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パテントトロールは悪か? ~特許の適正価値とアービトラージ~

   

これまでこのブログでも、パテントトロール関連の記事をよく取り上げてきましたが、業界関係者で集まると、よくトロール関係の話題で盛り上がります。

パテントトロール対策
パテントトロールの実態調査

そのような場でしばしば問われる根本的な問いが、「パテントトロールは悪か?」というもの。

 

パテントトロールは悪か?

この問は、法律的に見るか、道徳的に見るか、経済活動的に見るか、産業政策的に見るかによって答えが変わります。

 

法律的には?
もちろん権利の適切な行使は違法行為ではなく、悪(罰せられるようなもの)ではありません。

道徳的には?
立場や考え方によりますが、他人の特許権を買い集めて一方的な攻撃で金を稼ぐ姿は、悪に見えることが多いでしょう。

経済活動的には?
例えば投資家の立場に立てば、利益を出して還元してくれるトロールは悪ではない。
逆に権利行使される事業者からみれば当然悪者。

産業政策的には?
産業の発達に寄与することを目的とする特許制度の中で、トロールの活動が産業発達に寄与するとは考えにくく、悪に近い。
ただ、トロール活動が活発な米国において、訴訟等がなされるほど、弁護士費用や損害賠償金など、外国から米国に金が流れているように見え、グローバルな国家戦略としてアンチパテント(アンチトロール)が正解かは判断が難しい。

また、トロールのように振り切って積極的に権利行使を行うほうが、典型的な日本企業のようにお互いに特許を持ち合って何もせず、摩擦による熱エネルギー的に特許予算が流出していく状態よりも、健全な経済状態かもしれない。

 

以上のように、考え方によって様々な答えがあるため、一概にパテントトロールが悪とは言いがたい。


色々考えてみましたが、パテントトロールを中心とするNPEやアグリゲータの特許事業活動は、特許業界におけるアービトラージのようなものではないかという考えに行き着きました。

 

アービトラージとは?

アービトラージとは、元々は金融の世界における裁定取引(さや取り)のこと。
つまり、地域による価格差や金利差を利用して売買し、利ざやを稼ぐ取引のこと。

・水が豊富な地域で水を購入し、砂漠地域で販売する
・金利が低いところで借り、金利が高いところで貸す
・金が銀に比べて安い日本で金を買い、他国で銀に変えてそれでまた日本で金を買う
・現物取引と先物取引の不合理な差額で儲ける
などなど


もちろん、アービトラージ自体は悪いものではなく、賢く積極的に立ち回れる人が儲かるだけのこと。
ホリエモンが、自分のビジネス活動はアービトラージだと発言していたのを見たことがあります。

そして、このような取引が行われた結果、価格(金利)の低い市場では需要増大で価格が上がり、価格の高い市場では供給増大で価格が下がり、次第に価格差や金利差が収斂していく。
価格が収斂していくこの過程を一物一価の法則といい、アービトラージのような経済活動の結果、様々なものの合理的な市場価値が形成されていくことになります。


アービトラージが成立するのは、地域による価格差や金利差など、価値の非対称性があるからであり、その元になっているのは情報の非対称性だと言ってもいいでしょう。
情報強者が得をする。

今日では、情報の非対称性は消失しつつあり、単純なアービトラージのような話はなかなか上手くいきません。

 

特許資産の特殊性

しかしながら、特許という資産は、合理的な市場価値がつきにくく、保有する者によって使用価値は大きく変動します。
その性質上、なかなか客観的な価値評価も難しく、価値の非対称性が解消されにくいものです。

これを利用しているのがパテントトロール。
端的に言うと、事業を実施している者が特許を保有していても、それを他社に権利行使するとカウンターを食らうため、自由な活用が難しい。
一方でNPEがその特許を買い取ってしまえば、カウンターを食らうことなく一方的に権利行使できるため、使い方によっては多額の利益を生み出すことができる。
この、保有する者と使い方による特許資産の価格差を利用したアービトラージが、パテントトロールの活動というわけです。
安く買って高く売り抜ける。

何らの付加価値を生み出しているわけではないが、市場の歪みから利益を生み出す。

結局、パテントトロール関連の事業活動は、道徳的観点はともかく、別にそれ自体が悪いことではない。これらの活動が活発になることで、特許の市場価値が出来上がっていき、それにつれて非合理的な主体による価格差もなくなれば、次第にトロール活動も衰退していくことになります。

市場の歪みから生じるアービトラージによって歪みが解消されていく。


道徳的な観点でトロール非難をしていても仕方がないので、制度面の改善を求めるか、対策をきっちり整えるか。
業界のプレイヤーとしては、いかに損をしないように、情報をキャッチアップして適合した立ち回りができるかが問われていると思います。

 - 特許

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