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強い特許を取るためには頭のネジを外す必要があるのか

   

久しぶりのブログ更新です。
年末年始の振り返りでも時事ネタの解説でもなく、頭でぼんやり考えたことを記事にするのは本当に久しぶり。


たまたま、別の機会で何度か同じような話をすることがありました。
それが、真に強い特許を取るためには、頭のネジを一本外さなければいけないのではないかということ。

きっかけは、セルフレジの特許だったり、いきなりステーキの特許だったり。
業界を騒がせるような特許って、一般的な専門家が見ると「こんな内容で特許になるの!?」というものだったりします。

僕たち専門家の頭の中には、大体このくらいなら特許になるだろうという相場観みたいなものが存在します。
それはもちろん、業界ごとにどういう先行技術があるかという知識と、それらとの相違点がどこに抽出できるかという発明把握力と、その相違点が進歩性の根拠足り得るかという判断力といった経験の積み重ねによるものです。

そういう相場観は基本的にはプラスに働いて、数あるアイデアや漠然とした事業企画の中から、特許にすべき点・できる点を見出し、頑張ればギリギリこのくらい広く特許にできるだろうという内容で出願をすることができます。この相場観こそ専門家としての能力だという見方もできるでしょう。

しかし、業界を騒がせるような上記の特許は稀に、我々の相場観を超えたところに存在してくるのです。

してみれば、本当に事業に貢献できるような、業界に影響を与えるような強い特許を取るためには、自分の相場観に身を任せるのではなく、意識的に頭のネジを一本外して特許出願をする必要があるのではないか、という問題提示です。なるほど一見もっともな意見です。
ただ、頭のネジを一本外すって、具体的にどうすればいいんでしょう?
クライアントによって事情も異なるので、必ずしも攻めた提案だけをすればいいわけではないことは確実です。もうちょっと掘り下げて考えてみましょう。


まずは、その相場観たる頭のネジは、本当に適切な締まり具合をしているのか、もしかしたら元々が過度に締まりすぎてしまっているのではないか、という疑問。

思うに、特許事務所の弁理士にとって、頭のネジがどうしても締まりすぎてしまう「構造的な問題」があるのではないでしょうか。
それは、自分の予測が外れて思ったようにスムーズに特許取得ができなかったとき、それをクライアントに報告するときに、精神的なダメージを負ってしまうということです。

専門家の判断にもブレはありますし、審査官の判断にもブレはあります。このくらいで特許になるだろうと思って取った選択肢がうまくいかなかったということは当然に起こり得ます。
それをクライアントに報告するとき。え、あれで取れるんじゃなかったの?と非難するクライアントはほとんどいないわけですが、それでも残念な顔を見ると、うっと感じるものはあります。
もちろん、その選択肢を取る前に、複数の選択肢とそのメリデメやリスクの説明と、上手くいかないときの話やそのリカバリ方法の話もして進んでいるわけなので、もともとあり得る想定の一つではあった、論理的に問題はないと言えるわけですが。それでも何かしらの精神的なダメージを全く感じないという人は、サイコパスなんじゃないかと思います。

そういうダメージを自分の糧にしながら、強い信念をもって邁進していくのが専門家なわけですが。
やはり精神的なダメージの積み重ねにより、無意識的にネジが締まっている可能性は否定できません。この「無意識的に」というのが問題です。

意識的にネジを締めてしまう専門家、例えば、本当はもう少し広い権利が取れそうだけど、取れなかったときに不満を言われるのが嫌だから狭い権利で補正案を提案しよう、みたいな人はそんなに居ないんじゃないかと思います。僕も、そうはなっていないつもりです。
ただ、「無意識的に」そうなっている可能性があり得るということです。


そういう、無意識的にネジが締まりすぎている可能性があるということを踏まえて、ではどうすればいいか。
1.自分に強い自信と信念を持って邁進する
2.根からのサイコパスか、そうでないなら頭のネジを一本外す
3.クライアントとの深い信頼関係を築く

1がたぶん王道なんだけど、それだけだと上手くいかないんじゃないってのが元々の問題提起。
じゃあ2で、頭のネジを一本外しましょうかって、え?それってどうやったらいいの??
ということで、この問題の解決方法って、実は3なんじゃないかと思うわけです。

時々失敗することがあるかもしれないし、それで余計な時間とお金がかかる可能性はあるけど、でもそれがトータルではクライアントにとって良いことだと思うからこうするよ、という専門家の提案と結果に対し、クライアント側がその内容を理解したうえで、OKやれ!失敗しても構わん、と言えるような信頼関係。
それがあると、無意識的なネジの締まりが解消され、リスクを取ったアグレッシブな知財活動ができるのではないか。
もちろん、盲目的に専門家を信頼するのはNGで、専門家側からしても盲目的に信頼されるのは怖い。

ということで行きついた結論は、しっかりお互いを理解しあった深い信頼関係の構築によってこそ、強い特許が取れるのではないかという綺麗ごと。
これで記事をまとめてもいいんですが、それじゃ寒いのでもう少し深堀しましょう。


じゃあどうやってクライアントと専門家との信頼関係を築けばいいのという方法論について。

一つは、お互いを理解していきましょうということで、例えば定期的なMTG(定例)で会話を増やしていく、顧問契約など。

もう一つは直接的に利害を共にしましょうということで、出資させてもらったりSOもらって社外取締役などのポジションにつくなど。

と言っても、後者の方はそれこそ信頼関係がないと出来ないことなので、どっちが先かという鶏卵みたいな話になるので、意識してやるべきこととしては前者の方ですかね。

会話を増やして、会社の状況・事業状況を正しく理解し、専門家側が何を考えていて選択肢ごとのメリデメがどうなっているのかを説明して議論する。

あれ、なんか結局めちゃくちゃ当たり前みたいな結論になっちゃいましたが、
きっと真理というのは当たり前に見えるものなんでしょう。

 

 

 - 弁理士

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Comment

  1. 塚本豊 より:

    >3.クライアントとの深い信頼関係を築く
    →その通り!
    小生、現在、発明家兼弁理士のため、クライアントと代理人弁理士とが1人の人間になった状態であり、最強の信頼関係の下で特許出願しています。利害を一体にすることが肝要です。
    もう1つは、近年の知財高裁の特許要件に関する判断に比べて、乖離した判断(厳しく判断)をする審査官(審判官)が割といます。「この審査官(審判官)の判断は知財高裁では覆る」と分かっていれば、必要に応じて強く出ることができます。

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