RPXがRockstarコンソーシアムから特許4000件を9億ドルで取得
RPXは23日、ロックスターコンソーシアムが保有する特許約4000件を、9億ドルで取得したことを発表しました。
この特許群は、元々2011年にカナダの経営破綻した通信機器大手のノーテル・ネットワークから45億ドルで取得した特許約6000件の一部です。
ロックスターコンソーシアムは、Googleにノーテルの特許が渡らないように対抗して設立された企業連合で、アンドロイド携帯メーカーにも訴訟を起こしていましたが、今回の特許譲渡によってこれらの争いが終結したことを意味します。
また、当初45億ドルで取得した特許群が、9億ドルで譲渡されたことから、特許価値の過剰な高騰が収まって来ているのか、とも思われます。
事実を整理した上で、特に金額についての見方を考えてみましょう。
ロックスターコンソーシアムとは
ロックスターコンソーシアムが設立されたのは2011年で、元々はノーテルの倒産に伴う特許オークションがきっかけになっています。
カナダの通信機器大手であるノーテル・ネットワークは、経営破綻により、約6000件の特許を競売にかけました。
LTEや3Gなど無線通信技術の核となる特許が多く含まれる魅力的な特許ポートフォリオであり、まずGoogleが約9億ドルの価格を提示しました。
しかし、Googleと間接的に特許で争っているAppleが、特許をGoogleに渡らせまいと、企業連合Rockstarコンソーシアムを設立し、約45億ドルで特許群を取得しました。
Rockstarコンソーシアムはその際に、Apple、マイクロソフト、RIM、ソニーエリクソンが資金を出し合って設立されたものです。
取得した6000件の特許のうち、2000件は各連盟企業に渡り、残りの4000件はRockstarコンソーシアムに譲渡されました。
これら4000件の特許については、他社の権利侵害品が無いか調査がされ、2013年には、Google、Huawei、サムスンや、アンドロイド機器メーカーであるHTC、LG電子、ZTE等に対して訴訟が提起されています。
元々はGoogleにノーテル特許を買わせまいとして設立された企業連合ですが、特許管理団体としては積極的な振る舞いを見せていました。
なお、ノーテル特許を買えなかったGoogleは、のちにモトローラ・モビリティを企業ごと買収し、特許を残して事業譲渡することになります。
RPXとは
一方のRPXは、防衛的な特許集約により特許リスク低減を掲げるサービスを提供する企業です。
争いになりそうな特許を先んじて買い集め、会員企業の安全を確保する目的です。
96社が会員となっている大きな団体で、Rockstarから訴えられていたHTCやLG電子等も会員になっています。
RPXは、この取引の一環として購入した特許をグーグルやシスコシステムズなど30社以上にライセンス供与すると発表しているので、Rockstarが起こしていた特許の争いは全て終結したと見てよいでしょう。
RPXはRockstarと同じ特許管理団体の側面がありますが、防衛目的が主であり、収益を目的とした特許訴訟は起こしていません。
金額の評価
さて、今回Rockstarは45億ドルで取得した特許の大半を、9億ドルで譲渡したことになり、大きな譲渡損が発生しています。
この額が低下したことをもって、スマホの特許係争は落ち着きが見られてきた、それによって特許価値が低下している、という見方をすることもできます。
が、それは正確ではありません。
譲渡額が大きく低下したことには、いくつかの要因があります。
時の経過
特許権には当然存続期間がありますので、時の経過に伴い残存期間が減少し、それに伴い減価償却もされているでしょうし、客観的にも(通常は)価値が低下します。
ライセンスの付与
これが一番大きい要因かなと思うんですが、Rockstarが特許取得後、特許を譲渡する前に、会員企業には特許ライセンスが付与されているはずです。
これによって、日本で言う当然対抗制度により、これら特許群についてはApple等の会員企業の安全は担保されたことになります。
つまり、差額の対価でもって、Apple等の会員企業はライセンシーという安全な立場を買ったと評価することもできます。
逆に見ると、ライセンシーというコブが付いた権利になることによって、特許権の価値は低減したと言えるでしょう。
譲渡前の和解
Rockstarが2013年に提起していた訴訟は、今年の11月に和解の合意がされていたそうです。具体的な和解条件は公表されていませんが、この和解でもって、十分に特許購入額の元をとったと評価しているのかもしれません。
まとめ
ということで、いずれも推測の域を出ないのですが、45億ドルで購入したものを9億ドルで売却したからと言って、Rockstarが大損したとは一概には言えませんし、特許市場価値が低下しているとの評価も短絡的です。
とは言え、これらの要因を加味してもちょっと減り過ぎなので、一番白熱していた時期の特許競売という形での購入により、高い買い物だったのかなと思います。
ちなみに、4000件の特許を9億ドルなので、1件当たり2500万円くらいの単価です。
これは米国における特許譲渡の平均額くらいかなという感覚です。
今回の特許譲渡でもって、非常に多くの企業が特許のライセンスを受けたことになります。RPXという団体の性格を考えれば、通常の企業への特許譲渡というよりは大規模ライセンスと言ったほうが妥当かもしれません。
最近は米国の大企業同士のクロスライセンスのニュースもよく見ますが、差止めを狙ったガチンコの特許訴訟よりも、クロスライセンス等の金銭による平和解決が主流になっているようにも感じます。
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