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著作権非親告罪化のメリット・デメリット ~許諾と黙認の違い~

      2014/12/14

先日、2回目となるTPP交渉のリークがされましたが、この情報によると著作権の非親告罪化が濃厚のようです。

非親告罪化に真っ向から反対しているのはベトナムのみであり、日本は条件交渉に入っているよう。

著作権が非親告罪となると、どのような影響があるのでしょうか。TPP

非親告罪とは

まず親告罪とは、告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪のことです。
逆に非親告罪とは、被害者の告訴がなくとも公訴を提起できる犯罪であり、多くの刑事罰はこちらに当たります。


親告罪には、大きく以下のような種別が含まれます。

①事実が公になると被害者に不利益が生じるおそれのある犯罪
わいせつ罪、名誉毀損、ストーカーなど
②罪責が比較的軽微であり、または当事者相互での解決を計るべき犯罪
過失傷害罪、器物損壊罪など
③親族間の問題のため介入に抑制的であるべき犯罪
親族間の窃盗罪や詐欺罪など

著作権侵害が親告罪なのは、②の理由に近いですが、著作権は私益的な側面が強いため、権利者の意思を尊重しようという政策的判断によるものです。


現状の日本では、著作権侵害の刑事罰は親告罪とされているため、著作権者が告訴しない限り、公訴提起することができずに刑事責任を問うことができません。

これが非親告罪化されると、被害者(著作権者)の告訴がなくとも、検察が自由に訴追できるようになります。

 

非親告罪化のメリット・効果

著作権侵害が非親告罪になると、権利者からの告訴がなくとも、警察や検察、税関職員などの主導による公訴が可能となります。


権利者が諦めてしまっているような巨大な海賊版サイトなどを、検察の権限で捜査して取り締まり、公訴することが可能となりますので、
海賊版対策を進める上では、大きな武器となり得ます。

また、先進国で親告罪の制度自体を取り入れている国が少なく、国際調和にも資するでしょう。

 

非親告罪化のデメリット・リスク

逆に非親告罪となれば、権利者の意図に関わらず、検察が独自に動き、あるいは一般からの通報などによって、逮捕者がでてしまう可能性があります。

それが本当に悪質なものであれば構わないのですが、権利者があえて黙認しているような、軽微な、あるいは文化の発展に資するものまで取り締まられる可能性が出てきます。


実際に非親告罪化しても、どれだけ権利者の告訴がない公訴等が起こるかは、正直よく分かりません。
実体的には大きな影響はない気もします。

それでも警察検察の裁量範囲が増えるのは気になります。

潜在的な可能性・リスクがあることによって、UGC的な文化が萎縮してしまうこと自体が大きなデメリットです。

 

許諾と黙認の違い

ここで思うのが、許諾と黙認の違い。

積極的な許諾消極的な黙認には大きな違いがあります。

明示の許諾を与えるには、使われ方の詳細を把握した上で、条件をしっかり詰め、契約書を作成する工数も発生します。
また、一度許諾を与えた以上は簡単に取り下げることも難しく、使われ方によっては許諾を与えた権利者企業の責任や担当者の責任も問われます。

黙示であれば、権利行使はいつでも出来るけどとりあえず放置している、というだけの状態であって、状況を見ながら、必要に応じて(悪質だったり大規模化した場合に)警告等することができます。

明示的な許諾を与えるような案件じゃない場合は、許諾を求められても困るけど、まあ黙認しておきますよー、というのが簡単。

 

日本の文化

日本には、戦略的、あるいは文化的な黙認が多いように思います。
例えば、コミケ、パロディ・MAD等の二次創作UGC、実況動画、コスプレ、海賊版ゲームなどなど。

これらが黙認の状態でそれなりに上手くいっているのは、利用者が「空気を読んで」利用してくれている、日本の阿吽の呼吸の文化が大きいように思います。
コミケなんかはまさにそうですね。

コミケやらUGCやらで、いちいち許諾を与えることはできないし、悪質なものには権利行使するけど、特に迷惑がかかったり大きな損害が出なければ、特に権利行使はしませんよ、という状態。

著作権侵害の非親告罪化がなされると、このような阿吽の呼吸の元に成り立っているものが、壊されてしまうのではないかという危惧が、反対意見の方の大きな理由だと思います。


日本ではフェアユースも無ければ、パロディーの合法化立法もされていないため、検察が公訴すれば、権利者の意図と関係なく、多くのものが違法と判断されてしまいます。

日本にはフェアユースのような受け皿規定が無い代わりに、親告罪であることによって、バランスが取れているように思います。

非親告罪化が決まるのであれば、その条件も重要ですが、フェアユースのような一般規定導入とセットで検討されれば良いなというのが個人的な見解です。

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 - 著作権

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