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移転価格税制と知的財産の論点整理・解説(OECD、BEPS)

      2015/05/07

移転価格税制と知的財産の問題について、情報をまとめます。

誤りや、不足点、新しい情報などありましたら、コメントでご指摘してもらえると助かります。

移転価格税制とは

移転価格税制とは、国外関連者との取引価格が、独立企業間で行われる場合の価格(独立企業間価格)と異なる場合に、取引が独立企業間価格で行われたとみなして課税する税制度のことです。

以下に簡単に説明します。


独立企業間の取引の場合は、競争・交渉のもと、適正な価格で取引がされるはずですが、例えば海外子会社に原料を卸売りする場合などは、親会社の判断で、それを高く売ることも安く売ることもできます。
グループとしての利益は変わりませんから、これが国内のグループ内でのみ行われるのであれば大きな問題にはなりません。

しかし、これが国際的に行われると、税の問題が生じます。
国によって法人税率が異なるからです。

例えば、日本(実効法人税率約35%)に親会社があり、シンガポール(実効税率17%)に子会社がある場合。

本来100億円の価値があるものを、安くして80億円で日本親会社からシンガポールの子会社に売ると、日本親会社の利益は本来から20億円減少し、シンガポール子会社の利益は20億円増加します。

これにより、日本の法人税は7億円減少し、シンガポールでの法人税は3.4億円増加するため、トータルで3.6億円の節税が実現することになります。


これはシンガポール国にとっては税収が増えるので別に構わないけど、日本にとっては税収が減ってたまったものじゃないし、グローバル企業がこのように簡単に節税できる状態は良くない。

ということで、国外関連者との移転価格が、独立企業間価格と異なる場合には、独立企業間価格で取引がされたとみなして法人税を徴収しますよ、というのが移転価格税制です。

したがって、移転価格税制の運用に当たっては、「独立企業間価格」を算出することが非常に重要になります。
この価格の算出に当たっては、OECDのガイドラインに従い、各国でもルールが定められているのですが、特に価格の算出が難しい知的財産の問題が、近年話題になっています。

 

日本の法令

日本でいわゆる移転価格税制というと、租税特別措置法第66条の4と、関連条文のことを指します。

租税特別措置法第66条の4は、1986年に導入され、その後様々な改正がされています。


まず1項において、基本的な移転価格税制の仕組みが定められています。
つまり、国外関連者との取引につき、国外関連者からの支払い対価の額が独立企業間価格に満たないときと、国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、独立企業間価格で取引がされたものとみなしますという内容です。

ここでは、日本の法人税収入が減る場合のみに規定がされています。
日本の法人税収入が増えるような場合、相手国で移転価格税制が適用されると、企業にとっては税の二重取りが発生するのですが、これは租税条約によって調整されるように規定されています。

(国外関連者との取引に係る課税の特例)
第六十六条の四 法人が、昭和六十一年四月一日以後に開始する各事業年度において、当該法人に係る国外関連者(外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資(当該他方の法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係(次項及び第五項において「特殊の関係」という。)のあるものをいう。以下この条において同じ。)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行つた場合に、当該取引(当該国外関連者が法人税法第百四十一条第一号 から第三号 までに掲げる外国法人のいずれに該当するかに応じ、当該国外関連者のこれらの号に掲げる国内源泉所得に係る取引のうち政令で定めるものを除く。以下この条において「国外関連取引」という。)につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度の所得に係る同法 その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす。
2 前項に規定する独立企業間価格とは、国外関連取引が次の各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法のうち、当該国外関連取引の内容及び当該国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、当該国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従つて行われるとした場合に当該国外関連取引につき支払われるべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額をいう。
一 棚卸資産の販売又は購入 次に掲げる方法
イ 独立価格比準法(特殊の関係にない売手と買手が、国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額(当該同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他に差異のある状況の下で売買した取引がある場合において、その差異により生じる対価の額の差を調整できるときは、その調整を行つた後の対価の額を含む。)に相当する金額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
ロ 再販売価格基準法(国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額(以下この項において「再販売価格」という。)から通常の利潤の額(当該再販売価格に政令で定める通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を控除して計算した金額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
ハ 原価基準法(国外関連取引に係る棚卸資産の売手の購入、製造その他の行為による取得の原価の額に通常の利潤の額(当該原価の額に政令で定める通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を加算して計算した金額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。)
ニ イからハまでに掲げる方法に準ずる方法その他政令で定める方法
二 前号に掲げる取引以外の取引 同号イからニまでに掲げる方法と同等の方法
3 法人が各事業年度において支出した寄附金の額(法人税法第三十七条第七項 に規定する寄附金の額をいう。以下この項及び次項において同じ。)のうち当該法人に係る国外関連者に対するもの(同法第百四十一条第一号 から第三号 までに掲げる外国法人に該当する国外関連者に対する寄附金の額で当該国外関連者の各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入されるものを除く。)は、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。この場合において、当該法人に対する同法第三十七条 の規定の適用については、同条第一項 中「次項」とあるのは、「次項又は租税特別措置法第六十六条の四第三項(国外関連者との取引に係る課税の特例)」とする。
4 第一項の規定の適用がある場合における国外関連取引の対価の額と当該国外関連取引に係る同項に規定する独立企業間価格との差額(寄附金の額に該当するものを除く。)は、法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
5 法人が当該法人に係る国外関連者との取引を他の者(当該法人に係る他の国外関連者及び当該国外関連者と特殊の関係のある内国法人を除く。以下この項において「非関連者」という。)を通じて行う場合として政令で定める場合における当該法人と当該非関連者との取引は、当該法人の国外関連取引とみなして、第一項の規定を適用する。

