ノーベル物理学賞~職務発明制度
青色発光ダイオード(LED)を発明した中村修二さんらが、ノーベル物理学賞を授与されることが発表されました。
本当におめでとうございます。
私は元々、物理を専門に勉強していたので、日本人のノーベル物理学賞受賞者が増えることは、単純に手放しで嬉しいことです。
さて、中村修二さんと言えば、青色LEDの職務発明訴訟で、一時数百億という巨額の争いをされたことで、知財業界では有名です。
現在、職務発明規定については、職務発明の特許を受ける権利を法人帰属とする方向で、法改正の議論が進んでいます。
ややもすれば、発明者に不利な取り扱いとなる法改正であるところ、中村修二さんは当時の判決への不満も一因として渡米してしまったこともあり、また法改正見直しの議論が再燃するのではないかと想像します。
以下、完全に私見ですが、
開発者への発明のインセンティブを強く与える仕組みが必要なことは誰も異論がなく、ここで検討が必要なのは、
職務発明制度がそのインセンティブにどのように寄与できるのか、
今回の法改正がインセンティブを下げることになってしまうのか、
という点。
まず、今回の法改正のポイントですが、大きく2つあって、
1つは特許を受ける権利を法人帰属にする点、
もう1つは、発明の「対価」ではなく「報酬」とする点(未確定)。
よく前者のほうが話題に挙がりがちですが、権利を法人帰属にする点に関しては、冷静に考えて異論があるものではないと考えています。
現状でも、企業で生まれる発明の出願手続きは企業で行っていて、その時点での譲渡有無の争いはほぼ無いからです。
結局問題となるのは、発明者に支払われる「額」であり、
影響を与えるのは、「額」の名目が、権利の「対価」なのか発明行為の「報酬」なのかという点。
なんとなくですが、
サラリーマンの報酬なんてたかが知れているので、権利の対価と考えたほうが額は大きくなりそう。
しかし、青色LED訴訟の件では、訴訟の対象となった特許は、実は訴訟後に放棄されています。
発明の内容や発明の成果物としての青色LED自体の価値が高いことは言うまでもありませんが、その特許権としては、クレームの範囲や文言に拠ることもあり、手法が少し変われば権利範囲から外れてしまい、実は大きな価値は見出せなかったということかなと思います。
純粋に特許権としての権利の価値を考えると、実際の発明の内容よりも、クレームの文言が影響を与えることも多いですし、権利の抜け穴的な点から、どれだけの範囲で独占することができたかというのが重要です。
思うに、発明者への待遇は、発明行為(業務)の見返りとしての報酬が自然なことで、特許権の対価という形でそれを補うのは、若干歪な気がします。
結局重要なのは、開発者に発明のインセンティブを与えることであって、イノベーションを促進する仕組みや環境作りです。
それはもちろん給与や報酬であり、また評価制度なり、開発環境なり、研究のチャンスなりであって、それらを高く保ち、開発者を惹きつけるのは、個々の企業努力だと思います。
今回の制度論は、実体としては大した話ではなく、むしろ企業内の仕組みづくりを熟考するほうが重要であり、そういう仕組みを考え直すきっかけだと捉えるのが建設的だというのが私見です。
途中で書いたような「サラリーマンの報酬なんてたかが知れている」という常識をどう壊していくかという企業内の仕組みづくりで、優秀な人員を確保し、イノベーションを促進し、企業の業績を上げていくことが王道であり近道ですね。
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