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特許の貢献度 ~知財価値評価~

      2014/08/21


弁理士会と公認会計士協会の連携委員会で、
知財の価値評価手法について議論を進めています。
 
その中で1つ焦点となっているのが、
特許の貢献度
 
考えたことのメモランダムを残しておきます。
 
 

DCF法における特許の貢献度 

特許の価値評価には様々な手法がありますが、
特許に限らず、無形資産全般でメインの考え方となりつつあるのは、
インカムアプローチ。
その中でも特に、単純DCF法が、理論的には最も多く登場します。
 
考え方はシンプルで、特許等無形資産による将来のキャッシュフロー(CF)を、
現在価値に割り引く(Dicount)。
 
 
しかし、特許による具体的な将来のキャッシュフローが得られる・算出できる例は稀。
仕方がないので、特許が関係する事業によるキャッシュフローを割り引いて、
それに特許の貢献度を乗算することになります。
 
「特許が関係する事業によるキャッシュフローを割り引いて」得られるものは、
いわゆる事業価値
これは、事業計画の合理性の問題はあれど、
ある程度しっくりくる額が出てきます。
 
そして、それに特許の貢献度を掛ける。
要するに、事業価値の何割が特許の貢献によるものですか?と。
 
この特許の貢献度は非常に算出が難しく、
筆をなめて適当な値を置くか、過去の慣例に従う、といった感じになってしまいます。
 

利益三分法?25%ルール?

過去の慣例、という点では、
利益三分法や25%ルールがよく出てきます。
 
利益三分法は、
利益の源泉を資本力、営業力、特許権との 3 つと把握し、
利益を投資者、営業実施者、特許権者に配分することを想定しつつ、
特許の貢献度を1/3と置くもの。
 
25%ルール(利益四分法)は、
資本、組織、企業努力(労働力)、特許(技術)に分解するものであり、
特許の貢献度を25%と置くものです。
 
 
感覚的には貢献度が高すぎる気もしますが、
それに対抗する根拠のある数字を出すこともできない。
 
 
特許の貢献度を使うという点では、時価総額とBS総資産の差額を無形資産と見る、残差アプローチも同様。
無形資産にその特許貢献度を乗算して特許価値を出すわけですが、
無形資産、あるいは超過収益力の何割が特許によるものですか?
という問いには、とても答えにくい。
 
 

免除ロイヤリティ法

そこで、特許の貢献度という不確かな(納得しにくい)パラメータを使わないインカムアプローチとして、
免除ロイヤリティ法が実務で人気のよう。
 
 
考え方としては、仮に評価対象とする特許を自社が持っていない(他社が持つ)と仮定したときに、
その他社に支払うべきロイヤリティ(逸失利益)があるはずで、
それが免除されることによる価値を、特許の価値とするものです。
 
ロイヤリティとして支払うべき額については、
過去の実例からライセンス料率は業界ごとにある程度見えているので、
根拠のある数字のみに基づいて価値評価をすることができます。
 
ライセンス料率は売上に乗ずるのが通常なので、
売上×ライセンス料率によるキャッシュアウト(逸失利益)を現在価値に割り引くことになります。
 
 
もちろん、
「評価対象とする特許を自社が持っておらず他社が持つ(買う)」という仮定に、
無理があるシチュエーションも多いでしょうし、
他社から権利行使されるという、ある意味最悪なケースを前提とした計算なので、
割高な額が出るとは思います。
 
それでも、なんとなく単純DCF法よりも、計算しやすい、というか納得しやすいアプローチになります。
 
 

単純DCF法額=免除ロイヤリティ法額

さて、ここからは純理論的な話ですが、
異なる2つのアプローチである、単純DCF法と免除ロイヤリティ法、
しかし、それらによって算出される特許の価値は同一であるはず
という命題を置くことができます。
 
 
免除ロイヤリティ法で用いるライセンス料率を、例えば5%としてみましょう。
(5%は過去の調査で公開されている範囲でよく出る数字です。)
 
そうすると、上記命題に基づいて、
利益×特許貢献度=売上×5%
という式が算出されます。
(※割引率などは同じ前提で)
 
 
ここで、業界や自社の利益率が分かるはずなので、
仮に利益率が20%だとすると、
売上×20%×特許貢献度=売上×5%
となり、
特許貢献度=25%
と算出されます。
 
 
25%ルールは、こうした仮定で出てきた、という説もあるようです。
というより、
こうした仮定のもとでは、25%ルールが成立する、
という言い方が正しいそうですね。
 
 

命題の真偽

ちなみに、上記の命題「単純DCF法額=免除ロイヤリティ法額」は、
必ずしも真ではないというのが私見です。
 
特許の価値は、絶対的なものではなく、あくまで相対的なものだからです。
 
分かりやすい所では、
特許を持つ主体が変われば、そもそもの前提となる事業計画(利益や免除ロイヤリティ)が変わり、
特許の価値は変動します。
 
また主体が同じであっても、
考え方(計算アプローチ)によって価値は変わり得る。
 
この考え方に立てばいくら位の価値になるし、
別の考え方に立てば、またいくら位の価値になる、
それが自然なことのように思います。
 
全ての主体・場面に共通する市場価格のようなものを出すのは、
至上命題ではありますが、現実的ではなさそう。
 
 
しかし、繰り返しになりますが、
それ以上に根拠のある数字を提示することは難しいので、
上記命題が真だと仮定を置いて計算するのが、
現状の妥協案となりそうです。
 
 

実際のところ?

そんなこんなで、
25%ルールなりをベースにしながら、
様々な理由、例えば、
・本特許が関係するのは製品のごく一部だ、
・特許の質・数・安定性が云々、
・非公開範囲を加えると、ライセンス料率はもっと低い、
とかを述べて、感覚的に妥当な額となるまで
貢献度を下げていく、
というのが、とりあえずの実務のよう。
 
 
でも、実際の所、特許の貢献度ってどの位なんでしょう?
 
委員の先生曰く、
事業計画を作っている人に、
「この売上・利益に特許はどの程度貢献していますか?」と聞くと、
「特に?」というニュアンスの回答が返ってくるそう。
 
うん、多くの業界・企業において、
特許が具体的にどの程度事業に貢献している、という実感は無いのかなと思います。
 
その状況で、25%とかの貢献度を置くことには、
やっぱり違和感が拭いきれないです。
 
 

問題の本質

本質的な問題は、
特許が事業に貢献しきれていないこと、
あるいは貢献が見える化・定量化できていないこと。
 
その副次的な作用、ある意味当然の結果として、
特許の価値が金銭評価できない、しにくい、しっくり来ない、
ということだと思いました。
 
特許の貢献度が出せないような特許には、
残念ながら価値の算出は出来ない(≒価値が無い)のかもしれません。
 

 

 - 知財会計

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