音楽が買えるって話になったんですね。いわゆるiTunes Music Store(iTMS)です。でもご存知の通り、ローンチして当分は日本でiTMSが使えなかったんですよ。なぜ日本ではiTMSで音楽が買えないのか、これが問題意識のスタートです。そういうところをインターネットで調べていたらぶつかったのが、今のボスの津田大介のブログ「音楽配信メモ」でした。レコード輸入権やコピーコントロールCDの問題を知ったのも「音楽配信メモ」がきっかけだったんですね。当時はネットと著作権の話を読む上では重要なリソースの一つでした。で、そのブログの中でMIAUの立ち上げの記事も読みました。「すげーなー。頑張ってほしいなー」とは思ってはいましたが、でも実際の活動にはコミットしていなかったんですね。

安高:なぜですか?

香月:東京の話だと感じていたからです。大学生までを九州で過ごした僕には遠い話にしか聞こえなくて。東京は羨ましいなぁと思ってました。

安高:で、就職で東京に出てくると。

香月:本当は九州で就職したかったんですよ。でもいろいろあって結局は川崎にあるオーディオ機器メーカーにエンジニアとして就職したんです。

安高:そういえば香月さんはプログラムも書けるんですよね?

香月:本当に基礎的なところだけですけどね。技術系のブログを読んでても、最近はもうわからないことばかりで。古い人間になっちゃったんだなぁと思って、最近は焦って勉強してます。しかも前職で書いていたのはC言語とアセンブラ少々。いわゆる組み込みプログラムの人間でした。でもいい勉強をさせてもらいましたよ。いわゆるファームウェアを書いていたので、勝手にIoTブームを先取りしたと思ってます。まぁそんなことを言ったら家電や車メーカー勤務のエンジニアは全員IoT先取りってことになりますけどね(笑)。

安高:へぇ。

香月:エンジニアって忙しいイメージがあると思うんですけど、僕のエンジニアの駆け出し時代はそうじゃなかったんです。リーマンショックが弾けたせいもあって、就職当初はほぼ毎日定時で帰っていたんですよ、17時35分のチャイムとともに。大学時代は深夜まで研究室にいたりしたので、そんな「おかあさんといっしょ」をやってる時間になにやっていいか分からなくて(笑)。そこで当時すでに始めていたTwitterを見て、あらゆるオフ会に出てやろうと思ったんです。

安高:2009年ですよね。

香月:そうそう。当時はTwitterに火がつく直前という感じで、Twitterにまつわるおもしろいオフ会とかミートアップが始まっていたんですよ。で、その中にApple製品の評論で有名な林信行さんと松村太郎さんのPodcastの公開収録があるということで、ミッドタウンのYahoo!の会議室にお邪魔したんです。僕は林さんのWWDCのレポートを楽しみに行ったんですけど、その収録のゲストに津田さんがいたんです。テーマは「tsudaる」についてでした。

安高:「tsudaる」! 懐かしいですね。

香月:平日のイベントだったので、次の日も仕事だったんです。でも打ち上げをやるというから「この機会を逃したらないな」と思ったんです。で、結局終電超えて、3時くらいまで飲んでましたかね。

安高:それが津田さんとの出会いですか?

香月:そうですね。で、そこから面白がってくれて、MIAUに出入りするようになりました。当初は参院選プロジェクトとかニコニコ生放送の企画を休みの日に手伝っていたんですけど、「あいつは面白い」と思ってもらえたみたいで。それで9月から幹事会員になって、内部的にコミットするようになりました。

安高:なるほど。最初はイベントや飲み会に参加して、ボランティア的にお手伝いで参加していたところ、面白がられて幹事会員になって定着したと。Twitterがきっかけというのも「らしい」ですね。

香月:そうしているうちに3.11の震災が起きて、津田さんが忙しくなったんです。そこでマネージャーを取るということになったんです。応募するかどうか、実際かなり迷ったんですよ。当時のオーディオ機器の仕事も面白くなってきていたところだったので。でも「乗るしかない、このビックウエーブに!」と思い切ったんです。で、無事マネージャーとして取ってもらえました。そしてそれと同時にMIAUの事務局長も拝命することになりました。でも実はマネージャーは半年たたないうちにクビになっちゃうんですけど(笑)。

安高:えー(笑)。でも今も津田さんの会社にはいるんですよね。

香月:マネージャーもしながら、有料メルマガも回しながら、MIAUの仕事も同時並行でやるって、今考えたら絶対無理なんですけどね(笑)。

安高:興味のあるところに飛び込んでみたら何かできるかもしれないという良い例ですね。自分でもだいぶ予想外だったんじゃないですか?