そして第2項に、重要な「独立企業間価格」の算出方法が規定されています。
OECDガイドラインにも従い、棚卸資産の販売・購入の場合と、それ以外の取引の場合とに分けて規定されていますが、法律上に大きな違いはありません。
この点は後段で詳述します。

なお、移転価格税制の問題が生じる場合、同時に寄付金の問題も生じています。
移転価格税制と寄付金課税制度とは、重複する部分が多いため、その調整が第3項以降に規定されています。

つまり、独立企業価格に満たない差額部分を、寄付行為とみなして寄付金課税をすることもできるのですが、そうすると寄付金の損金算入限度額の分だけ、寄付金課税のほうが企業にとって有利になります。
そのため、第3項において、この場合の寄付金は全額損金不算入になるとされています。

 

移転価格税制と知的財産の典型的な問題 グローバル節税スキーム

ここで、移転価格税制と知的財産の典型的な問題として、グローバル企業が取っている知財を用いた節税スキームを紹介します。


GoogleやAmazonなどが行っている手法で、ダブルアイリッシュ-ダッチサンドイッチといった言葉を聞いたことがあると思います。

これはちょっと複雑なスキームなので詳細は省きますが、最もシンプルにした事例で考えると、下記のようなものになります。

例えば、グローバル企業の親会社が日本にあり、そこで研究開発も行っている。そしてタックスヘイブンと呼ばれるような軽課税国、例えばアイルランドに特許管理子会社を設立し、親会社で生まれた特許権などを全て子会社に譲渡する。

子会社への特許権譲渡の際には、低価格で譲渡を行い、その後グローバルで行われる事業において、アイルランドの子会社が全て特許ライセンスをし、多額のライセンス収入をアイルランド子会社で得る。

そうすると、日本を含む各国で生じる事業収益はロイヤリティの分だけ低減し、アイルランドの子会社が多額のロイヤリティ収益をあげる、つまり利益の移転が行われることになります。そしてアイルランドの実効税率が極めて低いため、グローバルでの法人税が減少するという効果を得ます。


実際にはもうちょっと制限があるため、それを回避するため複雑な構造にしたものが、いわゆるダブルアイリッシュ-ダッチサンドイッチというものです。


ここにはいくつかの論点が内在するのですが、
一つには、アイルランドの子会社が特許料収入を得ることが妥当であるかという点。
つまり、特許権の法的な所有権者はアイルランド子会社ですが、経済実態として知的財産を生み出しているのは日本の親会社です。
グローバルな利益の分配において、法的な所有権者と経済的な実態と、どちらを重視するかという問題。

もちろん、ライセンス料率の問題もありますし、権利所有者だけにライセンス料が入ることが適当でないとすれば、それがどのように分配されるべきかという問題もあります。

そしてもう一つは、そもそも特許権の移転価格が妥当なものであったかという点。つまり、将来キャッシュフローを加味して、妥当な移転価格とすれば利益移転の問題は生じないだろうということです。

 

独立移転価格の算出方法 特に知的財産の場合

日本の移転価格税制に沿って、独立移転価格の算出方法を説明します。

上に挙げた租税特別措置法66条の4第2項に、算定方法が述べられています。
まずは基本三法として、
・独立価格比準法(CUP法:Comparable Uncontrolled Price Method)
・再販売価格基準法(RP法:Resale Price Method)
・原価基準法(CP法:Cost Plus Method)
の3つが定められています。

