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特許業務法人のメリット・デメリット

   

ブログを休憩していた間、様々な変化がありましたが、一番大きいのは、特許事務所を法人化した、ということです。

特許事務所というものは、実態としては個人事業主なのですが、特許業務法人という制度があり、それを法人化することができます。

 

よく、なんで法人化したんですか?とか、何かいいことがあるんですか?と聞かれるので、
特許業務法人のメリット・デメリットを紹介しておきます。

デメリット

まずは、デメリットから紹介していきます。

社員(無限責任)が2人必要

ここでの「社員」とは、通常の会社の社員(従業員)とは異なり、無限責任を負う役員のようなものです。
捉え方にもよりますが、これが法人化の最大のデメリット(あるいは障害)です。

日本の特許事務所の数は4000以上ですが、うち、法人化しているのは300弱と、割合はかなり低いです。法人化を検討したが辞めた、という事務所の多くは、これが理由だと思います。

上述のように、特許事務所は規模が大きくなって会社のような組織に見えても、結局は個人事務所であり、所長の権限は会社のオーナー社長よりも強いものです。そこに、無限責任を負ってもらう二人目の社員を決めるというのは、結構難しかったりします。また、特許業務法人の社員は、合同会社の社員と同じように、議決権としては人数の頭割りになるので、社員同士の関係性もセンシティブになります。

ただ、逆に、社員二人体制になることによって、所長がすべての権限をもつワンマン体制は抑圧され、組織としては健全になるというメリットとしても捉えられます。
特にうちの場合は、もう一人の社員どうしようかなー、と悩んでいたことによって、今のCOOの湯浅という強力なパートナーと一緒になることができました。
なので、一長一短なのですが、法人化しようと思った際の最大の障害であることは間違いないでしょう。

 

切替が大変

手続の代理人としての主体自体が、個人から法人に代わるので、既存のクライアント全てから委任状を取り直して、全ての継続案件に対して代理人の変更手続きをする必要があります。
はっきり言って、めちゃくちゃ大変です。

もちろん、対特許庁手続きのために、証明書ファイルや識別番号や振替口座の設定なども、改めて行う必要があります。
そのほか、オフィスの賃貸借契約や電話回線などの契約も、全て契約主体を変える必要があります。

また、法人化によって少なからず名前が変わります。「○○特許事務所」から「○○特許業務法人」へ変えるだけであれば影響は少ないかもですが、うちの場合は事務所名を大きく変えたので、メールアドレス・HPのドメインなども変更が生じます。

めちゃくちゃ面倒です。

 

弁理士会費がかかる

法人分の弁理士会費がかかります。

個人でもそれぞれ払ってるんだから、さらに取らなくてもいいじゃないかとも思いますが、上記2つのデメリットに比べるとなんてことない話です。

 

 

メリット

続いてメリットの紹介です。

税金問題

一番ダイレクトかつ分かりやすいメリットが、税金ですね。

とりあえず、事業主体が変わるので2年間消費税がかからなくなります。いや、これは結構でかいです。

また、個人から法人になることによって、所得税から法人税に代わります。売り上げ規模にもよりますが、メリットであることは間違いないですね。

なので、うちも個人として開業して2年たつタイミングで、法人化を検討しました。

 

契約主体が法人になる

法人になることによって、クライアントからの信用力が増す?なんて声も聞きますが、たぶん、実際に仕事を出してくれる企業側からすれば、それが事務所だろうが特許業務法人だろうが、どちらでも気にしないと思います。

むしろ、クライアントではなく、オフィスの賃貸借契約や電話回線や、アスクルとか細々したサービスの利用・契約を法人主体で出来るというのは、地味に楽です。

例えばオフィスの賃貸借契約の場合、法人主体であれば保証人不要・あるいは代表者個人を保証人で契約できたりしますが、
個人(特許事務所)で契約する場合だと、自分以外の人、しかも別の会社の人(収入源が別の人)を保証人にする必要があり、親族にお願いするしかなかったりして、不都合があります。

その点、法人主体で契約できると、実体にも合うし、気が楽です。

 

代表も健康保険・年金に入れる

個人事業主の場合だと、従業員の社会保険はしっかり手当てするけど、自分だけは国民健康保険・国民年金ということになるのですが、法人化すると自分も同じようになります。

まあ、大した話ではないですが。

 

源泉徴収が不要

これはクライアントへのメリットとして、結構大きいと思います。

大企業であれば、なんてことない話ですが、スタートアップや個人からの依頼の場合、源泉徴収の支払い方が分からなかったり、面倒だったりするので、それが不要になるのは嬉しいですよね。

 

会計・経営の透明性・明確化

これも捉え方によるかもしれませんが、私は最大のメリットだと考えています。

個人事業主の場合、自分への給与というものがないので、売上から従業員の給与など様々な費用を支払って、残った利益がとりあえず全部自分のもの。生活費にも使うし、事務所への投資にも使う、その切り分けはあいまい。経費で落とすというのも適当で、結局はポケットマネーで払うのと同じこと。

事務所の利益に応じた従業員へのボーナスを設定したいと思っても、経費の中には個人の経費のようなものも交じってきて、全てを従業員に開示するのが躊躇われる。
なんていうことになってしまいます。

一方で法人化することによって、役員報酬もしっかりルールを決めることになり、事務所の利益というものが明確に観念・測定できるようになります。それに基づき、投資などの経営判断もクリアに行えます。

事務所の健全な経営という点では、大きなメリットかと思います。これが明確化して透明化されることによって、従業員全員に、事務所を良くしていこうという思いが共通化されやすくなると思います。

 

 

という、メリデメを勘案の上、うちは法人化しました。

個人のどうでもいい費用を経費で落としにくくなったという点を除いて(あるいはそれも含めて)、良かったかなと考えています。
とくにうちの場合は、法人化きっかけでCOOの湯浅が加わり、単に法人化したというよりは、新しい事務所を設立してリスタートをきったという感覚です。

それもあって、従来の「安高特許会計事務所」から大きく名前を変えて、「IPTech特許業務法人」としました。
自分個人ではなく、法人という箱を、成長させていきたいという思いです。

 

 - 弁理士

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Comment

  1. ABアソシエイツ より:

    所長がすべての権限をもつワンマン体制は抑圧され、組織としては健全になるというメリットが特許業務法人にはあるはずです。

    しかしながら、AB特許業務法人は、A代表社員ともう1人のB社員の仕事の量に大きな差があり、A代表に権限が集中しています。

    最近、A代表が配偶者と別居するために民間の賃貸契約を結びました。その際にかかった敷金、保険、家賃などの全ての費用が、経理担当を通さず内密に、契約してる社外税理士に手続きされました。個人の消費が会社の経費(社宅)として処理されたわけです。

    Aが単独で行ったので、共同経営者であるB社員も、他の社員も知りません。

    また、特許庁から返金されたお金をクライアントに返していない事実も多々あります。

    全く透明性がなく、ワンマン経営になってしまっているのですが、法人として健全に機能し、全ての社員が満足するような解決策はないでしょうか。

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