特許の誤解 (上級編)
初級編に続いて、よく聞く特許の誤解の上級編です。
他社の拒絶された特許の内容は、自由に使える?
Q:競合企業の特許をチェックしていると、凄く良い内容の発明が出願されていました。
これが登録されると嫌だなあと思って詳細を見ると、なんと拒絶査定が確定されていました。
登録された特許発明は当然真似しちゃいけないんだけど、拒絶されているということは、これを真似しちゃって問題ないんですよね?
A:真似して問題ないとは言えません。
拒絶が確定すれば、もちろんその特許自体は権利として成立しないのですが、拒絶理由に引用されている先行出願特許を見てみましょう。
近い内容のものが権利化されていませんか?
特許の数はとにかく多いので、同じような内容の出願が、様々な企業から出願されています。
一つの拒絶された出願だけを見て、これが自由実施できると考えるのは非常に危険です。
権利が満了した特許の内容は、自由に使える?
Q:拒絶された出願の発明が自由に使えるわけじゃないのは分かりました。では、権利が満了した特許の内容なら、一度先行技術との関係で審査された上で権利化されて、それが切れたんだから問題ないですよね。ジェネリック医薬品なんかもあるし。
競合企業が昔出していた基本特許が、ようやく来年に切れる予定です。これさえ権利が満了すれば、その基本発明の内容を真似しても問題ないですよね?
A:真似して問題ないとは言えません。
一つの基本特許の権利が切れるとしても、それに関する周辺特許が出されている可能性があります。
例えば基本特許として物質特許が出されている場合、その物質の用途発明や、生産方法の発明など、改良技術・周辺分野の特許が後から出されることが通常です。
周辺特許についてもよく確認して、実施できる範囲を見極める必要があります。
自社が保有する特許の内容は、自由に使える?
Q:なるほど、拒絶発明も権利切れ発明も、自由に使えるわけじゃないのは分かりました。
でも、自社が出願して権利化した特許発明は、さすがに自由に使えますよね?
事業化の前には他社特許のクリアランス調査をよく行うのですが、今回事業化しようと思っている製品は、既に当社が特許を持っています。
この特許発明そのままの内容を実施するんだから、当然実施する権原は当社にありますよね?
A:実施する権原が自社に必ずあるとは言えません。
特許権者は、特許発明の実施を独占する権利を有しています。しかし、他の発明と利用関係にある場合があります。
例えば、自社の特許発明が他社の特許発明の改良発明だった場合や、応用発明だった場合、
自社の発明を実施すると、その他社の発明を利用(実施)することになり、権利侵害となり得ます。
つまり、自社はその改良発明を、他社に使わせない(禁止する)権原はあれど、自社が実施する権限が保証されているわけではありません。
自社製品をカバーする特許を保有することが、直接的にその製品を実施する自由が確保できていることにはならないので注意が必要です。
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