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IP Valuation松本浩一郎 × IPFbiz ~知財価値評価の専門家~

      2015/02/22

対談シリーズ第9回は、IP Valuation特許事務所で知財の価値評価を専門にされている弁理士の松本浩一郎さんです。

松本さんは、元PwCのコンサルタントでアクチュアリー部門や事業再生部門を経験ののち、主にM&A関連のバリュエーション業務(事業価値評価、株式価値評価)を専門にされながら、現在は弁理士として独立し、知財価値評価業界の最先端を行かれている方です。

そのユニークなキャリアや、知財価値評価などの業務内容、最近の気になるトピックスなどについてお話を伺いました。

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これまでのキャリア 損害保険会社⇒PwC

安高:松本さんはIP Valuation特許事務所という、知財価値評価を専門的にやられるユニークな事務所を立ち上げられていますが、まずはこれまでのキャリアについて、改めて教えていただけますか。

松本:大学では計数工学科というところ、主に計測と制御の研究をしていました。就職したのは1989年なのですが、そのときはその年末の日経平均が3万9千円台というまさにバブルの絶頂期でしたね。

安高:私は体験できなかった時代です。その頃は就職も引く手あまただったんでしょうね。

松本:そうですね、当時は大学4年の10月が解禁日だった(と記憶している)のですが、私はその日にのこのこと住友海上という損害保険会社に行って。そうするとすぐに和室に通されてお茶を出してもらって、君は内定だから、みたいな感じでしたよ。

安高:羨ましい。損保を選んだ理由は何ですか?

松本:他にも金融系を中心にいくつか回っていたのですが、銀行よりも保険会社の方が社会の役に立っているというイメージを持っていたためです。中に入ると、必ずしもそれだけではないということがわかりました。

安高:そこではどのような業務をしていたんですか?

松本:12年間いたのですが、ずっと経理と財務ですね。自社の財務報告を作ったり、監査を受けたり、増資のための開示書類を作ったり、後は格付機関への説明とかですね。
また2000年ごろからは、住友海上と三井海上の合併の動きがありましたので、その合併作業もやっていました。勘定科目の突合せだとか、システムはどちらのものを使うのかとか。それで12年間損保で働いた後、PwCに転職しました。

安高:PwCへの転職の理由は?

松本:もう合併することが見えていたところで、結局損害保険事業というのは、自動車の数と家の数で売上が決まるんですよね。もう売上の伸びしろがないし、そこで合併で人数が倍になってしまうと、人が余ってくると思って。
その時にPwCがコンサルタントを募集していたんですよ。当時は株価の下落もあって一部の生保が運用に失敗して経営破綻していっていたんですね。PwCはその破たん処理の仕事を積極的にやっていて、保険に詳しい人を求めていたので、ちょうどマッチングした形です。

安高:なるほど、それでPwCのコンサルタントとして、生保絡みの案件をやっていたんですね。

松本:最初は生保絡みで、そのあとは事業再生案件を担当していました。
そして2005年頃からは、景気が回復して事業再生案件が減っていったので、その後はM&A絡みのバリュエーションをやっていました。事業の価値、株の価値や合併比率などの評価レポート作成ですね。

安高:刺激的な仕事ですよね。それで、今の仕事を始められたのはいつ頃ですか?

松本:PwCは2012年3月に辞めたので、ちょうど11年いたことになりますね。会社を辞めたのは家庭の事情です。辞めてから1年強は、妻の看病のために自宅にいながら、個人事業の立ち上げ準備をしていました。

 

弁理士

安高:その時には既に弁理士資格をお持ちだったんですよね。弁理士はいつ取られたんですか?

松本:資格を取ったのは2005年ですね。勉強を始めたのは2002年くらいからでしょうか、当時の小泉首相が「知財立国」だと吼えていて、すっかりその気になってしまいました。
当時は保険の仕事が減って、暇な時期だったんですよ。それで暇だから何か勉強しようと探していたら、弁理士と言う資格があることを生まれて初めて知って。それで弁理士試験の勉強を始めました。

安高:私が知財業界に入ったのも、小泉さんの知財立国宣言に乗せられてですね(笑
元々は研究職になりたいと思っていたのですが、知財が熱いと騙されて、じゃあ特許庁だと。
でも松本さんの場合は、いくらなんでも分野が違いすぎるような気がするのですが、盛り上がっていたとはいえ、なぜ弁理士なんですか?

松本:うーん、いつかはPwCを辞めるんだろうなとは思っていて、何か独立できるものを探していました。あとは私は元々理系で、テクノロジーが好きなんですよ。世の中を変えるのは技術だと思っている面はあります。

安高:なるほど。PwC時代に弁理士資格は取ったけど、そこで弁理士に関係する業務をしていたわけではないんですよね?

松本:資格を取ったときに、会社に弁理士登録の会費を払ってもらえないかと聞いたら、弁理士なにそれ?おいしいの?みたいな感じでしたね。
それでも会費はもってもらって、弁理士会の知財価値評価推進センターの委員になりました。PwCの業務でもバリュエーションをやっていましたし、その頃から知財の価値評価が業務として出来るのかなという、ほのかな期待はありましたね。

 

独立、現在の業務内容

安高:独立の準備は大変だったんじゃないですか?

