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FC2-ドワンゴ 「ブロマガ」商標権者同士の争い 解説

   

ドワンゴは9月8日、ブログサービスなどを運営する米FC2が、同社が持つ商標権をドワンゴが侵害したとして、商標の利用差し止めなどを求め東京地裁に提訴したことを明らかにしました。

通常、商標権の争いは、一方は商標権者で、他方はその商標に類似する商標を使用する者、という構図が多いですが、今回の場合はどちらも「ブロマガ」に関する商標権を保有していて、商標権者同士の争いとなっている点が興味深いです。

商標権は、「商標」と、それを何に使うかという「指定商品・役務」の組み合わせからなる権利なので、同じブロマガという商標であっても、指定商品・役務が違えば複数の商標権者が存在し得るわけですね。

まずは事実関係から整理してみましょう。

 

事実関係

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まず、最初に「ブロマガ」というサービスを始めたのはFC2の方です。2009/1/20に、ユーザがブログ記事を月額購読制にできる課金記事サービスとしてブロマガという名称でサービスを開始しました。

その後、2012/8/21に、ドワンゴが、ニコニコチャンネルの追加機能としての記事配信サービスを「ブロマガ」という名称でリリースします。この新サービス発表会の際にも、FC2に同名称のサービスがある点について質疑応答があったようですが、当時は運営側も意識が無かったようで、一般名称である旨の回答をしたようです。

 

さて、ここから両陣営が慌てます(想像)。

まず最初に商標出願したのはFC2の方です。逆に、このドワンゴ側の発表があるまでは、商標出願していなかったんですね。2012/9/13に、42類を指定して出願します。

そして遅れること2週間、ドワンゴ側も、9類、38類、41類、42類を指定して出願しました。

先行する商標の不使用取消審判の関係などもあり、登録まで多少時間がかかるのですが、先に登録になったのはドワンゴの方で、2013/9/20に登録。そして1か月ほど遅れ、2013/10/11にFC2の方も登録になります。

 

そしてここからは両者の商標のつぶし合いです。

ドワンゴの商標にはFC2から異議申立が起こされ、FC2の商標にはドワンゴから無効審判が起こされます。

FC2の商標への無効審判については、審決取消訴訟まで提起され、知財高裁の判決は今年の1月に出ています(FC2商標の指定する「プログラムの提供」系の指定役務部分を無効にする判決)。そして、どうやらそれが最高裁による申立却下の決定がされ、権利内容が確定したので、このタイミングでFC2が訴訟提起に踏み切ったのではないかと思います。

 

裁判での論点

さて、侵害論の争点は、ドワンゴ側の行為が、FC2の商標の指定役務「インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与」の使用行為に当たるか、という点でしょう。

FC2は、ドワンゴが「ブロマガ」サービスのトップページのHTMLファイルでメタタグとして「ブロマガ」と記載していることについて、FC2の商標権を侵害していると主張しています。

論点をさらに分解すると、メタタグに「ブロマガ」と記載することが商標的な使用に当たるのかという点と、そもそもそれって「インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与」なのかという点が論点となります。

「サーバーの記憶領域の貸与」という役務ですが、私のイメージでは、BtoB的な他人のための役務であり、例えばAmazonのAWSのようなものが当てはまると思います。もちろんブロマガサービスにおいても、インターネットの仕組み上、一般利用者はドワンゴサーバの記憶領域を借りているとも言えるのですが、それを言い出すとWebサービスって全部「サーバーの記憶領域の貸与」になっちゃうかなと。

無効審判で無効になってしまった「ウェブログの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供」の方が残っていたら、果たしてどうだったかなとは思います。

 

無効審判⇒知財高裁の論点

ちなみに、FC2商標の無効審判の取消訴訟の論点も、非常に面白いです。

分かりやすくポイントを説明してくれているページがあるので、引用させていただきます。

商標法4条1項11号に該当するとして、本件商標の指定役務中「第42類 ウェブログの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供,オンラインによるブログ作成用コンピュータプログラムの提供,インターネット上の情報を閲覧するためのコンピュータプログラムの提供」を無効とした審決の取消訴訟です。本件の流れを示すと以下のとおり。

(1) 原告が本件商標を出願し、同日に引用商標の一部指定役務について不使用取消審判を請求。

(2) 上記審判について取消の審決が確定。

(3) 原告が、引用商標の残りすべての指定商品・指定役務について不使用取消審判を請求(H25.9.17)。

(4) 本件商標に係る出願について登録査定(H25.9.25)。

(5) 上記(3)の取消審判について取消審決がされ、確定。

(6) 被告が本件商標に対し本件無効審判を請求。無効審決がされ、原告が本件審決取消訴訟提起。

上記(4)の登録査定の時点で、本件商標の指定役務と備考類似の関係にある商品(電子計算機用プログラム)が引用商標の指定商品に残存していたものの、結局その後、当該抵触商品が別件取消審判で取り消されたとの事情の下、原告は、「本件商標の登録査定時には引用商標が存在していたが,本件商標の設定登録時には引用商標が消滅していたという特殊な場合であり,その不都合を回避する必要があるから,本件商標の設定登録時をその無効理由の判断基準時とすべきである」と主張しました。しかし判決は、登録性判断の基準時は原則として査定時であるとし(最高裁判例)、原告の主張を認めると「商標登録取消審決に基づく商標登録取消しの効果を商標登録取消審判請求の予告登録より以前に遡らせることと同様となり,商標登録取消審決が確定したときは,当該商標権が審判請求の登録の日に消滅したものとみなす旨の規定(商標法54条2項)の趣旨に反する」とし、原告の主張を退けました。

原則論に沿った判決です。原告及びその代理人は1回目の取消審判の際に備考類似まで考慮して取消審判を請求すべきだった、ということに尽きます。

 

実務上の教訓

さて、今回の一連の事件ですが、実務上の教訓はたくさんあります。

まずはFC2の立場からすれば、ブロマガというサービスを始めた時点で商標出願をしていれば、こんなことにはならなかった。

ドワンゴ側からしても、ブロマガというサービス名称を決める前にFC2が同じ名称を使っている点をしっかり確認すべきでしたし、発表会で発表する前に商標を出願していれば、もっと有利に事を運べたでしょう。

 

また、無効審判⇒知財高裁から得られる教訓としては、登録性判断の基準時は原則として査定時であるという原則の確認と、不使用取消審判をかけるなら備考類似にも注意する必要があるという点。

そして、今後の訴訟で明らかになるのは、「サーバの記憶領域の貸与」という指定役務がどの範囲まで含むのかという点。

 

それにしても、記事配信という基本的なメディアサービスを行う上で、確保しておくべき商標の指定役務が複雑で多区分に渡るのは、企業からすると面倒な負担です。もっとシンプルな指定役務になればいいなと思います。

今後の裁判の行方にも注目!

 

※追記1
よく見たら、無効審判で使われた先行商標もドワンゴの出願でした。最終的には不使用で取消されていますが、そういう意味では、ドワンゴの方はずっと前からブロマガ商標の用意があったと言えるのかもしれません。

※追記2
商標権の効力を使用権と禁止権と考えた時に、ドワンゴ側に使用権(使用する権原)があるという主張があり得るのか、なんていう点も気になります。同じブロマガ配信に関する指定役務が複数に分かれていて、複数者で持ち持ちとなる場合に、両者使えないのか、クロスライセンスのような関係になるのか。商標法の本質から考えれば、そのような事態になっていること自体がおかしいとも思える。

 - 意匠・商標

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