そしてその他の方法として、基本三法に準ずる方法と、政令で定める方法が挙げられています。

政令で定める方法には、
・比較利益分割法(CPSM法:Compalable Profit Split Method)
・寄与度利益分割法(PS法:Profit Split Method)
・残余利益分割法(RPSM法:Residual Profit Split Method)
・取引単位営業利益法(TNMM法:Transactional Net Margin Method)
と、これらに準ずる方法が挙げられています。

これらは、基本三法に次ぐ方法ということで、第四法と呼ばれることがあります。

以前は基本三法を優先して適用すべしというルールでしたが、平成23年法改正により廃止され、最適方法を選択するというルールに変更されています。


なお、OECD移転価格ガイドラインにおいては、算定方法は「伝統的取引基準法」と「取引単位利益法」とに大別されています。
前者の伝統的取引基準法とは、基本三法のことです。
後者の取引単位利益法は、さらに取引単位営業利益法と、取引単位利益分割法とに分かれます。

 

それぞれの算定方法の詳細は、長くなるためここでは割愛します。
概ね、字面から想像できる通りです。

独立価格比準法は、同じような条件で独立企業間で取引が行われた際の価格を参考にするもの。再販売価格基準法は、再販売を行う場合の価格を基準とするもの。原価基準法は、原価に通常の利益を乗せた価格を基準とするもの。利益分割法は、グローバルでの利益を2国(他国)間に適当な基準でもって分配する考え方。その基準や分配対象利益によって細かい名前が異なります。取引単位営業利益法は、取引単位ごとの利益率などの指標を基準とするもの。

 


さて、知的財産に関してですが、
特許ライセンス(使用許諾取引)を行う場合のライセンス価格と、知的財産を移転する移転価格の大きく2種類の価格算出があります。
前者のほうがPLに直接の影響があるためか、ロイヤリティの問題のほうが多く指摘されているようです。

まず前者のライセンスについてですが、独立価格比準法を用いるのは基準となる独立価格が無いため難しく、再販売価格基準法、原価基準法もあまり妥当しないことが多いため、第四法である利益分割法、取引単位営業利益法などが用いられることになります。

判例などによると、日本では伝統的に利益分割法が適用されてきたようです。利益分割法の中でも、特に残余利益分割法が理論的に妥当すると言われるようです。

一方、米国では利益比準法の適用が増えており、日本でも取引単位営業利益率法が導入されています。


なお、残余利益分割法とは、対象となる取引における二か国での合計利益から、重要な無形資産を使わない場合における通常の利益を控除し、残った利益(残余利益)を、適当な指標で両国に分割する考え方です。

無形資産(知的財産)による超過収益分であり、貢献部分が、残余利益となるわけですが、その算出の難しさと、
算出された残余利益をどのような指標で分割するかという難しさがあります。

分割の指標については、単純な法的な所有者がどちらかということではなく、経済的な実態を重視し、特に、 費用分担契約(CCA:Cost Contribution Arrangements)に期待がされています。


一方、後者の知的財産権の移転価格については、日本の制度上、特に定められた算出手法はありません。
しかし、ライセンス価格と同じように利益分割に準じた将来キャッシュフローをDCF法で割引、現在価値を算出する方法がスタンダードになるのではないかと思われます。

OECD

OECD移転価格ガイドライン「多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針」

上記までにも、OECDのガイドラインに従って~など所々に書いてきましたが、移転価格税制を考えるに当たって、OECDの現在の検討状況やOECD移転価格ガイドラインを避けて通ることはできません。

OECD移転価格ガイドラインとは、OECD(経済協力開発機構)の租税委員会が策定する、納税者と税務当局との双方に向けられた移転価格税制に関する国際的な指針であり、正式名称は「Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations(「多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針」)」です。

OECD移転価格ガイドラインは、1979年にOECDが公表した報告書「移転価格と多国籍企業」を1995年に全面的に見直し、ガイドラインとして公表されたものであり、それ以降、経済活動のグローバル化の進展に伴う国際的取引の増加、取引内容の複雑化を踏まえて、国際的な二重課税を排除し、公正な移転価格税制の適用を図るため数回にわたり改定が加えられています。

本ガイドラインは各国に対し強制適用されるものではありませんが、OECDは各加盟国が国内での移転価格税制の執行において本ガイドラインに準拠することを奨励し、かつ納税者にも、移転価格の算定が独立企業原則に従ったものであるかを税務上評価する際に、本ガイドラインに準拠することを奨励しています。なお、現行の日米租税条約の交換公文において、移転価格課税にあたってはOECD移転価格ガイドラインを遵守する旨が述べられており、日米両国に本ガイドラインに準拠した立法および執行を求めています。