松本:そうですね、でも弁理士と名乗っていると、色んな人に会いやすいですよ。例えば、経団連が一昨年、パテントボックス税制を要望として出していたのですが、残念ながら日本弁理士会は税務にあまり関心がないようで何も言っていなくて。
だから経団連の問い合わせページから話を聞かせてくれといったら、お話の機会をもらって、弁理士会の会長・副会長と経団連に行くという機会がありました。
弁理士って社会的信用はあるんだなぁと思いましたね。

安高:退職してすぐに、特許事務所の開業登録はしていたんですよね。最初はどのようなお仕事をされていたんですか?

松本:今でもそうですが、前職からの知り合いからの紹介で知財とは関係なく一般的な株式や事業のバリュエーションの仕事をやったり、商標の出願をやったりという小さな案件ですね。

安高:最近の業務はいかがですか?

松本:大きいのはやはり、知財の価値評価ですね。事業撤退の際の特許売却価格だったり、職務発明の対価だったり、ブランドの価値評価などです。
価値評価業務の場合、ある程度トランザクションの規模に従ってフィーも増えるという体系になっています。

安高:M&Aのトランザクションフィーと同じような考えですね。

松本:あとは、出願も少しはやりますけど、今多いのは特許庁事業の、知財ビジネス評価書ですね。銀行が依頼主で、三菱UFJリサーチ&コンサルティング様が受託しているのですが、中小企業さんのビジネス評価書を作成する仕事をいくつか受けています。
後は、知財以外のバリュエーションも続けてやっています。

 

知財×会計のトピックス

安高:知財と会計の絡みで、松本さんが最近気になるトピックスを教えてください。

松本:一つは、移転価格税制ですね。

OECD、移転価格税制

安高:先日、瀧田さんと対談したときも、やはり移転価格税制は気にしていましたね。

松本:OECDのBEPSのプロジェクトで、価値評価を義務付ける形で検討がされています。

安高:確か、DCF法をベースにするんですよね。

松本:それしかないでしょうね。これは、結構大きな話かと思います。節税スキームの対策としてレポートの義務付けもされますし。

安高:企業からすると結構負担も大きいですよね。でもこれはビジネスチャンスだと。

松本:そうですね、移転価格税制というと税理士法人のようなところの仕事で、個人でというのは難しいかもしれませんが。でも税理士法人も特許に詳しいわけじゃないので、サポートを必要とする部分はあると思います。

 

パテントボックス税制

松本:あとは、日本にパテントボックス税制が入るのか、興味があります。製薬企業を中心に積極的に求めていくでしょう。

安高:なぜ製薬企業が欲しがるんでしょう?ロイヤリティ収入に対する税制優遇ですよね。ロイヤリティ収入に対しては他の益金とは別枠(パテントボックス)で、法人税率を下げるという。電機メーカーのような、現地会社からロイヤリティで資金を回収している企業のほうがメリットはありそうですけど。

松本:パテントボックス制度の対象は「知的財産に関連する所得」であって、ロイヤリティ収入だけが対象とは限らないですよ。例えば2013年4月にパテントボックス制度を導入したイギリスでは、製品のどこかにパテントが使われていたらOKという仕組みのはずです。だから製薬業界は、製品と特許が直結しますからね。
なぜイギリスが導入したかというと、オランダ等の諸外国が導入していたため、イギリスの研究拠点が海外に流出するという実害が出たからなんですよね。

安高:税制を使った、国同士の駆け引き、研究拠点・事業拠点の取り合いですよね。日本も早く入れてしまえばいいのに、と単純に思ってしまいます。
経団連が要望を出したのが2年前くらいですっけ?その時期に少し話題になったきり、最近は話を聞かないように思うのですが、どうなんでしょう?

松本:今も引き続き税制改正要望事項には残っていますので、要望はしているはずですよ。でも力が入っているのは、研究開発費の税制優遇のほうでしょうね。

安高:企業にしてみれば、研究開発費の税制優遇のほうが直接的で嬉しいかもしれない。

松本:でも研究開発費だけだと、その研究の成果がどうなるかは関係ないんですよね。最終的に特許を活用するところまでインセンティブを持たせるなら、パテントボックスのほうが有効でしょう。

安高:なるほど、単に企業の研究開発拠点を招致する目的で研究開発費の税務負担を軽くするなら、研究開発費税制でいいんだけど、その後の活用までコミットさせて自国の産業を盛り上げようという産業政策的な観点から考えれば、パテントボックス税映のほうが有効だと。確かに、そんな気がします。

 

知財価値評価について

安高:最近の知財価値評価はいかがでしょう?

松本:そうですね、知財の評価を手がけている人って、少ないながらも増えてきてはいます。でも、まだまだやり方が統一されていないんですよ。
たまに評価結果なんかを見ることがあると、クオリティ的にどうかというものも中にはあります。

また、知財価値評価の仕事って、まだ誰の仕事になるのか定まっていませんよね。弁理士が取るのか、会計士が取るのか。外国では弁護士がやっている例もあるようです。
価値評価の需要が伸びてくるのかも分からないけど、感覚的には増えているように思います。

知財の価値評価は、まだまだ黎明期ですから。
これから、どんどんクオリティを挙げて、クライアントが満足できるようにするべきなので、価値評価をしている人たちは協力してやっていければと思います。

 


松本さん、対談ありがとうございました。
松本さんはまさに、知財×会計のフロントランナーなので、これからも注目ですし、ぜひ情報交換させてください。

 - 知財会計

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