GoogleとBMWの「Alphabet」問題 ~商標と商号の違い~
Googleが持ち株会社として「Alphabet」を新設することを発表しました。
「Alphabet」という会社名の由来については、
Alphabetは「人類で最も重要な革新の一つである言語を表現する文字の集合であり、われわれがGoogle検索のインデックスを作るしくみの中核だから」と述べられています。
また、これまで提供してきた膨大なサービスは、A~ZまであるうちのGだけに過ぎないんだ、これからはもっと多様なサービスを展開するよ、みたいなメッセージも感じます。
Googleは非常に幅広いサービスを提供しているので、持ち株会社を作って、本業に関係の薄い業務の独立性を持たせるという経営は、妥当なものかなと感じます。
それにしても、Googleの持ち株会社にしては、「Alphabet」という名前は、えらくググラビリティが低い名称だなと思ったのですが、Googleで検索すると、ちゃんとヒットします。
Bingなどでは一般名称としてのアルファベットのほうが上位にヒットするので、なにかしらチューニングを加えているのかもしれませんね。
そして、一般名称に近い名前なだけに、既に使われている可能性も高いという事で、
早速、BMWの子会社が「Alphabet」であり商標権も取得しており、商標権侵害の可能性がないか、BMWが調査しているというニュースが出てきました。
Goggleは自動運転車の開発もしているので、ちょっと危なそうという印象を持ちますが、ニュースによると、法的問題はなさそうという見解だということ。
これは何故か。
商標と商号の違い
商標と商号(会社名)は異なる、ということです。
よく混同されますし、しばしば同一のものにもなるのですが、商標と商号は別物です。
商号
商号とは、商人が営業を行う際に自己を表示するために使用する名称のこと。要するに会社名のことです。
これは、日本の場合は商法や会社法において規定され、法務局に登録することができます。
同じ市町村内において他人の商号と同一のものを登録することはできませんが、類似するものは登録可能であり、地域が異なれば同一の商号も使えます。
商標
一方の商標は、商品又はサービスの出所を識別するためのもの。要するにブランドのことです。
これは商標法において規定され、各国の特許庁に登録すれば、その同一・類似商標を指定商品・役務において使用することを独占することが可能となります。
会社名は商標的使用か
例えば「SONY」という名称。
これは会社の名前なので商号であることと同時に、SONYが生産販売している製品やサービスの出所を示す働き、つまり商標としても機能していることになります。
SONYが生産販売しているテレビに「SONY」というロゴを付するのは、会社名としてのSONYを付しているだけでなく、そのテレビの出所がSONYということを示しているので、商標的な機能も果たしていることになります。
したがって、通常の事業会社であれば、その会社名は商号であると同時に商標でもあるため、商号の登録だけでなく商標の登録もするし、商標として使用した際に他人の商標権を侵害するような会社名にすることは避けるということがなされます。
もちろん、常に商号=商標ではなく、
SONYが有していたブランド「VAIO」は、ブランド名ではあるけど会社名ではなかったので、商標だけど商号ではない、という状態でした。
通常、商号≠商標となるのは、
商標ではあるが商号ではないというパターンですが、今回の「Alphabet」は逆です。
つまり、Googleの持ち株会社である「Alphabet」は、会社名なので商号ですが、持ち株会社であって、子会社の経営は行うが、自身が事業を行う事業会社ではない。
自身がサービスを提供することをしないので、当然、サービスの出所を示す形で「Alphabet」という文字を使うことをしません。
そうすると、いわゆる商標的な使用をしないので、他人(BMWなど)が同一の商標権を持っていても、それを侵害することにはならない、ということになります。
とは言っても、仮にGoogleが自動運転車を販売するに際して、Googleのロゴと一緒に持ち株会社である「Alphabet」のロゴも付するとすれば、場合によってはそれは商標的使用とも判断される可能性があり、商標権侵害となることも十分に考えられます。
したがって、現在BMWが、商標権侵害とならないか調査していると言っていますが、これは実際に「Alphabet」がどのような使い方をされるかを見ないとなんとも言えません。
せいぜい、このような使い方がされた場合は商標権侵害になる、ということを整理しておくくらいです。
ですので、持ち株会社の名前を「Alphabet」とすることで直ちに法的問題が生じることはないでしょうが、将来、なにかと制限にはなりそうかなと思います。
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「同じ市町村内において他人の商号と同一のものを登録することはできませんが、」とのことですが、http://knpt.com/contents/news/news00071/news71.htmなどにあるように、商法の改正により、同一の住所でないかぎり同じ商号の登記は可能です。
また、SONYが商号とのことですが、ソニー株式会社のように会社の種類を含めないと商号にならないと思います。
ベンちゃんさん、
丁寧なご指摘ありがとうございます。
古い情報と不正確な表現で失礼しました。