パテントボックス制度とは? 目的と実体
2014/08/21
パテントボックス制度について、諸外国で導入が続き、
日本でもその導入が検討されています。
パテントボックス制度とは、どのようなものか、
その目的は、実体はどのようなものか、
簡単にまとめました。
パテントボックス制度とは
特許権等の知的財産から生じた所得に対する法人税の軽減を認める租税誘因措置のことです。
似て非なるものに、研究開発費税額控除制度があります。
一般的に研究開発費税額控除は、研究開発費用が発生した年に認められるもので、
つまり、研究開発活動自体を促進するものです。
これと対比すると、パテントボックス制度は、
研究開発による知財形成後、
知財の活用により所得が発生した年の税軽減を認めるものであり、
つまり、研究開発活動そのものではなく(あるいは研究開発のみならず)、
開発後に行われる知財を活用した商業活動を促進するものと捉えられます。
国がパテントボックス制度を導入する理由は何か?
パテントボックス制度は、大きく2つの目的があります。
一つはイノベーション推進・研究開発の誘致、
もう一つはグローバル企業の知財移転による節税を防ぐことが目的です。
前者は分かりやすいと思うので、後者について説明します。
知財は無体財産なので、財産としての移動性が高く、
国を超えた移動が容易という特徴があります。
グローバル企業の場合、各国で生じた知財を、
各国の子会社で管理するか、本社等で集中管理するか、という選択が可能です。
通常、知財を集中管理する目的は、純粋な管理目的であり、
それは本社がある本国に移転されるのが自然です。
しかし、本国に権利を移転した後に、各国の子会社にライセンスをする、
というスキームを取ることで、グループ会社内の資金移動(利益の移転)を行うことができます。
そうすると、現地子会社の利益を少なくし、本国の企業の利益を増加させる、
という調整が、比較的容易に可能となります。
ここで、本国と現地国とで、法人税率に差があれば、
吸い上げる利益額を調整することで、節税が可能となるわけです。
通常はここまでなのですが、
だったら法人税率がすごく低い国(タックスヘイブン)に、(仮想的にでも)知財を一括管理させて、
そこで利益を吸い上げてしまえば、法人税の大幅な軽減が可能だ、というわけです。
そういうスキームを取っているのが、
グーグル、アップル、アマゾンやスターバックスなどですね。
現実にはもう少し複雑で、
知財を軽課税国であるアイルランドに移転し、ライセンスについてはオランダを経由させ、最終的な利益についてはほぼ課税がないタックスヘイブンである英領バミューダ諸島やケイマン諸島などに環流させることで、節税を行っています。(ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ)
このような節税を防ぎ、自国に知財権を(つまりは利益の源泉を)保留してもらうために、
パテントボックス税制が有効となります。
法人税率全体を低減することまでは出来ないが、知財による所得の法人税率のみ低減することで、
自国に知財を保留させる、あるいは自国に知財を集中される動機づけとする狙いです。
パテントボックス制度の導入実績
パテントボックス制度は、EUを中心に採用が進んでおり、
ベルギー、フランス、ハンガリー、ルクセンブルグ、オランダ、スペイン、イギリス等で採用されています。
採用当初の目的は、
イノベーション活動の増進、高価値の雇用の創出及び維持、特許技術での世界的な指導力の育成、
といったものでした。
特に、ベルギーの制度等は、自国内で開発され取得された知財に限る、
という条件があるので、実質的に研究開発拠点の誘致という目的が強いのでしょう。
最近の、イギリスなどの導入目的は、2点目の節税対策が強いように思います。
日本でも導入すべき?
経団連による「平成 25 年度税制改正に関する提言」の中で、
パテントボックス、イノベーションボックスの創設を急ぐべきである、との提言がされています。
欧州各国で導入が進んでいるんだから、
日本も負けないように導入しないと!というニュアンスです。
確かに、あったほうが良いようには思いますが、
喫緊の課題というわけでもないかなあ、というのが個人的な心証です。
というのは、今現在、日本企業において、
グーグルやスターバックスほど思い切ったグローバルな節税スキームを
取っている企業が見当たらないからです。
今の日本企業は、ほとんどが真面目に日本本国に利益を集めて、
法人税を払ってくれています。
日本の特許収支が2兆円レベルの黒字と言われていますが、
その70%以上はグループ企業子会社へのライセンスによる収入です。
この現状が続いている限りは、
すごく必要というほどの国策ではないかな、と思います。
実務も複雑そうですし。
研究開発拠点を日本に作ってもらいたいなら、
研究開発減税のようなダイレクトな仕組みのほうが良いだろうし、
グローバルタックスマネジメントによる節税を防ぎたいなら、
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