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海外特許出願の判断時期とフロー(スタートアップ向け超入門)

      2021/12/07

※この記事は、特許に詳しくない人向けの、超入門解説記事です。伝わりやすさ優先で、不正確な点あります。

 

海外特許出願の必要性

まず、大原則として、日本の特許権は日本にしか及びません。
いくら日本で良い特許を取れても、その日本の特許権では、米国や中国での模倣を防ぐことはできません。

米国での模倣を防ごうと思ったら、米国でも特許権を取得する必要があります。
必要な国ごとに特許権を取得するしかない。これがまず大原則。

そして、特許権取得が必要な国が複数ある場合、基本的には、その国ごとの言語に出願書類を翻訳して、国ごとに出願して審査を経て登録する必要があります。
そう、国ごとに出願手続きをするしかない、これがもう一つの大原則です。

なんて面倒なんでしょう。しかも国ごとに、出願して登録にするまで、約80万円~200万円くらいかかってしまいます。
しかし、これが現実。

スタートアップ業界でも最近は特許の意識が高まってきていて、新しい製品の開発やサービスのリリースに伴って、ちゃんと日本で特許を出願して権利化している。これは素晴らしいことです。
しかし、グローバル展開を狙う企業としては、次の段階として海外特許出願を検討していく必要があります。
海外で特許を取らなかったことによって不利益を被ってしまった事例はいくらでもあります。

とはいえ、海外特許出願はお金もかかるし、判断も難しい。
ということで、この記事では海外特許出願のざっくりした考え方と、その判断時期とフローをまとめます。

 

海外特許出願の考え方

どの国に出すか

まずは検討事項の一つとして、海外特許出願が大事なのはわかるけど、具体的にどの国に出願したらいいの?という点。

基本的には、「主要なマーケットとして狙っている国」というのが答えです。
どうしても予算の関係上、全ての国に出願するというわけにはいかないので、事業計画と照らして、マーケットとして主に狙っている国に出すのが基本的な考え方です。

また、製品の製造販売をする企業では、「製造拠点とする国」も押さえておいた方がいいです。

ここでよくある質問が、「うちはWebサービスで、どの国からも英語UIなら使えるのですが。。」という悩み。これは実際難しい問題ですが、やはりどの国からも使えるとしても、マーケットとして大きい国・大きくなるであろう国を予測して、ある程度選択して出願するしかない、ということになります。サーバを置く国で出願すればいい、という考え方もなくはないですが、サーバ設置国ではなく、あくまでもマーケットとして狙う国を出願する方が良いだろうと思われます。

あとは、模倣があったときに「権利行使(裁判)をしやすい国」というのも判断ポイントの一つになります。
具体的には米国やドイツなどですね。

IT系の企業であれば、まずはマーケットとしても大きく魅力的で、訴訟もしやすい米国が第一選択肢、
あとはマーケットが成長していて模倣が起こりやすそうな中国が二番目、あとは企業の戦略にしたがって、ASEAN諸国やEUや韓国、将来性という意味ではインドなども選択肢に上ってくると思います。

 

どうやって出すか

じゃあ上記の国に、どうやって特許出願をするか。

制度的には、色々あります。色々ありますがそれを全部説明しても入門的には仕方ないので、大事なことだけ説明します。

まずは「優先権主張」という制度。
特許の出願日って非常に重要なのですが、多くの国で出願する場合、翻訳の問題などでどうしても出願時期は遅れてしまいます。
なので、まず日本で出願しておけば、そこから12か月以内であれば、日本の特許出願の優先権というものを主張して海外で出願することで、その国での出願が日本での出願日にされたものとして審査を取り扱ってあげますよ、という制度です。これは必ず使います。

