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湯浅竜×IPFbiz ~知財教育と最強の知財マン~

      2015/03/17

対談シリーズ第13回目は、弁理士の湯浅竜さんです。前回の野崎さんからご紹介いただきました。

湯浅さんはベンチャー企業でエンジニアへの知財教育・発明創出支援をしながら、大学や予備校での講義、特許事務所業務、有志の勉強会など、弁理士らしからぬ(笑)幅広い活動をされています。
これらの活動に至ったきっかけや、湯浅さんが目指しているものについてなど、お話をお伺いしました。

なお、湯浅さん私とは同い年で、しかも湯浅さんの同僚に偶然私の同級生の冨松君もいたので、今回は同い年3人でわいわいと雑談対談しました。

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現在の活動

安高:湯浅さん、冨松さん、よろしくお願いします。基本的には湯浅さんに色々とお話を聞きたいのですが、冨松さんも適宜コメントください。
さて、湯浅さんは本当に色んなことをやってるなという印象なのですが、現在の主な活動についてまずは大枠を教えていただけますか。

湯浅:大きく4つのことをやっていまして、その時点で大きくないのですが(笑
まず1つはTechnoProducer株式会社での知財教育ですね。よくある知財部員向けの知財研修というのとは異なり、” 企業に『ダントツ』の発明力と知財力を”というコンセプトで、企業の開発者向けの知財教育、発明創出支援をしています。
2つ目が、資格予備校TACでの弁理士試験の受験指導。3つ目が、特許事務所のパートナー・副所長としてのいわゆる弁理士実務で、4つ目が東京理科大での知財の非常勤講師ですね。
時期によって業務の比重が異なりますが、今の時期は「TechnoProducer(株)」がメインです。特許事務所の方は、メンバーにも支えられているおかげで、自分がいなくても、結構回っています(笑)。大学と予備校はそれぞれ週に半日から1日程度の頻度ですね。

安高:うーん、色んなことをやってますね。時系列でいうと、何から始めていったんですか?

湯浅:最初はTACの講師ですね。元々は弁理士試験に合格した後、特許事務所に勤務していたのですが、その時にTACから講師をやってくれないかとお話を頂いて。予備校講師がすごくやりたかったわけじゃないんですが、事務所業務だけをやっているより面白いかと思ってお受けしました。

安高:それは事務所勤務を続けながらですか?

湯浅:そうですね、しばらくは兼務していて、TACメインという時期もありましたけど。その後に、特許事務所とTechnoProducer(株)も始めていったという流れです。

安高:それはどのようなきっかけなんですか?

湯浅:特許事務所は、所長としてやっている弁理士から、事務所を拡大したくてパートナーを増やしたいから手伝ってくれないかとお話いただいたので。事務所の創設・拡大期から関われるチャンスもそう多くないでしょうから、やらせて頂こうかなと。
TechnoProducer(株)のほうもご縁があってお話を頂いて、今はTechnoProducer(株)が割いている時間としては多いかな。

安高:大学の非常勤講師は?

湯浅:2年前まで理科大の夜間に行っていて、そのご縁ですね。

安高:理科大では何を教えているんですか?

湯浅:理工学部の学部生向けに、知財を教えているのですが。強い特許をどうやって作るのかとか、実際に手を動かしてもらったり。

安高:学部でそういう実践的なことやるんですね。

湯浅:「特許法とは」みたいなのは、意味がないというか、それが出来るところは他の大学でもいくらでもあるし、本でも学べますからね。
私たちはエンジニアの知財教育をやっているので、それを学生からやればいいじゃないかという単純な発想ですね。

 

新しいことを始めるきっかけ

安高:湯浅さんは、色んなことをやってて変わった人だなーと思っていたのですが、振られたチャンスを逃さずにやっていった結果という感じなんですね。

湯浅:自分自身でそんなに主体的にやってるわけでもなくって。声をかけてもらうとそっちに行ってしまうという生まれつきの浮気性なんですよ。それで、パンクするというね(笑

安高:教育系の活動が多いように思うのですが、人に教えるのが好きなんですか?

