猿の自撮り著作権問題からロボットの知財を考える
2014/08/21
事案の概要
野生生物写真家であるデイビッド・スレイター氏がインドネシアを旅行した際、サルがスレイター氏のカメラを奪い取り自撮りを始め、予想外に良い写真が撮れました。
その写真がWikipediaに掲載されたため、スレイター氏は写真を削除するよう依頼し、著作権はスレイター氏に帰属し、人が写真の使用を求めるたびに彼に著作料を支払われるべきだと主張しました。
しかしWikipediaは、写真を撮影したのはサルであってスレイター氏ではないことを理由に、写真の削除を拒否しています。
Wikipediaの言い分はこちら
私たちはサルが著作権を有するとは考えず、代わりに、だれも著作権を持っていない、という判断を下しました。つまり、画像はパブリック・ドメインに分類される、ということです。アメリカの著作権法では、たとえば、著作権を要求する権利は人間ではない作者には与えられません(つまり、人間でない作者は著作権を持つことはできないのです)。サルは写真家ではないのは明らかです。著作権を要求するには、写真家が最終画像について多大な貢献を行うことが必要でしたし、たとえその場合であっても、写真家は写真を改変したものについてのみ著作権を有するのであって、元の画像については著作権を有さないのです。サルが写真を撮ったのですから、つまり著作権を与えられるべき相手がいない、ということです。したがって、画像はパブリック・ドメインに分類されます。
所感
サルは人ではないので、著作権者になることができません。
少し整理すると、まずはサルの権利能力について。
日本の法律でも同じ考えですが、
私法上の権利・義務の帰属主体となり得る資格のことを権利能力といいます。
そして、権利能力を有する主体は「人」だけであり、「人」には自然人と法人のみが含まれます。
自然人はすべて権利能力を有し、逆に自然人でないものは法人を除いて権利能力を有しない。どこまでが「人」かという議論はありますが、サルは間違いなく「人」ではないため、権利能力を有しません。
続いて、著作権者について。
著作権者とは、「著作権を有する者」のことであり、著作者とは、「著作物を創作した者」のこと。著作者が、著作物を創作した時点で原始的に著作権を享有します。
著作者となるためには、創作行為に実質的に関与していなければならない。
著作者となるためには、創作行為に実質的に関与していなければならない。
よって、サルが創作的な活動により写真を撮影したとしても、サルには権利能力がないため、そのサルが著作権者になることはできません。
そのサル以外に「著作物を創作した人」がいなければ、その著作物の著作者・著作権者は不在ということになり、オープンドメインになるという理屈には間違いないでしょう。
そうすると論点は、スレイター氏の行為が著作物の創作に当たるか否か。
スレイター氏は、サルの写真を撮るために機材を持ってインドネシアまで行き、偶然ではありますが、サルが自撮りをできるだけの環境をセッティングしたという貢献があります。
確かに、サルの自撮りは「偶然」であり、また「シャッターを押した主体はサル」です。
しかし、これらを理由としてスレイター氏が著作者でないとするならば、自然現象をトリガーとしてシャッターが押される撮影も、そのセッティングをした人が著作者ではないようなことになってしまいかねない。
今回の事案に関しては、
サルの写真撮影を目的として機材を用意し、サルの自撮りが可能な環境を用意したスレイター氏が、著作物の創作に関して十分に主体的な貢献をしており、創作行為に実質的な関与をしている著作者だと認定するのが妥当かなと考えています。
判例の影響
さて、今回問題となったのは、サルの自撮りですが、
「人以外の主体の行動が創出する知財」の取り扱いと考えると、
今回の争いで判例が出るとすれば、広い範囲に影響を与える可能性があります。
それは何か。
「ロボットが生み出す知財」です。
折りしも、ドワンゴの川上さんらが、機械が生み出す知財にどう向き合うべきかというテーマに触れた対談をしています。
今後、ロボットやAIの技術が進歩すると、
ロボットが写真を撮ったり、新しいデザインを生み出したり、ビッグデータの組み合わせから新しい発明を生み出したり、ということが自然になされるのではと思います。
その時に、ロボットが撮影した写真の著作権者は誰か、ロボットが生み出した発明の発明者は誰で特許権者は誰か、という問題が出てきます。
これらはパブリックドメインなのか、ロボットの製作メーカーが権利者になるのか、ロボットの所有者やセッティングをした者が権利者になるのか。
状況によって変わるとすれば、それはどのような基準になるのか。
もしかしたら、そんな将来の課題に先駆けて基準となるような判例となるかもしれません。
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