マイクロソフト・サムスンの特許訴訟 ポイントはノキア買収
2014/08/21
アンドロイドスマートフォンに関する特許使用料を支払わなかったとして、マイクロソフトは2014年8月1日にサムスンを提訴したことを公式サイトで明らかにしました。
マイクロソフトが今回サムスンを提訴したのは、サムスンが2011年に結んだライセンス契約の特許料の支払いを2013年に滞らせていたため。
後にそのロイヤリティは支払われましたが、その期間の未払利子を支払うことが求められています。
ライセンス契約
2011年に、マイクロソフトとサムスンとは特許のクロスライセンス契約を締結しています。
マイクロソフトはアンドロイドが特許を侵害していると主張し、各スマートフォンメーカーと交渉を行いました。その結果、サムスンも侵害を認め、正確な金額は明らかになっていませんが、端末台数当たり4~5ドルの特許使用料を支払う契約を結んだということです。また、製造ノウハウ、販売戦略も共有することを決めたとされています。
しかし、その後サムスンのスマートフォン端末販売台数は激増し、契約1年目の2011年には1億320万台だったものが、昨年には3億6150万台に増加、2年で特許使用料の支払額は3倍に膨らんだことになります。特許使用料を1台当たり4ドルと仮定しても、サムスンはMSに昨年、14億4600万ドル(約1477億円)を支払ったと推定されます。
サムスンにとって、マイクロソフトへの特許使用料の支払いは、大きな重荷となっています。
きっかけはノキア買収
そして2013年の終わりごろに、サムスンは特許使用料の再交渉を求め、支払いを留保しました。
直接のきっかけは、マイクロソフトによるノキアの買収です。
2011年の特許料交渉当時、マイクロソフトがサムスンに「携帯電話端末大手のノキアを買収しない」と明言しておきながら、ノキアを買収することを決めたことがサムスンにとっては大きな不満です。
マイクロソフトがノキアを買収し、携帯電話事業に参入することを知っていたならば、製造ノウハウや販売戦略を共有する包括的な協力契約を結ぶことはなかったでしょう。
買収後のノキアの動向
一方のノキアですが、端末事業をマイクロソフトに売却した後、積極的な権利行使・特許訴訟が急増しているそうです。
サムスンにも高額の特許料を請求しているということで、パテントトロールのような存在になりつつあるとされています。事業を実施しない状態で特許権のみ保有しているため、カウンターを気にせずに権利行使できる状態になったのでしょう。
アンドロイド端末 特許料
マイクロソフトはサムスン以外のスマートフォンメーカーにも特許使用料を請求しているのですが、ニュースによると、毎年の特許料収入は焼く20億ドル(約1970億円)にも及ぶということです。
そのうちの大きな割合はサムスンからのものですね。
マイクロソフトにとっては、大きな収入源となっています。
感想
今回の争点は、マイクロソフトによるノキアの買収が、マイクロソフトとサムスンの間のクロスライセンス契約の見直しの理由になるか。
これは、ライセンス契約の条項次第ですが、サムスンの言い分も理解できるようには思います。
当初は競合関係に無いと捉えてノウハウ共有も含めた契約を結んだのに、ノキア買収によってスマートフォン端末で競合する関係になった。
またノキアが携帯事業を手放したことにより、ノキアは自由にサムスンに権利行使が可能となり、サムスンは一方的にノキアから特許による攻撃を受ける可能性がある。
そしてノキアが販売するはずだったスマートフォンは、マイクロソフトの事業となり、その販売についても、相対的な特許力の関係からサムスンは権利行使をしにくい。
サムスンにとっては不満だらけであって、何らかの契約条件の見直しを図りたいのは当然でしょう。
ですが、もちろんそれは契約条項次第ですし、不誠実に支払いを滞納したのであれば、利子分の支払いは免れないようにも思います。
業界再編が激しい分野にあっては、誰がいつ競合になるかも分からないため、契約解除の条件をしっかり検討する必要があるというのが教訓でしょうか。
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