湯浅:これもよく言われるのですが、人に教えたいという気持ちが強いわけじゃないんですよ。
仕事柄、他の講師とも良く会うんですが。そこで自覚したのは、人に教えるのが本当に好きという講師ってたまにいるじゃないですか。その人たちと比べると、自分はそうでもないんだなって思いましたね。

冨松:え、そうなんですか(笑

湯浅:人に教えるということで自分が勉強できるし、どちらかというと勉強することが好きなんですよ。
教えることも学びだし、そのサイクルが性に合っているだけであって、俺の話を聞けよってわけじゃないですね。

安高:好き嫌いというよりは、やりたいことに合っているという感じですか?

湯浅:性にはあってるんでしょうね。ただ、人に教えるのって、教える立場も凄く勉強になるので、そういう活動を通じて、自分が勉強・成長したいという気持ちが強いのかもしれません。

 

TechnoProducer(株)ってどんな会社?

安高:今回は、特に、TechnoProducer(株)についてお伺いしていきたいのですが、TechnoProducerって、どういうことをしている会社なんですか?

湯浅:技術者の支援・教育をコアにしています。知財教育といっても知財部員の教育ではないんですよ。技術者向けの、でも技術力のアップではなく、ツールとしての知財というものをしっかりと使えるようにするという意味で技術者を教育するというものです。
「エジソンを育てる」というキャッチコピーがあるのですが。エジソンは発明王でもあったけど、事業家としても優秀で、事業を成功させるために特許を使い倒した人なんですね。まぁ、この点にも賛否両論はあるのですが、いわば「一人で三位一体」を実現した人なんですよ。TechnoProducer(株)では、そのような技術者やチームを増やしたいと考えておられる企業のサポートをしています。

安高:基本的には企業に、研修サービスとして提供しているんですか?

湯浅:単にセミナーをやるだけではなくって、かなり踏み込んでやっていますね。メンバーにそういう認識はないかもしれませんが、コンサルという位置づけに近いと思いますよ。

安高:具体的にはどんなサービスメニューとか料金体系なんですか?

湯浅:詳しくは公開していないんですけどね。

冨松:大きく言うと、対面式の講義形式のものと、eラーニング形式のものがあります。特徴としては、アウトプットとして発明や特許をしっかり出してもらうことですね。単に教えるだけじゃなくて、その実践としてのアウトプットまでをパッケージとしています。

安高:なるほど、アウトプットまでコミットしているんですね。教育の結果生まれてくる発明に対して、出願業務を取ろうとは思わないのですか?

湯浅:うちは株式会社なので、出願業務はしないですね。

安高:特定の事務所と提携したりとかは?

湯浅:多くの場合はクライアントが普段使っている事務所があるので。いい事務所を紹介して欲しいという話はありますけど、提携というのは今のところないですね。

安高:そうですか、出願業務まで取れそうですけどね。湯浅さんはせっかく事務所もやってるのに。よく事務所業務メインの弁理士さんで、ある意味営業のような位置づけで発明創出のセミナー業務をやる方もいるじゃないですか。

湯浅:それは全くないですね。事務所のほうとはスイッチを分けて、切り分けて仕事をしています。

安高:お二人はTechnoProducer(株)では講師という役割なんですか?

湯浅:対面式のものだとそうですし、eラーニングの教材を作成したりもしますね。

冨松:私も基本的には同じような、後はプラス営業ですね。

安高:冨松さんは、どういう理由でTechnoProducer(株)に入ったんですか?

冨松:TechnoProducer(株)に入ったのは1年前くらいですけど、その前は会計を、そのさらに前はエンジニアをやっていて。代表と大学が同じでコネクションがあって、たまたまですね。知財と会計という意味では安高さんとも畑が近いかもしれないですね。

安高:冨松さんがそんなことやってるなんて、全然知らなかったですよ(笑
やっぱり知財教育がやりたかったんですか?

