大企業案件とスタートアップ案件の違い(特許事務所視点)
うちの事務所はスタートアップのクライアントがとても多く、会社数で言うと8割くらいなのですが、
スタートアップのクライアントが多いというと、具体的にどのようなことをしているのか?とよく聞かれます。スタートアップ支援をする際には、何かすごく特殊なことをやっているんじゃないかという興味があるようです。
これまで、それをうまく言語化できていなくて、「うーん、特段変わったことをしているつもりはなくて、話をきいて、やるべきことを当たり前にやってるだけなのですが」とかごまかしていました。
よくよく考えてみましたが、大企業案件とスタートアップ案件には、もちろん色んな違いはあるのですが、最も大きな点、あるいは総括的に述べると、「企業と事務所との役割分担」が違う、というのが最大のポイントではないかと思います。
つまり、総合的に(企業+事務所という視点で)見ると、特殊なことをやっているわけではなく、やるべき基本的な事を当たり前にやっているだけ、ただし、それを企業側と事務所側のどちらがやるのかという点で、大きな違いがあると。
全体的に捉えると、やるべきことっていうのは
1)企業の事業戦略を理解した上で、知財戦略を考えて(特許出願の有無や分野やボリューム決めて)
2)知財に関する体制作って(ヒアリングするメンバー決めたりとか)
3)発明発掘・ブレスト・ヒアリングして
4)出願するポイントを検討して
5)出願内容の骨子を作って(必要に応じて発明提案書の形にまとめて)
6)出願書類を作成して、確認して、出願する
という感じかと思います。(分け方には色々意見あると思いますが、細かいことはさておいて)
で、大企業の場合は、上記のうち、1~5まで、企業の知財部側で行い、6の部分だけ事務所にお願いすることがほとんどかと思います。
ある人のブログで見ましたが、企業の知財体制が洗練されればされるほど、企業と事務所とのコミュニケーションは「発明提案書」(5のアウトプット)だけになる、と書かれていました。悲しいかな、本当にその通りです。
ですので、大企業のクライアントのみを相手にする事務所の場合は、受け取った発明提案書からいかに効率よく、クライアントの意図に沿った良い出願書類を作成出来るか、というのが良い事務所の評価ポイントとなります。(馬鹿にしているわけじゃないです、実際に非常に重要かつ難しいことで、どの大手事務所も出来ているという事ではないです)
一方で、スタートアップ企業の場合は、企業側の方でそんな人材はいないので、社長やCTOや事業部長と直で話しながら、3~6まで全て事務所側主体で、あるいは共同で進めることになります。1~2も共同で考えることが多いです。
また、そこそこの規模になってきている企業の場合は、5~6が事務所側の役割で、3~4は一緒にやって、クライアントによっては、2のお手伝いをしたり、1の協議相手になったりするような役割分担です。
そうすると、求められる事務所側の能力というのも変わってくるでしょう。
うちの事務所では、そういうクライアントがほとんどなので、なんとなく当たり前のような感覚になっていて、かつ実際にやることも(企業知財部を経験している立場からは)特殊なことをやっているわけではないので、冒頭のような感想になっていたのですが、よくよく考えるとやっぱり結構違いますね。
スタートアップ企業の案件だから、スピード感が違うとか、予算感が違うとか、1件の特許の重要性が違うとか、もちろんそれも否定しないけど、根本的にはそれは大きくは違わないはずで、やっぱり役割分担の問題のような気がします。
実際の案件を進める時は、クライアント企業の知財部長になったくらいの感覚・立ち位置で、考えて進めることが多いです。それがいい事だと勝手に思っていたのですが、どのくらいクライアントの立ち位置に踏み込んで考えるべきかというのも、クライアント企業の規模と洗練度合によって変わってくるんでしょうね。
・・なんてことを思ったので、頭の整理がてら、書いてみました。
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