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知財立国研究会シンポジウム 感想

   

先日紹介をした知財立国研究会のシンポジウムに参加してきましたので、感想とメモなどを簡単に残しておこうと思います。

知財立国シンポジウム2

第一部は営業秘密についてのキーノートスピーチとパネルディスカッション。
警察庁の方もパネルディスカッションに参加されていて、捜査における考え方や非親告罪化による影響の肌感覚なども分かり、有意義な内容でした。

 

第二部が、新旧長官・所長会談で、知財高裁の10年を回顧してのパネルディスカッション。
こちらが個人的には非常に興味深い内容でしたので、少し詳しく内容を紹介します。

まずは4人のパネラーから簡単なプレゼン。

パネラープレゼン

最初は荒井元特許庁長官のプレゼンですが、

10年を回顧すると、FA11の達成や知財高裁の設置など、これまでの知財立国1.0は「概ね成功」と評した上で、今後の課題を2つ説明。

一つ目が、「知財裁判の見える化」。
①提訴:提訴されても裁判所に行かないと分からない
②期日:期日も裁判所に行かないと分からない
③”口頭”弁論:書面の通りで、口頭では弁論しない
④判決:ネットで閲覧できるので良くなった
⑤和解:和解したことが分からない
といった問題。

2つめが、「特許無効率 50%(30%)」の問題。

原告は自信があるから訴えたのにその特許の半分程度が無効になる。これまでの累積特許件数は570万件、既存の特許件数は190万件、このうちの半分が無効になるとしたら、これだけの欠陥商品を出してきた特許庁長官はどう責任を取ればいいのか。

何かがおかしい。改めて特許庁、裁判所など、各関係者の役割を見直すべき。

 

続いて、篠原元知財高裁所長のプレゼン。

まず、設立時に目指したもの4つを説明。
・知財裁判の一層の充実及び迅速化
・全国の知財裁判事務の中核的な牽引車
・内外に対する知財重視のアナウンスメント効果
・模倣品・海賊版流入の事実上の抑止効果

10年後の評価として、肯定的な見解と否定的な見解があり、優がもらえる自信はないが、良か可くらいではないかという評価。

特許侵害訴訟の各国比較を見ると、日本では「勝てない、少ない、低い」と言われるが、各国の特殊事情を理解しないといけない。

ただ、損害賠償額については低すぎる面があり、これは裁判所の運用論でも、頭を切り替える余地がある。


続いて岩井元特許庁長官から、当時特許庁長官として考えていたことについてのコメント。

FA11を実現した時の長官だが、日本企業は他の審査請求制度がある国と比べても、最終年度に請求する割合が高く、企業は何を望んでいるのか、FA11をやる意味があるのか、FA11を達成後はどこに向かえばいいのか、など。

日本出願が減少しているが、国際出願は増加しており、グローバルな特許取得の実現をサポートしたい。

 

最後に、飯村元知財高裁所長から、
設立の経緯と当時の背景、10年間で知財訴訟はどう変わったか、インパクトを与えた裁判、日本の知財裁判の課題、などのお話。

知財高裁が出来たことで、集約した判断が出されると言うことはインパクトが強かった。今後は、知財高裁等からの発信力を高めていくことが重要。

 

ディスカッション

続いて、パネルディスカッションです。

最初のテーマは「無効率の高さ」。

紛争が増えていく今後、真剣に考えなければならないという荒井先生の意見、
無効リスクが高くて困るという企業の声は真剣に受け止めなくてはならず、これは裁判官の耳にも届いているはずで、慎重な判断がされるのではないかという篠原先生の意見、
今の状況が問題を孕んでいるかというと、必ずしもそうでもない、急に変えてしまうと、混乱をきたす可能性もあるという飯村先生の意見、などがありました。

私は、無効率は当然低いほうがいいのですが、これは制度論で無理やり変えるものでもなく、運用ベースでこつこつと努力をするしかないんだろうなと考えています。

続いて、「損害賠償額」について。

日本への出願が減少している外資企業から、「日本で年金を収めて特許権を持つ価値がない」と言われたという紹介、
損害賠償額が低いのは非常に大きな問題だが、これは制度論ではなく運用論でいける話、実施料相当額を払えばいいというのはおかしい、あとは印紙代の問題もあるという篠原先生の意見、
特許侵害の損害賠償は民法の不法行為を原則にしているので、どのような仕組みを作ってもこれを超えられない、むしろ差止を武器にすることで高額な和解ができるという飯村先生の意見、
訴訟大国にすればいいという話ではないが、程度の問題として、ぱくるのが楽な今の状態よりは、技術開発を奨励していったほうがいいという荒井先生の意見、などがありました。

また、会場からは、日本の裁判所には損害賠償よりむしろ差止のほうに期待するという意見もありました。

私は、差止に期待するというのは、確かにその通り、
だけど、それだけで全てのケースが救済されるわけではないので、損害賠償額についてはやはり見直し検討は必要、
これも制度論・立法論というよりは、運用ベースの話なのかなという感想です。

色々と勉強になるシンポジウムでした。

 - 知財戦略

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