2009年9月に第1章から第3章までの改定案が公表され、パブリックコメントを経て、2010年7月に承認されました。2010年版が、確定している最新版です。

http://www.keepeek.com/Digital-Asset-Management/oecd/taxation/oecd-transfer-pricing-guidelines-for-multinational-enterprises-and-tax-administrations-2010_tpg-2010-en#page18

下記のような章構成となっており、第6章に無形資産に対する配慮が定められています。

第1章 独立企業原則
第2章 移転価格算定方法
第3章 比較可能性分析
第4章 移転価格に関する紛争の回避及び解決のための税務執行上のアプローチ
第5章 文書化
第6章 無形資産に対する特別の配慮
第7章 グループ内役務提供に対する特別の配慮
第8章 費用分担取極(CCA)
第9章 リスクに関する特別の考慮

 

2012年6月6日、OECD移転価格ガイドラインの第6章(無形資産に対する特別の配慮及びその関連条項の改訂の公開草案)を公表


上述の通り、OECD移転価格ガイドラインの最新確定版は2010年のものですが、これ以降にも改訂の議論がされています。

そして知的財産に関係する第6章は、2012年6月6日に改訂の公開草案が公表されています。

同年11月に公聴会が開催され、2013年に「修正OECD無形資産ドラフト」が公表されていますが、未だドラフトの状態であり、内容としては後述するBEPSプロジェクトに吸収されているようです。

 

BEPS

近年、移転価格税制で最も話題になっているのは、OECDのBEPSと呼ばれるアクションプランについてです。

Base Erosion and Profit Shiftingの頭文字を取ってBEPSですが、税源侵食と利益移転という意味。
特に最近、グローバル企業で上述したようなダイナミックな節税が見られますが、それに対応するためのルール作りのための行動計画です。


もともとBEPSは、2012年6月のOECD租税委員会本会合において、米国から「税源侵食と利益移転」が法人税収を著しく喪失させている点を憂慮しているとの問題提起がされ、BEPSプロジェクトとして開始されたのが始まりとされています。

BEPSプロジェクトは、経済実態と課税実体の乖離を防止する方策を、戦略的かつ分野横断的に検討し、国際的に協調された対応を促すものとして発足しており、2013年2月には、OECD報告書「税源侵食と利益移転への対応」が公表されています。

この報告書において、BEPSの多くは、軽課税国への無形資産の移転、ハイブリッド・ミスマッチの利用等を組み合わせ、税率の低い国・地域に利益を移転することで生じていると分析し、多くのBEPSの手法は合法であり、国際課税原則を見直す必要があるとしています。

本報告書も受け、2013年7月19日に公表されたのが、BEPSに関するアクションプラン(行動計画)です。

BEPSのアクションプランは、15の行動から構成されています。

行動1 電子商取引課税
電子商取引により、他国から遠隔で販売、サービス提供等の経済活動ができることに鑑みて、電子商取引に対する直接税・間接税の在り方を検討する報告書を作成。

行動2 ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの効果の否認
ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの効果を無効化又は否認するモデル租税条約及び国内法の規定を策定。

行動3 外国子会社合算税制(CFC 税制)の強化
外国子会社合算税制に関し、各国が最低限導入すべき国内法の基準に係る勧告を策定。

行動4 利子等の損金算入を通じた税源浸食の制限
支払利子等の損金算入を制限する措置の設計に関して、各国が最低限導入すべき国内法の基準に係る勧告を策定。また、親子会社間等の金融取引に関する移転価格ガイドラインを策定。

行動5 有害税制への対抗
OECDの定義する有害税制について、加盟国の優遇税制を審査、OECD非加盟国も関与させる、現在の枠組みの改定・追加を検討。

行動6 租税条約濫用の防止
条約締約国でない第三国の個人・法人等が不当に租税条約の特典を享受する濫用を防止するためのモデル条約規定及び国内法に関する勧告を策定。

行動7 恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止
人為的に恒久的施設の認定を免れることを防止するために、租税条約の恒久的施設(PE:Permanent Establishment)の定義を変更。

行動8 移転価格税制〔①無形資産〕
親子会社間等で、特許等の無形資産を移転することで生じる BEPS を防止する国内法に関する移転価格ガイドラインを策定。また、価格付けが困難な無形資産の移転に関する特別ルールを策定。

(i) 広範かつ明確に線引きされた無形資産の定義を採用する
(ii) 無形資産の移転及び利用に関連する利益が価値創造に沿って適正に配分されることを確保する
(iii) 価格付けが困難な無形資産の移転に関する移転価格税制又は特別措置を策定する
(iv) 費用分担契約に関するガイダンスの更新