香月:転職して丸4年経ちましたけど、「なんで俺こんなことやってるんだろう?」という感じですね。あんなに浪人して音響学を学びに大学に行ったのに、全く関係ないことになってると(笑)。ただ、インターネットがずっと好きで、そのインターネットが社会に与える影響にはずっと興味があったんです。今はそれを最前列から見られているので、やりがいはありますよ。

 

香月さんの今後の話

安高:香月さんは、今後何を目指していくんですか?

香月:今はとにかくTPPですね。あと数年はかかると思うので、最後までやりぬきたいですね。

安高:もっと、香月さん個人の人生ビジョンというか、そういうところは?

香月:それが見えないのが今の悩みというか。逆に聞きたいですよ、僕はどうしたらいいんですかね(笑)。学者になったほうがいいとか言われるんですけど、今から大学行くのも気を逃した感じがしますよね。ある種の活動家だから、もう普通の企業も採ってくれないだろうし。

安高:企業の政策企画部門は欲しがると思いますよ。あとはロビーコンサルとか。あ、選挙に出るのはどうですか?

香月:政治家はないですよ。政治家になったら今よりできることが少なくなると思います。情報通信政策以外のところを追いかけないといけないのも辛いですし。企業の政策企画部門で働くにも、知識が圧倒的に欠けてると思うんですよ。僕が普段接している著作権法や不正競争防止法、プロバイダ責任制限法も見えているのは上っ面だけだなぁと最近感じるんです。民法とか憲法を出されるともうお手上げですね(笑)。立法経緯とかをちゃんと深掘りできるようになりたいですね。

安高:今後もやっぱり活動家とか、ロビイストとしてやっていくことですか?

香月:当分はもうそれしかないかなと(笑)。まだもっとやれるところはあると思うので。

安高:香月さんのその成長は、MIAUの拡大とともに?

香月:もちろんMIAUが大きな存在になることは目指したいと思います。でも正直、MIAUの拡大というよりも、それ以上に要はインターネットと知財に関する政策がきちんと議論される社会になればいいなと思っています。その上で今あるインターネットの自由というものは、誰かが勝ち得たものであって、それは守り続けないといけない。そして結果的にそのプラットフォームにMIAUがなれるんだったら、こんなにすばらしいことはないな、と。

安高:その守りたいものって具体的にはなんでしょう?

香月:僕もそれをずっと考えていたんですよ。僕が大事にしたいものを端的に説明できることばがずっとなくて、説明が難しかったんです。でもEFFと議論する中で出てきた「Access To Knowledge(A2K)」ということばが出てきたんです。これがしっくりきた。知識へのアクセスというものが僕の根幹にあるんだなと思いました。ここで言うA2Kはいわゆる「アクセス権」とか「知る権利」ではないんです。もっと広い意味での「知識へのアクセス」です。

安高:熱い思いがありますね。最後に何かPRとかありますか?

香月:MIAUのメルマガです!ぜひメルマガを購読してください。

安高:メルマガを購読すると、どんないいことがありますか?

香月: 1か月に2回、僕とゲストの雑談が音声で届きます。Podcastと思っていただいてもいいかと。その時期にあったおもしろ知財ネタなどを話しつつ、MIAUの近況報告をしつつ。あと僕の愚痴も聞けます(笑)。

安高:お金払ってまで香月さんの愚痴を聞かされるんですか(笑)。

香月:愚痴はなるべく少なくするようにしてますのでご安心ください(笑)。でもこのメルマガでの収入で結構いろいろなことができるようになったんですよね。例えばthinkTPPIPに関するシンポジウムとか記者会見の場所代とかですね。首相官邸近くとか新宿駅前の会場を借りられるので、記者の人が集まってくれやすいんですよ。その結果メディアへの露出を大きくすることができました。あとメルマガに限らず皆さんからの声が原動力なので、どうか気軽に話しかけてください。メールでもTwitterでもかまいませんので。厳しい意見も受け止めながら精一杯やっていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

 


香月さん、ありがとうございました!
MIAUはインターネットユーザー(=我々)の利益を代表する重要な団体です。応援しようと思う人、最新のネット・著作権回りの動向をキャッチアップしたい人は、メルマガを購読しましょう!

後編では、香月さんと2人で議論して、今年の知財ニュースランキングを決定します!そちらもお楽しみに!

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