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不正競争防止法(営業秘密保護)改正予定案の概要解説

   

秘密

産業構造審議会の「営業秘密の保護・流通に関する小委員会」にて、昨年9月から営業秘密保護の強化について議論がされていましたが、1/15の委員会にて中間取りまとめの報告書(案)が確認されました。


中間取りまとめ(案)では、各要点の方向性が定まったのみで、具体的な条文案のようなものまでは出てきていません。
今後、パブコメに付された後、今年の通常国会にて、不正競争防止法の改正案が提出される流れになろうかと思います。

今見えている範囲で、改正予定のポイントについて、紹介します。

 

全体的には、日本企業の技術情報や顧客情報など営業秘密の流出事例が増えていることに対応すべく、営業秘密の保護規定を強化するという方向性となっています。

 

民事規定

営業秘密使用物品の譲渡・輸出入等を差止・損害賠償の対象とする

営業秘密侵害に対する抑止力向上の観点から、営業秘密の不正使用に加え、その不正使用によって製造された侵害物品の譲渡・輸出入を禁止する規定が追加される見込みです。

なお、特許法においては、特許法2条1項三号にて、物を生産する方法の発明にあっては、その方法により生産した物の使用、譲渡、輸出等も発明の実施であり特許権行使が及ぶ範囲とされています。

不正競争防止法においてどのような条文になるのかは分かりませんが、特許法での規定と同じような扱いになるイメージでしょうか。
物を生産するノウハウに限られるのか、分析・検査等のノウハウも含まれるのか、この辺の範囲が詳細な論点ですね。


立証負担の軽減規定を設ける

現状では、被告が営業秘密を不正取得して使用していることを原告が立証する責任があります。
しかし、特に不正使用について原告が立証をするのは相当な困難性があります。当然ですが不正使用についての証拠は被告の側に偏在しているからです。
民訴法の文書提出命令規定があるものの、そのためには被告文書の特定が前提となり、利用は簡単ではありません。

そこで、物を生産するための営業秘密において、一定の要件を満たす(営業秘密と被告製品に相当の関係性がある)場合には、その営業秘密を不正取得・使用していないことを被告側が立証する責任を負うようにする、という方向性です。

つまり、不正使用に関する推定規定を設けることで、立証責任を転換するということです。

特許法104条の推定規定と類似していますが、結構に影響の大きいポイントになりますので、具体的な条文案や、推定が適用できる範囲・要件が気になります。

現状の議論では、物を生産するための営業秘密に当初は限られており、上記の営業秘密使用物品の譲渡等と同様で、検査や分析等の営業秘密が使われた場合には適用されず、逆に生産方法であれば、生産効率向上のためのちょっとした工夫でも適用され得ることになりそうです。

推定規定の適用範囲については、柔軟性を持たせるために政令で定めることになりそうです。

この場合の推定規定は非常に強い規定になりそうですので、あまり範囲を広げるよりは、文書提出命令をしっかり活用できるようにするほうが王道なのかもしれません。


除斥期間の延長

除斥の期間が、現行の10年間から20年間に延長される見込みです。
営業秘密の流出後、実体が分かるまでに長期の期間を要することがあり得るためです。

 

刑事罰の範囲

三次以降の取得者を処罰の対象とする

現状では刑事罰の範囲が二次取得者までに限定されていますが、その限定を削除し、三次取得者以上の者についても悪意であれば刑事罰の対象とする見込みです。

昨今のIT技術動向により、一度流出した営業秘密は拡散のスピードが早いためです。
3次取得者以降も処罰の対象とするのは、有体物の盗品と扱いが同じになるということです。


営業秘密使用物品の譲渡・輸出入等を処罰の対象とする

民事と同様です。

国外犯を処罰対象とする

現行法では、国外における営業秘密の取得行為は、処罰対象となるか不明確になっています。
一方でグローバルな事業展開や、クラウド技術の進展に伴い、特にクラウドのサーバーは海外に拠点があることが多いため、営業秘密自体は国外に保管されていることが少なくありません。

そこで、国外における営業秘密の不正取得等があった場合にも、刑事罰の対象とする見込みです。


故意による不正取得等の未遂行為も処罰対象とする

情報の窃取技術の高度化・複雑化に対応するため、情報流出の未遂行為も処罰の対象とする見込みです。

なお、共謀罪や教唆犯の処罰については、引き続き検討とされています。

 

法定刑の重罰化

法定刑について、下記の通り重罰化される見込みです。

懲役:10年以下 ⇒ 変更なし

罰金刑:1000万円以下 ⇒ 引き上げ

海外重課:無し ⇒ 引き続き検討

犯罪収益没収(個人・法人):無し ⇒ 引き続き検討

罰金刑(法人重課):3億円 ⇒ 引き上げ


また、大きいポイントとして、現状は親告罪とされている営業秘密漏えいを、非親告罪化する見込みです。

営業秘密の漏えいを親告罪としていた理由は、刑事裁判によって営業秘密が広まってしまうと、かえって被害者企業の被害が拡大する懸念があるためです。

しかし、
・平成23年法改正により、刑事訴訟手続きの特例が設けられ、一定の手当てがされていること
・個人情報漏えいの場合などは、保有者と漏えい被害者との不一致が存在する可能性があること
・取引先との関係性によっては、取引先を告訴することが困難な場合があること
からして、非親告罪とすることが適当という考えです。

著作権もそうですが、非親告罪化が現在の流れなのでしょうか。実際に非親告罪化した場合に、どのような実体への影響が出るのか、判断が難しいところです。

 

改正のポイントは概ね上記のような感じです。

なお、不正競争防止法には、営業秘密の保護に関する規定のみならず、様々な規定がごちゃまぜになっていることから、営業秘密に関しては不正競争防止法から切り離し、新法を作るべきだという意見もあるようで、今回の報告書を踏まえて、どのような法律が出来上がるのか注目します。

 - 知財戦略

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