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4-2.近年の判例抽出(102条3項)

      2015/10/11

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直近2年間ほどで、102条3項の損害賠償額が認定された判決を抽出した。

 

平成25年(ネ)第10097号
知的財産高等裁判所第4部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(5億9510万5017円)×(3.5%)=(2082万8675円)

製品・技術分野

プラスチック製品

コメント

102条2項と3項の両方の適用が認められたが、3項のほうが高額になった珍しい事例。
業界相場の実施料率3.0%(イニシャルペイメント有り)、3.9%(イニシャルペイメント無し)をベースとしつつ、代替品の有無と特許発明の技術的意義を考慮し、3.5%と認定。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/071/085071_hanrei.pdf

 

 

平成24年(ワ)第12351号
東京地方裁判所民事第40部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(230億7589万7734円)×(2%)=(4億6151万7955円)

製品・技術分野

切り餅

コメント

102条2項と102条3項の両方の適用が認められたが、より高額となる2項の額が採用された。
なお、2項の計算は、限界利益率を30%、寄与率を10%として、230億7589万7734円×0.3×0.1=6億9227万6932円。
3項の適用における相当実施料率の2%がどのように認定されたかはよく分からない。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/042/085042_hanrei.pdf

 

平成25年(ワ)第32555号
東京地方裁判所民事第40部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(19億7164万0000円)×(3%)+
(4200万1550円)×(10%)+
(3787万7600円)×(10%)=(6372万8115円)

製品・技術分野

生海苔異物除去機とその部材

コメント

「売上高を基準とし,そこに,当該特許発明自体の価値や当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献などを斟酌して相当とされる実施料率を乗じて算定するのが相当」とし、

「実施料率〔第5版〕」(発明協会研究センター編)、「国有特許権等(経済産業省所管)の実施権設定について」(経済産業省技術振興課)、「ロイヤルティ料率に関する実態把握」(帝国データバンク)による業界相場をベースとし、発明の内容や貢献を考慮し、
本体装置は3%、部材は10%の実施料率と認定。

3%は業界相場範囲だが、部材を10%とした根拠は不明。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/018/085018_hanrei.pdf

 

平成25年(ワ)第6414号
大阪地方裁判所第21民事部

・損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(2億4834万9000円)×(7%)=(1738万4430円)

製品・技術分野

ガスサンプリング装置

コメント

日本における機械分野の特許発明に対するロイヤルティ料率(平均値:4.2%)と、司法データ(最小値が1%,最大値が10%,平均値が3.9%)をベースとし、
被告装置の存在は,システム全体の受注に一定限度寄与していることから、
実施料率を7%と認定。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/920/084920_hanrei.pdf

 

平成23年(ワ)第35723号
東京地方裁判所民事第46部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(2327万2615円)×(3%)=(69万8178円)


製品・技術分野

半導体レーザダイオード製品

コメント

実施料率認定の根拠は不明

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/777/084777_hanrei.pdf

 

平成24年(ワ)第31523号
東京地方裁判所民事第46部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(297万2779円)×(5%)=(14万8638円)

製品・技術分野

節水装置

コメント

被告からの損害額についての具体的な反論が無いため、原告が主張する5%の実施料率が認められた。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/715/084715_hanrei.pdf

 

平成26年(ネ)第10016号
知的財産高等裁判所第2部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(489万9000円)×(7%)=34万2930円

製品・技術分野

CO2ジェル

コメント

102条2項、3項の両方の主張がされたが、2項の算出額のほうが高額として2項が採用された。
2項の計算は、利益率を20%とし、(489万9000円)×(20%)=97万9800円

実施料率の認定に当たっては、
「実施料率」(発明協会)によれば同分野の実施料率の平均値はイニシャルペイメント有りで6.7%、無しで7.1%であること、
帝国データバンクアンケート調査によれば同分野の平均値が5.3%、司法データが6.1%、市場データが5.4%であることを鑑み、
7%とした。

相場以外の、発明の貢献などには言及無し。

なお、控訴人は和解交渉の過程で10%以上の実施料率を提案していたこと等を根拠に10%を主張するが、一つの提案に過ぎないとして認められず。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/449/084449_hanrei.pdf

