投稿動画のBGM 著作権と著作隣接権(原盤権)に注意

最近、ヒカキンやたれぞうなど、YouTubeに動画をアップして収入を稼ぐ、「YouTuber」という人々が活躍しています。
そんな中、海外のYouTuberとして著名なMichelle Phanさんが、著作権侵害で損害賠償を請求されたそうです。
Michelleさんは、若い女性向けにメイク方法をレクチャーする動画をアップしており、彼女のチャンネルの総ビュー数は10億、登録者数は670万人にも及んでいます。一部芸能誌によると彼女の昨年の総収入は5億円と、大変なものです。
そんなMichelleさんに対して訴訟を起こしたのは、Ultra Records LLCとUltra International Music Publishing LLCの2社で、両社は Michelle Phanさんが正式な許諾を得ることなしに両社が権利を有するアーティストの楽曲をMichelle Phanが制作したビデオ内で使用していたとしています。
両社は、楽曲の不正利用料として1ビデオあたり1500万円の支払いを求めており、総額では1億円を超えるものとなるらしいです。
YouTube等の動画投稿者に、ここまで大きな損害賠償が請求されたのは、初めてではないでしょうか。動画のBGMにCD音源の音楽を使うことは、多分、他の動画でも普通にやってしまっていることです。
しかし、改めて著作権の問題には注意しなければならない教訓になったと思います。
今回は米国での事件ですが、日本の動画投稿者も、危ないBGMの使い方は避ける必要がありそうです。
動画BGM、著作権の問題整理
「あれ、YouTubeって、JASRACとかと包括契約を結んで著作権の問題はクリアされたんじゃなかったっけ?」
そんな感想を持った人も、多くいたのではないでしょうか。
確かに、youtubeは、2008年3月にyoutubeはジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)と国内で初めて包括利用許諾を締結しており、同年5月にe-Licenseと、同年10月にJASRACとも利用許諾条件の合意に至っています。
ちなみに、ニコニコ動画は2008年~2009年に、USTREAMは2010年7月に、JASRAC、JRC、e-Licenseと包括利用許諾を締結しています。
この包括契約によって、ユーザーはJASRAC管理楽曲を演奏したり、歌ったりした動画をYouTube等に投稿することができます。
しかし、 CD音源やプロモーションビデオをそのまま投稿したり、それをBGMに使うことはできないのです。
なぜならば、これらの包括契約で権利処理されているのはあくまで「著作権」であって、JASRAC等が管理できない「著作隣接権」まではカバーされていないからです。
ここで重要な著作隣接権は、レコード製作者の権利、原盤権と呼ばれるものです。
そしてこの原盤権を持つのは、一般的にレコード会社になります。
つまり、CDを音源とする音楽はレコード会社が原盤権を持っており、かつyoutubeは原盤権処理をしていないので、ユーザーがCD音源をyoutubeにアップロードするにはレコード会社の許諾を個別に受けておく必要があるわけです。
一方、楽曲を自分で演奏したり歌ったりしたものを録音した場合、その録音にかかる原盤権は録音をした人に発生し、当然レコード会社は著作隣接権を有しないので、録音した人が自らそれをyoutubeにアップロードしても著作隣接権を侵害しないし、著作権は権利処理されているから問題ないというわけです。
動画のBGMに使うには?
つまり、「歌ってみた」「演奏してみた」には概ね自由に使うことができるけど、動画のBGMとしてCD音源を使うにはレコード会社の許諾が必要、ということになります。
といっても、通常の投稿者がわざわざレコード会社の許諾を得るのは考えにくい。
また、自分で演奏したり打ち込んだ音源を使うことは可能ですが、さすがに面倒。
そうなると、使えるBGMを探してくるしかありません。
YouTubeは、動画のBGMとして無料で使える著作権フリーの楽曲を集めた「
オーディオライブラリ」を公開しています。これら無料の音楽をダウンロードして動画で使えるようになっています。
またニコニコ動画の場合は、一部のレコード会社と提携をしていて、
一部のCD音源をそのまま使用することが可能になっています。
USTREAMでは、スピッツやムック、東京エスムジカなどJRCが管理している
一部の楽曲について、原盤の利用が可能です。
また、音楽のフリー素材(ボカロなど)は各サイトに落ちているので、それを使う方法もありますが、利用規約はよく確認して使う必要があります。
フリーといっても、用途が限定されていたりしますから。
ちょっと面倒なのですが、使える音源はこれらから探して、用意しておくほうが無難ですね。
最後に、海外の楽曲を利用する場合は、シンクロ権の問題も発生してきます。
「シンクロ権」というのは、「シンクロナイゼーション・ライツ」の略で、音楽と映像を同期させて録音する権利を言います。
シンクロ権について日本の著作権法に直接定めた規定はありませんが、海外ではシンクロ権という独自の権利が認められており、しかも、著作権管理団体に管理を委託せず、音楽出版社などが権利を保持しているケースが多いので、その許諾が問題になります。
そして、シンクロ化権については、音源をそのまま利用するか、カバーなど自演するかを問わず、権利処理が必要になってきます。
つまり、歌ってみた系の動画であっても、海外の楽曲で、しかも権利にうるさそうな権利者の曲を使う場合は、ちょっと注意が必要で、避けたほうが無難ですね。
最近は日本でも、有名人による著作権の騒動が多々起きています。
いずれも法律の無知・不注意によるものですが、おそらく一昔前であれば、黙認されたり、騒ぎにもならなかったような、ある意味些細なこと。
ネットの拡大により、発見力と拡散力が高まり、Twitter(バカッター)でもそうですが、
ちょっとした形式的な犯罪が、騒動になってしまいます。
こういう時代なので、動画を投稿するときには、最大限の注意を払っておく必要がありますね。
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著作権
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