行動9 移転価格税制〔②リスクと資本〕
親子会社間等のリスクの移転又は資本の過剰な配分による BEPS を防止する国内法に関する移転価格ガイドラインを策定。

行動 10 移転価格税制〔③他の租税回避の可能性が高い取引〕
非関連者との間では非常に稀にしか発生しない取引や管理報酬の支払を関与させることで生じる BEPS を防止する国内法に関する移転価格ガイドラインを策定。

行動 11 BEPS の規模や経済的効果の指標の集約・分析
BEPSの規模や経済的効果の指標をOECDに集約し分析する方法を策定。

行動 12 タックス・プランニングの報告義務
タックス・プランニングを政府に報告する国内法上の義務規定に係る勧告を策定。

行動 13 移転価格関連の文書化の再検討
移転価格税制の文書化に関する規定を策定。多国籍企業に対し、国ごとの所得、経済活動、納税額の配分に関する情報を、共通様式に従って各国政府に報告させる。

行動 14 相互協議の効果的実施
国際税務の紛争を国家間の相互協議や仲裁により効果的に解決する方法を策定。

行動 15 多国間協定の開発
BEPS 対策措置を効率的に実現させるための多国間協定の開発に関する国際法の課題を分析(2014 年 9 月)。その後、多国間協定案を開発。


知的財産に特に関連が深いのは行動計画8です。
移転価格ガイドラインの策定に関しては、後述するように、既にOECD移転価格ガイドラインの改定案として、公開草案が公表されています。

特に興味深い「価格付けが困難な無形資産の移転に関する特別ルールの策定」に関しては、2015年9月ごろに結果が出る見込みとなっています。

 

BEPS 第一次提言の発表

2014年9月16日に、OECDはBEPSアクションプランのうち、主要7分野をカバーする第一次提言(2014年成果物)を発表しました。

今回発表された文書は、簡単な説明文書と、行動計画1(電子経済)と行動計画15多国間協定に関する最終報告、行動計画5(有害な税制上の慣行)に関する中間報告、行動計画2(ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメント)、行動計画6(租税条約の濫用)、行動計画8(無形資産にかかる移転価格)、行動計画13(移転価格関連の文書化および国別報告書)について合意した提言案に関する報告という内容です。

 

知的財産に密接に関わる行動計画8については、
無形資産の定義、無形資産関連利益の適正配分の確保、価格付けの困難な無形資産移転に係る移転価格税制および特別措置の策定など、OECD移転価格ガイドライン第6章(無形資産に対する特別の配慮)の全面改訂を行う内容です。

ただし、今後検討予定の行動計画9,10にも密接に関連することから、報告書での関連部分は暫定指針としての記述となっています。

 

本報告書の中で、無形資産の分析においては、下記の検討が必要だとされています。
(1)法的取り決めの条件に基づく無形資産の法的所有者の特定。関連する登録、ライセンス契約、その他の関連する契約および法的所有を示すその他ものが含まれる。
(2)機能分析の手段により、無形資産の開発、改良、【維持、保護又は活用に関する機能を遂行し、資産を使用し、リスクを負担する当事者の特定
(3)詳細な機能分析を通じた両当事者の行動と無形資産の法的所有に関する法的取り決めの条件が合致していることの確認
(4)関連する登録、契約下における無形資産の法的所有の観点からの無形資産の開発、改良、維持、保護又は活用にかかる関連者間取引、および当事者の遂行している機能、資産、リスクおよび価値の創造に貢献するその他の要因に係る貢献の特定
(5)必要な場合、遂行した機能、使用資産および負担リスクに関する各当事者の貢献とこれらの取引の独立企業間価格が一致しているかの決定
(6)独立企業間価格の条件を反映するために必要な取引の再構築

移転価格算定方法の選択にあたっては、経済的効果を考慮することが重要とされ、残余利益のすべてを無形資産の所有者に必ず配分すべきとはならないとされ、無形資産開発費用に基づく算定方法は、一般的には避けるべきであるとしています。経験則については、所得配分等が独立企業間価格であることの証明には適用できないとされています。
最も有益な算定方法は、独立価格比準法および取引単位利益分割法であるとされています。

また、無形資産取引において、比較対象が特定できない場合には、将来所得の動向、特に将来キャッシュフローの割引現在価格の計算を前提とした評価テクニックは、仮定の有効性と独立企業原則との整合性が考慮されれば、より有用なツールになるとされています。


また、行動計画13における国別報告書(CbyCレポート)も、影響の大きい内容となっています。

 

あとは、移転価格税制に基づく、知的財産の実際の価値評価事例が知りたいのですが、良い情報があったら教えてください。特に、ロイヤリティではなく知財権の移転の価格のほう。

 - 知財会計

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