Googleニュースと著作権
スペイン著作権法改正
スペインの2015年1月施行の著作権法改正により、ニュースの見出しや抜粋の再配信に対して、使用料が課されるようになりました。
Googleニュース対策(Google税)と言われていましたが、Googleはこの法改正を受けて、あっさりとスペインでのGoogle Newsの提供を中止することを発表しました。
なんというか、Googleの強さがよく分かる事例で、これがスペインにとって良いことだったのかどうか、判断しかねます。スペイン国民はもちろん、スペインの新聞社も流入が減って困る結果になるのではないでしょうか。
Googleニュースは至るところで新聞社等と著作権の問題になっているので、日本での解釈も含めてまとめます。
Google Newsの著作権法上の論点
まずは各国に共通する論点の整理。
Googleニュースは、機械的にニュースサイトを巡回してリンク等を表示するサービスです。基本的に、ニュース配信元の許諾を得ずに実施していると言われます。一応「Googleニュースへの掲載を望まない報道機関は事前に申し出ることで、掲載を差し控えるとしている」との対応も可能のようです。
日本では2004年9月にベータ版の提供を開始しました。
ページでは検索もできますが、検索を経ずともトップページには本日のテーマごとのヘッドラインが表示されます。
表示されるのは、ニュースの見出し、記事の抜粋(スニペット)、画像の3種類。
まず、ニュースの見出しについては、基本的には著作物性が無いとされる可能性が高い。ですが、スニペットや画像については著作物姓が認められるので、これらの複製権侵害や公衆送信権侵害の検討が必要となります。
つまり、スニペットと画像の表示について、各国の法制度に照らして、引用の範囲内か、検索や報道目的等の権利制限の範囲内か、フェアユースの範囲内かといったことが論点となり、あるいは権利者が黙認するかどうかという点も論点となります。
なお、リンクを張ること自体は著作権侵害にはなり得ません。(ディープリンクのマナーの問題はあるかもしれませんが)
ドイツ
少し前にスペインと同じような問題があったのはドイツ。
こちらはスペインのような強制力のある法改正ではなく、訴訟での争いとなります。
まず、ドイツは2013年に著作権法改正により、メディアに対して検索サイトにニュース使用料を要求する権利を認めたものの、検索結果に抜粋(スニペット)を表示することまでは、権利の例外扱いとされていました。
しかし、著作権法の解釈を超えて(多分)、
ドイツの出版社団体であるVG Meidiaは、Googleニュースのスニペットを掲載していることで得ている売上の11%を支払うように求める訴訟を提起しました。
それを受けて、2014年10月2日に、Googleはドイツ新聞社のWebページを検索結果に掲載する際に、スニペットやイメージ画像を非表示することに決定しました。
そこまでは良かったのですが、スニペットを非表示にした結果、検索トラフィックが大幅に下落し、出版社に深刻な経済的損失が発生。
わずか2週間後の10月23日に、VG Meidiaはスニペットを元通り表示するようGoogleに要請する自体となりました。
なんともかっこ悪い結末。
もちろんVG Meidiaは、使用料を貰いながら、スニペットはしっかり表示しての検索流入確保を目指していたのでしょうが、Googleは使用料を払うくらいならスニペットは別に表示しなくてもいいよ、と。
結果として経済的な損失を受けたのはGoogleではなく、むしろ出版社のほうであって、ある意味Googleに降伏したような形となります。
ベルギー
早くからGoogleニュースが司法で争われていたのはベルギー。
Copiepresseという団体がGoogleを訴えたのは2006年でした。記事タイトルやスニペットの利用とキャッシュへのリンクを表示することが著作権侵害であるという主張です。
長きに渡る争いは、2012年の12月に和解という形で解決を迎えました。Googleによれば、新聞社各社と連携し、ペイウォールやサブスクリプション、GoogleのAdSenseプラットフォームを利用したサイト広告、モバイル端末向けコンテンツ配信への協力など、新聞社の収益を増やす複数の取り組みを行っていくということ。
