4-1-3.寄与率の考え方
102条3項における寄与率は、1項・2項とは多少話が異なる。
まず、前章で述べたとおり、実施料率の認定に当たって、「特許発明の寄与度合い(寄与の程度)」が考慮される。これは、売り上げに乗じる「寄与率」とは異なり、実施料率を上下変動させる考慮要素の一つとしての寄与の程度である。
つまり、一般的には、寄与の程度は、実施料率の認定の中に組み込まれるものであり、独立したパラメータにはならない。
しかし、102条3項の推定規定の適用に際しても、実施料率とは異なる独立したパラメータとしての寄与率が用いたられた裁判例は存在する。
例えば、 平成11年(ワ)第12586号 について見てみよう。
本件では、特許発明は「こんにゃく」であるのに対し、イ号物品はこんにゃくを含む「サラダ製品」である。
裁判所は、サラダ製品においてこんにゃくが占める寄与率を40%とし、実施料率を5%とし、売上×寄与率40%×実施料率5%という計算式でもって、損害賠償額を算出している。
そもそも寄与率という考え方は、製品全体のうち特許権を侵害しているのが一部分であるときに用いられるものである。
侵害をしている部品部分をベースにして実施料率を乗ずるのか、製品全体をベースにして実施料率を乗ずるのかで、その実施料率が異なるのは当然であろう。その調整をするものとして、寄与率を用いること自体に理論的な非整合性はないと思われる。
つまり、
①製品全体の売上をベースにし、製品全体の実施料率の相場から、寄与の程度を考慮して実施料率を引き下げるか
②製品全体の売上に、寄与率を乗じたものをベースにし、実施料率を用いるか
③製品の部品をベースにし、製品の部品における実施料率の相場を用いるか
3つのアプローチが取り得て、理論的にはどれを採用しても最終的な損害賠償額は変わらないはずである。
もう少し言うと、一旦のベースを製品全体とするときに、特許発明の寄与の度合いを実施料率のほうで調整するのか、売上のほうで調整するのか、その違いが寄与の程度から実施料率を認定する手法と寄与率を売り上げに乗ずる手法との違いと考えてもいいだろう。
理論的にはどちらも取り得るもので、事例に応じて計算のやりやすい方が選ばれればいいと思われる。なお、寄与率と表現しているが、これは貢献率でも利用率でも、ここでは概ね同じ意味になる。システム全体のうち、特許発明はどの程度の割合で利用されているか、など。
ただし、実施料率の認定全般において言えるが、寄与の程度をどのように定量的な実施料率に落とし込むかは不透明な点が多い。
①のアプローチを取ってあまりに大きく不透明に実施料率を切り下げるよりは、②のアプローチを取るほうが、合理的な場面はあり得るであろう。
なお、特許発明の客体を製品全体にするのか製品の一部分にするかは、クレームの書き方次第で容易に変更できる。クレームの末尾を「こんにゃく」にするか「こんにゃくを含むサラダ」にするかはテクニカルで形式的な問題だ。(特許の本質的部分は変わらないにもかかわらずだ。)
そのテクニカルなものによって寄与率が変わり、損害賠償額が変わるのは非合理に思われ、単にクレームの末尾としての客体が何かではなく、発明の本質がどこであるかを認定する必要があろう。
ただ、侵害が認められるか、構成要件の充足性からすればクレームの客体は狭い方がよく、損害賠償額の多寡からすればクレームの客体は広い方がよいとすれば、それはそれで面白いとも思われる。(意匠の部分意匠なども同じ問題)
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