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プロダクト・バイ・プロセスクレームの憂鬱 最高裁判決解説

      2015/06/10

プロダクト・バイ・プロセスクレームの最高裁判決が出ました。

製法が異なれば特許侵害に当たらないとした知財高裁判決を破棄し、審理を知財高裁に差し戻しました。

知財高裁の大合議判決が破棄されるのは初めてですし、多数派意見よりも補足意見が判決文の大半を占める、非常に興味深い判決となっています。


さて、結論としては、同じ成分の薬なら別製法でも特許侵害ということですが、これをもって、権利者有利の判決が出た、特許侵害が認められると理解するのは大きな間違い。

それどころか、プロダクト・バイ・プロセスクレームを絶滅させかねないほどの影響を与える判決となっています。

invention

プロダクト・バイ・プロセスクレームとは

基本的なところから簡単に説明します。

プロダクト・バイ・プロセスクレーム(以下、PBPクレームという。)とは、製造方法(プロセス)によって物(プロダクト)を説明する請求項のこと。特許法上、発明は、物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明の3種類がありますが、PBPクレームは物の発明に当たります。

物の構造によって発明内容が直接説明しにくい時に、製造方法でもって特定をするのですが、問題となるのは、「権利範囲は製造方法で限定解釈をされるのか」という点。

請求項に記載しているのだから、当然に限定解釈すべきだとも思いますが、物の発明である以上、製法が異なっても出来上がった物自体が同一であれば同じであるとも考えられます。

製法によって限定して解釈すべきという説を「製法限定説」、物が同じかどうかのみで判断すべきという説を「物同一説」といいます。

なお、クレームの解釈には、審査(権利化)の場面における発明の要旨認定と、侵害の場面における発明の技術的範囲(権利範囲)認定の2つの場面があるのですが、ここでは、しばらく、侵害の場面のみを想定して書いていきます。

 

本事案の説明

本件特許の請求項1の記載は、下記の通りです。

「次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」

a~eまでが製造方法についての記載であり、典型的なPBPクレームですね。また、物自体の構成の特定としても「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」という記載がなされています。

そして、”被上告人製品は,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウムを含有しているが,その製造方法は,少なくとも本件特許請求の範囲に記載されている「a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成」することを含むものではない。”
ということですので、まさに、物の構成は同一だが製法は異なるという製品です。

つまり、物同一説に立てば侵害であるし、製法限定説に立てば非侵害と判断されます。

 

知財高裁大合議判決の説明

原審である知財高裁の大合議判決では、PBPクレームを2つの類型に分けて規範を示しました。

一つは、物の特定を直接的にその構造又は特性によることが、出願時において、不可能又は困難であるとの事情がある場合。この場合のPBPクレームを「真正PBPクレーム」と呼びます。
そしてもう一つは、上記の事情がない場合。この場合のPBPクレームを「非真正PBPクレーム」と呼びます。

そして、真正PBPクレームにおいては物同一説で、非真正PBPクレームにおいては製法限定説で権利範囲を解釈すべきというのが、知財高裁の示した指針となります。

その詳細な論旨は下記の通り。

『物の発明』に係る特許請求の範囲にその物の『製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・ 確定されることは許されないのが原則である。 もっとも,本件のような『物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難である との事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,法36条6項2号にも反しないと解される。 そして,そのような事情が存在する場合には,その技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を 特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造 方法に限定されることなく,『物』一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,『物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき』」(「真正プロダ クト・バイ・プロセス・クレーム」)と,「『物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事 情が存在するとはいえないとき』(「不真正プロダクト・バイ・プロセス・ クレーム」)の2種類がある」。そして、「真正プロダクト・バイ・プロセス・ クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,『特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物』と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレー ムにおいては,当該発明の技術的範囲は,『特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物』に限定されると解釈されることになる。

そして、本事案においては、「当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情」が存在するとは言えないから、製造方法に限定して解釈すべきであり、被上告人製品は,本件発明の技術的範囲に属しない、というのが知財高裁の判決です。

 

最高裁判決の内容

しかし最高裁では、知財高裁の基準を是認することが出来ないとして、あっさり大合議判決で出した基準をひっくり返し、審理を差し戻しています。

知財高裁の基準が是認できない理由は下記の通り。

願書に添付した特許請求の範囲の記載は,これに基づいて,特許発明の技術的範囲が定められ(特許法70条1項),かつ,同法29条等所定の特許の要件について審査する前提となる特許出願に係る発明の要旨が認定される(最高裁昭和 62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集第45巻3号123 頁参照)という役割を有しているものである。そして,特許は,物の発明,方法の発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ,特許が物の発明についてされている場合には,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。

 

理由になっているのか、なっていないのか、それすらも分からないくらい基本原則に立ち返っています。

それでもって、

したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。

としています。

ここだけを見ると、PBPクレームは全て物同一説に立つと、権利者側に非常に有利な指針を示したように見えますが、ここから先が問題。

ところで,特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内 容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参 照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。

と、36条6項2号の明確性要件も持ち出してきます。

そして、

この観点からみると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許 請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり,適当ではない。 他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物 についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技 術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として特 許発明の技術的範囲を確定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。

という理由を示したうえで、

以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。

 以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製 造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その特許発明の技術的範囲は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して確定されるべきものとした原審の判 断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本判決の示すところに従い,本件発明の技術的範囲を確定し,更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在する ものとして「発明が明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