冨松:知財というよりは、教育という観点かな。セミナーとかでも、偉い人がくっちゃべって終わりではなくて、受講者一人一人の観点で、それをどう高められるかということをやりたくて。その一つのツールが知財や発明なんですが、私の意識している観点は「教育」ですね。
知財とか会計とかも、必須のビジネススキルの一つとして位置づけられようとしているじゃないですか。もちろんそのプロフェショナルである必要はないんだけど、それらを活用できるように教えるのが私たちの役割です。

安高:なるほど、やっぱり「教育」というものに理念を持っているんですね。

冨松:知識として知っているだけじゃ片付かない、教育は奥が深いものがあると思います。

安高:でもこのくらいの規模のベンチャー企業だと楽しそうですよね。

湯浅:まあストレスフリーとまではいかないけど、変なストレスとかはないですし、仲間内で愚痴を言ったりとかもないのはいいですね。

 

知財業界を目指したきっかけ

安高:やっぱり湯浅さんみたいな弁理士は珍しいと思うのですが、元々そういうちょっと変わったことを目指す方向性があって、今の湯浅さんがあるんですか?

湯浅:珍しいと言うのは、よく言われますね(笑
私が弁理士を目指したときって、知財業界に入る選択肢が他にあまり思いつかなくって、一つの選択として弁理士を取ったんですよ。だから弁理士業務そのものにストレートに魅力を感じていたわけでは、当時はなかったですね。今はそんなこともないですけどね。
よく弁理士も出願だけじゃ食っていけないとか言われますけど、食える食えないと、業務としての重要性は違いますから。クレームの単語一文字で訴訟の結果が変わりますからね。非常にプロフェッショナルな世界だと思っています。

安高:私も、知財業界に入ってすぐの頃は、特許事務所で明細書を書き続ける仕事は、ちょっとしんどいんだろうなというか、そういうのじゃないダイナミックな知財の仕事をしたいなあとか漠然とした思いがあったのですが、段々、具体的というか、現実的な実務ってやりがいのあるものだよなと思ってきています。
湯浅さんがそもそも知財業界を目指した理由は何なんですか?

湯浅:そうですね、大学3年の終わりくらいに、テレビで、ワールドビジネスサテライトだったかな、ニュースをやっていたんですよ。これまでは優れた技術や物が国際競争力だったが、その技術やアイデア自体を権利として、財産として定義できる知的財産権というものがあって、その知的財産権そのものを取引対象とする市場が生まれようとしているという。今思うと、たぶん、IPXIの創設期のニュースだったんじゃないかと思うんですが。
それを見て、カルチャーショックを受けましてね。物を作るから凄いんじゃないのか、その手前に権利があるのか、そっちのほうがダイナミックで面白いじゃないかと。
それで知財業界に興味を持ちました。いわゆる、権利化業務だけではなく、権利の創出・発掘や活用までを見据えた知財戦略に興味があったわけですね。その意味で、TechnoProducer(株)の仕事は、本当に勉強になります。お客様に対し、これらの活動の促進や今まで以上に加速させることをサービスとして行う仕事なので。

 

今後の展望 最強の知財マン

安高:湯浅さんの今後の展望や、やりたいことを教えてください。

湯浅:そうですね、まず、湯浅個人として、有能な知財マンになりたいです。その意味で、TechnoProducer(株)での仕事は、本当に勉強になります。勉強できるという意味では、環境、メンバーともに、本当に恵まれた職場だと思います。
また、その前提として、これからの時代が求める「最強の知財マン」ってなんだろうという定義も、模索していきたいです。そういうことに興味がある同世代以下の人たちにも、色々提案していきたい。

安高:えっと、知財マンっていうと?

湯浅:事業に貢献できる知財活動をする人は知財マンだと思っています。知財のプロ=弁理士みたいな印象を持っている人もいるかもしれないけど、僕の中での「弁理士」とは、あくまでも「明細書作成に長けたプロフェッショナル」だと定義しています。
「対象物を第三者に疑問の余地を与えないほど、完璧な言語にする」というのは、それほど簡単なことではありませんよね。この「言語化のプロ」が弁理士のメインの役割だと思います。
しかし、知財活動は、何も権利化だけがすべてではありません。そもそも競合に対し競争力を有する特許とは何なのか?その為の分析方法は?契約や交渉に際し、その特許をどう活かすか?ノウハウ化すべきポイントは?など、様々です。

