必須標準特許の価値
2015/02/22
モトローラ・モビリティ対アップルの特許訴訟で、
また「必須標準特許の濫用」というキーワードが出てきました。
EU当局、「必須標準特許の濫用」に警告 – モトローラの独訴訟関連で
モトローラの特許権主張が、必須標準特許の濫用に当たるとのことです。
EUの規制当局は欧州時間29日、モトローラ・モビリティ(Motorola Mobility;以下、モトローラ)がドイツで、アップルを相手取って起こしている特許関連の訴訟について「必須標準(FRAND)特許」の濫用にあたるとする考えを示した。モトローラに対して罰金等は課されないものの、法廷闘争を続けるスマートフォンメーカー各社などにクギを刺した動きとされている。
ところで、記事中の「必須標準(FRAND)特許」という表現はちょっと変。
必須標準特許を英語で表現するなら「standard essential patents」、
「SEP」と略されたりします。
FRANDは「Fair, Reasonable, and Non-discriminatory」の頭文字をとったもの。
「公平、合理的、かつ非差別的」の意味で、ライセンスの条件を意味します。
「FRAND宣言がされた必須標準特許(SEP)の濫用」
というのが正確な表現でしょうか。
閑話休題、
一昔前は、標準特許こそが、
企業が取るべき、価値の高い特許とされていたように思います。
クアルコムのCDMA規格での荒稼ぎっぷりを見てのことでしょう。
それが、アップル対サムスンの判決が出だしてから、流れが変わってきました。
係争が始まった当初は、
ガチンコの特許訴訟になったら、基本的な特許を多く有しているサムスンの方が、
有利になるのではないかと睨んでいました。
アップルが有しているのはデザインやインタフェースなど周辺特許だけであり、
サムスンはそれを回避し得るが、アップルがサムスンの特許を回避するのは難しいだろうと。
しかし、蓋を開けてみれば、
FRAND宣言がされた必須標準特許を行使することは権利の濫用だと、
アップル側に非常に有利な解釈が通ったわけです。
今回のモトローラ・モビリティ対アップルの特許訴訟でも同様ですね。
結局、必須標準特許をもって、差止請求を行うことはできず、
適正なライセンス料しか請求できないため、
競合企業との競争力を高める上では、あまり使えないことになってしまったわけです。
もちろんライセンス収入を得ることはできるでしょうが、
直接的な事業での競争力に貢献しないとなれば、
標準特許の価値が認識的に下がったと言えるでしょう。
必須標準特許の権利行使については、
このレポートが詳しいです。
では、企業が取得を目指すべき特許は、どのようなものになるのでしょうか?
ひとつは、アップルの例に倣って、
インタフェースや画面デザインなど、
必須とは言い難いが、製品機能として魅力的で競争力があり、
他社も模倣したくなるような機能に関する特許。
標準特許と対比して差別化特許と呼んでもいいかもしれません。
ただ、自社しかやらない技術に多くの特許を取っても、
あまり意味はなさそうです。
もうひとつは、やはり基本特許と呼ばれるような、
未だ標準技術ではないが将来開花する分野における、
単独でも威力を発揮する、回避困難な基本技術に関する特許でしょうね。
その意味では、基本特許と標準特許の違いを、
よくよく考えてみると面白そうです。
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