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プロダクト・バイ・プロセス・クレーム 明確性要件に関する審査基準と今後の審査の進め方・判断

   

プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)の最高裁判決が出て、知財業界に動揺が走っています。

先日書いた「プロダクト・バイ・プロセスクレームの憂鬱 最高裁判決解説」は、判決が出た翌日に慌てて書いたのですが、そんなにポイントがずれていないようで良かったです。そこそこ反響がありました。

物同一説を取るということまではいいのですが、明確性要件について、これまで以上に厳格な審査がされることになり、出願人・代理人も、特許庁側も、対応を迫られています。


PBPクレームに関する審査・審判は、判決が出た直後からストップがかかっていましたが、本日、PBPクレームに関する当面の審査の取り扱いについてリリースがされました。

その内容について簡単に紹介しようと思います。

 

PBPクレームに関する当面の審査の取り扱い

リリースされた内容は、「産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 審査基準専門委員会WG」にて議論がされたものです。


本WGでは、元々は審査基準全般にわたる改訂について議論がされていて、前回(最終回)は改訂事項を確認して終了、という予定だったのですが、
最高裁判決が出て、PBPクレームについての審査基準の改訂の必要性が急に生じたので、急遽このWGで、PBPクレームの審査基準について議論がされる運びになったようです。
ちょうどいい箱があって良かったですね。

こちらに結論が出ています。
http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/pdf/product_process_C150706.pdf


要旨認定については、物同一説ということで取り扱いは変わらず、明確性要件について、最高裁判決をそのまま採用するという内容です。

つまり、
物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が「発明が明確であること」という要件に適合するといえる
のは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下、「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られ、そうでない場合には、当該物の発明は不明確であると判断するということ。

審査の取り扱い・進め方を整理すると、下図のようなフローになります。

プロダクトバイプロセスクレーム審査

PBPクレームに当たると判断される場合は、「不可能・非実際的事情」が存在するかどうかで、明確性要件が判断されます。

「不可能・非実際的事情」については、明細書にその主張・立証がされていればそれが考慮されるようです。

しかし明細書にそんな立証が書かれている例は少ないでしょうし、出願人としてもそんなことを明細書に書きたくないでしょうし、またある程度書かれているとしても審査官としては意見書にて一応の主張を求めたいでしょうから、
PBPクレームの場合はとりあえず一発は拒絶理由通知が来ると思っていて間違い無さそう。

その意見書において「不可能・非実際的事情」があることを主張・立証することになります。

そして、その主張について審査官が「合理的な疑問」を持たなければ、拒絶理由が解消されることになります。


合理的な疑問(合理的な疑い)という言葉から捉えると、ある程度高いレベルの主張・立証が求められそうですが(刑法にある概念ですね)、そこは柔軟に対応する雰囲気のようです。


まあ、予想通りの対応方針ですね。

 

なお、最高裁判決が出たものの、明確性要件についてはもう一度知財高裁にて判断がされることになりますので、その判断基準などについては微修正がされる可能性もあるかと思います。

したがって、審査基準や審査の対応についても、今後変わり得るものですが、いつまでも審査を止めておくわけにはいかないので、当面の取扱いということで迅速に対応した今回のリリースについては、評価できるものかと思います。

そして知財高裁には、本件というより、PBPクレーム全般について、軟着陸ができるような判決を示してもらうことを期待します。
(もうひと頑張りしないかな。パブコメを募集したりして。)


なお、最後の拒絶理由通知後に、PBPクレームをその物の製造方法の発明にする補正は、明りょうでない記載の釈明(特許法17条の2第5項4号)に該当する補正として、認められることにするそうです。
訂正審判についても同様でしょうか?

 

射程と今後の影響

今回の判決の射程についても気になります。

純粋にPBPクレームについてのみの話なのか、Means Plus Functionクレームや用途限定の物の発明にも及ぶのか、など色々言われていますが、
PBPクレームについてのみが射程と捉えるのが自然なんだろうと思います。

とは言っても、PBPクレームって、医薬分野に限らず、実は幅広い分野で(意図せず)使われているんですね。

たとえば今回の特許庁が出している例を見ると、
「凹部を備えた孔に凸部を備えたボルトを前記凹部と前記凸部とが係合するように挿入し、前記ボルトの端部にナットを螺合してなる固定部を有する機器。」
というクレームも、PBPクレームと判断されるようです。

まあこの辺は書き方次第で回避できるけど、注意は必要ですね。

また、前回も書きましたが、本判決の背景にある要旨認定と技術的範囲認定を同じにすべきという考え方は、もっと広いところに影響を与えるように思います。

 

ところで、今回の最高裁判決をもって、PBPクレームに36条が打たれまくるとすると、それってちょっと米国のAlice判決の影響に似ていますね。

 

 - 特許

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