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1-2.民法709条に基づく損害賠償請求(特許権侵害による逸失利益とは、損害額と知財価値との関係)

      2015/10/11

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故意又は過失によって特許権侵害がなされた場合は、特許権者は、これによって生じた損害について損害賠償を請求できる(民法709条)。

ここで、特許権侵害によって権利者に生じる「損害(財産的損害)」としては、以下の2つが観念される。

①侵害行為がなければ得ることができたであろう利益の損害(消極的損害=逸失利益)
②侵害行為に対応するための調査費用・弁護士費用等(積極的損害)

②のうち訴訟費用については、勝訴の場合は一定額が被告の負担となるが、小額のことが多い。

ここでは、逸失利益に焦点を当てて考察を続けていきたい。

 

特許権侵害による「逸失利益」とは

特許権侵害訴訟において認められる損害賠償額は、基本的には逸失利益の額に相当する。

それでは改めて、特許権侵害による「逸失利益」とは何か。


逸失利益とは、侵害行為が無ければ特許権者が得られたであろう利益であって、侵害行為の結果失われた利益のことである。

これは、特許権者が侵害品に競合する製品を市場で販売等しているか否かによって異なる。

まず、競合品の販売等をしている場合に観念できる逸失利益は、侵害品が出回ったことによる特許権者の利益の減少がそれに当たる。
利益の減少とは、①侵害品が売れた分だけ、権利者の製品が売れなくなったことによる売上の減少、②侵害品との競争により余儀なくされた値下げによる利益の減少、③侵害品との競争等による追加の費用による利益の減少、などが考えられる。


しかし、侵害品に競合する製品の販売等を権利者が実施していない場合は、上記のような逸失利益は想定できない。
この場合は、相当の実施料額が逸失利益となるだろう。
つまり、本来は特許権の実施許諾がなければ侵害品の販売等ができないはずであり、その実施料に相当する額が得られるはずであったので、実施料相当額が逸失利益に当たる。


さて、特許権を保有することにより可能となる市場のコントロールは大きく2つあり、一つは実施をさせないという差止、もう一つは実施を許諾して実施料をもらうというライセンス。
上述した特許権侵害による2種類の逸失利益は、それぞれ、差止とライセンスによる利益にあたると考えると、分かりやすく整理されよう。


これら、想定できる逸失利益に基づき、102条各号による損害額の推定規定が設けられている。

損害賠償額の算定を考察するに当たっては、102条各号に沿って検討を行うことになるが、その前提として、本来請求されるべき損害額(逸失利益)がどのように観念されるかを十分に理解しておくことが重要であろう。

102条各号の推定規定については、次の章で詳述する。

 

損害額と知財価値との関係

話が逸れるが、特許権侵害訴訟において認められる「損害賠償額」と、「知財権の経済的価値」との関係について、ここで軽く考察をしておきたい。


一般的な知財価値評価の計算方法については、ここでは詳細に説明しないが、知財権による将来収益に基づき計算をする方法が一般的である。

知財価値評価のベースになるものが「知財権による将来収益」である。
そして、特許訴訟における損害賠償額は、「逸失利益」すなわち「侵害行為が無ければ得られたであろう利益」に当たる。


この2つは、将来・過去という違いはあれど、本質的には(理論的には)同じものであるべきだと考えられる。
(もちろん、訴訟は特定の被告会社のみを相手にするのに対し、知財価値評価に当たってはそれを市場全体に拡張する必要はあるが)


知財価値評価における将来収益は、事業利益に知財の貢献度を乗じる形で簡便化されることが多いが、本来的には、知財権があることにより(侵害行為がないことにより)売上個数が増加する、売上単価が上がるといった、収益の増加分を算定すべきである。

簡便的に、事業利益×寄与率という数式をよしとした場合であっても、その背景にある理論を押さえつつ、寄与率というパラメータの検討をすべきであろう。

 

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 - 知財会計

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