そのため、Googleニュースの行為が著作権侵害に当たるかどうかは明確な判断がされていません。Googleは法律に違反したわけではないが、新聞社の権利を尊重したものであり、権利者に支払いが生じたわけではない、という言及をしています。
地裁では著作権侵害という判断がされていたように思います。
米国
米国にはフェアユースという強い規定があるため、Googleニュースの行為がフェアユースに当たるかどうかが論点となります。
米国では、2004年に、フランスに拠点を置く通信社AFP(Agence France Presse)がGoogleニュースの違法性について訴えを起こしていました。
2007年4月に、和解に至り、ライセンス契約を締結しました。ライセンスの内容は不明ですが、この契約により、より幅広い方法で使用できるようになるということでした。
結局米国でも、Googleニュースがフェアユースに当たるかは不透明なまま残っています。
なお、meltwaterというニュースのまとめをメール配信する企業が著作権侵害で訴えられていた事件は、フェアユースが認められず違法判決が出ています。
同社はGoogleニュースと同じ性格のものでフェアユースだと主張しましたが、メールからのクリックスルー率が0.08%(Googleニュースは56%)と極めて低いこともあり、権利者の利益を害していると判断されたもよう。
逆に言えばGoogleニュースはフェアユース範囲内とも捉えられそうですが、なんとも言えません。
英国
2007年に、イギリスの有力ニュースグループ数社とGoogleとが、GoogleNewsへのコンテンツ利用のためのライセンス契約を密かに結んだという記事がありました。
詳細は不明です。
日本
日本では、表立った争いが見られませんでした。
現在の日本で合法かどうかを考えるに、まず検索エンジンの権利制限規定(47条の6)があります。
この規定により、検索サービス提供者が、公衆からの求めに応じて、検索結果の提供を行うために必要と認められる限度において、Web上の情報を表示等することができます。
Googleニュースが検索結果と言えるのか、また(特にトップページが)公衆からの求めに応じて表示されたものと言えるのかが争点となります。
とは言え、47条の6が立法化される前からサービスがあったので、実のところどうなっているのか(一部の新聞社とは話を握っているのか)よく分かりません。
総括
以上のように、Googleニュースの著作権侵害性は、各国によって判断が様々。
日本の検索エンジン権利制限や米国のフェアユースのような規定でセーフと見られる国もあれば、スペインのように明確に黒とする立法もある。
しかし結局、争いのあった企業とは、個別の和解に至ってサービス継続となっているようです。(一時のドイツやスペインを除いて)
思うに、Googleニュースのようなニュースリンクのまとめや検索は、新聞社のニュースサイトにリンクを貼ってトラフィックの流入となっている限りは、Win-Winの関係になれるのではないかと思います。
文句をつけてリンクから外されるよりは、黙認しておいたほうが、現状では新聞社の利益にもなりそう。
また、最近の経産省の海賊版対策の取り組みもあり、Googleが海賊版対策を強化した検索エンジンとしていることもあります。
必ずしもGoogleは権利者にとって敵ではなく、上手く味方にしていくべきでしょう。
そういう意味では別のサービスとして、SmartNewsのような形式は少し気になります。
こちらは、ニュースデータを自社サーバ(キャッシュサーバ?)に保存して、そこに閉じてニュース全文を見ることができます。
つまり、新聞社等のニュースサイトにトラフィックの流入が無いことになりますし、広告は削除した上で再配信されています。
送信の障害の防止等のための複製の権利制限規定(47条の5)があるので、キャッシュサーバへの複製については47条の5で、表示・公衆送信については検索の47条の6でセーフと解されるようにも思いますが、結構微妙。
話が逸れましたが、私はGoogleニュースのヘビーユーザーなので、日本では合法(っぽい)まま、サービスが継続されるといいなーと、スペインやドイツの事例を対岸の火事と期待して見ています。
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