川上量生のニコニコ哲学からコンテンツビジネスを考える
修了考査の試験を控えて、仕事以外の読書はしばらく禁じていたのですが、その禁読書を破って読んでしまいました。
インタビューとか対談とかを見ると、毎回面白いことを言っている。独創的で面白いんだけど、なるほど理にかなっていると思わせる。
今後のネット業界・コンテンツ業界において、何かやらかしてくれるだろうと期待をして見ています。もっと有体に言うと、僕は川上さんのファンと言ってもいいかもしれません。
何も考えていないように見せて、実は深く深く考察して、独自の考えをしっかり持っている。その話を聞いた瞬間に面白いと思うだけではなく、その後も尾を引くように影響を残す。
ちなみに、数年前は同じような感じで、西村ひろゆきさんが好きでした。尊敬するというとちょっと違うけど、とにかく話が面白くて、ひろゆき対談シリーズは全てチェックしました。博識というのとは異なり、頭の回転が速いから対談相手から話を無理やり引き出すのが上手い。
そのちょっと前はホリエモンが好きで、ひろゆきが姿を消して?からは、東浩紀さんとか津田大介さんとか岡田斗司夫さんとかに少しずつ影響を受けています。そして最近は川上さんに注目している。大体そんな感じの趣味範囲の中に生きてます。とにかく、頭のいい人が好きなんですね、きっと。
さて、随分と話がそれましたが、この本はインタビュー形式で、各テーマで川上さんが正しいと思っていること、考えていることを引き出しています。過去のニコニコの話や、将来の話、全く関係無い話まで、多岐に渡って面白いです。
よくある経営者の経営方針や哲学を語るようなビジネス書を期待して読んだら、若干期待外れになるかもしれません。ただ純粋に面白い。
全体を通して思ったけど、川上さんはすごく論理的、というか理屈的なんですね。楽観的な理屈屋という感じ。楽観的・直感的で、細かいレベルでは場当たり的に進みながら、大きいラインではしっかり考えと理屈がある。そんな川上さんの話を聞くのはとても面白い。
僕もどちらかと言うと理屈的で合理主義者のほうです。
そういえば、小学2年生の時に担任の先生から「君は屁理屈ばっかり言う。そんなに理屈をこねるのはやめなさい!」と怒られたのは今でも記憶に残っています。子供ながらにちょっとショックでした。
コンテンツビジネスについて
さて、この本で一番注目てして見ていたのは、コンテンツ周りのビジネスモデルと、クリエイターへの対価還元、著作権法について。著作権法については様々な場所で議論検討されていますが、川上さん含むKADOKAWA・DOWANGOは大きな影響を与えるんじゃないかと思って、川上さんの考えを知りたかったのもこの本を買った理由です。
特に角川とドワンゴの経営統合によって、影響力が一気に強まったように感じます。
電子書籍のサービス自体が、キンドルとかiBookと同じような機能を提供しているだけ・・・。そうじゃないプラットフォームやフォーマットをつくるっていうのは、当然やるべきことだと思います。・・・電子書籍は出版社の影響力が強い分野なんですけど、KADOKAWA・DOWANGOという組み合わせが誕生することによって、出版社とネットがひとつになったサービスが生まれる可能性が出てきましたよね。
まったくその通り。
そういうオープンなものを作るのなら、ドワンゴ単体でやったほうがやりやすい面もあるのでは?