 

平成24年(ワ)第14652号
東京地方裁判所民事第29部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(48億4774万8306円)×(1%)=(4847万7483円)

製品・技術分野

乾燥洗濯機

コメント

「実施料率」(発明協会)により、同分野の実施料率の平均値は、イニシャル有りが2.8%、イニシャル無しが4.6%であること、最頻値はイニシャル有りが2%、3%、イニシャル無しが4%であることと、

本件発明に係る機能が需要者の商品選択に寄与する割合が低いものであったとはいい難いものというべきであるということ、
一方で本発明の実質的価値(新たな技術内容)は蓋の検知のみであるということを鑑み、
実施料率は1%認定


平均値と最頻値の両方のデータが参照されているが、どちらの数値を重視したかは不明。(他の判例からすると、平均値のほうが重視されていると思われる)

また、業界相場の4%前後から、1%まで落としたロジックも不明。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/397/084397_hanrei.pdf

 

平成24年(ワ)第30098号
東京地方裁判所民事第46部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(55億8300万0000円)×(2%)=(1億1166万0000円)

製品・技術分野

スピネル型マンガン酸リチウム

コメント

業界相場の実施料率が3~5%だが、下記の認定を考慮し、実施料率を2%とした。

①本件発明は高温保存特性、高温サイクル特性等の高温での電池特性を向上させる効果を奏するとされているが、高温サイクル特性については明細書に具体的記載がない
②被告製品は置換元素にアルミニウムを用いるものだが、アルミニウムを置換元素として用いることは出願時に周知技術
③当該技術分野であるリチウム二次電池に一般的に求められる性能は、高温特性のほか、安全性、容量、充電時間、サイクル寿命など
④原告と被告は競合関係にある、被告のほうが市場占有率が高い
⑤業界相場の実施料率

これら考慮要素がどう働いて2%と認定されたかは不明。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/375/084375_hanrei.pdf

 

平成23年(ワ)第3292号
東京地方裁判所民事第29部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(23億0522万0816円)×(5%)=(1億1526万1040円)

製品・技術分野

住宅用火災警報器

コメント

102条1項、2項、3項の主張がされ、それぞれの採用が認められる。
1項による算定額が1億6751万2798円 であり、これが最も高額。

・「実施料率」(発明協会)によると、同分野の実施料率は平均値がイニシャル有りが3.3%、無しが5.7%であり、最頻値は有り無しいずれも1%であること
・本件発明の作用効果は、警報機の機能において一定の重要性が認められるものの、その作用効果が極めて大きいものとまでみることができないこと
・被告製品が本件発明1,2,4のいずれの技術的範囲にも属すること
を考慮し、実施料率を5%と認定

なお、原告は平均値の5.7%を、被告は最頻値の1%をそれぞれ主張していたが、平均値の主張が通った格好か。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/120/084120_hanrei.pdf

 

平成24年(ワ)第24822号
東京地方裁判所民事第46部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(4億1602万5629円)×(3%)=(1248万0768円)

製品・技術分野

動物用排尿処理材

コメント

時効の関係で、訴訟提起より3年以上前の行為は不当利得返還請求で実施料相当額(3項)を、以降の行為は損賠償請求で利益額(2項)を用いて請求している。
不当利得の期間については、
(4億1602万5629円)×(3%)=(1248万0768円)

損害賠償の期間については、売上(2327万4528円)×限界利益率(27.2%)×寄与率(50%)=316万5335円

寄与率を考慮しても、3項に比べて2項のほうが4倍以上高い割合で請求できている点が興味深い。

実施料率の認定に際しては、
・本件発明によるカラーチェンジ機能は、猫砂に求められる複数の機能のうちの一つにとどまり、顧客が他の機能より重視しているとはいえないものの、同種製品の販売上、不可欠ではないとしても有益な機能とみるべきものであること、
・被告製品の包装を見ても、カラーチェンジ機能をセールスポイントとして扱っていること、
・同分野の実施料率は3%程度の契約例が多いこと、
から、3%と認定。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/053/084053_hanrei.pdf

 