36条6項2号の明確性の問題(無効理由)があり、それが十分に審理されていないとして、差し戻しとされています。

 

つまり、「物の構造又は特性により直接特定することが不可能かおよそ実際的でないという事情」(以下、「事情」という。)が無いのであれば、PBPクレームは36条6項2号の明確性要件を満たさないという厳しい内容です。

 

知財高裁では、「事情」が無い非真正PBPクレームは、限定的に、権利を狭く解釈することで、第三者と権利者との利益バランスを柔軟にとっていましたが、最高裁では、そもそも非真正PBPクレームに当たるような、「事情」が無いのに物の発明に製法を記載したクレームは不明確だから拒絶すべきだ、無効理由がある、とバッサリ切ったことになります。

この後本件は、知財高裁に差し戻され、十分に審理されなかったという明確性要件が議論され、おそらく訂正がなければ無効理由があるということで、侵害が認められないことになるのでしょう。

 

この判例はつまり、「事情」が無いPBPクレームは全て無効理由がありますよ、今後は生産方法の発明のみで出願してくださいね、ということであって、PBPクレームが絶滅していくことになろうかと思います。

 

感想

なお、PBPクレームは、審査の場面においては物同一説に立って審査がされています。

つまり、製法で限定せず、広い範囲で新規性・進歩性の審査がされるため、PBPクレームは特許になりにくく、厳しい審査がされていることになります。

知財高裁の基準によれば、審査では物同一説により厳しく審査がされるのに、非真正PBPクレームの場合は侵害の場面では製法限定説により、権利範囲が狭く解釈される。つまり、審査場面で侵害場面とで基準が異なることで、不適切な書き方をしている権利者にとって不利であり、第三者の不測の不利益とならないように調整していたわけです。

私はこの考え方は相応に合理的だと考えていました。バランスの取れた柔軟な解釈だと。

しかし、本最高裁の判決は、物の発明は物自体の特定のみで解釈すべきという基本原則を重要視し、「事情」が無いPBPクレームは無効とすることでバランスを取ろうというものです。権利範囲でバランスをとるのか、特許性要件でバランスをとるのかという違いですね。

これは、これまでに出願され権利化されてきた全てのPBPクレームを無効にしかねない、非常に大きい影響を与える判決です。

論旨に間違いはないと思いますが、知財高裁の基準のままで良かったんじゃないかというのが、正直な、現状の感想です。

また、36条の趣旨からして、本当に「事情」の無いPBPクレームが36条6項2号違反とすべきなのか、違和感も残ります。これは補足意見にも詳しく示されていますね。

審査と侵害のダブルスタンダード

本判決は、PBPクレームに対しては非常に大きい影響を与えるものですが、PBPクレームを使う分野はある程度限られるでしょうから、影響の範囲としては広くはないかと思います。

しかし、本判決の背景にある考え方は、より広い範囲に影響を与えるように思います。

それは、審査場面での発明要旨認定と、侵害場面での発明の技術的範囲認定のダブルスタンダードの是非についてです。

補足意見にて、下記のように述べられています。

平成16年の特許法の改正により同法104条の3が創設され,侵害訴訟 において特許無効の抗弁を主張することが可能となり,これにより,同条に係る無 効の抗弁の成否(当該発明の新規性・進歩性の有無)を判断する前提となる発明の 要旨認定をする場面と,侵害訴訟における請求原因として特許発明の技術的範囲を 確定する場面とが同一の訴訟手続において審理されることとなった。そうすると, 両場面におけるPBPクレームの解釈,処理の基本的な枠組みが異なることは不合 理であるから,これを統一的に捉えるべきであり,このことは我が国の特許法制上 当然のことであって,多数意見は,この見解を前提に,両場面ともいわゆる物同一 説により考えることにしているのである。

つまり、今回のような結論に至った背景には、ダブルスタンダードを「非」として、審査における物同一説と揃えるべく、侵害場面も物同一説としながら、明確性要件を厳しく見ることでバランスを取ろうというもの。

私は実は、ダブルスタンダードは「是」派です。ダブルスタンダードとなるのは、結局明細書・クレームの記載に問題がある場合なので、その場合は権利者が不利になるように柔軟に解釈を変えるのは、合理的だと思うからです。

 

今回は、PBPクレームにおけるダブルスタンダードが解消されたわけですが、もっと影響範囲の大きいダブルスタンダードがあります。それは、リパーゼ事件に代表される、「明細書の記載を参酌すべきかどうか」という問題です。

明細書の記載を原則として参酌するのかどうかは、審査場面の発明の要旨認定と、侵害場面の発明の技術的範囲認定とで、異なるというのが通説だと理解しています。
この辺は、過去の記事(発明の要旨と技術的範囲認定のダブルスタンダード リパーゼ判決と特許法70条2項の関係)に詳しく書いています。

今回の最高裁判決の背景にある考え方が今後適用されるとすれば、明細書の記載を参酌すべきかどうかも、両場面で統一すべきということになるんだろうと思います。

 

色々と影響の大きそうな今回の最高裁判決。

ちょっと先走って、取り急ぎの私の理解と感想を書きましたが、みなさんの解説などを見て、また考え方が変わるかもしれません。また、突っ込みどころも満載だろうと思いますので、気になるところがあったら優しく指摘してください。

 - 特許

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Comment

  1. 小野 曜 より:

    FB経由で拝読いたしました。判例解説も「本質的影響(ダブルスタンダードを非とした)」の分析も、非常に優れていて秀逸な意見だと感じました。

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