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特許行政年次報告書2014年版より 押さえておくべき数字と気になる情報

      2014/08/21

特許行政年次報告書2014年版が公表されましたね。


一通り目を通した中で、
気になった情報と、押さえておくべき数字をピックアップしました。

特に、出願件数や訴訟件数など、基本的な情報は、
大体知っているというだけでなく、数字をしっかり押さえておくと、
色々な場面での話の説得力を増すことに役立ちます。



まずは日本国への特許出願件数ですが、
2013年度は約33万件と、
いまだ下げ止まらない状況です。
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一方で、米国への出願は堅調に増加しており、2013年度は約57万件
特に中国への出願件数は異常に伸びており、2013年度は80万件以上となっています。

このグラフは特許のみですが、
中国の場合は、この特許件数と同等以上の実用新案権の出願数があるので、
件数面では本当に脅威ですね。

韓国も少しずつ増加しており、数年後には日本の件数は韓国にも追い抜かれそうです。 2

日本国への出願が減少し続ける一方で、
日本企業のグローバル出願率は増加しています。

これまでが低すぎた感はありますが、30%まで増加しました。
特許市場としての日本国の魅力が下がり、
一方で海外での権利取得の必要性が高まっているように感じます。
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ちなみに、世界の特許文献を言語別に分けると下記の通り。
以前は日本語の特許文献の割合が高く、
USPTOやEPOの審査官は、日本語文献の調査の必要性をよく語っていましたが、
今は完全に中国語がその立場を奪っています。

本気で無効調査をするときには、中国特許文献もしっかり調査する価値があります。
JPOの施策としても、中国特許の簡易な調査環境を構築・開放することが重要ですね。
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さて、少し意外だったのは、各国特許庁の特許査定率の推移。
日本の特許査定率は、ここまで上がっていたんですね。

以前は約5割、という感覚でしたが、
最新データでは特許査定率は約67%となっています。

JPOとEPOは大体同じくらいの審査水準、という感覚でしたが、
今はEPOだけ特許査定率が一段低いですね。
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特許査定率の増加に伴って、拒絶査定不服審判の件数自体は減少しています。
請求件数が約2万5千件

審査の最終処分件数が約30万件なので、
拒絶査定されたもののうち、不服審判を請求するのは20%程度でしょうか。

そして、前置審査での登録率も、不服審判の請求成立率も、かなり増加しています。
拒絶査定不服審判を請求すると、
まず前置段階で約半数が登録になり、審判まで行ってもその約半数が登録になるということです。

審査も審判も、ここ5年くらいで大分甘くなっている
(もしくは出願の質が向上しているか、中間処理の技術が向上している)
ようですね。
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しかし、無効審判の請求成立率は、かなり下がってきています。
無効審判を請求して成功するのは、2割足らずというところでしょうか。
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あまり特許が無効になるようでは、権利活用での予見性に欠けるため、
これは良い傾向だと思います。

これは特許行政年次報告書のデータではありませんが、

日本の特許件数が減っている理由として、
日本では侵害訴訟での原告勝訴率が比較的低く、訴訟の過程で特許が無効と判断されることも多いため、
権利の積極的活用が難しいことが挙げられることがあります。

 

特許訴訟の1審判決で、特許権者の8割が敗訴しており、うち3割で「特許は無効」と判断されたということです。
 


下記のグラフは昨年の年次報告書からの情報ですが、
米国や中国に比べると、日本の知財関連訴訟の件数は極端に少ないです。

日本での年間の知財関連訴訟件数は200件程度で、
米国の20分の1、中国の40分の1程度です。

以前の記事でも紹介しましたが、
日本の知財が儲からない理由は、訴訟をしないから
というヘンリー幸田氏のシンプルな意見に、私は概ね賛成です。
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最後に、特許の「利用率」について。

このデータによると、
保有特許のうち「利用」しているものは約半数、
未利用のうち、約3割は防衛目的であって、
防衛目的でもない未利用特許は16%と段々減少している、ということです。
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ここでいう「利用」している特許とは、

『権利所有件数のうち「自社実施件数」及び、「他社への実施許諾件数」のいわゆる積極的な利用件数の合計』
という定義です。

「未利用」で「防衛目的」の特許とは、
『自社実施も他社への実施許諾も行っていない権利であって、自社事業を防衛するために他社に実施させないことを目的として所有している権利』
という定義です。


・・よく、この「利用率」が低いことが、特許の活用がされていないことの説明に使われ、
「利用」されていない特許を休眠特許と呼んだりします。

どうも、この利用の定義や分類には違和感を覚えます。

特許の本質は排他権にあると考えています。
つまり、他社への実施許諾をしているか、具体的に他社の事業参入の障害となっている特許は、
自社が利用しているか否かを問わず、「活用できている特許」である。

逆に、自社の事業をカバーしている、自社が使っている技術である、というだけで、 

別に他社が真似したいわけでも困るわけでもない特許は、
自社が利用しているとしても「活用できていない特許」である。

自社だけがやっている技術の権利を取得して、
それを自社が実施しているという理由だけで、権利を利用しているつもりになってしまうのは、
日本の知財が儲からないと言われる理由のひとつだと思います。

もちろん、まずは自社の技術・事業を模倣から防ぐことが大事ですが。

 - 特許

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