平成25年(ネ)第10016号
知的財産高等裁判所第4部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(28億1677万7778円)×(10%)=(2億8167万7777円)

製品・技術分野

薬剤分包用ロールペーパ

コメント

補償金請求と損害賠償がされた事件。

補償金請求における実施料相当額の算定に当たって、
帝国データバンクのロイヤリティ率アンケートデータが5.3%、司法決定ロイヤリティ料率の平均値が6.1%、最大値が20%であること、
本件発明の内容及び作用効果、被告製品の構成等を考慮し、実施料率を10%と認定。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/872/083872_hanrei.pdf

 

平成23年ワ第15499号
大阪地方裁判所第26民事部

損害賠償額(実施料相当額のみ)
(売上高)×(実施料率)=(実施料相当額)

(5億9519万5017円)×(3.5%)=2082万8675円

製品・技術分野

食材容器

コメント

2項と3項の両方で請求、高額な2項のほうが採用されるが、2項も2957万2201円と、3項と大差は無い。

同分野における実施料率の平均は、イニシャルペイメント有りで3%、無しで3.9%であることと、代替品の有無、特許発明の技術的意義を考慮し、3.5%と認定。

判決文URL

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/697/083697_hanrei.pdf

 

 

総括

102条3項の推定規定は、1項・2項と異なり厳密な適用要件が無いため、損害賠償請求訴訟において最も多く使われている。

1項や2項を主位的請求とし、3項を予備的請求とすることもある。そのような場合、多くは1項・2項のほうが高額となるが、稀に3項のほうが高額となることもある。
これは、原告の利益率(1項)や被告の利益率(2項)と実施料率相場(3項)の多寡の関係によるもので、必ずしも1項、2項、3項の順に高額になるものとは言い切れない。

直近2年間の判決においては、実施料率はいずれも1~10%の範囲に収まる。平均値は約5%である。


実施料率の考慮要素は多々挙げられているが、数値としては、業界相場が重要視されることが多いと感じる。

業界相場の資料としては、「実施料率〔第5版〕」(発明協会研究センター編)が最も多く採用され、次いで近年は帝国データバンクの調査データが採用されている。


実施料率として、平均値のみを参照する判決と、平均値と最頻値を参照する判決がある。
原告が平均値を主張し、被告が最頻値を主張した判決があるが、裁判所の判断においては(明示はないものの数値から判断するに)平均値が重視されているようである。

また、イニシャル・ペイメントが有る場合の平均値と、無い場合の平均値の両方が参照されているが、理論的には無い場合の平均値が使われているだろうと考える。

この業界相場に加え、事例によって様々な要素が考慮され、実施料率が認定されている。しかし、それら考慮要素がどのように働いて最終的な数値が認定されているかは不明である。

多くの場合は業界相場に近い値で認定されるが、稀に、大きく変動を受けることもある。


考慮要素としては、
代替品の有無、特許発明の技術的意義、特許発明自体の価値、特許発明を製品に用いた場合の売上及び利益への貢献、受注への貢献、特許発明の効果と製品に求められる性能・顧客が重視する機能、
などが挙げられている。

まとめると、「特許発明の製品販売への貢献」と言ってしまってよいかと考える。
特許発明の製品販売への貢献を考える要素として、上記のようなものがあると整理されるのではないか。

また、その他の要素として、原告と被告が競合関係にあることを考慮要素として挙げている判決もある。
これは、通常であればライセンスはしないということから、損害賠償額算定における実施料率を上げる方向に働く要素であると考えられる。


また、複数の特許権が挙げられている訴訟において、被告製品が原告の複数の特許権を侵害していることを実施料率の考慮要素としている判決もある。
どのように定量的に作用するかは分からないが、実施料率を上げる方向に作用すると考えられる。


なお、ベースとなる売上高と実施料率とに、若干の負の相関が見られる(相関係数:-0.38)。
損害賠償額が大きくなりすぎないよう、何らかの調整が働いているのではないかという邪推だが、統計的有意性に問題が残る。


最後に、実施料率の認定において寄与率を乗じることの妥当性を検討したいが、直近の判例からは良い資料がないため、残課題とする。

 

 

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