次に「国際特許出願(PCT出願)」という制度。
これは名前に国際特許と付いているので、国際的な特許を取得する制度があるのかと誤解を招きがちですが、そうではなく、国際的にまとめて出願するという制度です。(まとめて出願するというのも正確ではないのですが)
日本の特許出願から優先権を主張して国際特許出願をして、その国際特許出願をベースに海外各国に国内移行手続き(各国への特許出願)を進める、という流れになります。
国際特許出願の大きなメリットは、海外各国に国内移行手続き(各国への特許出願)する期限が、日本出願から30か月に伸びるという点です。
国内移行手続き以降は、各国ごとでの具体的な審査手続きとなります。

海外特許出願に慣れていない企業にとっては、どの国に特許を出願するかという判断は難しく、事業の進捗を見ながらできるだけ判断時期を後ろ倒しにしたいことが多いはずです。
ですので、まず日本でしっかり特許出願をして、12か月以内に優先権主張をして国際特許出願をし、日本出願から30か月以内に具体的な各国に国内移行手続きを進める、というフローが合理的かと思います。

 

判断時期とフロー

ということで、ちょっと説明としては乱暴ですが、基本的には、
「まず日本でしっかり特許出願をして、12か月以内に優先権主張をして国際特許出願をし、日本出願から30か月以内に、具体的な各国に国内移行手続きを進める」、というフローを基本と思っていただいて、そんなに間違いないかと思います(海外出願に慣れていない企業にとっては)。

そうすると、判断ポイントは2つ。
一つは、国際特許出願をするかどうか、もう一つが、国際特許出願をした後に具体的にどの国に特許出願をするか、です。

手続の準備期間も考慮すると、まずは日本出願から10か月後くらいが最初のチェックポイント。
「海外でも権利を取りたいか?」
これがYesなら、国際特許出願をしておくことになります。
なお、国際特許出願自体は、合計40万円くらいでできて、後段の手続きに比べるとコスト低いので、海外事業展開の可能性を見据えている場合は、ここのチェックポイントのハードルは低めに設定してもいいと考えています。

そして、国際特許出願をした場合、日本の出願から2年後くらいが次のチェックポイント。
「どの国で権利を取りたいか?」
ここで、具体的に権利取得を進める国を選択することになります。
国の選択の考え方は上記のとおりで、最初の出願から2年経っていれば、ある程度海外事業展開も具体化しているのではと思います。
場合によっては、このタイミングでやっぱり海外特許不要という判断もあり得るでしょう。その場合もプラス一年半の検討猶予期間を40万円で買ったという考え方ですね。
国内移行して権利化するまでは、国によって費用感もだいぶ変わってきますが、翻訳コストも含めて1か国ごとに100~200万円くらいの費用感となります。

 

以上、超入門というこということで乱暴な説明もありますが、大筋間違ってないので、
これで参考になればと思います。

※(細かい話)
・国際特許出願という制度を用いず、直接優先権を主張して海外に出願する方法もあります。内容の融通が利きやすく、出願国が少なければトータルで安いというメリットもありますが、12か月以内に国を判断をする必要があるというデメリットの方が大きいと判断して、ここでは詳細を切り捨てます。海外出願に慣れて、うちは米国しか出願しないというポリシーを決めた後の企業は、直接の方がいいでしょう。
・また、優先権主張という意味で言うと、日本の出願の優先権を主張して、改良発明を追加して更に日本に出願する国内優先権という制度もあり、この期限も同じ12か月なので、合わせて説明・案内がされることが多いですが、あまり使われないし個人的にもおススメしない制度なので、説明は割愛します。
・これは細かい話でもないけど、台湾など一部の国際特許出願制度に非加盟の国には、直接出願する必要があるので、台湾が重要な企業は要注意です。また、ルクセンブルクなど一部のマイナーな国は期限が30か月ではなく20か月のこともあるので要注意です。
・もう一つの国際特許出願のメリットとして、国際特許出願後に調査報告書が出るので、それを参考にして権利化の可能性を図ることができるという点があります。ただし、国際調査報告書は審査よりも少し厳しめに出す傾向があると思っているので、本当に慎重に事を運びたいなら、日本で早期審査をして権利化出来たものを海外出願するという戦略の方が有効かなと考えています。

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