ベンチャー・スタートアップが特許を取る5つの意味と、効果的な特許の出し方
ベンチャー企業やスタートアップ、中小企業などは、目先の事業を拡大させるのが急務であって、なかなか特許の出願などには手が回りません。
しかし、成功しているベンチャー企業は、早い段階から特許を出願して将来の投資をしているものです。また、大企業よりむしろ、ベンチャー企業のほうが一つの特許を取る意味も大きく、効果的だと考えています。
ベンチャー・スタートアップが特許を取るべき理由、特許を取るメリットについて整理しましょう。
①他社の模倣を防ぐ
教科書的でオーソドックスな理由ですが、革新的な技術やビジネスモデルを売りにしているベンチャー企業にとって、真似をされることは大きな脅威です。
せっかくの良い事業も、大手企業にそのまま真似をされてしまえば、ほとんどの場合体力勝負では相手になりません。
下町ロケットほど上手くいくことは多くないかもしれませんが、特許は、アイデアという無形資産を保護して他者の模倣を防ぎ、大企業にも勝つことのできる、ほぼ唯一の手段です。場合によっては、特許を武器に、シェア100%を維持することも可能です。
革新的な技術を元にした事業や、まだ他社がやっていない新しい事業だからこそのチャンスなのであって、それを簡単に真似されるわけにはいきません。先進的な事業をやるベンチャー企業ほど、特許権を獲得しておくべきです。
②営業効果
特に小さい規模の企業にとって、特許を取得する最も現実的なメリットは、営業効果ではないかと思います。
この製品は特許発明です。このサービスは特許権で保護されています。
そう書き添えるだけで、営業的にはプラスに働くでしょう。
実はある程度大きい企業になると、あまり特許を持っていることを振りかざすのを躊躇いがちになるのですが、ベンチャー企業であれば、特許を取ったことを思いっきり宣伝広告に使っていいでしょう。
BtoCにはイメージ的な意味での効果がありますし、BtoBにおいては、特許で保護されているのだから、うちにしか提供できないものなのだと説明すれば、競合との相見積を避ける効果も得られます。
③企業価値を上げる
特に将来のExitを見据えているスタートアップの場合は、最終的な企業のバリュエーションが気になります。
最近はM&Aにおいても、知財観点のデューデリジェンスがなされることは珍しくありません。そこで、しっかりと特許権を持っている、特許によって事業の独占が保護されているというだけで、企業価値にも大きな影響を与えます。
④融資・投資を有利にする
これは③に似た理由ではありますが、Exitなんて考えていなくて、ずっと事業を拡大させていきたいという経営者にも当てはまるメリットです。つまり、特許権によって事業がサポートされているというのは、銀行やVC等投資家にとっても好材料となります。
特に最近は知財担保融資なども流行しつつあります。
⑤特許訴訟トラブルに備える
最後は少し抽象的な理由ですが、企業が事業をやっていくうえで、まず特許を持っているということが事業をやるための切手のようなものだということがよく言われます。
なんだそりゃという感じですが、要するに、特許を持たずに事業をするのは、丸腰で戦場に出るようなものだと。少なくとも1つでも特許を持っていることで、一応の武器を持っていて、何か争いがあったときには戦う準備が少しでもできているということを意味します。
大企業の場合
ちなみに大企業の場合は、特許を取る意味というのはもう少し複雑になってきます。
リピュテーションリスクやカウンターを気にすると、簡単に権利を行使することができなかったり、標準化戦略だとかオープン・クローズ戦略だとか、ライセンスによる収益だとか、開発者のモチベーションだとか、、云々。
それらを踏まえたうえで、どの分野に何件の出願をするのが最適なのかと。
どうも、シンプルな事業をやっている中小企業のほうが、1つの特許を取る効果は大きいように感じています。
目的別の効果的な特許の取り方
ベンチャー・スタートアップにとって特許を取る意味は、上記の5つぐらいが大きなところかと思いますが、実は、どの目的に重きを置くかによって、どのような特許を取るべきかという出願の方法や明細書の書き方が変わってきます。
例えば、①の模倣を防ぐことを重要視するのであれば、権利範囲は十分に広くなくてはいけません。
ちょっと設計変更しただけで特許が回避されてしまうのでは、十分な独占ができないからです。
しかし、特許の取りやすさと権利範囲の広さは、トレードオフの関係にあります。権利範囲を狭くして発明を限定すれば、進歩性要件をクリアしやすくなるからです。逆に、広い権利範囲の特許を取るには、発明自体がある程度先進的なものでなくてはいけません。
①の目的を重要視して広い権利範囲で取ろうとすると、どうしても特許の登録率は下がってしまいます。しかし目的のためには妥協をせず、分割や拒絶査定不服審判など時間とお金をかけてしっかり勝負する必要があります。
逆に、②~④の目的を重要視するのであれば、必ずしも広い権利である必要はありません。多少狭い範囲でも、実際に実施している自社製品をしっかりカバーしている特許を確実に取ることが重要になります。
特に②の営業効果を最重要に置く場合は、「分かりやすい特許」であることが重要だったりします。難しい特許用語を使わずに、クレームや図面を見ただけでも、確かにこの製品に関する特許だ、と分かることが地味にポイントになります。
また、特にBtoBの営業のための特許であれば、売り先の視点に立ったクレームに仕立てることが重要となります。販売するものは部品であっても、部品が組み込まれたパッケージ製品の観点でも特許を取る。システムの提供であっても、システムを使う人の観点でも特許を取る。そうすることで、この企業から提供を受けないと自分が特許を侵害してしまうかも、ということになります。
また、③の企業価値を上げるという意味では、保有する知的財産権の価値を最大化するには、米国にも特許出願しておくことも考えられます。米国にもファミリーの特許があるというだけで、知財権の価値は大きく増加します。
⑤の特許トラブルに備えることをしっかりと考えるのであれば、実は自社製品をカバーする特許よりも、他社がやりそうな内容を権利化する方が有効となります。
以上のように、こんな単純なシチュエーションでも、特許の書き方や戦略というのは企業ごとに変わってくるわけです。
ベンチャー・スタートアップ企業にとって、まず1件特許を取ることには相当な意味があります。
また、その企業の置かれている状況や事業戦略をくみ取って、どういう特許に仕立て上げるという検討も重要ですね。
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