因果関係と相関関係の違い
2014/08/21
これまで、知財を専門にしながらも、
データ解析を中心とする仕事が多かったのですが、
データを取扱う際に注意すべき点として、自戒の意味も込めて、
因果関係と相関関係の違いについて、書き留めます。
ある二つの事象について、何らかの関係、
統計的な相関がある場合に、
それが単なる数字上の相関関係なのか、
現実的な因果関係があるのか、
これらを誤解混同しないよう、注意する必要があります。
ひとつ、具体例を見てみましょう。
特許行政年次報告書2014年版の気になった箇所から。
特許を保有すれば営業利益が上がる?
中小企業における特許保有の効果、という項目でのデータです。
中小企業を、特許を保有する企業と保有しない企業に分け、
それぞれ、従業員一人当たりの営業利益の平均値を出しています。
「特許権を保有する中小企業は、保有しない企業の3倍以上の一人当たり営業利益を有する」
ここまでは事実です。
しかしその事実のみをもって、
「特許を保有することは営業利益を増加させる要因だ」、とか、
「特許を保有することで営業利益を増加させることができる」
という結論に持っていくのは、非常に乱暴な論理です。
上記の数字からわかるのは、
「特許権保有の有無」と「一人当たり営業利益」に、
数字上の「相関関係」がある、という点までです。
(もちろん、この点においても、
サンプリングに問題ないか、誘導質問していないか、統計上の有意性があるか、
等の検証が必要ですが。)
この相関関係があることをもって、
因果関係があることの証明にはなりません。
つまり、「特許権を保有している」ことを原因として、
「営業利益が高い」という結果が得られるとは限りません。
この場合、例えば、
「研究開発で十分な成果を得ている」という新しい事象を加えて、
考え方に補助線を引いてみましょう。
新しい仮説として、
「研究開発の成果」が、
「特許権保有」と「高い営業利益」の共通の原因となっている、
という可能性を考えます。
研究開発で十分な成果を出している企業だから、
特許権も保有しているし、営業利益も高い。
これが真の因果関係だとすると、
研究開発を十分にしないまま、特許だけ出願しておけば良いというのは、
間違った解釈だということになります。
利益を上げるために掃除をしよう?
もう一つ極端な例を挙げると、
利益率が高い企業は、デスクの掃除をしっかりしている、
というデータが得られたとしましょう。
これを受けて、利益率を上げるために、掃除をしろ!
と指示をだすのは、多分マチガイ。
利益率が高いことと、デスクの掃除をしていることに、
共通の原因があるはず。
その上流の要因を探ることが、利益率向上に繋がるはずです。
そして、こういった解析は、
与えられた数字をいじくり回すだけでは得られません。
独自の仮説を立てて、新しい情報収集・検証をする必要があります。
理由より結果が大事?
ビッグデータという言葉が流行してずいぶん経ちますが、
特許解析の時も然り、
目的より先にデータがあることが増えています。
何か目的があって、データを探すのではなく、
先にデータがあって、ここから何か分かることがあるはずだ、解析しろ、と。
データを解析することで、特異点や相関関係を見つけることは、
そんなに難しくない。
でもそんな場合であっても、そんな場合こそ、
それが相関関係なのか因果関係なのか、
何が最上流の要因・原因となっているのか、
その点を検討する必要があるのだろうと思います。
そうしないと、過去の解析はできても未来の予測には繋がらない。
それってすごく難しいですけどね。
ビッグデータ時代では、因果関係よりも相関関係を見つけることのほうが重要だ、
という論調もあるようです。
理由より結果が大事、という意味であれば、ある面同意します。
なんでそうなるのか分からないけれど、これを導入すれば利益が上がる、とか、
この薬を飲むとこの病気が治る、とか。
でもそれは、理由(メカニズム)は分からないけど、
因果関係があることは分かってる、という前提ですよね。
やっぱり、相関関係を見つけた後に、因果関係を検証して、
上流の要因を探ることが重要だろうと思います。
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