僕は違うと思っています。だって、IT企業ってなんか、信用できないじゃないですか。ドワンゴもIT企業ですけど。・・・IT企業というスタンスをとっている時点で、本当にコンテンツにとってベストなプロダクトやサービスは出せないし、世の中も出せないと判断する。僕はそう思っています。そうじゃなくて、コンテンツ企業としての色があったほうが最終的にうまくいくし、なんだかんだいって世の中も信用するんじゃないかと思うんですよね。
IT企業ってなんか、信用できないと。確かにコンテンツホルダーから見るとその通りだし、世の中からも間接的にそう見えているのかもしれない。
プラットフォーム自身がコンテンツを作ったほうがいい。
コンテンツビジネスをしていないプラットフォームというのは、とにかくコンテンツの値段を下げようとするということです。ユーザーが集まってプラットフォームが拡大すれば、後で帳尻を合わせられるから。プラットフォームの拡大時期においては、コンテンツなんかスーパーの特売の卵みたいなもので、客寄せのツールなんです。・・・ドワンゴは着メロ事業のとき、クリエイター側にいたんですね。
そうですよ。僕らはキャリアの値下げ圧力に対して、ずっと戦っていたんです。コンテンツをつくらない企業がやっているプラットフォームでは、コンテンツは単なるプロモーション材料に堕落する。
そうか、ドワンゴは元々はクリエイター側のポジションに立っていたんですね。そして今のニコニコ動画は、事業のくくりとしてはIT事業ですが、UGCによって成り立っていて、そして独自の文化・コンテンツが育っている今では、一種のコンテンツホルダーとしての一面もある、独特の企業です。
そういう中で、川上さんは、コンテンツを値下げして客寄せの道具にすることに強い抵抗を感じているようです。
コンテンツをつくらないプラットフォームは、最初はとりあえず、既存のプラットフォームよりも安くコンテンツが手に入る場所にするんです。そして、プラットフォーム自体の競争力を強くしようとする。オープンなプラットフォームっていうのはそうなっちゃうんですよね。みんな自由とか公平とかよくわからない倫理観でオープンを支持するけど、本当はそんなの地獄でしかないんです。
なるほどね。オープンなプラットフォームに懐疑的なのは、IT事業の経営者としては珍しい気がする。
ニコニコ宣言から
第五宣言 ニコニコはネットでのコンテンツと著作権の新しい可能性を追求します
われわれは、ネットを大義名分として無料あるいは格安で利用できるようなサービスやビジネスモデル、また他メディアのコンテンツをそのままあるいは劣化した形で利用するサービスやビジネスモデルをめざす考え方は断固拒否します。われわれがつくりたいのはコンテンツの新しい利用法、楽しみ方、広め方をユーザーとクリエイターの双方に提供することであって、コンテンツの世界が豊かに広がるためにはクリエイターに利益がもたらされることが根本的に必要であることを信じます。
また、われわれは既存のコンテンツのネットでの延長線上のものだけでなく、ネットで生み出される新しいタイプのコンテンツをもつくりだすことを目標とします。われわれは現実世界のコンテンツを仮想世界へ単純に投影しただけでは、コンテンツの世界は拡大されないことを知っており、仮想世界においてユーザーが欲しがるコンテンツをつくりだし、新しい著作権の対象物となることを目指します。
既存のコンテンツにフリーライドすることを嫌い、ネットで新しいタイプのコンテンツを作り出し、新しい利用法や楽しみ方を提供することで、クリエイターに利益を還元すると。
現在進められている文化庁のクラウド小委員会では、杉本さんが事業者の中ではかなり独自の路線の発言をしていますが、これらの川上さんの考えと照らせば、言いたいことがよく分かります。
別に権利者団体に迎合するわけではないんだけど、一方的な権利制限を広げて無料でコンテンツを使うよりは、一人ひとりのクリエイターの利用に応じた利益が還元されるモデルを作りたいということでしょう。
僕も理想論としては全くその通りで、コンテンツ全般が大好きな人間なので、好きなクリエイターさんにはしっかりと十分なお金が回っていってほしい。しかし法的根拠の無い見せ金的なお金を一部の権利者団体だけに払うわけにはいかないし、特に1億総クリエイターと言われるネット時代においては契約だけでビジネスが上手くいくこともない。
コンテンツを利用した円滑なビジネスを進めながら、クリエイターにしっかりと対価を還元するには、上手いビジネスモデルかスキームを考える必要があるのですが、なかなか難しいですね。
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