権利化業務だけではなく、事業全体を見たときにあるべき「知財活動」をできる人、推進できる人が「知財マン」だと思っています。
僕としては、弁理士としてどうあるべきか?ではなく、もうちょっと広く、知財マンとしてどうあるべきかを定義していきたい。

知財マンに求められる能力って色々あると思うんだけど、そのパラメータが全てMAXというのを目指すわけじゃなくて。どういう風にチームを作っていくかとか、どういう事務所を選ぶのかとか、もう少し現実的なレベルで考えていきたいですね。

安高:それは今の活動の延長線上にあるようなものですか?

湯浅:はい、完全にそうだと思ってるし、そうしていきたいですね。TechnoProducer(株)の仕事を通じながら、「これからの知財活動の在り方」「知財マンの在り方」を提示していきたいです。
現在、東京理科大学専門職大学院 知的財産戦略専攻の平塚研究室と弊社との共催で「実践的知財勉強会」を実施しています。
ここで、これからの日本の知財マンがどうあるべきかを定義づけていきたいと思っています。

安高:それは、有志の集まりということですか?

湯浅:梁山泊みたいなね(笑)って言ったら、メンバーに怒られるかも(笑。志の高い、筋肉質なメンバーと、目的を共有し、切磋琢磨できるようにしていきたいと思っています。
勉強会に興味がある方がいれば、ぜひ湯浅までご連絡ください!

 

独立願望 起業と経営

安高:自分の事務所や会社を作ろうと思ったことはありますか?

湯浅:ないですね。独立願望はないんですよね。
僕の尊敬する経営者の何人かを見るていると、「こりゃ、一生かかっても勝てないな」と思ったりしちゃいますね。ただ、起業と経営って、違うと思うんですよ。

安高:起業と経営は違う。

湯浅:起業家は同時に経営もしているわけですが、経営者は必ずしも起業家とは限りません。誰かの会社や事務所を引き継げば、あるいは、そのような役職につけば、「起業」はしなくても「経営」はしています、みたいな状況はありますよね。
誤解を恐れずいうと、起業は、平地に乱を起こすようなもんだと思っていて(笑)。普通の人間は、わざわざ乱の中に飛び込まないし、ましてや自分で乱をおこすことはない。でも、そのような枠ではとらえきれない一部の人間が、自ら乱を起こし起業する。
と、いうとなんか、悪いことしているように思われるかもしれませんが、世の中のイノベーションとかって、歴史的に、平地に乱をおこすような人間がいて、それがきっかけで世界の構図がかわったりするんですよね。
アントレプレナーシップというんですかね?起業する人は起業がしたいからやってる、という部分があるのではないかと。まず「起業」ありき。何かをやりたい手段としての起業ではなく、起業を目的として起業をしている。

安高:確かに会社の社長さんって、良い意味でもちょっと変わった人が多いですよね。でもマイホームを持ちたいという感覚に近いのかもしれませんが、自分で自由に出来るようにするために、会社や事務所を作りたいという気持ちは、自然にありますけどね。

湯浅:自分はそういう気持ちはないなーというのを20代の早いうちに思いました。これは、DNAレベルでの才能なんだろうなと思いますね。
なので、起業自体に興味、というか才能はないと自覚しています(笑)。あ、でも、「経営」は、別です。今の特許事務所は立場的に、部分的ではあるのですが、経営的なこともしています。なかなか経験できない業務も多く、とても勉強になります。

 

 


湯浅さん、ありがとうございました。
今回の対談で湯浅さんに感じた一番の印象は、「行動力」です。次回の対談相手も、その場のお電話でご紹介いただきました。まさにいいとも方式。
この行動力はみならっていきたいですし、そういうことで自分の活動の幅も広がるんだろうと思います。

 - 特許

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  1. […] ―以前の湯浅さんのインタビュー記事で、「最強の知財マン」ってキーワードが印象に残っていて。今の湯浅さんの中で、さらに「最強観」は深まっているんでしょうか? […]

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